英雄伝説~灰の騎士の成り上がり~
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第124話
~カレイジャス・ブリッジ~
「貴方は一体…………」
「フム……ケビン神父やワジ君のような法衣姿で、それもロジーヌ君の関係者から察するに貴方も”星杯騎士団”の関係者なのだろうか?」
老騎士とロジーヌの登場にセドリックが目を丸くしている中、オリヴァルト皇子は自身の予測を口にして訊ねたその時
「貴方はまさか…………バルクホルン神父!?」
「え……ガ、ガイウスの知り合いなの……!?」
老騎士に見覚えがあるガイウスは驚きの表情で声を上げ、ガイウスの様子が気になったエリオットは訊ねた。
「ああ。バルクホルン神父はノルドに住むオレ達に日曜学校の巡回神父としてゼムリア大陸の歴史を始めとしたノルドの”外”の事について教えてくれた先生だ。」
「え……それって、以前のノルド高原での特別実習でガイウスが話してくれた……」
「ガイウスがトールズに来る切っ掛けとなった巡回神父か。」
「それがまさか”星杯騎士団”の関係者だったなんて……」
ガイウスの説明を聞いて心当たりを思い出したアリサは驚きの表情で老騎士を見つめ、ユーシスは真剣な表情で呟き、エマは信じられない表情で老騎士を見つめた。
「こうして直に顔を合わせるのは久しぶりじゃの、ガイウス。あれから本当に大きくなったものじゃな……………――――――お初にお目にかかる。儂の名はバルクホルン。守護騎士第八位、渾名は”吼天獅子”じゃ。」
「!!」
「ええっ!?」
「まさかバルクホルン神父が守護騎士の一人だったとは……」
「おいおい、マジかよ………」
「ど、守護騎士って事はケビンさんやトマスさんと同じ……!」
「星杯騎士団を束ねる12人の騎士の一人にして聖痕の宿主ね。」
老騎士――――――”星杯騎士団”の守護騎士第八位”吼天獅子”バルクホルンが自己紹介をするとサラは目を見開き、アネラスは驚きの声を上げ、ガイウスは驚きの表情を浮かべてバルクホルンを見つめ、アガットは表情を引き攣らせ、信じられない表情で呟いたティータに続くようにシェラザードは真剣な表情で呟いた。
「そ、それに守護騎士の”第八位”って、確かサラ教官の故郷を救った………」
「ノーザンブリアの”塩の杭”を封印処理した守護騎士だな。」
「そして守護騎士の中では最年長のベテラン騎士である事から、その発言力は”第一位”にして”総長”の紅耀石に次ぐと言われている事から実質”もう一人の星杯騎士団の副長”のような存在でもあると言われている騎士ね。」
ある事を思い出したトワは驚きの表情で呟き、クロウとセリーヌは真剣な表情でバルクホルンを見つめた。
「フフ、皆が儂のような老いぼれを気遣っているだけの話で、実際の儂が持つ権限は他の守護騎士達と変わらぬよ。それにノーザンブリアの件にしても、儂は守護騎士としての務めを果たしたまでじゃよ。――――――それよりも、内戦の際Ⅶ組の諸君には儂の為に随分と時間を取らせてしまってすまなかったの。」
「へ……?内戦の際……?――――――ああっ!?」
「確かパウロ教区長の依頼で安否確認を頼まれた巡回神父だったな。」
「ん……そういえば、ユミルの神父から受け取ったわたし達充ての手紙に書いてあった名前もバルクホルンだったね。」
「道理であんな短時間で帝国各地の教会に回れた訳だよね~。守護騎士だったら”天の車”が使えるから、それを使って帝国全土を移動していたんだろうね~。」
バルクホルンの話を聞いて首を傾げたマキアスだったが心当たりをすぐに思い出すと声を上げ、ラウラとフィーは当時の出来事を思い返し、ミリアムは疲れた表情で呟いた。
「しかしこれで、ガイウス君の過去の知り合いは実は結構凄い事になっている事が判明したねぇ。」
「た、確かに言われてみれば……」
「守護騎士に加えて”六銃士”の内の4人――――――クロスベル双皇帝の片翼とその正妃、もう一人のクロスベル皇帝の正妃にしてクロスベル帝国軍の”総参謀”、そしてクロスベル帝国軍の将軍とどの人物もそれぞれの組織にとっては相当高い地位に就いている人物ですものね♪」
「しかも帝国正規軍の第三機甲師団を任されている叔父上とも親しいからな……それらの件を考えると、改変された今の世界の彼の将来もまた、リィン達のように”本来の歴史”よりも出世しているかもしれないな。」
からかいの表情を浮かべたアンゼリカの言葉にその場にいる多くの者達が冷や汗をかいている中アリサは表情を引き攣らせ、シャロンは微笑みながら答え、ミュラーは苦笑していた。
「で?アンタもその”守護騎士”とやらという事は、もしかして昨日の件でぶっ倒れたあの眼鏡のオッサンの代わりにオレ達に力を貸してくれる為にわざわざここに来たのか?」
「いや……期待している所心苦しいが君達にとっては残念な知らせとなる情報を伝える為にこちらを訊ねたのじゃ。」
「………………………………」
「ぼ、”僕達にとって残念な知らせ”ってどういう事ですか!?」
「!も、もしかして……昨日の作戦でトマス教官とロジーヌちゃんがわたし達に協力してくれた事を”星杯騎士団”が問題視したんじゃ……!」
