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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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最終章:無限の可能性
  第285話「“可能性”が示すのは」

 
前書き
今回からイリス戦です。
 

 














「―――切り抜けてきますか。当然ですね」

「ッ……!!」

 圧倒的な“闇”から、優輝は僅かなダメージのみで抜け出す。

「この程度で……」

「終わるとでも?」

「お互いになぁッ!!」

 直後、“闇”の極光が連続で放たれる。
 それを、優輝は……否、ユウキ・デュナミスは導王流で捌く。
 今ここにいるのは、人間としての志導優輝ではない。
 全力を出すために神としてのユウキ・デュナミスが戦っている。

「シッ!!」

 故に、理力などの出力も優輝だった頃と桁違いだ。
 しかし、その上でギリギリイリスの攻撃を凌げる状態だった。

「(転移はほぼ不可。イリスの立ち回りも僕に近づかせないようにしている。エラトマの箱は対処出来ている)」

 エラトマの箱は相手の“領域”を侵食する凶悪な代物だ。
 “天使”や比較的弱い神には作れないが、一度使われれば非常に強力ではある。
 だが、それにも対処法はあった。
 “領域”を圧縮し、“意志”で侵食を弾く。
 そうする事で、侵食する余地をなくし、無効化できるのだ。

「(……ここまでは、前回と同じだ)」

 そして、それらはかつての神界大戦でも行っていた事。
 現在、ユウキとイリスは前回の戦いの焼き増しを行っているのだ。
 ……尤も、“ここまでは”と頭に付くが。

「(当然、全部同じはずがない)」

 同じであればイリスは敗北する。
 イリスがこの事に気づかないはずがない。

「はぁッ!」

 理力で攻撃を逸らし、駆ける。
 いくら近づかせないようにしても、導王流がある今では前回よりも肉薄しやすい。
 その場に留まり続けないため、ユウキの狙う攻撃の半分も命中しない。
 そんな状態で徐々にイリスへと近づいていく。

「避けれない、受け流せない攻撃ならどうですか?」

「これ、は……!」

 直後に、先ほどよりも小規模だが、“闇”が押し潰しに来る。
 転移がほとんど出来ない今、避けられるのは一回が限度だ。
 そして、導王流でも受け流せない程の質量が、連続で襲い来る。

「まだだッ!」

 だからこそ、理力によって“可能性”の道を穿つ。
 ノーダメージとはいかない。
 それでも一直線にイリスへと向かって突貫する。

「ッ、ッッ……!!」

 ドリルのように“闇”を切り抜け、肉薄する。
 そして、ようやく手が届きそうになった瞬間……

「ちっ……!」

 イリスは転移し、間合いを離される。
 これも前回と同じだ。
 イリスは何度も転移して間合いを取り……だが、それにすらユウキは追いついた。

「そこだ!」

 今回も同じだ。
 何度転移されようと、そこへと追いつく。
 導王流がある分、“闇”は以前よりも切り抜けるのが早い。
 そのため、前回よりも早く追いつく。

「ッ……!」

 そこで、前回との違いに気が付いた。
 転移なしに追いついた際の攻撃を躱された事……ではない。

「わざわざ分霊を使っていた理由は……これか!」

「その通りです」

 ユウキの理力の刃を防いだのは、“闇”が圧縮された球だ。
 見れば周囲の視界などを奪っていた“闇”がかなり薄くなっている。
 その分の“闇”もイリスの持つ球に凝縮されているのだ。

「ちぃッ!」

 その球は、所謂不定形の武器。
 球としての形だけでなく、剣にも、槍にも、弓にも、鞭にもなる。
 それどころか、棘として“闇”を飛ばす事もでき、ユウキは咄嗟に飛び退いた。

「ッッ!!」

 火花と衝撃波が散る。
 不定形故に、“闇”は何度もユウキを切り裂こうと迫る。
 その度にユウキは理力の剣で弾き、相殺する。
 この攻撃に対し、導王流はあまり通じない。
 極致とまでなれば、若干通じるが……そこまでだ。
 受け流した所から刃が伸び、攻撃をしてくる。
 そのため、受け流した所で防ぎきれないのだ。

