おっちょこちょいのかよちゃん
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133 杉山を説得させる者
前書き
《前回》
石松は大野と杉山の喧嘩について三穂津姫を通してフローレンスからどう処遇すべきかの手紙を受け取る。杉山はりえとの喧嘩依頼、異世界に行くのか行かないのか答えを不明瞭にし続ける。かよ子と三河口の前に石松が現れ、杉山をどうにかして欲しいと頼まれ、杉山の説得に三河口が名乗り出るのだった!!
石松が去った後、三河口はりえが東京に帰る日に行った事を思い出した。
《でも、私も、『臆病者』呼ばわりしちゃったわ。異世界に行くか行かないかって私が聞いたら『ほっといてくれ』って言われたから私もカッとなっちゃって・・・》
(『臆病者』ね・・・)
三河口にとっては大野と共に皆から頼られる存在とされていた杉山が臆病者だなんてそうは思えなかったが、かよ子やりえ、石松の問いに答えないというのは如何なものかと三河口は思った。
(もう旅立つ日まで日数が少ない。何としても杉山君を行かせるようにしておかないと・・・)
「杉山君は俺が何とか説得させるよ」
「うん、ごめんね、お兄ちゃんにまで迷惑かけちゃって・・・」
「そんな事ないよ。俺がかよちゃんと同じ年頃の時は、かよちゃんのおっちょこちょいよりもずっと人に迷惑かけていたよ。だから、悪いなんて思わなくていいよ」
「うん、じゃあね・・・」
三河口はかよ子と別れた。
翌日、かよ子はまる子やたまえ、ブー太郎に長山と話していた。
「大野君と杉山君、このままで大丈夫なのか心配だブー・・・」
「うん、実は今日隣のお兄ちゃんが杉山君を説得させるって言ってるんだ・・・」
「隣のお兄ちゃんってあの少年院にいた事があるっていう?」
「うん、でも、私、隣のお兄ちゃんならきっと杉山君を説得できるような気がするんだ。それともこれって気のせいかな・・・?」
「まあ、信じるしかないね」
「皆、行っちゃうのか・・・」
たまえは自分だけ選ばれていない為に心細く感じていた。特にまる子が行ってしまう事が寂しくてたまらないのであった。
「たまちゃん・・・」
「穂波、確かに心配かもしれないけど、他にも沢山来る人もいるし、僕達には敵に対抗する為の武器があるから大丈夫だよ」
「うん・・・」
「まるちゃん達、絶対に帰ってきてね!」
たまえは少し泣いていた。
「うん・・・。本当はたまちゃんも連れて行きたいんだけどね・・・」
その一方、冬田は大野の方ばかりを見ていた。
(大野君は転校しちゃう・・・。絶対に、大野君が転校する前までに戦いを終わらせなきゃあ!!)
そして冬田は親友のみぎわ花子に自分が大いなる戦いに参加する事を伝えた。
「みぎわさあん・・・。私、命を懸けた戦いに行ってくるわあ。絶対に私、大野君の役に立てるようがんばるわあ!」
「ええ、絶対に生きて帰ってきて頂戴ね、冬田さん!!」
「勿論よお!!」
二人はお互い誓い合った。
清水市内の高校。三河口は授業が終わり、帰る所だった。彼は濃藤、北勢田、奏子と共に担任の先生には休学を申し込んではいたが、先生は理由を聞くと流石に不安がっていた。だが、これは行くか行かないかという次元の問題ではなく、向こうの世界の人間の力にならなければならないという使命である事、そうしないとこの国は赤軍に乗っ取られ、また戦争への道へ進んでしまうという事は理解してくれたので承認してくれていた。
「皆、すまん、今日は急がなきゃいけない用があるんだ。それじゃな」
三河口は濃藤達にそう言って走り去った。
「何だよ、急がなきゃいけない用って?」
「もしかしたら、近所の子から聞いたんだが、その子のクラスメイトの一人、大野君ってのが転校しちまうらしい。それで親友の杉山君ってのと喧嘩したとか」
北勢田は推測した
「文化祭や名古屋で一緒に戦ったあの子達?」
奏子が確認する。
「ああ、もしかしたらその仲直りをあいつがやるんじゃないかって思うんだ」
「なんでミカワがその二人の事を気にするんだよ」
「あいつが住んでる家の隣にも、そいつらのクラスメイトの女子がいるし、一緒にミカワの昔話も聞いてたからな」
「三河口君、大丈夫かな・・・?」
杉山は下校した。母が出迎える。
