| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

おっちょこちょいのかよちゃん

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

131 それぞれの気持ち

 
前書き
《前回》
 かよ子はりえを家に招き入れ、更にはまる子やたまえ、大野に長山も招待する。更には冬田も乱入し、大野がりえと付き合っているのではと疑ってヤキモチで大泣きしてしまったが、勘違いと分かると仲良くなり、皆で異世界で共に戦うと誓うのだった!! 

 
 りえは祖母の家に帰った。
「只今」
「りえ、お帰り」
 母が出迎えた。
「杉山君って子とはどうだった?」
「また喧嘩しちゃったわ。それにかよちゃんにも当たりが強かった・・・」
「そうだったの・・・」
 りえはいくら喧嘩したとはいえ、それでも杉山が心配でたまらなかった。
(本当にこの先、大丈夫なのかしら・・・?)
 だが、りえにはかよ子達の他、長山治に冬田美鈴といった仲間もこれからの戦いに参戦してくれると思うと少し味方が増えてくれたようで大丈夫かもしれないと自信が持てていた。

 翌日、この日は成人式という事もあり、袴姿の男女が歩く姿が見られた。
(りえちゃん、今日、帰るのか・・・)
 かよ子はりえの事を考える。しかし、夏休みの時のような哀愁に漂うような事はなかった。
(異世界で、一緒に戦おうね、りえちゃん・・・!!)

 一方、りえは帰るための荷造りをしていた。
「それじゃ、おばあちゃん、またね」
 その時、一台の車が停車した。
「おはようございます」
 山田家の隣に住むおばさんだった。その甥もいる。
「折角なんで駅まで送りますよ。健ちゃん、荷物運び手伝ってあげて」
「はい」
 三河口はりえ達の荷物を持ち、車のトランクに入れた。
「ところでりえちゃん」
「え?」
「昨日、杉山君に会いに行ったんだよね?」
「あ、うん・・・」
 りえは少し沈んだ表情だった。
「どうやら喧嘩したようだね」
 三河口はりえの表情から察した。
「ええ・・・」
「君にまで当たるなんて相当ムシャクシャした気持ちになってんだな。だが、杉山君はきっと本当は大野君が転校する事で素直になれずに喧嘩したんだと思うよ。本当は寂しがっているはずだよ」
「でも、私も、『臆病者』呼ばわりしちゃったわ。異世界に行くか行かないかって私が聞いたら『ほっといてくれ』って言われたから私もカッとなっちゃって」
「『臆病者』ね・・・。ま、杉山君の事は俺やかよちゃんに任せておいてくれよ。何とか大野君と仲直りさせるようにしておくからさ」
「ええ」
 安藤家の人達は奈美子の車に乗った。
「それじゃ、さようなら」
「さようなら」
 三河口は同乗せずにその場で見送った。
(杉山君め・・・。大野君と喧嘩したままでいいのか?そのままで異世界へ向かえるのか?)
 三河口は居候の家へと戻る。だが、その前にかよ子の家へ立ち寄った。

 杉山は昨日の事を思い出した。
(なんであいつ、俺の前に出やがったんだよ・・・!!)
 杉山はりえの言葉を思い出す。
《結局アンタは友達がいなくなるのが嫌で喧嘩したんでしょっ!?》
(俺は確かに大野がいなくなるのが寂しかったからあんな事言っちまった・・・。じゃ、お前に何ができるんだよ・・・)
 杉山は手放してしまった雷の石を思い出す。
(俺は、あんなのなくたって別にいいんだよ・・・!!元の日常が戻ったって大野の転校が取り消しになるわけじゃねえんだ!!)
 杉山は少し泣いていた。

 大野は自分の持つ草の石と嘗て杉山が持っていた雷の石を持って眺めていた。
(杉山・・・。俺だって本当はお前とずっと一緒にいたかったよ・・・。でも、お前は俺なんかいなくたって大将なんだろ・・・?)
 大野はこの二つの石が本当に自分と杉山が親友であった事の証になるのだろうか?大野にはまだ分からなかった。

 奈美子の車によって静岡駅まで送って貰ったりえ達は彼女に礼をしていた。
「どうもありがとうございます」
「ええ、次は異世界でお会いしましょう」
「異世界・・・、ええ、そうですね」
 りえ達は思い出した。このおばさんは嘗て異世界から貰った護符の所有者で会った事、そしてその護符は今、娘に引き継いでいるという事を。
「さようなら」
 りえ達は新幹線のりばの改札を通った。そして東京行きの列車に乗る。
(かよちゃん、皆、今度は異世界で会おうね・・・)
 そしてりえは杉山の事を思い出す。
(杉山君、来てくれるのかしら・・・?)
 突き放された態度を取られながらもりえは夏休みの時から喧嘩しておきながら自分のピアノを応援してくれていた者の一人である杉山が異世界に来てくれる事を願った。車窓に富士山が見える。
(あの富士山、いつ見ても綺麗ね・・・)
 りえはまた皆と会える日を楽しみにするのであった。今度は異世界で。

 かよ子は三河口と会っていた。
「りえちゃんは杉山君を『臆病者』呼ばわりしていた事を心の中で反省していたよ」
「そうだったんだ・・・」
 かよ子は同じ共闘する「仲間」であるとともに「恋敵」でもある女子の本心を知ったような気がした。
(りえちゃんは実際に現場を見ていないけど、あんな喧嘩しちゃ、ショックを受けちゃうはずだよね・・・)
 そしてかよ子は好きな男子の事を考える。
(お願い、杉山君・・・。この戦いが終わってからでもいいから、大野君と仲直りして・・・。できれば大野君が転校する前に。それで、大野君が気持ちよく皆とお別れできるように・・・)
 かよ子は二つの課題が己に課せられていると感じる。一つは赤軍や異世界の敵との大きな戦いを終わらせて、赤軍からこの国を守る事、そしてもう一つは杉山と大野を仲直りさせる事。それが課題だった。
「今度は杉山君を何とかさせないとな・・・」
 三河口は呟いた。
「お兄ちゃん、杉山君の事は・・・」
「ああ、ほっといた方がいいのかもしれんな。でも、その前に異世界の戦いに行くのか行かないのか、覚悟を決めて貰わないと駄目だと思うよ」
「うん・・・」
「それじゃ、俺はこれで失礼するよ」
 三河口はかよ子の部屋から出て行った。
(杉山君、きっと来てくれるよね・・・?)

 りえは東京の家に帰宅した。そして自室のピアノに飾ってある色紙を見る。これは夏休みにかよ子達が書いてくれた寄書だった。
(『絶対に夢、叶えろよ!』って、あんたはどういう気持ちでこれを書いたのっ・・・!?)
 そしてもう一人の男子のメッセージを読む。
(『この次はボクが守ります』・・・。逆に私達が助けに行く事になっちゃったわね・・・。でも、杉山君と違って優しい所もあったわね・・・)
 そして、あの女子のメッセージも見る。
(『絶対にこの世界を守ろうね』、か・・・。そうよね・・・)
 りえは心の中でこの女子の寄書の文言を約束しなければならないと思った。

 そして開戦の日は近づいて行く。 
 

 
後書き
次回は・・・
「上層部からの処遇」
 大野と杉山の喧嘩について石松は三穂津姫からフローレンスからの手紙を受け取る。手紙の指示通りに杉山には異世界に来るように、大野には草の石と雷の石、両方を持って来るように促そうとして・・・。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