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SHOCKER 世界を征服したら

作者:日本男児
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父よ、母よ、妹よ 前編

 
前書き
お待たせしました!ようやく、ライダー・アンチショッカー同盟目線の話です。
何でも許せる方のみ、お読みください。 

 
1973年、ショッカーによる世界征服直後。




ここは俺の家の居間。いつもなら家族団欒を楽しむはずのこの場所は今、地獄と化していた。
俺の目の前には見るも無惨な死体となった俺の両親と幼い妹が血まみれで横たわっており、床には生温い鮮血が川のように流れている。


「ぁぁ…父さん……母さん……雪子……」



そしてそのさらに奥では―



「ショッカーの怪人め!また罪のない人に手をかけたな!!」


「シザァース!そう言う貴様は裏切り者の2号だな!ここで葬り去ってくれるわ!」



バッタのような怪人とハサミ状の腕を持つネコ科の怪人が対峙し、戦い始める。
俺はこのバッタのような怪人を知っている。『仮面ライダー』、それも2号と呼ばれるタイプだ。俺の大学の先輩、本郷猛……今は亡き、仮面ライダー1号の仲間だ。


「ライダーパンチ!!!」
「シザァース!このハサミジャガーが負けるとはァァ!!」


2号の強烈なパンチにハサミジャガーは小規模な火花を散らして倒れる。
ハサミジャガーの最後を見た2号は俺と家族の遺体のもとへと駆け寄る。


「……遅くなってすまなかった。俺がもっと早く駆けつけていれば」


2号は懺悔する。しかし、こうして自分にはそれは聞こえていなかった。
頭の中にあるのは家族を殺したショッカーへの復讐、そして自分のような者を生まないという決意だけだった。
俺は立ち上がって2号の両肩を掴むと、叫んだ。


「仮面ライダー!俺を改造人間にしてくれ!!」


これが始まりだった。こうして俺は人間をやめ、ショッカーとの長く壮絶な戦いが幕を開けた。
―――――――――――――――――――――――――――――――

それから数年後……………1979年。





大ショッカー党党大会。


大ショッカー党党大会とは世界中から党員が集結し、毎年5日間行われる一大イベントである。
党大会と言っても党員が討議や活動報告をするわけではなく、ありとあらゆる階級の人民が自由に参加できる娯楽性の高い集会である。そのため、当たり前であるが党大会の会場には一般市民の参加も許されている。

さらに毎年各エリアが交代でホストを務めるため、ホストを務めるエリアの統治者(大幹部)の手腕が試される数少ない場でもある。





中国エリア 北京


旧中華人民共和国の首都、北京。その日、街はこれまでにないほどの喧騒に包まれていた。今年の党大会の開催地に選ばれたためだ。


空港や港は他エリアからの人々でごった返し、主要な通りには露店が軒を連ねる。人々は入場券を握りしめて会場のスタジアムへとお祭り気分で行進する。


会場となるスタジアムは党大会のための施設で、長さ600メートル、幅500メートルというその巨大さは常軌を逸しており、まるでナチスの巨大建築癖を現代まで存続させたようだった。こういったスタジアムはデザインの差異はあれど、各エリアに1つずつ設置されていた。




17時ちょうど、開会時刻になった。観衆が今か今かとひしめき、日が落ちてきた会場には四方にかがり火がたかれている。


「これより第6回大ショッカー党党大会の開幕を宣言する!!!」


北京市長による開会の合図が巨大スピーカーから流れ、党大会が幕を開けた。
オープニングは防衛軍の音楽隊によるファンファーレや重厚な交響曲、ショッカーユーゲントの少年少女達の歌声により会場が厳かな雰囲気に包まれる中、上空で空軍による戦闘機の曲芸飛行が行われる。


しかし党大会の中盤に差し掛かると突如、音という音が止んで会場中がしんと静まり返る。
ステージ上の演説台にスポットライトが照らされる。演説台には大ショッカー党の腕章をし、双頭の鷲のバッジを胸に着けた男が登壇していた。


