魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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最終章:無限の可能性
第283話「消えぬ“意志”の炎」
前書き
なのは達Side。
ルフィナの経験と、平行世界の自分の力を上乗せしている影響で、何気になのはだけ頭一つ抜けた強さになっています。
「ッ……!」
理力の弾がいくつも追いかけてくる。
それらを得意の速さを以ってフェイトは避け続ける。
「くっ……!」
「ふッ……!」
レイアーの繰り出す斬撃をアリサが受け止め、なのはが仕掛ける。
「甘い!」
だが、理力の障壁に斬撃は阻まれた。
反撃の衝撃波を受け、アリサとなのはも飛び退く。
「はぁあっ!」
すずかとはやてがフェイトを狙う弾を相殺し、フェイトが仕掛ける。
反撃後の隙を突いた連携だが、それも理力に罅を入れるに留まった。
「絶対に、当てるッ!!」
そこへ、間髪入れずにアリシアが射る。
“意志”を籠め、確実に当てる気概で放つ。
それによって、“外れる可能性”を極限まで削る。
「せぇええいッ!!」
矢は外れる事なく、命中する。
だが、直撃はしなかったのか、罅の入った障壁でも防がれた。
即座にフェイトは離脱し、同時にアリサが次の行動を起こす。
レイアーを囲う形で炎を巻き起こした。
「……その程度の小細工で、どうにかなるとでも?」
目晦ましのつもりなのだろう。
そう思ってレイアーは理力で全方位を薙ぎ払う。
炎に身を隠して肉薄してくるのを阻止するためだ。
「ッ……速いもんやなぁ……!」
直後、レイアーがいた場所を氷が穿った。
さらに魔法陣が展開され、魔力が炸裂する。
「させない……!」
だが、そこにレイアーはもういない。
転移ではやての後ろに回り込んでいたのだ。
幸い、フェイトがカバーする事ではやては無傷。
それどころか、その展開を予測していたなのはが肉薄する。
「はぁっ!!」
“リリカルなのは”の主人公たるなのはの身に集束する因果の量は凄まじい。
加え、ルフィナの経験も引き継いでいるため、神界での対応力もある。
「っ……!」
故に、単騎で障壁を切り裂く所まで踏み込める。
「逃がさへんでぇ……!!」
直後、はやてが空間固定の魔法でレイアーを拘束する。
さらに、間髪入れずに他の五人で一斉に斬りかかる。
平行世界の自分の力が上乗せされている今、はやても斬りかかる事は出来る。
だが、さすがに支援もなしでは確実に躱されると見たため、そちらに回っていた。
「ッ、ッッ……!!」
五人の一斉攻撃は、理力による放出とぶつかり合う形で終息した。
相殺どころか、なのは以外は吹き飛ばされていた。
「くっ……!」
何とか踏ん張ったなのはが、いくつもの魔力弾と共に何度も斬りかかる。
しかし、その悉くが当たらず、防がれ、相殺される。
「そこよ」
「ぁぐッ……!?」
さらにはカウンターに合わせたカウンターを食らい、吹き飛ばされた。
「……一応意見を聞きたいけど、どう思う?」
「そやな……漠然とやけど、誘導されとるな」
「私も同感だよ。アリサちゃん」
それでもなお、食らいつく事でなのはが時間を稼ぐ。
その間に、はやて達はお互いに違和感を共有する。
「戦局そのものを誘導されてる。多分、なのはも気づいているはず……」
「“可能性の性質”の応用……と言うより本来の使い方だろうね……。有利になる“可能性”が高い行動を選び取ってるんだと思うよ」
平行世界の自分達の知恵も合わさり、それが“性質”の影響だとすぐに見破る。
そう。これが“可能性の性質”の力だ。
戦局において、有利になる“可能性”が高い行動を選び取れる。
“可能性”を手繰り寄せるという優輝の使い方は、応用の方なのだ。
こちらが本来の使い方であり、故にこそ破りにくい。
「ッッ!」
「フェイト、行くわよ!」
「うん……!」
なのはが再び吹き飛ばされる。
それを見てアリサとフェイトが再び前に出る。
アリシアもそれに合わせて支援に回った。
「なのはちゃん」
「言わなくてもわかるよ。……“性質”で誘導されてるんだよね?」
