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Fate/WizarDragonknight

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ムーの遺産

 コウスケとキャスターと合流したハルトとほむらは、引き続き回廊を歩き続けた。
 相変わらずハルトは懐中電灯となり、唯一古代文字が読めるキャスターの目となっている。

『ライト プリーズ』
「そろそろ体でも感じるほどの疲れが溜まってきたんだけど」

 ハルトは言った。
 だが、顧みることなくキャスターはハルトにライトを要求する。

「……コウスケはもういいの?」
「大体記録には取ったけど、さすがにそろそろ帰りてえ。そりゃ見てて飽きねえけどよ。そろそろまとめてえ」

 コウスケは呟きながら廊下に寝転がる。

「おいおい。さっきまでの元気はどこに行ったんだ?」
「元気にもそれを支える精神ってもんが不可欠なんだよ。んで、今のオレにはその気力がねえ」

「碑文とかは色々あるけど、結局オレは読めねえしな。大体の写真も撮ったし、もうやることもねえだろ」
「お前それ後で後悔するやつじゃない?」

 だが、コウスケは起き上がる。

「言ってもなあ。流石に閉じ込められてここまで時間たつと、気持ちも滅入るってもんよ」
「まあ、納得はする」

 ハルトはスマホの時間を確認した。
 朝にこの遺跡に入って、今やもう四時を回っている。どこかの洋画にありそうな罠に陥った後も、もう何時間たっているのだろうか。

「ねえ、そもそもほむらちゃんたちはこの遺跡に何しに来てたの?」

 ハルトは尋ねた。
 退屈そうなほむらは、壁に寄りかかったままハルトを睨む。
 無言の圧から、あまり口を割りそうになかった。

「……あはは。少しくらいは心開いてくれてもいいんじゃないかな……」
「貴方は私の敵よ。無理ね」
「ひどい……あれ、もしかして光?」

 ハルトが指さしたのは、回廊の先にある淡い赤。黒と茶しかなかった空間に、ぽっかりと開いた光。
 それを確認したコウスケもまた、目を輝かせる。

「おお! 光だ! 赤ってことは、もう夕方か……! おい、出られるぞ!」

 コウスケが先にダッシュで光へ走る。ハルト、ほむらもそれに続き、キャスターがゆっくり歩いて行った。
 そして。

「外だあああああ……ああああ?」

 コウスケの疑問形の声に続いて、ハルトが入る。

「……まだ外じゃないのか……」
「がっくし」

 コウスケが崩れた。

「何だよ……もうレポートの材料はそろったってのに……」
「まあ、期待外れだけど……」

 ハルトは地下なのに光で満ちる部屋を見渡す。通路などはもうなく、ここが最奥なのだろうと思った。

「あれ……? なんだ?」

 ハルトは、天井近くの壁画に目を向けた。
 人々が、空に浮かぶひし形に祈りを捧げている。ひし形のバックには太陽を思わせる赤い円形が描かれていた。

「あれはムー大陸」

 キャスターがハルトの横を通り過ぎながら言った。
 ハルトは「へえ」と頷き、

「大陸にしては変な形じゃない? どっちかというと、UFOみたい」
「当然だ。ムー大陸は空を飛んでいたのだから」
「空!?」

 ハルトはもう一度ムー大陸を見やる。

「大陸が空を飛ぶって……」
「それホントか?」

 頭痛がしてきたハルトとは逆に、コウスケが復帰して目を輝かせていた。
 キャスターは頷き、

「ムーの文明は、大陸そのものが移動要塞として、この世界のみならず他の世界をも支配の手を伸ばしていた。中には、ここのように崇めるところもあったのだろう」
「ほお……」

 少しだけコウスケの目に光が戻った。

「なあ、少しムーのこと聞いてもいいか?」

 話しが長くなりそうな二人を放っておいて、ハルトは明るくなる光源を探す。
 それはすぐに、部屋の中央に見つかった。まるで展望台のように描かれた円の中心に、円筒状の台が設置してある。そしてその上には、恐竜の頭部のような形状をした石が鎮座していた。地下深くにも関わらずあふれ出る光源は、近づくだけでその熱が伝わってきた。
 そしてハルトは、この石と似たものを見たことがある。
 それは、先日博物館で展示され、狙われ、響が結果的に吸収してしまった代物。

「ベルセルクの剣と同じもの……」
「おい……オイオイオイ!」

 コウスケが興奮した声で石に近づく。

「何だこれ何だこれ何だこれ!?」

 コウスケは新品のデジタルカメラで何度も石の写真を撮る。そのまま部屋全体を撮影したコウスケは、室内に響く大声で言った。

「嘘だろおい、見滝原遺跡だぞ? 小学生がみんな遠足で来るところだぞ? なんでこんなムーの遺跡があるんだ?」
「ここはムーとは関わりが深かった。そういうことらしい」

 キャスターが壁画を見ながら言った。

「かつての見滝原の民族は、ムーを崇めていたらしい。偉大なる恵を受けていたそうだ」
「恵?」
「ここに記載がある」

 キャスターが壁の一か所を指さす。象形文字で記載されているそれは、キャスターには慣れ親しんだものなのだろうか。
 キャスターはそのまま、書かれているものを読み上げる。

