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少年は勇者達の未来の為に。

作者:幽牙
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鷲尾須美は勇者である 再臨の章
  第七話

 
前書き
本当にお待たせしました。ぼーっといたら二~三か月ほど空いてしまいました。
話が浮かばなかったんです。本当にごめんなさい。 

 
合宿二日目、引き続きボール回避訓練の最中、蓮はモナドのバリア実験を行っていた。

「銀ちゃん、そのまま突っ込んで!」

「わかっ、たぁ!」

蓮の掛け声とともに銀が突撃する。それに合わせて蓮はアーツを起動させる。

(あの時を思い出せ・・・!盾を、向こうに飛ばすイメージで・・・!)

モナドの鍔に『盾』の紋章が出た瞬間。銀の周囲に(シールド)アーツが展開された。

「よっし!銀ちゃん!」

「あいよぉ!!!」

周囲に(シールド)アーツが展開された銀は目標地点へと走り出す。そんな銀に矢継ぎ早にボールが迫るがそれらは全て(シールド)アーツに弾かれた。

「・・・とったあぁぁぁ!」

そう叫びながら、銀は目標の旗をつかみ取った。
前日の訓練で銀がバスを破壊してしまった為、『旗を取ればOK』に変わっていたのだった。

「よっしゃー!とったどー!」

「「やったぁ~!」」

「皆お疲れ様~」

銀が叫び、須美と園子が喜び、蓮が労う。昨日の緊張感はつゆ知らず、完全にいつもの光景だった。
そんな中、3人を労いながら、蓮は思案にふけっていた。

(やっぱり予想通り・・・かな?『(シールド)』アーツは他の人にも張ることが出来る。時間、耐久力ともに僕が張るのと同じ感じっぽい)

これは大きな発見だ。自分の視界内でなければ張ることは出来ないだろうが、ただでさえ防御に乏しい皆に、コレを使うことが出来るのは、とても頼りになる。
・・・ってことはほかのアーツももしかしたら・・・?

そう考えながら、須美、園子と共に銀を迎えに行く蓮であった。


















「そういやさ、蓮」

「なんだい銀ちゃん」

その日の夜、風呂上がりの蓮と銀は、部屋でまったりしていた。須美と園子はというと、コーヒー牛乳を持ったまま盛大に廊下ですっころび、不運なことにその近くを通りがかった安芸先生にコーヒー牛乳をぶっかけ、更に自分たちにもぶっかかり、今現在、安芸先生と共に風呂にぶち込まれてしまった。

「昼間のアレさ、一体何だったん?」

「バリアの事?」

「そうそれ、前は自分にしか張れなかったじゃん?なんでアタシに張ることが出来たのかな~って」

「特に難しい事はしてないよ。ただ、『銀ちゃんを守れ!』って念じたら出て来たんだ」

「はえ~・・・あれ?てことは・・・」

蓮が説明すると銀が返事を返し、考え出した。

「どったの?銀ちゃん」

「いやさ、多分あのバリアって須美と園子にも張れるんだよな?」

「試してないけど・・・多分ね」

「モナドって他にも・・・その、紋章?あったよな?」

「アーツ、ね。うん、まだあるよ」

「もしかして、さ」

「・・・銀ちゃんも同じ事考え付いた?」

「うん、ほかのアーツもアタシたちに使えるんじゃないかな~って」

それは僕も思っていた。今僕が使えるアーツは、斬撃の威力を上げる『(スラッシュ)』。ボウガン状に変形し矢を放つ『(ショット)』。そしてバリアを張れる『(シールド)』。
コレを皆に、自由に付与できるとしたら・・・

