母ライオンの子供は豹
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第一章
母ライオンの子供は豹
タンザニアのセレンゲティ国立公園でのことだ。
同じ国のンゴロンゴロ保全地区のユデゥトゥ=サファリエッジのマネージャーであるエインズリ=ウィルソン理知的な顔立ちのアフリカ系の初老の男はその雌ライオンを見て言った。
「あれはノキシトゥですね」
「その名前の雌ライオンですか」
「はい、五歳で」
そのライオンを見つつ話した。
「この前まで子供がいました」
「そうでしたか」
「はい」
共にいる者に答えた。
「マイクロチップも埋めていて」
「それで、ですか」
「それで確かめてもです」
「間違いないですか」
「彼女はノキシトゥです」
その名前のライオンであるというのだ、見れば。
ノキシトゥは授乳していたがその子は豹だった、豹の子供に授乳していたのだ。ウィルソンはその光景を見て話した。
「いや、これはです」
「ないですね」
「ライオンが他の種類の生きものに授乳するなんて」
そうしたことはというのだ。
「とてもです」
「有り得ないですね」
「ないと思っていました」
「では博士もですか」
「今見たのがです」
それがというのだ。
「はじめてです」
「そうなのですね」
「はい、確か彼女は子供がいましたが」
「そうでしたか」
「もう独立して間もないですが」
そうだったというのだ。
「かなり若く独立して」
「まだ授乳出来るのですか」
「そうだったのでしょうか、それで」
「豹の子供をですね」
「授乳しているのでしょうか、ただライオンは」
ウィルソンはこの生きものの習性も話した。
「他の生きものは」
「食べものですし」
「種類が違えば授乳なんて」
それはというのだ。
「しない筈です」
「同じネコ科であっても」
「はい」
とてもというのだ。
「その筈ですが」
「私もそう考えていました」
共に見ている者もだった、見ればアフリカ系の中年の男性で彼も学者である。名前をラルフ=オリバーという。
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