Fate/WizarDragonknight
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クリスマスマーケット
___お前の言う重たさの半分は、刀使としての責務だが……半分は私怨だ___
___だから付き合う必要は___
___そうだね。重たそうだから半分……私が持つよ___
「……姫和ちゃん……」
ぼおっとその名前を呟いた可奈美は、額に手を乗せてただ固まっていた。
窓から入る光と、それに照らされて浮かぶ埃を見上げる。
「……あの時の夢……」
夢を見ること自体が久しぶりに思える。
可奈美は無意識に立てかけてあった千鳥を掴み、部屋の中でそれを抱きしめる。
「……まだ、立ち止まっているのかな……私」
可奈美はため息をついて、立ち上がる。そして、目覚まし時計を確認して。
十一時を指さす時計に顔を青ざめさせる。
「うわああああああああ! 寝坊したああああああああああああ!」
可奈美はパジャマのまま、大急ぎで階段を駆け下りる。女子更衣室に入り、自らのネームカードが入ったロッカーを開けた。
その中には、いつも通り、自分が使っている赤い制服があるはずなのだが、そこには制服が一着もなかった。
「……あれ?」
バタン。ガチャ。バタン。ガチャ。
何度ロッカーを開け閉めしても、制服は影も形も現れない。
「え? ……でも、今はそれどころじゃない……!」
可奈美はパジャマ姿で、今度はラビットハウスに急ぐ。
「遅れてごめん! ねえ、私の制服が無くなってるんだけど……」
そして可奈美は、目の前の光景に言葉を失う。
赤い、ラビットハウスの制服を着た友奈の姿に。
「あ、可奈美ちゃん! おはよう! この服可愛いよね!」
「……」
友奈は見せびらかすように、体を回転させる。
それを見た可奈美の脳は、こう結論付けた。
「私リストラだー!」
「ええっ!? 可奈美ちゃんリストラなの!?」
トドメを刺したとは露知らず、友奈が可奈美に駆け寄る。
だが、そこに天の一声。
「違うぞ。可奈美」
リゼの声だった。今日は普段着で、さすがに店員復帰というわけではないらしい。
「突然の雪で困っていたみたいだったからな。ラビットハウスに身を寄せさせたんだ」
「そ、そうだったんだ……」
リストラの危機を回避して、可奈美はひとまず胸を撫で下ろす。
「え? 雪?」
リゼが口にした言葉に、可奈美は疑問符を浮かべる。窓の外を見ると、確かに見滝原の町は、積もらない程度の雪に覆われていた。
いつの間に振り始めたのだろう、と考えていると、次にチノの声が聞こえてきた。
「前にもココアさんで同じことがありましたね。デジャヴです」
可奈美がカウンターを向けば、いつものラビットハウスの制服で、コーヒーを煎じているチノがいた。彼女は手を止めて、可奈美へ向き直る。
「可奈美さん。今日も結局あまりお客さんはいませんし、可奈美さんにはクリスマスの準備をお願いします」
可奈美は頷いて、「あれ? ハルトさんとココアちゃんは?」と口にした。
チノはジト目で返答する。
「ココアさんは今日も寝坊助です。ハルトさんは、今日はお休みで、あの……多田コウスケさんに連れられて山に行きました」
「多田コウスケ……ああ、あの人か」
アナザーウィザード事件の時に協力してもらった男の顔を思い浮かべ、可奈美は頷く。
「分かった。じゃ、今日は飾りつけの続きをすればいいんだね?」
「はい。出来ればココアさんも一緒にやっていただきたかったのですが、今日はまだお寝坊さんですから」
「寝坊しちゃってごめん!」
チノが言い終える前に、寝坊助さんが現れた。
ココアが、自分の制服に近い色合いの制服を着た友奈を見て。
「私、今度こそリストラだ!」
「またこのデジャヴ!」
クリスマスの準備ももうほとんど終わったということもあって、可奈美は市場で材料の注文に訪れていた。
「おおっ! クリスマスマーケットだ!」
後ろにいるココアが、元気にはしゃぎだす。
ココアの言う通り、クリスマスシーズンが近いこともあり、この場所では、数多くの人々がそれぞれのお店のための仕入れを行っている。