「蓮?」

「・・・明日の訓練で試してみよっか、それ」

「お?アタシの案採用?やった!」

自分の案が採用され、喜ぶ銀。そうしていると須美と園子が部屋へと帰って来た。

「はぁ、疲れたわ・・・」

「ただいま~・・・何か話してた~?」

「お帰り、のこちゃん、須美ちゃん。明日のことをちょっとね」

「え~なになに~?」

「明日になったら話すよ。今日は遅いからもう寝よ?」

「え~いけず~」

その後も、園子と須美の質問攻めは続いたが、「お楽しみは明日で」と言う蓮と銀の口を割ることはかなわず、渋々眠りにつくのだった。


















その翌日、訓練終了後の時。

「蓮、やるなら今じゃないか?」

「そうだね、じゃあ始めようか。須美ちゃん、のこちゃん、ちょっと集まって~」

「「?」」

3日目となると慣れて来たのか、息があまり上がらなくなった4人。蓮は帰り支度をする須美と園子を呼び止めた。

「どうしたの?蓮君」

「いやさ、昨日言ってたやつをを始めようかと思いまして」

「寝る前にミノさんとお話ししてたアレ~?」

「そうそれ」

蓮は須美と園子に昨日銀と相談した「モナドアーツの実験」の事を話した。

「ふむふむ~?つまり聖剣様の力を私達に使えるかもってこと~?」

「そういう事。まぁまだ仮説なんだけどね」

「確かに・・・私達あまり気にしてなかったけど、銀に張った盾・・・あれも新しい力なのよね」

「[蓮なら出来そう]とか言う理由でそこまで気にしてなかったもんな」

「あはは・・・じゃあ早速だけど、始めようか」

「「「うん!(おう!)」」」





実験するに当たって、安芸先生から的をいくつか貰った。これは壊しても問題ないそう。

「じゃあ先ず須美ちゃんから行こうか」

「わかったわ、準備出来てるから、何時でもいいわ」

そう言うと須美ちゃんが弓を構え、僕は『(シールド)』アーツを張った時の様に強く念じる。
念じる内容は一つ、【彼女の武器の強化】だ。

そう強く念じると、モナドの鍔に『(ショット)』の文字が現れ、モナドの形状がボウガンへと変わる。
それと同時に、須美ちゃんの弓が青く、鈍く光った

「・・・成功、かな?」

「ひとまず、射ってみるわ・・・」

四人の間に緊張が走る。
以前の威力は的に突き刺さる程度、それがどれだけ変わるか・・・


すぱぁん、ときれいな音が訓練場に響いた。

須美が放った矢は的を破砕し、後ろの防護板に深々と突き刺さった。

「威力・・・高くなってるわね」

「てことは~?」

「実験・・・大!成!功だぁぁぁぁぁ!」

蓮が喜びの声を上げる。それにつられ残りの三人も喜ぶ。

その後も実験は続き、銀にも『(スラッシュ)』アーツをかけた結果、攻撃の威力が上がった。
ただ一つ問題が・・・

「のこちゃん・・・どうしようか・・・」

「私だけないね~・・・」

「アタシみたいに斬る力上げたらどうだ?」

「そのっちは槍だから・・・銀みたいに『斬る』とはいかないんじゃないかしら・・・」

そう、園子だけ対応するアーツが存在しないのだ。斧を持つ銀には『斬』、弓を持つ須美には『射』と割り振る事は出来たのだが、園子はどっちも合わなかった。
試しに付与はしてみたのだが・・・確かに『斬』なら使える。だがしかしそれは「斬る」威力が上がっただけで、肝心の「突く」は上がっていなかったのだ。

「どうしよう・・・ホントに・・・」

4人は頭を悩ませる。そろそろ日が落ちる、あまり長く外には居られない為、軽く焦っていた蓮。するとそこへ

「ぴっかーんとひらめいた!!」

「「「!?」」」

園子が叫んだ。

「どうしたののこちゃん、また妙案でも浮かんだ?」

「うん!あのねあのね、聖剣様にね、『槍になって~!』って念じれば良いんじゃないかなって」

「んぅ?それで何が変わるんだ?」

「槍になってくれれば、私の事も強く出来るんじゃないかな~って」

「でもそう簡単に聖剣様、お力を貸してくれるかしら・・・?」

確かにいい考えだ。でもやっぱり須美ちゃんの言う通り、難しそうなんだよなぁ・・・今までだって戦いの中で目覚めてきたわけだし・・・

「まぁ、試しにやってみようか・・・でもそう簡単に上手くいくなんて―――




























「まさか本当に上手く行くとは」

「やったやった~!」

「えぇ・・・」

「・・・こんな簡単でいいのかしら」

先ほどの会話から数秒後、念じた瞬間モナドはその姿を槍へと変えていた。
のこちゃんと同じ様な槍、色は赤く、槍の・・・刃の前?に穴が開いており、そこに『(スピア)』の紋章が浮かび上がっていた。