「(戦闘技術が前回と段違いだ!分霊を前線に出して、その経験を全て自身に還元した……神としての強さが、ここでも現れるとはな……!)」

 イリスはこれまでの戦いで何体も分霊を繰り出していた。
 その分霊は様々な戦闘で力を振るい、戦闘経験を積んでいたのだ。
 結果、分霊が消えた今、その戦闘経験は本体のイリスへと還元され、以前とは桁違いの戦闘技術を発揮していた。

「くっ……!」

 前後に加え、上下左右から連続で“闇”の極光が迫る。
 それらを受け流し、ギリギリで避け……そこを“闇”の刃が薙ぎ払う。

「“全なる深淵の闇(スコタディ・パーンオプロ)”……これが可能性を潰す“闇”ですよ」

「っ……なるほど、な……!」

 体を反らした事で刃を避け、追撃を障壁で防ぐ。
 そして、事前に“意志”を高めておいた事で転移を発動、一度間合いを取った。

「ここで地力の差が出ましたね?」

「……それを埋めるのが、“意志”ってモノだろ……!」

 ユウキは神としての地力は高い方ではない。
 神界全体であれば、中の上辺りだろう。
 全盛期であっても、上の下に届くかどうかと言った所だ。
 対し、イリスは当然の如く上の上の力の持ち主だ。
 前回であれば上の中と大差ない程度だったが、戦闘経験を得た今では、それだけの力を持っている。

「では、その“可能性”を全て潰させてもらいます!」

   ―――“κομήτης σκοτάδι(コミティス・スコタディ)

 再び、“闇”の星が墜ちる。
 回避不可の一撃で、確実に“領域”を削ってくる算段だ。

「吹きすさべ、“神軍の(ひらめき)”!」

 だからこそ、ユウキも強固突破を試みる。
 イリスと同じように理力を圧縮した不定形の武器を手に、道を切り拓く。

「そこです!」

「ッ、世を照らせ、“未来(あす)曙光(よあけ)”!」

 イリスが武器を振るい、“闇”が牙を剥く。
 対し、ユウキも“可能性”を圧縮した理力を炸裂させ、その“闇”を相殺した。

「同じ土俵の白兵戦ならば、まだまだ僕に分があるぞ」

「ッ……さすがですね……!」

 剣や刀など、固定された武器では相性が悪い。
 だが、同じ条件の武器ならば、例え性能が劣っていてもユウキが上だ。
 いくらイリスが戦闘技術を鍛えたとはいえ、所詮は付け焼刃だ。
 神としてだけでなく、人としても経験を積んできたユウキには敵わない。
 それを叩き潰す程の性能差も、導王流で確実に潰している。

「ならば、同じ土俵で戦わなければいいだけの事です」

「……まぁ、道理だな」

 火花と衝撃波が散り、武器の攻撃同士がぶつかり合う。
 確実にユウキは近づいていたが……転移で距離を離される。
 同時に、“闇”の極光が迫ってきた。

「どれだけ満身創痍なろうと、貴方は肉薄してくるでしょう。ですが、その度に私は貴方を叩き落します。……それだけで、貴方の“可能性”は潰える」

「根競べか……!」

 “闇”の塊を避け、切り裂き、最小の被害で切り抜ける。
 “闇”以外の何もない広いフィールド故に、ユウキはジリ貧だ。
 例え“可能性の性質”で一縷の希望を掴もうにも、ジリ貧であるならばチャンスをモノにしない限り確実に負ける。

「(イリスにとって、長期戦の方が都合がいいのだろう。実際、“性質”の関係上、僕は短期決戦向けだ。それでも、長期戦が向いていない訳ではない)」

 長期戦で追い詰められる程、“可能性”は減っていく。
 それでも、ゼロにはならないのだ。
 だからこそ、ユウキも長期戦は苦手ではない。

「(だが―――)」

 圧倒的な力で叩き潰す様は、前回と同じだ。
 だが、追い詰め方が前回の比ではない。
 確実に“可能性”が削がれているのを、ユウキも実感していた。

「ッ……!」

 圧倒的な“闇”が何度もユウキを叩き潰そうと迫る。
 対し、ユウキはその“闇”を切り抜けるために、余力を残せない。
 防戦一方とまではいかないが、出力の差は歴然だ。