「只今」
「お帰り。さとし。もう異世界に行く日近いのよ。準備何もしてないけどいいの?お姉ちゃんはもう準備進めてるわよ」
「う、でも俺に何ができるんだよ?」
杉山はそう言って自分の部屋に行ってしまった。
(あんな奴・・・)
その時、何かの感触がした。赤軍とか戦争主義の世界の人間の感触ではない。自分の味方のような感触だった。母が呼んだ。
「さとし、三河口君って高校生の人が会いたいって来たわ。山田さんの隣の家に住んでるっていう」
「三河口・・・?」
杉山はその名を覚えていた。自分を好きになっているおっちょこちょいの女子の家の隣に居候しており、横浜の実家を離れてこの清水にやって来た男である。杉山は玄関に降りてきた。
「よお、杉山君。元気だったかな?」
「アンタ、何しに来たんだよ?まさか山田みたいに同じ事聞くのか?」
「いや、その前に来て欲しい所がある。俺について来てくれるか?」
「え?ああ」
杉山はコートを用意し、三河口と共に外に出た。
「なあ、杉山君」
「何だよ」
「石松から聞いた話だが、大野君と喧嘩してどうなんだ。気分がスッキリした訳じゃないだろ?」
「でも、アイツが親の都合だとか言い訳しやがったんだよ」
「親の都合は子供にはどうにもならんのは確かだ。だが、君は大野君と喧嘩別れしてそのままでいいも思ってんのか?それとも、君は大野君に何て言って欲しかったんだ?君のクラスのかよちゃんやブー太郎君とかも、別れても君と大野君には親友でい続けていて欲しいって願ってるハズだ。大野君だって本心で言った訳じゃなかろう」
「そんなのアンタにわかんのかよ!?」
「俺だって何もかも知っている訳じゃない。だが、戦いの為の石を捨てたそうじゃないか。かよちゃんから聞いたが、それから異世界に行くのか行かないのかはっきり言ってないだろ。安藤りえちゃんにも同じ事を聞かれても彼女に突き放した態度とって喧嘩したそうじゃないか」
「だからそれが何だってんだよ?」
「君はそれでいいのか?」
「いいんだよ、俺は、一人でも大将なんだよ!」
「そうか、君は自分を『大将』だと思うのか。道具も失くしたままで、質問に答えられずだというのに・・・」
「うるせえ!!」
「じゃあ、俺とやるか?君が大将だと言うのを証明する為に・・・」
「う・・・。ああ、やってやろうじゃねえか・・・!!」
杉山は何を始めるのか解らなかった。その後は二人共無言だった。
二人は高台に来ていた。そこには例の秘密基地があった。
「ここは・・・!!」
「君はこの秘密基地を大野君にブー太郎君にまるちゃんと造っただろ?その苦楽もどうでもいいものなのか?」
「う・・・、なんでアンタがここを知ってんだよ?」
「前に君達が隣町の学校の子達にこの基地を乗っ取られて戦った時を見てたんだよ。隣町の学校のすみ子ちゃんって子を覚えてるか?俺は彼女の兄貴と学校の友達でね、その友達も妹が心配で見てたんだよ」
隣町の学校の児童に乗っ取られた時。それは石松から貰った力の石を初めて使用した時だった。あの時はフローレンスにイマヌエルという異世界の人間にこの戦いは間違っていると咎められ、さらにかよ子や冬田も現れてこの戦いを止めようとした時だ。
「大野君がいなくても大将ってんならなぜこの基地を大野君達と造った?なぜ今まで皆と一緒に戦って来た?そしてなぜ異世界に行くか行かないかの質問に答えを出さない?本当に一人でも大将ならそれを証明しろよ」
(こ、この高校生とやるのか・・・?)
杉山は心臓の鼓動が激しくなった。
「何だ?相手が高校生だからってビビってんのか?」
「んなわけねえだろ!!」
「じゃあ、来いよ。道具はなくても君には異能の能力がある筈だ。安心しろ。俺は元から武器は持ってねえし、異能の能力は使わねえよ」
三河口は学ランを脱いだ。この二人の決闘が始まる。
後書き
次回は・・・
「大将か、それとも臆病者か」
高台の秘密基地の前にて、杉山と三河口の戦いが始まる。杉山と三河口が歩く様子を見たブー太郎はかよ子にその旨を伝え、二人はかよ子の羽根を利用して現場へと向かう。果たして杉山さとしは大将か、臆病者か、その審判は・・・!?
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