ハーフも今は
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第二章
「お父さんちょっといい?」
「どうした?」
慣れた日本語での返事だった。
「何かあったか?」
「いや、私のことだけれど」
こう切り出した。
「いいかな」
「ああ、何でも言ってくれ」
父は娘にこう返した。
「お前は私の父親だからな」
「言ってきたことはなの」
「相談だったらな」
それならというのだ。
「何でも乗る」
「そうしてくれるのね」
「そうだ、だからな」
それでというのだ。
「何でも言ってみろ」
「じゃあ言うわね」
リビングのソファーの向かい側で英語の何か難しい本を母が入れてくれたホットミルクを飲みながら読んでいる父に言った、父もここでその本を置いた。
「私黒人とのハーフよね」
「そうだ」
返事は一言だった。
「私の娘だからな」
「そうよね、それで黒人だからってね」
そのハーフだからだというのだ。
「歌が上手とか運動神経がいいとかダンスが得意とか」
「言われるか」
「いつも言われるけれど」
「それは先入観だな」
父はこれまた一言で答えた。
「黒人に対する」
「そうよね」
「アメリカの黒人、アフリカ系アメリカ人へのそれだな」
「やっぱりそうね」
「ああ、ただな」
娘にあらためて話した。
「それは先入観で人による」
「人それぞれね」
「そうだ、私もこの体格だからフットボールでもしているのかとな」
アメリカンフットボールである、アメリカの人気スポーツの一つだ。
「言われたが」
「実際は違うわね」
「私はずっと読書三昧だった」
「それで学校の先生だったわね」
「これといった運動はしたことがない」
一度も、そうした言葉だった。
「これまでな」
「そうなのね」
「人は本当にな」
「それぞれよね」
「だがこの世には先入観というものがある」
娘にこのことをまた話した。
「だからな」
「私もそう思われるのね」
「そうだ、しかしな」
「しかし?」
「黒人だからといって」
「ああ、差別ね」
夕花も父の言わんとしていることがわかってこう言った。
「それね」
「それを受けたことはないか」
「ないわ」
「そうなのか」
「お肌の色とかよね」
その父譲りの黒い肌のことを言った。
「それのことね」
「そうだ、私はそうした経験はないが」
「アメリカだとね」
「あることは否定出来ない」
差別、人種間のそれはというのだ。
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