歪んだ世界の中で
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第八話 友情もその十
「そのつもりはないよ」
「そうよね。だったらね」
「幸せになればいいんだ」
「そう。そうなればいいんだよ」
「僕があいつ等よりも幸せになれば」
「希望はあの人達に不幸にされたんだよね」
「うん」
小さいが確かな声でだ。希望は千春に答えた。
「そうだよ。酷い目に遭わされたよ」
「じゃああの人達よりももっとね」
「幸せになることがあいつ等への仕返しになるんだ」
「恨みを晴らしても何にもならないよ」
千春は復讐を否定した。それはだ。
「けれどね。幸せになればね」
「僕自身が嬉しくなるよね」
「だから。幸せになろう」
これが千春の言葉だった。
「そうなろう。あの人達よりもずっとね」
「そうだね。じゃあ」
「今は二人でデートしよう」
その希望に笑顔を向けてだ。千春は言ってきた。
「もうちょっとだけね」
「そうだね。二人でね」
「何か食べない?」
千春からだ。希望を誘ってきた。
「少しだけ。甘いものでも」
「甘いものね」
「うん。何がいいかな」
「じゃあ」
見ればだ。例の二人はコーンの上に丸いアイスクリームを置きそれを食べていた。どちらもバニラで一段ずつしかなくトッピングもない。
そのアイスを見てだ。希望はこう千春に答えた。
「アイスクリームにしよう」
「アイスにするのね」
「うん、それにしよう」
千春の言葉を思い出しながらだ。希望は提案した。
「それも一段とかじゃなくてね」
「何段にするの?」
「三段、いや四段にしよう」
重ねられるだけだ。そうしたいというのだ。
「バニラだけじゃなくて。チョコレートもストロベリーもバナナも重ねて」
「それを二人で食べるのね」
「うん。トッピングも一杯つけて」
あの二人よりもだ。遥かに豪勢なものにしてだ。千春と二人で食べようというのだ。
「そうしよう。思い切り幸せなアイスにしよう」
「そうね。あの人達のよりもね」
「それに千春ちゃんと一緒にいるから」
他ならぬ彼女と。それならば余計にだった。
「あいつ等より。今の僕はこうしているだけでずっと幸せだから」
「今よりももっと幸せになって」
「そういうことだよね」
「そうだよ。もっともっと幸せになることがね」
「そしてあいつ等のことを忘れられる位に幸せになることが」
「一番いいことなんだよ」
「だからだよ」
それ故にだとだ。希望は笑顔に戻って千春に話した。
「一緒に食べよう。そのアイスクリームね」
「そうしよう。丁度お店もあるし」
前から百メートル程行ったところにだ。丁度アイスクリーム屋の看板があった。千春はその看板を指差しながらそのうえでだ。希望に言ったのだった。
「ほら。あそこにね」
「あいつ等が行った店かな」
店の少し先に歩道橋がある。希望はそれも見ながら察した。
「あそこでね」
「アイスクリームを買って」
「そう。四段でトッピングもたっぷり使ったのをね」
「千春達で食べて」
「幸せになろう」
そうしてだというのだ。アイスを食べてだ。
「そうなろうね」
「うん。それじゃあね」
こうしてだった。二人でその店に入ってだ。実際にそうしたアイスを注文して食べたのだった。すると本当に幸せになれた。彼等よりもそれを感じられた。
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