・・・こんなんで新しい力手に入れていいのかい?モナド・・・・・























そんなこんながあった強化合宿も終わりを告げ、早数日が経ったある日の休養日。
蓮を抜かした3人の小学生は、白鳥家の近くまで来ていた。

「基本的に蓮は学校が終わったらすぐに帰ってしまう」

「れーくん曰く、朝と夕方は畑を耕してるからとか~」

「それが嘘か本当か、調査しにきました!」

「「いえーい♪」」

白鳥家の近くの畑の外で、銀と園子が小声で交互に言った後にハイタッチする様を見て、須美は呆れから溜め息を吐く。今は朝の6時半。なぜこんな時間に蓮の家の外に隠れるように居るのかと言えば、こんなことを銀が言い出したからだ。

『そういやアタシだけ私生活見られててズルい!蓮のも見に行くぞ!』

何故蓮なのか?と思ったが基本的に蓮の私生活は「謎」この一言に尽きる。
鍛錬をしている。畑を耕し、野菜を作っていると学校ではよく聞くが、実際にそれを見たことは誰一人として無い。
銀が気になるのも無理はないだろう。
そも、白鳥家の場所が場所なのもあり(白鳥家はかなり山の近く、銀の家のさらに先にある)あまり、というか須美は行った事すらない。白鳥家の訪問は今回が初めてである。

それに、友人としても彼のことを何も知らないのはマズくない?という銀の言い分ももっともだった。自分達はチーム。それなのにチームメイトの普段すら知らないというのはいささか問題でもあるだろう。
・・・決して邪な感情は無い、絶対にだ。

そうこうしてるうちに3人は白鳥家が持つ畑へと着く。銀と園子に急かされカバンの中から双眼鏡を取り出す須美。3人はすぐそばにあったトマト畑に身を隠し、蓮を探す。

「さてさてさ~て、蓮はどこだ~?」

「どこだどこだ~?・・・あっいた」

「「どこ!?」」

「ホラあそこ、クワ持ってるよ~」

園子が指をさす方向を銀と須美が向く。
そこには、作業着に着替え、クワを持って土を耕している蓮の姿があった。時折汗を手拭いでぬぐいながら、せっせと土を耕していく。

3人は何も言えずその姿を見ていた。しばらくすると休憩するのだろう、近くの木陰へと入って行った。

「本当だったね~・・・」

「うん・・・なんかその、ごめんなさい・・・」

「私も何だか申し訳ない気持ちでいっぱいだわ・・・」

「・・・今日は帰るか」

「「賛成」」

真面目に畑を耕す蓮を見て、少しでも疑ってしまった罪悪感と申し訳ない気持ちで一杯になった3人はその場を後にしようとする。するとそこへ

「あら~可愛らしい泥棒サン達?どこへカムバックするつもりなのかしラ~?」

背後から声を掛けられ、青空に三人の絶叫が響いた。






















畑仕事がひと段落した僕は木陰で休憩していた。

「ふぃ~、取り敢えずこんなところかな?」

僕の眼前に広がるキャベツ畑は全て耕されていた。

(これだけやれば大丈夫でしょ・・・って、うん?)

ふと、左腕に違和感を覚えた。ヌルヌルするような、少しひんやりする感触。恐る恐る確認してみると・・・

「うおぉぉ!?!?」

なんと僕の左腕に白蛇が巻き付いていた。
まだ蛇の体が一周回った程度だが驚くには十分すぎた。

(なんっ、えぇ!?白蛇!?何でこんなとこに・・・じゃなくて!どうにかして外さないと・・・ん?)