「っ、らぁっ!!」

 一瞬の閃き。
 それにより、目の前の“闇”を切り拓く。
 どの道、ユウキではイリスに肉薄しなければ勝ち目はない。
 遠距離攻撃では地力の差がはっきり影響するため、ほとんど届かない。
 圧縮した一撃ならば通る事もあるが、線のような攻撃は結局躱される。
 ならば、躱せない状況に持っていけば当てる事は可能だ。
 しかし、それをするぐらいならば肉薄する方が確実だった。
 故に、ユウキはただ駆け抜ける。

「くっ……!」

 最早、攻撃を掻い潜るなんてものではない。
 攻撃の中を駆け抜けていた。
 避ける事の出来ない攻撃の嵐を、道を切り拓く分だけ相殺する。
 先の見えない暗闇の中を、手探りで進むようなモノだ。
 だが、“可能性の性質”が確実にイリスへと近づけていた。

「はぁっ!!」

 “闇”を圧縮した武器による全方位からの攻撃。
 それを、同じく全方位に斬撃を放つ事で相殺する。
 その度に武器が欠けるが、随時理力を補充する事で何とか凌ぐ。

「(転移か!だが……っ!?)」

「もう、こちらも逃げませんよ」

 先ほどまでイリスは転移を間合いを取る事に使っていた。
 だが、今度はそれを反撃に使用してきた。

「くっ……!」

「ふッ!」

 転移と同時に武器が振るわれ、ユウキは咄嗟にそれを受け流す。
 直後、極光が放たれ、理力の障壁ごとユウキは押しやられた。

「っ……」

 明らかな戦闘技術の向上。その事実にユウキは思わず笑みを零す。
 それは、“死闘の性質”のようにギリギリの闘いを望むからではない。
 イリスもそれを理解しているため、その笑みが解せなかった。

「(何を―――)」

「それでも」

「ッ!」

「白兵戦ならば負けない」

 何を企んでいるのか、イリスは思考する。
 その僅かな間を狙い、ユウキは再び肉薄。
 白兵戦に持ち込む事で地力の差を無意味に帰す。

「(やはり、単純な戦闘では敵いませんか)」

 武器を振るい、回避も受け流しも許さない極光を何度も放つ。
 だが、極光を切り抜けている最中に武器を振るう事は出来ない。
 否、厳密には出来るのだが、そうすれば武器による攻撃から突破口を開いてくる。
 そのため、ユウキを倒すためには同時に振るえないのだ。

「っっ……!」

「ぐっ……!」

 確かにユウキは徐々にダメージを蓄積させている。
 それでもイリスに食らいつき、その度にイリスは転移で回避する。
 回避からの反撃を繰り出す事でさらに追い詰めるが、結果は同じだ。

「(何を企んでいる……?)」

 思い返すのは先ほどの笑み。
 ユウキのあの笑みは、見せかけなどではない。
 確かに何かに対し、笑みを浮かべるような感情を持っていた。
 しかし、イリスにはそれが何かまではわからない。

「ふっ!」

「ぐ、ぁっ!?」

 防ぎきれない衝撃がユウキを吹き飛ばす。
 間合いは離れ、さらに極光が追い打ちする。

「(追い詰めてはいる。ですが……)」

 極光をより圧縮した閃光で穿たれる。
 さらに圧倒的な“闇”で押し潰すが、それすらも抜けてくる。
 ダメージは蓄積し、確かにユウキは追い詰められている。

「(その上で、何か企んでいる……!)」

 相手は“可能性の性質”。
 どれほど絶体絶命であろうと、“可能性”がある限り油断できない。
 だからこそ、イリスは警戒を緩める事はなかった。

「ッ!」

「(ここで転移!なら、来るのは―――)」

 しかし、警戒し続けるからこそ、隙が生じる。

「なっ……!?」

「引っ掛かったな」

 背後に単発転移で回り込んだと、イリスは先読みしたつもりだった。
 だが、実際は転移しておらず、ユウキは認識阻害で一瞬姿を晦ましただけだった。
 加え、転移させたのは理力で作ったデコイだ。
 実際に気配が転移したために、イリスはそれに引っ掛かってしまった。