「っ、さすがやな、なのはちゃん。それで、打開策はなんやあるんか?」
後退したなのはは、そのまますずかとはやてに合流。
状況を説明しようとするすずかだったが、なのはも既に理解していた。
「……ないよ。少なくとも、直接対処できる策なんて」
「じゃあ、どうやって……」
「裏を返せば、間接的には対処できるんやな?」
「そのためにも、皆で頑張らないとだけどね」
なのはがそういうや否や、フェイトとアリサが吹き飛ばされてくる。
それぞれ武器を支えに着地し、二人を庇うようにアリシアがフォローする。
「動きながらでええ。その策、聞かせてぇな」
「策って程、複雑じゃないよ。……強い“意志”で、相手の“可能性”を狭めていくって事だけ。後は全部実力勝負だよ」
有利になる“可能性”が高い行動を取る。
裏を返せば、有利になれる行動が存在するという事。
なのはが言いたいのは、その“有利になる行動”を全て潰すという事なのだ。
そこまで持っていくのに、当然根気と実力が必要だ。
「……結局は、戦闘に勝つだけなんやな」
「シンプルに言えばね」
「ええよ、ここに来て単純なんはむしろありがたいわ」
そこまで会話して、意識を戦闘に戻す。
その間、ずっとアリサとフェイトが前衛を務めていた。
アリシアだけでなくすずかも支援に向かい、その上で圧倒されていた。
「行くよ、レイジングハート」
「リイン、フォロー頼むな」
『はいです!』
お互い相棒に声を掛け、戦場へ向かう。
はやてが砲撃魔法を多数展開し、それと共になのはが突貫する。
「ッ!!」
フェイトとアリサの二人と入れ替わるように、障壁に傷を入れる。
「ッ……!」
―――“穿矢-零式-”
レイアーの攻撃をいなし、なのはが飛び退く。
同時に、アリシアがそのすぐ背後から矢を放つ。
本来弓矢としては近すぎる間合いからの一射。
故にこそ“外れる可能性”を排除し、理力の障壁を穿つ。
「はぁあああっ!!」
―――“氷突一閃”
さらにアリシアの頭上をすずかが突貫する。
氷を纏い、一つの氷柱となって障壁の罅を広げた。
「これで、どうや!」
追撃にはやてが砲撃魔法を追加展開。
ついに障壁を破壊するが……
「ぐっ……予想、通りやな……!」
「予想は出来ても、対処できないでしょう?」
なのは達が肉薄している間に、フェイトとアリサは理力で串刺しにされていた。
つまり、僅かな間とはいえ、はやては一人でレイアーと近接戦を強いられる。
『はやてちゃん!』
「……殲滅魔法なら、得意やでッ!」
「っ……!」
杖を弾かれ、掌底が直撃する。
だが、はやてはそこに魔力を集束させていた。
はやての狙いはカウンター代わりの自爆だ。
掌底によって集束した魔力は爆発し、はやては吹き飛ぶ。
「ぁぐ……っ……!」
地面を一度バウンドしながらもはやては着地する。
すかさずすずかとアリシアが守るように割り込む。
さらになのはが追撃の魔力弾を撃ち込み、直後に砲撃魔法も叩き込んだ。
「どう?」
「当たってない……!」
串刺しから復帰したアリサがなのはに尋ねる。
しかし、なのはの言った通り、レイアーには命中していなかった。
「「ッ、避けて!!」」
レイアーを注視し続けていたなのはとフェイトが叫ぶ。
直後、砲撃魔法などの煙幕から、幾重もの極光が放たれる。
その極光は速く、それでいて追尾してくる。
「っ……!」
すずかが防ごうとしたが、容易く障壁を割られ、ギリギリで何とか回避する。
それを見て、同じく防ごうとしていたアリシアとはやても回避に切り替える。
だが、単純に追尾性能と速度もまずい。
「最早誘導弾やな、これは……!」
「この程度も出来ないなら、勝ち目なんてないわよ」
「しまっ……!?」
一度避けても反転して追ってくる極光に全員が翻弄される。
そんな中、最も機動性の低いはやてを狙い、レイアーが肉薄してきた。
これを狙っていたのだと気づいた時にはもう遅い。
「っ!」
否、まだだった。
はやてへと繰り出されようとした理力の一撃が、金色の閃光で逸らされる。
レイアーがそこに視線を向ければ、フェイトの姿があった。
バリアジャケットの至る所がボロボロになっており、追尾する極光から逃げつつレイアーの攻撃を妨害したのだと見て取れる。