パニックになりながら白蛇を外そうとする。しかし白蛇は僕が慌ててるのを確認すると、スルスルと巻き付きを止め、少し離れた。

「シャー・・・」

白蛇は申し訳なさそうに僕を見る。僕を食べようとしたわけじゃなさそうだ。

「・・・おいで?」

僕は深く考えるよりも先に白蛇に向かって手を伸ばしていた。

「・・・!」

何故だろう、この白蛇の表情が分かった気がする。多分今のこちゃんの様な笑顔を浮かべたように見えた。
それに、何だろう、この蛇からは、泣いてた時そばに寄り添ってくれたあの青い鳥と灰色の鳥に似た感じが・・・


白蛇は僕の伸ばした手に絡みつきながら、スルスルと二の腕辺りまで登って来た。
その白蛇と、目が合った。

「・・・」

(あぁ・・・やっぱり似てるなぁ・・・)

そんな感じで、白蛇と無言のまま見つめ合っていると、

「ホー…ホー…」

「うおっとぉ!?」

何処からか飛んできた茶色のフクロウが、僕の肩に止まった。
白蛇と目を合わせ、僕にすり寄るフクロウ。白蛇もそれを確認し、フクロウの近くまで寄り・・・

僕にすり寄った。

「・・・なんだこれ」

僕は動物に好かれるのだろうか?左肩に乗ったフクロウに頬ずりされ、こちらも左肩に移動し白蛇に舌先で頬をチロチロ舐められる。
嫌な感じは一切しないが、なぜこうなったのか不思議でたまらない。以前は、というか白鳥家に来るまではこんな事無かったんだけどなぁ・・・

白蛇とフクロウになすがままにされていると、



「「「おんぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」」



聞きなれた声の絶叫が聞こえた。

「・・・今の声って」

僕はため息をつきながら、フクロウと白蛇を乗せ、声のする方に歩くのだった。
























「あのねぇ・・・僕じゃなかったら警察行きだよ?」

「「「ごめんなさい」」」

所変わってここは白鳥家の蓮の自室。
あの後唯香に縛り上げられそうになった三人は、何故か肩に蛇とフクロウを乗せた蓮の弁明によって、注意で済まされ、蓮の友人として白鳥家に上がらせ、自室に待たせた後に風呂で汗を流し、そこで私服(農業王Tシャツ)に着替えてから部屋に戻り、3人を軽く叱っていた。

普段あまり・・・というか殆ど怒らない蓮に怒られ、しょげる三人。

因みに白蛇とフクロウはまだ蓮の肩にいる。フクロウに至っては蓮の肩を巣にするつもりなのだろうか、軽く巣作りを始めているように見える。

「・・・ま、反省してるならいいけどさ、何だかんだでせっかく家に来てくれたんだし、何かしようか?と言ってもあんま面白みのない部屋かもだけど」

蓮の言うとおり、3人も部屋を見渡すが蓮の部屋はあまり物がない。あると言えば本棚に大きめのちゃぶ台、押入、薄型テレビ、立てかけられたギター、後は勉強用具くらいのもので、唯一のゲーム機は何世代か前の、据え置き型だった。
弟とやるため、数々のゲーム機が家にある銀、プラモを作る趣味を持つ須美、小説を書いてサイトにアップしたりしている園子からすれば信じられないような環境であった。少なくとも、想像していた同学年の男子の部屋からは程遠い。

というのも、実は蓮は白鳥家に来てから自身に縛りを付けていた。
それは「犬吠埼家に帰るまでは絶対に新しいゲームはやらない」というもの。
どちらかと言うと蓮はゲームが好きな方だ。犬吠埼だった頃は姉や妹と毎日やってたぐらいには。
ただ、白鳥家に来て事情が変わった。唯香は蓮にかなり甘い。唯香に言えば買ってくれるだろう。でもそれはなんだかなぁと蓮は納得できず、白鳥家にあった何世代か前のゲーム機で遊んでいる。