「まだまだ戦闘経験が浅い」

「ぐっ!?」

 ここに来て、ついにユウキの攻撃が入った。
 咄嗟の防御で威力は激減し、一部の攻撃も相殺された。
 それでもイリスに攻撃が決まり、その体が大きく吹き飛んだ。

「……いや、そうでもないか……っ」

 吹き飛ばしたユウキは、欠けた体を見てそう呟いた。
 そう。ユウキも無傷ではなかった。
 攻撃が決まった瞬間に、イリスは置き土産に圧縮した“闇”を放っていた。
 その“闇”によって、体の至る所を抉りぬかれていたのだ。

「(以前と違ってまったく一辺倒じゃない。おかげで、追い詰められるのが早い)」

 お互いにダメージを負ったため、追撃はない。
 その間にユウキは傷を癒しつつ思考を纏める。
 前回での大戦は、もっとダメージを抑えられていた。
 それと言うのも、イリスの戦闘技術が低いからだった。
 今はその戦闘技術があるため、その分ユウキに余裕がない。

「っっ……!」

 四方八方から極光が迫る。
 その合間を縫ってイリスへとユウキは駆ける。
 だが、イリスも合間を縫うように武器を振るってくる。
 不定形故に、その間合いはいくらでも伸ばせる。
 ユウキはその攻撃を自身の武器で逸らし、極光の側面を滑るように切り抜ける。

「そこだ!」

「くっ……!」

 圧縮された“闇”と、圧縮された理力の閃光がぶつかり合う。
 込められた理力は“闇”の方が圧倒的に上だ。
 それを、圧縮の差で閃光が相殺する。

「(また転移……ならば!)」

「ッ―――!?」

 再び転移を仕掛け、奇襲を繰り出すユウキ。
 だが、イリスも学習していた。
 フェイントであろうと、そうでなかろうと、タイミングを合わせて“闇”を放つ。
 全方位に放たれた“闇”は、ユウキがどこに現れようと襲い掛かる。
 結果、ユウキはその“闇”を対処せざるを得なくなり、攻撃が潰された。

「そこです!」

「(意趣返しか!なら……!)」

 放出された“闇”を凌ぎきった所へ極光が迫る。
 その時点で、ユウキも反撃の閃光を繰り出しており、先ほどと真逆の立場になる。
 
「っづ……!」

 相殺直後を狙い、四方八方から極光が迫る。
 避けるための隙間もほとんどなく、ユウキは掠りながら極光の包囲を抜ける。

「はぁっ!!」

 そこをイリスも狙ってくる。
 故にこそ、反撃のチャンスだとユウキは圧縮した理力を繰り出した。

「っ……!?」

「ぐ、ぅ……はは……!」

 それは相殺のための一撃ではない。
 イリスが追撃に放った極光とその一撃はすれ違い、お互いに命中した。
 直撃はしなかったが、イリスは左肩を貫かれ、左腕が千切れかけていた。
 対し、ユウキは左半身を丸ごと持っていかれていた。

「肉を切らせて骨を断つ……でしたか。ですが、それだけでは勝てませんよ」

「……わかっているさ」

 本来ならば、イリスにはもっとダメージを与えなければいけない。
 しかし、明らかにユウキの方がダメージを蓄積させている。
 肉体の傷は再生できても、“領域”は消耗し続けている。

「………」

 だからこそ、イリスは訝しむ。
 ユウキはそれをわかった上で戦い続けている。
 まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「どうした?」

「……なるほど。どうやら貴方は既に諦めているようですね」

「へぇ……それはまたどうしてそう思う?」

 イリスの言葉に、一旦戦闘が止む。
 ユウキもなぜそう思ったのか問い返す。

「貴方は最早、自分で勝とうとしていない。どれほど不利であろうと、どれほど逆境であろうと!貴方はあの時諦めなかった!だというのに、今はその様子がない。“可能性の性質”ともあろう貴方が、自分が勝つ“可能性”を諦めているからですよ」

「……まぁ、あながち外れじゃないな」

 そう。ユウキは確かに自分だけで勝つ事はほぼ諦めていた。
 神界の神としての格が違い過ぎるからだ。
 それに、ユウキは神の力を取り戻したとはいえ、全盛期にはまだ遠い。
 優奈と一つになってようやく一縷の“可能性”が生まれるのだ。