大量の仕入れに大量の購入。大きな需要と供給により、一年間で最も大きな経済効果を生み出しそうな市場で、可奈美とココアはラビットハウスへの手配を終えていた。
「今年もいろいろあったね」
ココアが笑顔で言った。
「私は四月にこの街に来て、チノちゃんリゼちゃん、シャロちゃんに千夜ちゃんと出会って、半年たって、可奈美ちゃんやハルトさんが来て。本当、沢山の出会いがある素敵な一年だったよ!」
「あ、そっか。可奈美ちゃん、見滝原に来てからまだ半年なんだっけ。街のあちこち知ってたから、すっかり長いのかと思っちゃったよ」
可奈美は舌を巻いた。
ココアはえへへ、と頭を掻き、
「昔木組みの町に来た時、本当に素敵だなって思ったの。それで、この町で留学に来たんだよ」
「おお……!」
可奈美は感嘆の声を上げた。
「それじゃあ、今年のクリスマスは、私達全員が初めてここで過ごすクリスマスなんだね! クリスマス会、楽しみだね!」
「そうなの! 早くクリスマスにならないかな……? シャロちゃんと千夜ちゃんも来るから!」
「私も、友奈ちゃんを参加させたいなあ……あ、友奈ちゃんは?」
一緒にこの市場に来ていた可奈美のサーヴァントがいつの間にかいなくなっている。探してみると、友奈の声が行き交う人々の頭上を通ってきた。
「可奈美ちゃん! ココアちゃん!」
駆けつけてみれば、友奈は市場で開かれている屋台にいた。
なぜか四国のうどんフェアなるものが開催されており、近くに設置されているテーブル席で友奈はうどんを食していた。
「こっちにおいでよ! うどん、美味しいよ!」
「うどんか……」
可奈美は目を丸くした。
「それもいいね。ちょっとすぎちゃったけど、お腹空いたかも。ココアちゃんもいいよね」
「いいよ!」
笑顔で言ったココアと可奈美は、友奈に続いてうどんフェアの席に着く。そこで。
「おっす! 店長、二名お客入りました!」
「……真司さん?」
元気な店員こと、城戸真司がいた。
「いや、バイト先の知り合いに頼まれてさあ」
シフトが終わり、可奈美とココアの分のうどんを持ってきた真司は言った。
「今日クリスマスマーケットでうどん屋も出店するから、店員として手伝ってくれってさ。今日はバイトも午前で終わりだったから、そのまま手伝ったんだよ」
「ほええ……」
可奈美が感心していると、ココアが可奈美の二の腕をつつく。
「ココアちゃん?」
「可奈美ちゃんと友奈ちゃん、このお兄さんと知り合いなの?」
「あ、そっか。ココアちゃんは会ったことなかったっけ」
友奈は頷いて、真司を手のひらで指した。
」「
「こちら、城戸真司さん。えっと……色々あって、今は私と共同生活をしています」
「きょ、共同生活!?」
すると、ココアが白目をむいた。
「きょ、共同生活って……お兄さん、絶対に成人してるよね?」
「ああ、今年で24だな」
「ダメだよ!」
ココアは向かい席で真司の隣に座っている友奈をがっしりと抱き寄せる。
「年頃の男女が同じ屋根の下で過ごすなんて、危険だよ!」
「危険?」
「お、おい! 俺は別にそういうことじゃ……」
「ダメ! 私の可愛い妹に万が一のことがあったら大変だよ!」
「い、妹?」
「ああ……真司さん、気にしないでください。ココアちゃんのいつもの癖だから」
「そ、そうなんだ……」
「可奈美ちゃんも!」
いつのまにか、可奈美はココアに腕を掴まれていた。可奈美が「へ?」と反応する間もなく、ココアが引き寄せる。
「私の妹たちに手を出したいんだったら、まずは私を倒してからにして!」
「私までいつものように妹にされた!?」
「さあ、真司さん! 私を倒してみてください!」
「何か面倒なことになってきた……」
真司が頭を抱えていると、「あれ? 可奈美ちゃんに、ココアちゃん?」という声が聞こえてきた。
可奈美がその声の方を向くと、そこにはまた知り合いの顔があった。
「響ちゃん?」
「こんちわー!」
響は挨拶をして、真司の隣に座る。
「えっと……確か……そう! ライダー!」
「正解だけど! そういう名前をここでは言うなよ! えっと……ランサー!」
「ライダー? ランサー? 何々? かっこいい渾名だね?」