―――“穿矢-壱式-”
「この程度も……が、なんだって?」
はやてが離脱出来るように、アリシアが矢で妨害する。
理力の障壁すら罅を入れる矢を、追尾の術式を付加した上で連射する。
どれも命中こそしないが、それでもレイアーに対処行動を取らせる。
「これは……!」
―――“Divine Buster Homing Shift”
さらに、意趣返しの砲撃魔法がレイアーを追尾する。
なのはが逃げ回りながら放っていたのだ。
それも、一発ではなく何発も。
「はやてちゃん!」
「……捕捉済みやで!」
そして、なのは達を追尾し続けていた極光も、はやての魔法で相殺されていく。
これで、先ほどと立場は逆転だ。
「これなら、どう!?」
―――“氷幻”
さらにレイアーを囲うように鏡のような氷が展開される。
そこからなのは、フェイト、アリサの幻影が現れ攪乱する。
「……少し、侮っていたかしら」
幻影に紛れてなのは達が肉薄し、それをアリシア達がバックアップする。
追尾する砲撃魔法も相まって、完全に包囲していた。
……だが、その包囲を暴力的な理力の奔流が薙ぎ払った。
「ここで、ようやく本気で来るんだね……!」
「っ、これも抜けてくるなんてね……!」
他の皆が薙ぎ払われる中、紙一重で攻撃を逸らしたなのはが肉薄する。
繰り出される小太刀の斬撃を障壁で受け止めるも、僅かに冷や汗を流す。
「この距離なら!」
―――“Divine Buster
装弾している全てのカートリッジを消費し、至近距離から砲撃魔法を放つ。
至近距離故に、“外す可能性”はない。
「させない!」
そのため、レイアーも障壁を重ね、さらに理力の極光を放った。
「ッッ……!」
至近距離での極光同士の拮抗。
その余波でなのはは体勢を崩しそうになる。
「邪魔よ!」
「くっ……!」
その隙を逃さずレイアーは追撃する。
さらに、その追撃の阻止をしようとしたフェイト達にも理力の弾で牽制した。
「舐めんな!」
「ちっ……!」
だが、その牽制をアリサが突破する。
弾を炎の剣で切り裂き、肉薄してきた。
結果、レイアーは障壁を張るために追撃を諦める。
「いい加減に……倒れなさい!!」
―――“απελπισία”
痺れを切らしたレイアーは、さらに強力な理力を繰り出す。
全方位に極光が放たれ、それらがなのは達を追う。
「っ……ぁあっ!?」
なのはがその極光を切り裂こうと試みるが、全力で魔力を込めた斬撃が弾かれる。
幸い、ギリギリで逸れたため直撃は避けたが、極光は再び追ってくる。
否、一つだけではない。無数の極光が追尾してくる。
「単純な出力なら、私はユウキ・デュナミスを上回る!ただの人間が、私に勝てるはずがないわ!ちょっと抵抗できるからと、いい気にならないで!」
一撃一撃が相殺もままならない程強力だ。
加え、決して振り切れない速度と追尾性を持っている。
……そうなれば、なのは達に避ける術はない。
「ぁあああああああッ!?」
最初に、機動性の低いはやてが食らった。
「アリサちゃん!」
「ッ、すずか!?」
次に、アリサを庇うように突き飛ばしたすずかが極光に呑まれる。
「こんのッ……!」
そして、アリシアがせめてもの反撃として矢を放ち、呑まれた。
無論、その矢がレイアーに命中する事はなく、極光に阻まれてしまった。
「くっ……!」
未だに回避できているのは、なのはとフェイト、そしてアリサだ。
なのはは持ち前の空中における機動性で、フェイトは速さで回避できていた。
だが、アリサはもう限界だ。すずかに庇われた所で、被弾を先延ばしにしただけだ。
「諦めなさい」
さらに、無慈悲な追撃がレイアーから繰り出される。
追尾をギリギリで回避した所への追撃だ。
躱す事は至難の業。もし躱せても次に追尾して来る極光が躱せない。
「お断りよ!!」
―――“志焔”
故に、迎え撃った。
当然ながら威力は足りない。
だが、その全てを“意志”で補い、追撃を弾く。
「足掻くんじゃないわよ!」
「ぁぐッ!?」
しかし、さらに放たれた追撃の蹴りがアリサを吹き飛ばした。
そして、追尾してきた極光に呑まれる。
「(……なに?今の……)」
それでも、レイアーに動揺を与えていた。