「お前は思った以上に成長していた。そういった“性質”ではないにも関わらずに、だ。それもこれも、全て僕を倒すためだろう?」

「ええ。ええ。そうですよ。その通りですよ。この力を以って、貴方のその可能性(輝き)が見たかったのです。……その上で叩き潰そうと―――」

「いや、それだけ聞ければ十分だ」

 イリスの言葉を遮り、ユウキは戦闘を再開した。
 否、切り札を切った。

「我が領域をここに。生命の持つ“無限の可能性”をここに示そう」

「ッ、させ―――!」

「遅い」

   ―――“無限の可能性(デュナミス・トゥ・テオス)

 “闇”をユウキの“固有領域”が塗り潰す。
 鏡面の如き水面がどこまでも続き、あらゆる情景を映す水玉が至る所に浮かぶ。
 まさに無数の“可能性”を内包した世界が、そこにはあった。

「時に、イリス」

「……なんでしょう?」

「お前は、分霊のお前が言った事に、納得できたか?」

「――――――」

 ユウキの言葉に、イリスは一瞬言葉を失った。
 答えられなかったから、突拍子もない問いだったから、などではない。

「認められる訳、ないでしょう……ッ!」

 認められないから、認めたくないからこそ、一瞬言葉を詰まらせたのだ。

「……そうか」

「ッッ!!」

 裏を返せば、()()()()()()()()
 その事をユウキは読み取り、イリスはそんなユウキに“闇”をぶつける。

「頑なに認めないのなら、それもいいだろう」

   ―――“デュナミス・エクソルキィゾ”

「だからこそ、お前は敗北する」

「ッッ……!」

 “可能性”が形となり、“闇”を打ち消す。
 あらゆる“可能性”を内包するユウキの固有領域だからこその技だ。
 “可能性”を形にし、常に相手の有利な相性で戦う。
 今回のも、“闇を祓う可能性”を手繰り寄せたのだ。

「僕()()()勝つのは確かに諦めている。だが、その過程は別だ。……お前の“領域”、せいぜい削らせてもらうぞ」

「っ……“領域”を展開する事で、有利に立ったつもりですか……!ですが、こうなればエラトマの箱で―――」

「有利のつもりはないな。だが、対等だ」

「(―――見抜かれている……!?)」

 エラトマの箱は、神の“領域”ですら侵食する凶悪なモノだ。
 だが、如何に実力のある神にしか作れないとはいえ、代償がない訳ではない。
 相手の“領域”を侵食する程の代物なため、作り出すのに自らの“領域”を削る。
 だからこそ、イリスや他の悪神はエラトマの箱をばら撒く真似はしなかったのだ。
 それだけで、自身がどんどん消耗するがために。

「エラトマの箱を使わせるだけでも、お前の“領域”は消耗させられる。確実に僕の“領域”も侵食出来るだろうが……どこまで消耗するかな?」

「っ……ここまで読んでいたのですか……!」

「いいや、“可能性”を信じただけだ。僕自身の、皆の、そしてイリス、お前自身の“可能性”を」

 だからこそ、ユウキは捨て身の覚悟で“固有領域”を展開した。
 倒せなくとも、確実にイリスを消耗させられる手段として。

「ならば……!」

「(そう。そうなればお前は結果的に消耗が少ない手段を取る。僕でも同じ事をするだろう。……それでいい)」

   ―――“純粋なりし深淵の闇(ミソロギア・トゥ・スコタディ)

 ユウキの“固有領域”を侵食するように“闇”がイリスから広がっていく。
 これがイリスの“固有領域”。
 何もかもを“闇”で塗り潰す、“闇の性質”らしい“領域”だ。

「……これで、切り札を潰せる」

「ッ―――!?」

 直後呟かれたユウキの言葉に、イリスは戦慄する。
 この状況下でさらに誘導された。その事実に動揺していた。

「さぁ、根競べだ。イリス。……後に繋げるため、その“領域”を削らせてもらう!」

「この……!ユウキ・デュナミスゥゥゥゥ!!」

 飽くまでも自分で勝とうとしない。
 その上で誘導された。
 その二つの事実に、イリスは激昂する。
 二人共、その場からは動かない。
 お互いの“固有領域”から攻撃が放たれ、お互いに“領域”を削っていく。