「中国エリア、そして世界中の皆さん。第6回大ショッカー党党大会へようこそ!」


男は透き通ったような声で観衆に語りかけた。その場にいる人々が彼に注目する。


「我々、大ショッカー党は『新世界秩序』と『世界の永続的な発展』を基本理念とするこの世界唯一の合法的な政党です。この基本理念は新世界秩序を基に大幹部達が定められ、多くの人民達に支持されながら今日に至っています」


男は一息置くと演説を続けた。彼の後ろの方からはさり気なくBGMがなり、その場の雰囲気を調整していた。悲しめの曲調のBGMだ。


「さて、今から昔話をしようと思います。たった数年前までこの世界は崩壊していました。街は失業者にあふれ、犯罪が多発し、人類は環境を破壊しながら、愚かにも戦争を繰り返していました」


するとBGMが急に明るく、激しくなり、男の身振りや話し方も打って変わって明るく、スピード感を増していく。


「偉大なる大首領様はその状況を憂い、打破すべく、改造人間が導く新世界の構築を目的としてショッカーを創設されました。
そして旧世界勢力やアンチショッカー同盟らとの激闘の末、皆さんを解放することに成功したのです。
今では失業者どころか誰もが適職に就き、公害に苦しむ者も戦争の脅威に怯える者もいません!全ての人民が性別や人種、家柄に関係なくその能力を十分に発揮することができるのです!」



「そうだ!!」
「その通り!!」
「大首領様万歳!!!」


客席の中から数十万もの相槌が入る。
男は僅か2,3秒だけ間をあけると右腕を上げてショッカー式敬礼をする。


「イーッ!!」


「「「「イーッ!!!!!」」」」


数万人の観衆は党員の掛け声に合わせて一斉に右手を挙げて敬礼を返す。


そしてそのタイミングを見計らったかのように大ショッカー党歌が流れ、いきなり客席の後ろからショッカーの大幹部 ドクトルGが登場したのだ。


「ドクトルG様だ!!」


大幹部の登場というサプライズに観客は驚き、会場のボルテージは急上昇し、感動と興奮のギアをぐんぐん上げていった。ましてやここ、中国エリアの統治者であるドクトルGが来たとなれば尚更だ。

そんな人民達を横目にドクトルGは護衛をしたがえてゆっくりとステージに立つと演説を始めた。
 

「……我が中国エリアに住む人民諸君、並びに他エリア人民諸君。改めて、第6回党大会へようこそ」


そう言うと、ドクトルGは大袈裟に盾と斧を持ったまま両腕を広げた。芝居がかった動きだが、聴衆は全く気にしていない。


「今から6年前の1973年、人類史上初の世界統一政府が発足した。先程の彼の演説にあった通りだ。
これこそ人類が長年望み、欲したユートピアそのものである。人間、改造人間、獣人……様々な種族が一丸となって全力を尽くすのだ!全ては諸君らの意志の強さと献身にかかっている!」


ドクトルGは右手に持ったオノを空中に掲げると、一段と声を張り上げた。


「偉大なる大首領様とショッカーに!イーッ!!」


「「「「イーーーッ!!!!!」」」」


ショッカーに対する崇拝と興奮の荒波に誰一人、例外なく飲み込まれていた。
その直後、大量の紙吹雪が舞い上がり、一層大きな歓声が上がる。そして10万発の花火が打ち上がり、党大会の一幕を彩った。
そんな中、


「そこまでだ!!!」


その場の空気を割くような声に会場の誰もが声の発生源の方を向く。
スタジアムの隅に設置された屋外用のスポットライトの上に男が立っていた。 


「ドクトルGめ、人々を騙して利用するショッカーの大幹部!貴様の悪巧みもここまでだ!!」
   

そう叫んでいる、白いマフラーと白ベストに青シャツを着た男の姿に人々は目を剥いた。
その男はショッカーによって『悪』の烙印を押され、この世界の破滅を目論むとされる人物だったからだ。


「不穏分子の風見志郎だ!!」
「テロ集団の幹部だ!!」


彼の姿を見たドクトルGはオノを志郎の方へと向ける。


「出たな!風見志郎、いやラァイダV3!」

 
「ドクトルG!ようやく公の場に姿を現したな!この日をどれほど待っていたか、変身ッ!!!」


志郎は両腕を右に水平に伸ばした。そして左斜めに持ってくると左腕を右腕にこすり合わせた。


「ブィッスリャャー!!!とうッ!!」


宙高く飛び上がると志郎の腰に巻かれたベルトが激しい音を立てながら、その場の空気を吸い込む。


志郎は改造人間としての本来の姿に変身し、スポットライトから地面に颯爽と着地した。
その姿は赤い仮面に緑色の眼、風にたなびく白いマフラー。
人間の自由と愛の為に戦う正義の使者『仮面ライダーV3』である。


