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生まれた時から知っている

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第二章

 ベッカーに獣医が注射をした、すると。
 ベッカーはほっと安心した顔になった、その彼に。
「ベッカー、僕がいるからね」
「ワン・・・・・・」
 ショーンが抱き締めてきてベッカーは彼に寄り添った、そうして。
 暫くするとゆっくりと目を閉じた、その顔は安堵したものだった。
 その顔でだ、ベッカーは世を去った。ショーンは彼を最後まで抱き締めていたが冷たく固くなってから言った。
「もうこれでだね」
「ベッカーは死んだよ」
「お別れよ」
「そうだね、さよならベッカー」 
 こうベッカーに言った、そしてだった。
 ベッカーの葬式も行い埋葬もしてからだった、一家でベッカーのこと犬のことを話したがここでだった。
 父は息子に穏やかな声で話した。
「犬は人間よりずっと寿命が短いんだ」
「そうなんだね」
「人間は七十年以上生きられても」 
 それでもというのだ。
「犬は十年位で亡くなって二十年はまずないんだ」
「ベッカーは十歳だったよね」
「十歳で死ぬ犬も多いんだ」
「そうなんだ」
「それはどうしてかわかるかい?」
 父は息子の目を見て問うた。
「どうしてか」
「うん、僕わかるよ」
 ここで息子はこう答えた。
「どうしてかね」
「わかるのかい」
「だって犬は最初から知ってるから」
 それでというのだ。
「愛情をね、人間は知らないから」
「人間は?」
「知らないっていうの」
 父だけでなく母もだった。
 息子の今の言葉に驚いた、それですぐに聞き返した。
「それはどういうことかしら」
「愛情って言ったけれど」
「生きているってことは愛情を知ることだよね」
「ああ、それはね」
「そうよ」
 夫婦で息子の言葉に頷いた。
「皆言ってるわね」
「お父さんもお母さんもな」
 ショーンの周りの人達はとだ、両親は答えた。
「そう教えてるな」
「そうだったわね」
「だからね」 
 息子はさらに話した。
「犬はもう知ってるから生きる必要はないんだ」
「人間程長くはか」
「そうだっていうのね」
「けれど人間は最初は知らないから」
 愛情というものをというのだ。
「勉強しないといけないからね」
「長く生きるか」
「そうだっていうのね」
「そうだよ、ベッカーは最初から皆を愛していたよね」
 両親にこう問うた。
「僕が生まれる前からお父さんとお母さんを」
「ああ、そうだったよ」
「お家に来た時からね」
 二人はベッカーが子猫の頃に来た時のことを思い出しつつ答えた。
「愛情豊かでね」
「いい子だったよ」
「そうだったから」
 それでというのだ。 
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