「『ムー。我らに知恵を授けたまえ。我らに光を授けたまえ。我らに繁栄を与えたまえ』
「へえ」
「それより、キャスター」

 ほむらがコウスケを突き飛ばし、光る石を指さした。

「貴女が言っていた力って、これなのかしら?」

 ほむらはキャスターに詰め寄る。彼女の顔が、鬼気迫るものになっていく。

「これなのよね? これで、力が手に入るのよね?」

 その問いに、キャスターは頷く。

「これはオーパーツ。ムーを崇める民族の一つが、古代の恐竜たちを模して作り上げた石。そして、この石を使って作られた武器は、ただの空気でさえも炎にしたと言われている」
「これは、一体どうやって使うの?」
「マスターの武器に触れさせれば、威力は増加するでしょう。その身を代償に取り込めば、力となるでしょう」
「……!」
「そしてこれは、ここでマスター、ウィザード、ビーストが力を発揮できない原因でもある」
「どういうことだ?」

 ハルトの質問に、キャスターは振り返った。

「この遺跡全体が、このオーパーツを安置するための(はこ)だったということだ」
「匣……?」

 キャスターは頷く。

「オーパーツの力を用いた、一種の防錆装置だ。ムーの力を用いない異能の力は、弱体化されると思った方がいい」
「だから俺とほむらちゃんは変身できなかったのか……」
「そう。そして、それすらもほんの一部。マスター。貴女の願いを叶えるためには、このオーパーツの力が必要となる」

 その言葉を聞いたほむらは、すぐに踵を返す。コウスケを突き飛ばし、赤く光る石を掴もうと手を伸ばすが。

「触るな」

 その手を掴まれる。

「貴様のような下賤の者が触っていいものではない」

 いつの間に遺跡にいたのだろうか。いつ、この部屋に追いついたのだろうか。
 山道でハルトたちが遭遇した青年が、ほむらの腕を封じていた。
 彼はその赤い目でほむらを睨む。

「失せろ」
「……なぜかしら?」

 ほむらと青年の、数秒のにらみ合い。
 そして、彼は告げた。

「俺の誇りが、それを許さないんだよ……」

 その後、青年の動きは突然だった。
 ほむらへ向けられた容赦ない回転蹴り。それを避けたほむらは、躊躇なく銃を取り出し、その銃口を青年の頭に向ける。

「ほむらちゃん!」

 ハルトが止める間もなく、ほむらは発砲。
 だが、青年は最低限の動きでそれを回避。ほむらを蹴り飛ばした。

「っ!」

 頭を打ったほむらは、青年を睨む。
 青年は全く臆することなく、ほむらからキャスター、ハルト、コウスケへ告げた。

「もう一度言う。失せろ」
「……悪いわね」

 ほむらは生身のまま、銃を下ろさない。

「その石をもらいに来たの。力をもらえるんでしょ?」
「……力づくでなければ、分からないらしいな」

 青年はゆっくりと、ポケットから何かを取り出す。

「あれって……」

 ハルトはそれに見覚えがあった。
 博物館で展示されていた、ムーの携帯端末と思しきものと全く同じ形をしていた。
青年はそれで、目の前で何かを描いた。空間に直接記されていくもの。それは、この部屋のあちらこちらに描かれているものと同じ、ムーの紋章。
 紋章は青年を覆うように、一つ、また一つと増えていく。やがて彼の前後左右に合計四つが出現した。

「何をするつもりだ……?」

 ハルトの問いに、青年は答えない。両手を左右に広げると、紋章はキリキリと音を立てながら回転する。
 そして。

「電波変換!」

 紫の光の柱が青年を包む。より一際大きなムーの紋章が出現し。
 青年の姿は、すでに人間の姿ではなかった。
 黒いボディと紫のゴーグル。そして、紫の炎のような非物質の右手。右手から燃え盛る紫の炎を握りつぶした彼は、告げた。

「消えろ……!」

 紫の右手が、丸い光を帯びていく。
 発射された、無数の拳。

「!」
「キャスター!」

 それは、部屋全体を無差別に攻撃。土煙が舞い上がり、視界が見えなくなる。

「頼む!」

 変身はできない。だが、それでも補助魔法は使うことができたのは幸いだった。

『ディフェンド プリーズ』

 出現した盾の魔法陣。飛来する拳と相殺するものの、周囲から襲い来る余波までは消しきれない。
 ハルトもコウスケもほむらも、その勢いに負けて吹き飛ぶ。

「ぐっ……!」

 ハルトは体をひねり、青年の姿を睨む。

「あれって、この前可奈美ちゃんたちが遭遇したって言ってたやつか……?」

 そして、ただ一人。
 魔法陣の盾をもったキャスターだけが、突然の敵と同じ目線で立っていた。

「……貴様、何者だ?」

 敵の目線も彼女へ移る。
 キャスターは淡々と答えた。

「私はキャスターのサーヴァント。それ以上でもそれ以下でもない」
「サーヴァント……貴様も聖杯戦争の参加者か」
「……お前も……」

 キャスターはどこからか、金色のペンダントを取り出す。中心に円の付いた十字架のそれを掲げる。
 そして。

「セットアップ」
『stand by ready』

 足元に黒の魔法陣が出現する。円形のウィザードのそれとは違い、三角形のそれは、ゆったりと回転しながら光を放つ。

「……貴様。なぜここで力を使える?」
「かつて、私はムーと戦ったことがある」

 キャスターの頬に、赤い線が刻まれていく。目から真っすぐ伸びるそれは、まるで血の涙のようだった。

「その時、ムーの力もまた収拾してある。ムーの空間の中での術式の組み換えなど造作もない」

 やがて、キャスターの背中に漆黒の翼が生える。合計四枚の翼を羽ばたかせ、浮かび上がるキャスターは、まさに堕天使のような輝きだった。

「サーヴァント、キャスター。参る」 
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