「反逆者が!今ここで粛清してくれるわ!!」
「1人で来たことをあの世で後悔するがいい!」


ドクトルGの隣にいた2人組の護衛がカメバズーカとギロチンザウルスに変身し、まるで獣のようにV3に飛びかかった。
最初にV3への攻撃を開始したのはギロチンザウルスだった。
ギラギラと光るギロチンの刃状の右腕がV3の首めがけて突き出される。


しかし、V3はその腕をヒラリとかわすとがら空きになった胴体目掛けて、強烈なパンチ。


「V3パンチ!!」

 
ギロチンザウルスはV3の放つ強力な一撃に苦し声を上げ、遥か彼方に吹っ飛ぶと爆発四散した。


「グワァァァァァーーー!!!」


ギロチンザウルスの最後を見たV3は次にカメバズーカを退けるべく、辺りを見回す。カメバズーカはV3から少し離れた、スタジアムの中央に立っていた。


「ギェッヘヘ、ギロチンザウルスの仇は俺がとるぜ〜」


カメバズーカは嫌らしく笑うと、自身の甲羅に搭載されたバズーカ砲の照準をV3に合わせた。ロケット弾の軌道上にはまだ逃げ遅れた市民が数十人程いるがおかまいなしだ。


「喰らえぇぇ!!」


ドォォォォーーーン!!!
 

V3はすんでのところで(かわ)したが、ロケット弾はV3の後方にいた市民を直撃した。巻き添えを喰らった市民が宙を舞う。


「まだ人がいたのに!なんてことをぉ、許さんぞ!カメバズーカッ!」


V3は激怒し、カメバズーカを指差して叫ぶ。V3は高く飛び上がると、ドリルのように回転しながらカメバズーカの方へ降下する。

  
「V3ィ、きりもみキィィック!!!」


「ズゥゥーーカーーー!!!!」


V3の自慢の蹴り技がカメバズーカの肩に命中。絶対の防御力を誇るカメバズーカでさえ、その威力に耐えきれず爆死する。


「残るはお前だけだ!ドクトルG!!」


「親衛隊が全滅するとはッ!!こうなったら俺が相手をしてやるッ!!」


そう言うとドクトルGは盾を自身の顔の前で構え直す。するとブクブクと泡を吹き出し、怪人態に変身した。
盾をどかして顕になった姿は中々に厳しいものだった。青いカニのような鋏や顔、額にはメガホン状のレーザー砲。
これこそドクトルGの悪魔の正体、カニレーザーである。


「タ〜ラ〜バ〜、どうだ、V3」


「とうとう正体を見せたな!ドクトルG、いやカニレーザー!!」


カニレーザーとV3、二人は激突する。
パンチにキック。すっかり日が落ちた闇夜に両者の目が光り、死力を尽くす激闘が繰り広げられる。しかし中々、決着がつかない。


「ええい、これで終わりだあああ!!」


カニレーザーの額のレーザー砲に光が集まる。必殺レーザーが発射されようとしていた。


「死ねぃ!ラァイダV3!!」


光線が打ち出された。光線は真っ直ぐV3の方へと突き進む。
それを見たV3は敢えて避けることをせず、切り札を切ることにした。


「逆ダブルタイフーーン!!!」


V3がそう叫ぶと、彼の変身ベルト「ダブルタイフーン」に付いている風車が逆向きに回転する。そして回転中の風車からV3の体内にある全エネルギーが放出される。


その余りの威力にスタジアム内で旋風が起こり、付近の物を持ち上げ始める。
その旋風にカニレーザーが放ったレーザー光線が当たる。
2つはぶつかり、混じり合いながら強力なエネルギーの塊となって周囲に撒き散らされる。