まぁ端的に言えば「どうせ新しいゲームをやるなら家族と一緒が良い」と言う思いだけなのだが


ちなみに今現在、白鳥家には誰もいない。三人を縛り上げようとした唯香は、三人に謝罪し、畑に来たついでに収穫をするのだそう。蓮も手伝おうとしたが拒否られた。「三人をもてなしなサーイ!」だそう。
使用人達も今日は収穫に駆り出されているだとか。

「普段は何をしてるの?その・・・鍛錬と農作以外で」

「そうだなぁ・・・本読んだり、ゲームしたり。後家にあったギターの練習?あぁ、後は時折来る猫にご飯あげたりとかかな?」

「猫?」

「そう、猫。誰かのペットか野生かはわからないけど、前から庭先に現れるようになってさ、真っ白なのと茶色の仲が良い二匹がたまに来るんだ」

「「「へ~」」」

「結構面白い猫でさ・・・この前は雪目大福モリモリ食べてたっけ」

「雪目大福!?」

「それってアイスじゃ・・?」

「そうだ!猫で思い出した!蓮!その方に乗ってる蛇とフクロウは何なんだ!?さっきから普通に見てたけど!」

「あぁ、この子たちはさっき休憩してる時に出会ってさ・・・」


そうやって話を交え、4人は楽しい時間を過ごしていた。
楽しいと時間が経つのは早いもので、時計の針は12時を指していた。

「あらまもうこんな時間だ・・・みんなお昼予定ある?良かったらうちでご飯食べてったら?」

「マジで!?」

「いいの~!?」

「確かに決まってなかったけど・・・お邪魔していいのかしら?」

「大丈夫だよ。唯香さんもそう言うだろうし」

「じゃあ、頂こうかしら」

「さて、じゃあ僕は準備に―――」

その直後三度目となる感覚が4人を襲った。蓮がチラリと肩を見ると、先程まで巣作りをしていた白蛇とフクロウが固まっていた。さらに外からは極彩色の光が迫って来る。

「ご飯は・・・お預けみたいだね」

「「・・・おのれぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」」

銀と園子の怒りの雄たけびは、無情にも光に飲まれていった。














4人はいつものように、武器を携え、大橋付近へと降り立った。
今回迫りくるバーテックスは・・・何とも異形な形をしていた。
タコやイカのような足が四本、胴体と思わしき部分から垂れ下がっており、その足にはオカリナのような穴が開いていた。

「あぁもうタコにしか見えない」

「お腹減ったね~」

「今回は早めに終わらせたいわね」

「終わったら美味しいお蕎麦と野菜をごちそうするよ」

四人のお腹が可愛らしい悲鳴を上げる。運動していた蓮もそうだが、ほか3人も朝ごはんすら食べていない。
なので今現在の4人の思考は「早いところ終わらせてゴハン食べよう」である。
先ずはいつも通り蓮と須美がバーテックスに向け、武器を構える。するとバーテックスは急降下し、自身の4本の足を樹海に突き刺した。

「うおっとっと・・・!」

「揺れる揺れる~!」

「これじゃ狙いが・・・っ!」

「・・・ちっ!」

その瞬間、引き起こされる地震。その揺れは訓練を受けた4人ですらまともに立っていることが出来ず、須美は体制が崩れ射る事は叶わず、蓮が舌打ちとともに放ったボウガンも狙いを大きく外れ、消滅した。

数十秒ほど経っただろうか、ようやく揺れは収まり、体勢を立て直す4人。ふぅ・・・と安堵する銀と園子とは裏腹に須美と蓮は危機感を抱いていた。

「アレはもう使わせたくないな・・・」

「え?何で?ただ揺れるだけだし、問題ないんじゃ・・・」

「確かに僕らにダメージは無いけどさ、あんな僕たちが立てなくなるほどの揺れだよ?大橋がそう何度も耐えれるとは思えない」

「なら動く前に・・・!」

ただ揺らすだけだと思っていた銀は蓮の予想に顔を青ざめさせ、須美は再度弓を構えて射る。一直線にバーテックスへと向かう、勇者の武器として相応の破壊力を誇る矢。それをバーテックスは、その場から急上昇することで回避する。