「ッ……!」

「後に繋げる?馬鹿な事を!託す相手とは、共にいた人間達でしょう!?そんな人間達に、私が倒せると本気で思っているのですか!?」

「ああ。思っているとも……!人の“可能性”はそれこそ無限にある……!」

「愚かな……!貴方は、そんな愚かな考えをする()ではなかった!」

「いいや、前回お前と戦った時とそんな変わらないさ……!まぁ、より信じるようにはなったけどな……!」

 “闇”と“可能性”が何度もぶつかり合う。
 その度に、ユウキの“領域”が侵食されていく。
 だが、同時にイリスの“領域”も確かに消耗していた。

「私は!貴方の可能性(輝き)が見たかった!だというのに、貴方は私に勝とうとするのを諦め、あの人間達に託すというのですか!?」

「っ……そうだ。僕はそう信じた。あいつらも、僕を信じてくれた!……それだけで、託すには十分な理由さ……!」

「十分なものですか!!」

 一際大きな爆発が二人の間で起きる。
 ユウキの体が仰け反り、それでも何とか踏ん張る。
 互いに両手を突き出し、自らの“領域”を支え続ける。

「あり得ない。理解出来ません!なぜ、なぜそれだけで……!」

「本当に理解出来ないか?」

 一瞬、僅かにイリスの“領域”が乱れる。
 その隙を逃さずに、ユウキは自らの“領域”を叩き込む。

「っづ……ええ、理解できません……理解、したくありません!!」

「ぐっ……そう、か……!」

 それでも、ユウキが不利だ。
 “闇”に押され、ユウキは一度膝をついてしまった。
 すぐに立ち上がり、“領域”を支えるが、拮抗は崩れつつある。

「なら、しかと見るがいいさ。なぜ、僕が託したのかを。実際にな……ッ!!」

 それでも、ユウキは自らの“領域”を、“可能性”を注ぎ込む。
 負けるとわかっていてもなお、次に繋ぐために。



















 
 

 
後書き
全なる深淵の闇(スコタディ・パーンオプロ)…“闇”“全て”“武器”のギリシャ語。イリスの“闇”を凝縮して創り出した不定形の“闇”。不定形故に如何なる武器へと変わり、途轍もない切れ味や威力を発揮する。

神軍の閃…ミエラの天軍の剣の上位互換。理力を集束させた不定形の光であらゆるモノを斬る。不定形なので、あらゆる武器へと変化出来る。しかし、上記のイリスの武器には劣る。

未来の曙光…ルフィナの明けの明星の上位互換。“性質”を利用しつつ圧縮した理力を炸裂させ、確実に攻撃を凌ぐ。同時にカウンターする事も可能。

無限の可能性(デュナミス・トゥ・テオス)…ユウキの固有領域。景色は人であった頃の導きの可能性(メークリヒカイト・デァ・フュールング)と同じだが、導く、導かれるモノだけでなくありとあらゆる“可能性”を内包する。あらゆる因果や運命を操作可能にし、自身の有利に持っていける。ただし、因果や運命に関する“性質”には弱い。

デュナミス・エクソルキィゾ…“可能性”“祓う”のギリシャ語。文字通り、祓うための可能性を形にして引き寄せる。祓われるモノに対し、強い効果を発揮する。

純粋なりし深淵の闇(ミソロギア・トゥ・スコタディ)…“闇の神話”のギリシャ語。イリスの固有領域であり、切り札。他の何者も許さない“闇”で覆い尽くす。その様は、まさにイリスの本心を表していた。“闇”以外を知らないという、本当の想いを。


エラトマの箱を使用していた場合、普通に戦闘が続きます。
ですが、“固有領域”を展開している分、ユウキが動きやすくなるので、その分イリスにもまともなダメージが刻まれます。
最終的に、“固有領域”をぶつけた方が消耗が少ないため、本編のようになりました。
“固有領域”同士のぶつけ合いは、本編で描写したように、直接戦わずに“領域”同士をぶつけるだけになります。イメージとしては、DBの気功波同士が拮抗している感じです。 
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