「グワァァァァァ!!!!」
「ウワッァァァァ!!!!」


強烈な風が巻き起こり、カニレーザーとV3はダメージを負いながらそれぞれ、スタジアムの両端の壁へと叩きつけられる。
この時、V3は強制的に変身解除され、風見志郎としての姿に戻された。「逆ダブルタイフーン」は超強力な大技ではあるが、1度使うと3時間は変身が不可能となるのだ。


志郎はよろめきながらも、カニレーザーが吹き飛ばされた方を見つめた。カニレーザーが叩きつけられたであろう壁面は崩れており、小さな瓦礫の山ができていた。
しばらくの間、周囲には静かな空気が流れた。


(やったか……?ドクトルGを……)


そう思ったのも束の間、瓦礫の山の中から手が伸びる。
出てきたのはドクトルGだ。彼も強制変身解除されていた。その上、重症を負っているらしく、痛みに苦しむ様子も見られた。


「く……おのれェ、ラァイダV3ィィ!覚えておれ!」


ドクトルGは片足を引きずるようにして志郎から逃げ去る。


いつものV3ならショッカーの怪人、それも大幹部を逃がすことなど決してしない。あそこまで弱っていればトドメを刺すことなど容易いだろう。だがそれもV3であってこその話。
変身不可能となった上にダメージを負った今の志郎にはみすみす見逃すことしか出来なかった。


「痛み分けか……。結城になんて言えば…!?」


志郎がふとスタジアムの瓦礫に目をやると、1人の少年がいた。そして、すぐ側には女性が倒れており、胴体から瓦礫の下敷きになっていた。女性はおそらく彼の母親だろう。
少年は母親を助けるべく、涙を流しながら懸命に瓦礫を持ち上げようとしていた。


(このままでは母親の命が!早く助けなければ!)


志郎は急いで少年の方へと駆け寄る。しかし、少年は志郎の姿を見るやいなや、顔を赤くして彼を睨みつけた。
その様子に思わず志郎は歩みを止める。


「この悪魔!!!母さんに近寄るな!」


少年は大きく手を広げ、母親を守ろうとする。その姿に志郎は言葉を失った。
少年は手頃な大きさの瓦礫を拾って志郎に投げつける。


「どっか行け!このテロリスト!!こんなことして何が楽しいんだ!!」


怒りの形相で瓦礫を投げつけられても改造人間である志郎には傷一つつけられない。しかし、もっと内面的な柔らかい何かが抉られていく気がした。


「………すまない」


志郎はポツリと少年に謝罪すると、半壊したスタジアムを見つめながら寂しげに去っていった。



――――――――――――――――――――――――――――――――


志郎はしばらくしてアジトに帰投した。そこはとある廃ビルの地下にあるアンチショッカー同盟北京支部である。

北京支部は数ある同盟の支部の中でも中国大陸の解放を目指す支部である。また、地理的な近さもあって日本支部と共同作戦を行うことも多い。


同盟員たちが他支部から送られてきた銃や弾薬を整理する中、帰投した志郎はどんよりとした黒いオーラを力強く放っていた。
そんな志郎を元気づけようと1組の姉弟が歩み寄る。彼らは珠純子とその弟のシゲルだ。


「志郎さん…しっかりして。リーダーなんでしょ?」


「志郎兄ちゃん、元気出してよ」


そして珠姉弟に遅れて1人の青年が志郎に声をかけた。彼は北京支部副支部長にして、志郎と同じ改造人間。結城丈二ことライダーマンである。


「風見、お前がそんなのじゃ皆に示しがつかないぞ。ドクトルGの暗殺にこそ失敗したが、ショッカーに打撃を与えることはできたんだ。喜ぶべきことじゃないのか?」


彼らはなんとか志郎を元気づけようと声をかけたのだが、当の本人には上の空だった。何を語りかけても空虚で、ずっと黙り込んでいる。


「ちょっと外に出てくる………」


そう言うと志郎は変装をして、外へと出ていった。珠姉弟と結城には彼の寂しそうな背中を眺めることしかできなかった。


「……志郎さん、元気ないわね」


「そりゃそうだろう。アイツのせいじゃないにしろ多くの一般人を巻き込んでしまったんだ。責任を感じるさ」


結城がそう言うと彼らは一様に暗い顔をして黙り込んだ。彼らも志郎と同じく、無関係の市民を闘争に巻き込んでしまったことに心を痛めていた。
そんな中―、


「ハッ、北京支部の支部長がこんな調子じゃあ世界解放なんて到底無理だな」


どこからともなく声がし、柱の影からまた新たな男が現れた。志郎や丈二とは対象的に、髪の毛はボサボサ、身体はでっぷりと肉づき、無精髭を生やした男からは小汚い印象を受ける。