「なぁっ!?クソっ下りてこーい!」

「ならもう一度!」

「僕も合わせる!」

上空に佇むバーテックスに再度攻撃を仕掛ける蓮と須美。しかしはるか上空へと飛び去ったバーテックスには届かず、途中で消えてしまう。

「そんなっ!?」

「これじゃ届かない、か。須美ちゃん!」

「?」

個人の力では届かないことを理解した蓮は須美を呼ぶ。

「前に合宿で使ったあれをやって見よう。須美ちゃんは狙って、僕はアーツで須美ちゃんを強化する」

「わかったわ」

「銀ちゃんとのこちゃんはそれまでの護衛、頼むね?」

「あいよ!」

「まかせて~」

そうして各々が準備に取り掛かる。須美は上空に狙いを定め、蓮は集中し、須美にアーツを付与しようとする。その瞬間―――

「っ!?れー君!わっしー!危ない!」

「「!?」」

園子の叫びを聞き、咄嗟に動いたことが功を奏した。バーテックスは蓮と須美に向かって光弾を発射してきた。
先程まで2人がいた場所は抉れていた。食らえばただでは済まなかっただろう。

連携を妨害する―――それぐらいは蓮も分かっていた。しかし

(どういう、ことだ・・・!?)

それは普通、見せたもの(・・・・・)だけに対して取られるもの。

(僕はまだ、この力を実戦では使って無いのに・・・!)

見せてない力に対しては、対策や対応など、取れるはずがないのだ。

(アイツ・・・モナドの『付与する』力を知っているのか・・・!?)

蓮に悪寒が走った。














「ゴホッゴホッ・・・蓮!須美!無事か!?」

「あぁ銀ちゃん、こっちは二人共無事、ケガは無いよ」

「良かった~」

「でもどうしましょう・・・ああも邪魔されたら・・・」

先の疑問は置いておいて、須美ちゃんの疑問は至極全うだった。確かにモナドアーツで強化すれば、奴には届くだろう。しかし一々あの光弾を撃ち込まれては準備が出来ない。
どうしたものかと考えていると、バーテックスは再度光弾を撃った・・・勇者たちとは違う方向へ。

「アイツ、どこに向かって・・・!?」

「マズイ!!」

バーテックスの攻撃先を知った蓮と銀は走り出した。今放った光弾は自分達ではなく―――大橋の向こう、樹海に向かって撃たれたものだった。

「おおおおおおおお!!!」

「間に合えっ・・・!」

すんでの所で二人は間に合い、光弾を斧と剣で弾き飛ばした。
二人が光弾を弾いている最中、須美と園子は打開策を考える。聖剣によるパワーアップは邪魔されて使えない。だが、ただの攻撃ではアイツには届かない。何か手は無い物か。

バーテックスは光弾では弾かれてしまう事を確認すると、4本の足を束ね、重ね合わせ、光弾を収束させ、ビームを放ってきた。

「っ!?銀ちゃん!後ろに隠れて!」

「っああ!」

ビームを見た蓮は咄嗟に銀を後ろに行かせ、『(シールド)』アーツを起動させる。ビームは『(シールド)』アーツに弾かれ、上空へと飛んで行く。
ビーム照射により、アーツを張る蓮の身体がじりじりと後退する。そうはさせまいと後ろから銀が蓮に抱きつき、双斧を地面に突き立て、固定させる。

「二人共!無事!?」

「なんっ、とか・・・!」

「れー君!あと何秒ぐらい持ちそう!?」

「多分20秒ってところじゃないかなっ・・・!それ以上は多分っ、アーツが消えるっ!」

それを聞いた園子の思考が高速で回転する。蓮と銀は動けない。アーツの力を借りることはできない。何とか出来るのは自分と須美だけ・・・
周囲を見渡し、己の武器を見て、須美と敵を確認し・・・園子は閃いた。

