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恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS

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第九十八話 孫策、賭けを考えるのことその十

「あの娘達の重臣達の誰かでも」
「そうですね。例えば関羽や」
「夏侯姉妹ですね」
「そうした連中を消せればですね」
「いいですね」
「あの山に入った者は」
 どうするか。それがだった。
「もてなしてあげましょう」
「ではその用意もですね」
「しておきましょう」
「そうしましょう。私達の王朝の時は近付いているわ」
 この世のものとは違う。異形の王朝がだというのだ。
「晋がね」
「私達のその国」
「破壊と混沌の国が」
「妖狐の血が欲するその国がね」
 司馬尉の目に何かが宿った。それは。 
 人の目にある光ではなかった。赤い禍々しい光だった。その光を宿らせてだ。
 彼女はだ。こんなことも言った。
「面白いわね。私達の祖先が九尾の狐の血を飲んだおかげでね」
「私達は今こうして」
「闇の中にいられるのですから」
「光にあるものは限られているわ」
 司馬尉はこうも話した。
「けれど。闇の中にあるものは」
「無限です」
「そこにはあらゆるものがあります」
「そう。だからこそ闇の意志に従い」
 そうしてだというのだ。
「この世を塗り替えるわよ」
「闇に」
「破壊と混沌に」
 そうした話をしたうえでだ。三人は闇から戻った。その彼女達にだ。
 表の世界での従者達がだ。こう言ってきたのだった。
「儒者の方々がです」
「御主人様達に御会いしたいとのことです」
「そう。儒者が」
「左様です」
「是非にと」 
 合いたいと言っているというのだ。
「それでなのですが」
「どうされますか」
「会うわ」
 司馬尉の返答は一言だった。
「あちらが会いたいというのならね」
「左様ですか。それでは」
「すぐにこちらに御呼びします」
「そうしますので」
「お茶を用意しておいて」
 茶もだ。出せというのだった。
「それもね。わかったかしら」
「そしてそのお茶は」
「何にされますか?」
「黒茶がいいわね」
 それがいいというのだ。所謂茶を淹れるとそこで紅茶の様に黒くなる茶だ。
 その茶をだというのだ。
「それを御願いするわ」
「はい、では菓子もですね」
「それも」
「お菓子は」
 何かというとだった。
「黒茶には月餅だから」
「わかりました。では月餅もです」
「出しますので」
 こうしてだった。表の従者達は主の言葉に一礼してだ。彼女の前から去った。それからだった。
 影からだ。彼等が出て来た。そのうえでだった。
 司馬尉の前に出て控えだ。こう尋ねてきたのだ。
「では黒茶と月餅にですね」
「含ませておきますか」
「そうされますか」
「いえ、今はいいわ」
 司馬尉はそれはいいとした。
 そしてだ。『それ』についても言及したのだった。
「毒、若しくは操る薬ね」
「操る薬を考えていたのですが」
「それは今は」
「ええ、使わないわ」
 余裕に満ちた笑みと共に述べる。
「それはね」
「左様ですか」
「今は使われない」
「そうなのですね」
「使わなくても充分よ」
 また言う司馬尉だった。
「私の術も使わないわ」
「術もですか」
「それも」
「どうせ来るのは二流の儒者ばかり」
 それならばだというのだ。薬も術も使う必要はないというのだ。
「そんな相手。話術で充分よ」
「わかりました。それでは」
「我々は今は」
「控えておきます」
「そうしなさい。ただ時が来れば」
 その時はというのだ。そのことは確かに話した。
「わかっているわね」
「はい、その時は」
「やらせて頂きます」
「そうさせてもらいますので」
「その時も楽しみにしているわ」
 残虐な楽しみを見出している笑みで。それを浮かべながらの言葉だった。
「是非ね」
「そうですね。その時が楽しみですね」
「我等の時が来る時」
「その時が」
 こうした話をしてだった。司馬尉は己の口一つで儒者達の前に赴くのだった。絶対の自信と共に。


第九十八話   完


                         2011・7・20
 
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