“意志”一つで“詰み”を打ち破ったその事実に狼狽えていた。
「ッ!」
直後、張ってあった障壁に二つの衝撃が響く。
刻まれる二つの斬撃に、残った金色と桃色の残光。
なのはとフェイトが攻撃してきたのだ。
「くっ……!」
極光から逃げ回りながらの挟撃。
それ自体はレイアーにダメージは与えられなかった。
だが、二人を追いかける極光がレイアーの視界を塞ぐ。
「やるわね。でも―――」
“意志”か“性質”で相殺しない限り追い続ける極光。
それを躱しながらも反撃してきたなのはとフェイトを、レイアーは素直に称賛した。
その上で、さらに追撃しようとして……殲滅魔法で阻止された。
「―――私達を忘れてもろては困るで……!」
「まだ生きていたのね……!」
“性質”を籠めた一撃だった。
普通に食らえば“領域”が破壊され、倒れるはず。
だというのに、はやてはボロボロながらもレイアーに反撃を繰り出していた。
「“穿矢-壱式-”!」
「この角度で……こう!」
さらに、矢がいくつも放たれる。
それらの矢はレイアーには当たらず、すずかの展開した氷に命中する。
そして、反射した矢が改めてレイアーへと向かい、複数の矢が同時に着弾した。
「ちぃ……!」
「させないわ!!」
改めてはやてをもう一度狙おうとするレイアー。
だが、転移後の攻撃をアリサが防ぐ。
「(諦めないどころか……さらに強くなっている……!?)」
アリサを蹴って吹き飛ばし、間合いを取る。
そこで、気づいた。
「はぁッ、はぁッ、はぁッ……!」
「これで、全部相殺……!」
なのはとフェイトを追尾していた極光が、その二人によって相殺されていた事に。
「っ……!」
レイアーは戦慄する。
人間の“意志”一つで、ここまで力を発揮できるのかと。
それだけで、理力の攻撃を相殺できるのかと。
認めたくない現実を前に、戦慄していた。
「(諦めずに強くなる……そんなの、まるで私……いえ、あいつの―――)」
そこまで思考して、レイアーは奥歯を“ギリィッ”と鳴らす。
寄りにもよって、憎んでいるユウキと似ていると思ったのだ。
「ふざけるなッ!!」
力任せに理力で薙ぎ払う。
防ごうとした、躱そうとしたその一切を無視して極光に呑みこむ。
「ッ……!」
だが、健在。
なのは達は攻撃を耐え抜き、ボロボロながらもレイアーへと攻撃を伸ばす。
「くっ……!?」
はやての殲滅魔法が退路を断ち、アリシアの矢がレイアーに迫る。
先ほどと同じようにすずかの氷で反射し、複数の矢を同時に炸裂させた。
さらに、氷も氷柱となってレイアーを襲う。
そのどれもが、“外れる可能性”を持っていない。
「はぁッ!!」
「ッ―――!?」
アリシアとすずかの攻撃を凌ぎきった障壁に罅が入る。
フェイトによる神速の一撃だ。
加え、間髪入れずに放たれたアリサによる炎の一閃が障壁を破壊した。
……そして、なのはが懐に肉薄した。
「(躱せな―――ッ!?)」
「“ディバインスラッシュ”!!」
回避を許さない神速の二連撃を叩き込む。
「ッッ……!」
「かふッ……!?」
体に斬撃を刻まれつつも、レイアーはそこで反撃に出た。
回避も防御も間に合わないと判断した故の痛み分けだ。
その反撃はなのはに直撃し、地面に叩きつけられてクレーターを作り出した。
「ッ、ぁ……!!」
直後、なのはの体が跳ね起き、即座に戦闘に復帰する。
体に雷と炎を纏っている事から、フェイトとアリサが発破を掛けたのだ。
本来ならダメージを負う行為だが、神界だからこそこの方法で体勢を立て直した。
「フェイト!遠慮なくスピードを上げなさい!あたしとなのはが合わせる!」
「うん……!」
何度も振るわれる理力の奔流を躱しながら、フェイトはさらに速くなる。
まさに雷光とも言うべき軌道で攻撃を躱し、レイアーに肉薄する。
「私らも合わせるって……!」
速度では追いつけなくとも、攻撃を合わせる事は出来る。
すずかの支援とアリシアの弓矢、そしてはやての魔法がレイアーの動きを阻害する。
「くっ!」
レイアーが肉薄したフェイトを振り払おうと理力を振るう。
しかし、至近距離でなおフェイトは速さを上げ、攻撃を躱した。
そして、後ろに続くのはアリサだ。
「はぁあああああッ!!」