「ぴっかーん!」

「そのっち!?」

「わっしー!私に合わせて!」

「!?わ、わかったわ!」

園子は自らの槍を階段状に変化させ、その上を須美が弓を構えながら駆け抜ける。言葉はほとんど交わしていなかったが、それでも理解できた。
須美は槍の最後の穂先にたどり着いた瞬間、足に力を込め、飛んだ。



この距離なら、鷲尾須美は外さない。



「南八幡・・・大菩薩っ!」

弓の前に菊の紋章が現れ、そこを通すように矢を射る。須美の気合いを込めた一撃は紋章を通った瞬間に巨大化し、今尚ビームを放ち続ける敵の発射口に直撃、破壊する。ビームは止まり、バーテックスは破壊された部分から黒煙を噴き出してふらふらと落下し始めた。

「蓮君!銀!」

「れー君!ミノさん!」

「「了解!!!」」

ビームが止んだと同時に二人の合図に合わせ、バーテックスに突撃する銀と蓮。
蓮は『(スラッシュ)』アーツを起動させ、銀に力を分け与える。

「ここから、出ていけぇぇぇ〜!!」

園子の叫びと同時に、階段にしていた槍をそのままバーテックスに叩き付けた。


「「うおおおおおお!!!!!」」


落下してきたバーテックスは、銀と蓮によって切り刻まれ、花弁となって消滅した。



















「「「「ふぃ~・・・・・」」」」


戦いが終わった4人はようやく安堵のため息をつく。
今回の戦闘でケガは誰一人負わずに済んだものの、あと一歩遅ければ樹海に攻撃が当たり、現実世界に被害が及ぶかもしれなかったのだ。その緊張の糸が切れた証でもあった。

「今回もなかなかヤバかったな~・・・」

「ええ・・・まさかあんなに苦戦するなんて・・・」

「もうくたくた~・・・」

「・・・そうだねぇ・・・」

各々が敵の感想を述べている中、蓮は一人、考え込んでいた。

(何でアイツはモナドの力を知っていたんだ・・・?何でバーテックスが・・・)

自分で調べても、ほとんど何も出てこず、唯一、当主の唯香からしか聞き出せなかった、モナドの情報。
奴らは、バーテックスは、モナドを知っているのか、それとも・・・




くぅ~・・・



そう考えこんでいると、少し間抜けな音が鳴った。蓮が周囲を見渡すと、銀は"違う"と手を顔の前で振り、園子も自分の胸の前で×を作った。すると、顔を真っ赤にした須美がゆっくりと手を挙げた。

「・・・ゴメンなさい・・・私・・・」

顔を真っ赤にした須美を見て、ほかの三人は思わず吹き出してしまった。

「・・・っくっくっく」

「あははっ!須美の腹が鳴った!」

「そういえば何も食べてなかったね~、お腹すいた~」

「うぅ~~~」

須美が真っ赤になって唸る。ひとしきり笑ったころには、もう蓮の悩みは、頭の中からなくなっていた。

「よし!じゃあ今から僕の家でご飯にしようか!」

「いいのか蓮!?」

「元々そのはずだったしね、バーテックスが来たからお預けになってただけで」

「わ~い!たっのしみたっのしみ~!」

「有難いわ・・・ありがとう、蓮君」

その後、須美たち3人は蓮と共に白鳥家へと戻り、その蕎麦と野菜の美味しさに舌鼓を打つのだった・・・






「アタシうどん派から蕎麦派になりそう・・・」

「「!?」」 
 

 
後書き
まさかの一万文字到達寸前。
皆様お久しぶりです。幽牙です。この度は投稿が遅れに遅れてしまい申し訳ございませんでした。

さて、物語ではモナドの新しい力。『付与』と『(スピア)』アーツの登場です。まぁどちらも実戦では活躍できませんでしたが・・・これから!これから活躍しますから!

引き続き、誤字、脱字等ございましたら指摘お願いします。
感想、質問お待ちしております。



※裏話
作者は感想をもらえるととても喜びます。感想が届く通知を見るとニヨニヨしながら確認してます。
ですので感想を多くもらえると作者的にはとても嬉しいです。 
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