「黒田さん!志郎さんのことを悪く言わないで!!彼だって苦しんでるのよ!」


突然現れては志郎ことを悪く言った男…黒田に純子は声を荒げる。しかし、黒田は意に介さないといった態度だった。


「はいはい。分かりましたよ。なんたって支部長様は正義の味方、仮面ライダーV3だからな」


黒田は半ば拗ねたように手を挙げて言った。そして拗ねたように態度を見せた。


「……たく、ショッカーの怪人と同じバケモンの癖に何が正義の味方だよ」


ピタッ……。


黒田が言葉が聞こえて純子の動きが止まった。黒田が何事かと思っていると純子は彼を射すくめるように睨みつけた。
そしてズンズンと彼に近寄ると―



パシィィィィンンン!!!!


黒田の頬を思いっきり引っ叩いた。


「いッてぇぇ!!何すんだ!?」


「誰がバケモノですって!!何てこと言うの!!彼があの身体になった理由を知ってる!?人間じゃなくなった悲しみがどんなに辛いのか少しでも考えたことはある!?あなたなんて大ッッ嫌い!!」


純子は言い放った。涙を流し、目は充血していた。それから純子は脇目も振らず志郎の後を追った。丈二とシゲルは彼女の後を追い、黒田だけがその場に取り残された。彼は悔しさから地団駄を踏んだ。


「くそっ、本当のことを言っただけじゃないか……。何でアイツはあそこまでV3のことを庇うんだ?クソッ、クソッ、面白くねぇ」


それから黒田は何かを決心し、志郎達とは反対側の通路から外へと出ていった。


――――――――――――――――――――――――――――――――


辺りはすっかり暗くなり、空気が澄んで肌寒い風が頬を過ぎ去る。
先程の混乱が冷めきってないらしく、パトカーのサイレンの音が鳴り止まない。

そんな喧騒の中、郊外の野原で志郎は一人、ただポツンと立っていた。そして目を閉じて空を見上げる。
志郎は今日のように辛い時や耐えきれないことがあった時にはこうして夜空を見上げては家族のこと、同じ空の下で戦っている仲間のことを想うようにしていた。


しばらく夜空を眺めているとふと、志郎は少年の言葉を思い出した。


『この悪魔!!!母さんに近寄るな!』


少年の顔を忘れることができなかった。
あの目を見て、自分がショッカーが戦うことになった"あの日の惨劇"を思い出してしまった。


両親と妹をショッカーに殺された自分がショッカーを倒す為とはいえ、罪の無い一般市民を巻き込んでしまっている。
これでは彼らの言う通り、 冷酷なテロリストだ。


「おやっさん、俺達のやってることって本当に正しいことなんだろうか……俺、分からなくなってしまいましたよ」


志郎は空を見上げながら巨悪(ショッカー)に立ち向かう仲間達(仮面ライダー)のことを想った。彼らもまた史郎と同じく、世界各地に散らばって孤独に戦っていた。


「一文字さん、敬介、大介、茂、洋、一也、良、光太郎、真、勝、耕司。…どこにいるんだ?どうしてるんだ?」


彼らならあの少年に何と言っただろう。これからショッカーとどう戦うだろう。


「せめて……せめて、これからどうしたらいいか教えてくれ。そして力をくれ。お願いだ」


志郎は涙を流しながら夜空を眺め、懇願する。しかし返答はない。
しばらくして、再び志郎はアジトに帰投した。 
 

 
後書き
いかがでしたでしょうか?
昭和ライダー達がショッカーと戦うようになったきっかけは概ね原作通りです。
(例、仮面ライダーV3…ハサミジャガーによる一家惨殺
   ライダーマン …ヨロイ元帥による濡衣  etc)

この『父よ、母よ、妹よ』は3話構成で進めていく予定です。次回の中編にご期待ください。 
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