まさに燃え盛る焔。
炎を纏い、アリサは怒涛の連撃を繰り出す。
デバイスの剣だけでなく、霊力で剣を作り、何度も障壁を斬りつけていく。
〈A.C.S Standby〉
「ッ―――!!」
新たに障壁を追加しようと、アリサは焼き尽くし、切り裂く。
それだけでなくフェイトも全方位から斬撃を繰り出す。
そうなれば、レイアーの防御も薄くなる。
……そこへ、なのはが突貫した。
「この……ッ!」
理力を放出し、アリサとフェイトを吹き飛ばす。
さらに、紙一重でなのはの突貫を躱し、理力で体を拘束、投げ飛ばした。
間髪入れずに極光を連発し、全員を呑み込む。
「まだ……ッ!」
「(こんなの、おかしいッ……!直接戦闘で“可能性”を狭めていく?そんな悠長な動きじゃない!これでは、まるで……!)」
レイアーは、なのは達の作戦が聞こえていた。
だからこそ、地道ではない追い詰め方に動揺していた。
「―――バッカじゃないの?そんなのブラフに決まってるじゃない」
「ブラ、フ……?」
「作戦を聞かれる。そんなの想定済みよ。だから、偽の作戦を言ったのよ」
その動揺に、アリサが嘲笑うかのように答えた。
なのはが言っていた作戦は、ただのブラフだったのだ。
では、本当はどんな作戦かというと―――そんなモノはない。
「なら、本当は……!」
「自分で考えなさいよ、そんなの」
元より、作戦なぞ存在しない。
となれば、レイアーは決して予測出来ない。
そんな“予測不能”だからこそレイアーを追い詰める一因となる。
「(何よりも、あたし達は絶対に諦めない)」
作戦はない。だが、連携は必ず組んでいる。
作戦なしではありえない程のチームワーク、それを発揮する原因は偏に“意志”だ。
六人の“意志”が、今この状況を作り上げていた。
「私達は負けない」
「この“意志”の炎は消えない」
「貴女を倒すその時まで!」
すずかが、アリシアが、そしてなのはが宣言する。
決して消えない“意志”の炎。
六人の絆が表す、永遠の炎。
故に―――
―――“Eternal Blaze”
「ッ……!!」
レイアーに、なのは達を倒し切る事は出来ない。
「っ、あり得ない。そんな、そんな事……!」
その事実がレイアーにも理解でき、だからこそ狼狽える。
「認めないわ!そんなの!!」
理力が迸る。
避けられなかったアリサとはやてが極光に呑まれる。
ここに来て、レイアーはさらに強力な一撃を放っていた。
直撃すれば、確実に“領域”が削れる程の一撃を。
なのは達のような人間が食らえば、“領域”が砕けずとも戦闘不能になるはずだ。
「っ……!」
だが、倒れない。
六人の絆が表す永遠の炎は、それだけでは消えない。
「(一人一人を潰しても変わらない!全員の“領域”をいっぺんに砕かない限り、こいつらは絶対に倒れない!)」
なのは達六人は、あらゆる平行世界で関係を持つ。
友人、ライバル、家族。その形は様々だ。
全くの無関係と言う平行世界は、数える程しか存在しない。
だからこその強固な因果関係。それが六人の“領域”を結び付けていた。
誰か一人の“領域”が砕けた所で、残りの誰かがその“領域”を修復する。
だからこそ、レイアーは六人に勝てない。
「こんな、こんな事……ッ!」
そして、その動揺が致命的な隙となった。
「バインド!?」
「やっと、捕まえた……!!」
なのは、フェイト、はやてによるバインドで、レイアーの動きが止まる。
「転移はさせないわよ!」
―――“焔蛇”
間髪入れずにアリサが炎を纏い突撃。
炎と“意志”を以って、レイアーをその場に縫い付ける。
「射貫け……!」
「凍てついて!」
―――“穿矢-壱式-”
―――“穿氷”
そこを、アリシアとすずかが撃ち貫いた。
「ぐ、ぅ……まだ……!」
「まだだよッ!!」
「ッ―――!?」
バインドが追加される。
そして、レイアーが見上げれば、そこには三つの魔力の高まりがあった。
「リイン!急いで!」
『はいです!』
なのは、フェイト、はやての三人が各々切り札の魔法を準備する。
さらに、三人の前に巨大の砲門の如き魔法陣が展開される。
「これが私の、私達の全力全開!!“スターライトブレイカー”!!」
「雷光一閃!“プラズマザンバーブレイカー”!!」