ココアが変な誤解をする前に誤魔化さなければと、可奈美は二人に言った。
「いや二人とも名前覚えてないって素直に言ってよ!」
ココアの前で聖杯戦争のワードをポンポン口にする二人に、可奈美は大声を上げた。
真司と響はそれぞれ改めて自己紹介を終えたあと、ココアは響も抱き寄せようとしたが、友奈が防ぐ。
「だめだよ、響ちゃんも私の妹なんだから……!」
「え? 私の方が年上だよね?」
「そんなことないよ……! 可愛い女の子は、みんな私の妹なんだから……!」
「まさかの女の子みんな妹宣言!? あ、きつねうどん大盛ください!」
響は店員に注文して、全員に向き直る。
「それにしても、ここのマーケットすごいね! いくらでも食べられちゃう!」
響は笑顔で言った。見れば彼女の手元には、無数の食べ終わった容器や紙が入ったごみ袋が握られていた。
「響ちゃん、すごい沢山食べたんだね」
「いやあ、昨日コウスケさんと遺跡近くに行ったとき、バングレイに会ってさあ。それからまたお腹空いて……」
「バングレイ?」
「わーっ! わーっ!」
遠慮なく最近現れた宇宙人の名前を口にする響の言葉を誤魔化そうと、可奈美は大声を上げる。
だが、今度はココアを挟んで隣の友奈も言った。
「ああ、それってこの前の博物館に現れた人でしょ? なんでも、博物館の展示品を狙っていたっていう」
「友奈ちゃん!?」
「博物館って、あの見滝原博物館のこと? もしかして、この前泥棒が入ったのって、あれ犯人宇宙人なの?」
ココアが興味を持ってしまった。可奈美は頭を抱えるが、もう遅い。
響がそれに対して言及することが、もう死刑宣告のように聞こえた。
「そうそう。あの時私とハルトさんもいたんだけど、それがもう色々びっくり!」
「それでそれで?」
もうだめだ、と可奈美は諦めかけた。
聖杯戦争のことを知れば、ココアも何かしらの形で首を突っ込んだり、巻き込まれるかもしれない。すでに知り合ったときには巻き込まれていた鹿目まどかはともかく、他の人を巻き込むことだけはしたくなかった。
一か八か。可奈美は、ココアの興味を反らすために、机を叩いた。
「ねえ。響ちゃんもそろそろ食べ終わりそうだし、折角だから、みんなでマーケットを回らない?」
すると、全員が目を輝かせて、「いいね!」と声を合わせた。
後書き
さやか「……さてと。今日もこのあたりで始めますか」
まどか「さやかちゃん?」
さやか「お? まどかじゃん。おっすおっす。テストどうだった?」
まどか「うん、できたよ。それより、そのバイオリン……」
さやか「ああ、これ恭介のだよ。両親に頼んで、形見としてもらったんだ」
まどか「そうなんだ……上条君のことは……」
さやか「はいストップ。別にさ、同情とかはいらないから。あたしより、恭介本人が一番無念なんだろうし。あたしがこの公園でバイオリンを弾いてるのは、あくまで自己満足。恭介に聞こえるかなって」
まどか「うん。……そういえば、さやかちゃんバイオリンできたの?」
さやか「必死に覚えた。恭介が……死んで、それから覚えたから、まだ初心者。ねえ、折角だから聞いて行ってよ」
まどか「いいよ。聞くよ」
さやか「ありがとうね。まどか。アンタのそういうところ、本当に好きだよ」
______
まどか「素敵な音……」
さやか「初心者にしては、やるほうでしょ? でもさ」
まどか「?」
さやか「どれだけの人に称賛してもらえたとしても、あたしはやっぱり、恭介に、一番に聞いてほしいなあって……ごめん。今日はやっぱり、もうおしまい」
まどか「あっ……だったら、一緒に帰ろう?」
さやか「ごめんね。自称音楽家のさやかちゃんは、ちょっぴりセンチメンタルになっちゃって、少し一人になりたいのだ。それじゃ、またねまどか!」そそくさ
まどか「あっ……」
さやか「ふう……」
さやか「何がセンチメンタルになったよ。芥川かっての……」
さやか「恭介に届ける前に……あたし、このまままどかと友達でいていいのかな……」
さやかの影が、人魚姫のものに
さやか「……何か、食べたいな……」
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