「響け、終焉の笛!!“ラグナロク”!!」
『完成です!“多砲一束術式”、展開!』
―――“Triple Breaker”
三つの極光が絡み合い、一筋の光の奔流となる。
肉薄していたアリサが飛び退いた事で、レイアーは直前で自由になった。
だが、回避は間に合わず、障壁を多重展開し……
「ぁ―――」
それごと、極光に呑まれていった。
「これで……」
「倒した……?」
「さすがに、やったと思うけど……」
なのは達が降り立ち、六人で着弾地点を見る。
極光による煙幕で見えないが、手応えは確かにあった。
「でもなぁ、こう来ると―――」
「ぁぁああああああああああああああああッ!!」
虚空から、極光が迸る。
肉体を失い、“領域”のみとなってなお、レイアーは健在だった。
「―――まだ生きてるってのが、相場やな!」
「っ……!?」
しかし、なのは達は驚かない。
逆に、レイアーがなのは達を見て驚愕した。
「私とはやてちゃんの読み」
「そして私が引き継いだルフィナさんの経験」
「そこから、あんたの行動は想定出来たって訳」
煙幕で姿が見えなかった。
それはレイアーも同じだったのだ。
それ故、レイアーはなのは達が構える巨大な魔法陣に気づけなかった。
「受けなよ、私達の“意志”を!」
―――“Brave Phoenix”
“意志”の不死鳥が、極光を突き破る。
そして、レイアーを再び呑み込んだ。
後書き
穿矢…貫通力を犠牲に、威力と衝撃に特化した矢。“零式”はそれを至近距離で放ち、“壱式”は離れた位置から連射する。
氷突一閃…氷を纏った槍で突貫する技。敵を押しやる時や、壁や障壁などを突き破る事に長けた一撃となっている。
Divine Buster Homing Shift…ディバインバスターに強力な追尾性能を付加した魔法。今回は弾幕の如き連射をしたが、本来は単発砲撃。
氷幻…氷を利用した幻惑。鏡のような氷を展開し、幻影を生み出す他、氷像で偽物を作り出したりと攪乱に特化している。
απελπισία…“絶滅”のギリシャ語。絶滅へと“可能性”を誘導する事で、絶対的な威力と誘導性を発揮する。“意志”か“性質”で相殺しない限り、絶対に命中する。
志焔…“意志”と感情を利用した付加効果付きの炎。“意志”や感情の高ぶりに比例して炎を放出し、それらで身体能力や攻撃等を強化できる。
Eternal Blaze…由来は当然なのはA'sのOP。六人の絆と“意志”が力となり、皆を後押しする。ゲームで言うイベント限定のバフ強化のようなもの。
焔蛇…炎の蛇を用いた拘束。単に身動き出来ないだけでなく、炎による持続ダメージもある。さらに、“意志”が加われば理力による転移すら無効化する。
穿氷…圧縮した氷による杭を打ち込む霊術。強力だが、躱されやすい。
多砲一束術式…文字通り、複数の砲撃を一つに束ねるために術式。複数の砲撃を当てるよりも威力を上げる効果を持つ。本来ならば、なのは達の砲撃では術式が耐えられなかったが、今回は“意志”でごり押した。
Triple Breaker…通称などでの呼称ではなく、正真正銘“魔法”としてのトリプルブレイカー。上記の術式で束ねられた事で威力が跳ねあがっている。
Brave Phoenix…なのはA's挿入歌より。六人(+リイン)の“意志”を集束させ、一つの砲撃として放つ技。不屈の“意志”だからか、不死鳥の如き形で敵へと襲い掛かる。
レイアー・ディニティコス戦、終了です。
平行世界の自分という要素を取り込んでいるからこその、六人の因果関係。それを利用する事で、決して負けない“意志”の布陣を作り出しました。
レイアーにしてみれば、全員を即死させなければ即時復活と言うクソゲーギミックです。……まぁ、そこまでしなければ最後で圧倒する事が出来ないのですが。
レイアーは出力こそユウキの全盛期を上回ります。ただ、二人が戦えばどちらが勝つかはわかりません。
人間らしい嫉妬を持ったからこそ、レイアーはイリスの勢力及び“闇”に寄った神になってしまったという事になっています。
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