アッシュの質問に対してバルクホルンは重々しい様子を纏って答え、ロジーヌは辛そうな表情で黙り込み、バルクホルンが口にした不穏な言葉が気になったマキアスは不安そうな表情で訊ね、すぐに心当たりを察したトワは不安そうな表情で呟いた。
「き、昨日の作戦というと……まさか、ルシエルさん達を強制転位させた件でしょうか……?」
「もしくは”メルカバ”を”戦争”で運用した件かもしれないわよ。中立の立場のはずの七耀教会が”メルカバ”を運用してまで戦争に介入した事実もそうだけど、”メルカバ”をあんな大勢の前に晒した事も秘密主義の塊の”星杯騎士団”にとっては大問題なんだと思うもの。」
トワの言葉を聞いたエマは不安そうな表情で推測し、エマに続くようにセリーヌも複雑そうな表情で推測を口にした。
「うむ……そちらの”魔女”の一族の者達の言う通りじゃ。」
「実は昨日の作戦が終了してから数時間後に七耀教会の”総本山”のアルテリア法国にメンフィル帝国より”抗議”の通信があったのです。」
「こ、”抗議”ですか?一体どんな……」
エマとセリーヌの推測にバルクホルンが重々しい様子を纏って頷いた後ロジーヌは辛そうな表情で説明し、ロジーヌの説明が気になったアネラスは戸惑いの表情を浮かべて呟いた。
「『メンフィル・クロスベル連合とエレボニアの戦争の今後の展開を決める重要な戦いに中立であるはずの七耀教会に所属している守護騎士のトマス・ライサンダーが聖痕と古代遺物を利用してまでメンフィル帝国にとって客人である天使部隊を強制転移させて作戦の妨害を行った挙句、戦後も友好を深めてメンフィル帝国と協力関係を結んでもらいたい天使族の部隊を意図的に危険な目に遭わせるとは一体どういう事なのか』という内容でレン皇女と当事者である天使部隊の代表者の能天使ルシエル殿がアルテリア法国に通信による抗議と当時の状況の説明をしたのじゃ。」
「レンちゃんが…………」
「しかもあの冷酷外道天使まで関わっているとはね……あの天使の事だから、あたし達やトマス教官の事を可能な限り悪く見えるような言い方で説明をしてアルテリア法国のあたし達やトマス教官に対する印象を悪くしたんじゃないかしら?」
「ケッ、チクリをするとかチンケなガキと天使だぜ。」
バルクホルンの説明を聞いたティータは複雑そうな表情で、サラは厳しい表情で、アッシュは不愉快そうな表情でそれぞれレンとルシエルを思い浮かべた。
「そ、それにトマス教官がルシエル達に意図的に危害を加えたって冤罪なんじゃないのか!?あの時トマス教官によって転移させられたルシエルもレン皇女殿下と一緒に抗議したって事はルシエル達は無事だったって事じゃないか!」
「多分、ルシエル達が転移させられた場所は実際転移場所として問題なかったけど、転移に失敗して魔獣の巣窟みたいな危険地帯に転移させられたらどう責任を取るんだみたいな内容でアルテリアに文句を言ったんだと思うよ~。」
厳しい表情で反論を口にしたマキアスの指摘に対してミリアムは疲れた表情で自身の推測を答えた。
「そ、それよりもバルクホルン神父は僕達にとって”残念な知らせ”って言いましたけど、もしかしてトヴァルさんの時みたいに昨日の件でアルテリア法国がトマス教官とロジーヌに”処罰”を与えたんですか……!?」
一方ある事を察したエリオットは不安そうな表情で訊ねた。
「はい………ライサンダー卿の”星杯騎士団副長”と”守護騎士”の権限が一時的に凍結されることになったとの事です、合わせて私も”従騎士”としての権限が一時的に凍結されることになった為、これ以上教会方面で皆さんのお力になる事は叶わなくなってしまいました。誠に申し訳ございません………」
「そんな……!ロジーヌが私達に謝る必要なんてないわよ!?」
「その通りだ。むしろ、謝罪すべきは私達の未熟さによって其方達にまで迷惑をかけてしまった私達の方だ。」
ロジーヌは説明をした後謝罪し、ロジーヌの謝罪に対してアリサは真剣な表情で指摘し、ラウラは重々しい様子を纏って答えた。
「ちなみにトマス教官の権限が一時的に凍結されることになったって言ったけど、具体的にはどんな不具合が生じるの?」
「そうじゃな……お主達にとって直接不具合が生じるとすれば、今回の戦争の件で今後”天の車”を運用できなくなる事とトマスの”星杯騎士団副長”としての伝手――――――七耀教会方面からの情報を得られなくなる事じゃろうな。」
「”天の車”を……ですが、”天の車”は”守護騎士”専用の飛行艇なのにどうして……」
「トマス神父の”守護騎士としての権限が凍結される”から、当然”守護騎士の権限で運用できたメルカバも運用できなくなる”――――――そういう事だろう?」
フィーの質問に答えたバルクホルンの説明を聞いてある疑問を抱いたセドリックにオリヴァルト皇子が疑問に対する答えを説明した後バルクホルンとロジーヌに視線を向けて確認した。
「はい………現在カレイジャス内に待機しているライサンダー卿専用の”メルカバ”である”弐号機”はライサンダー卿の従騎士達と共にアルテリア法国に帰還する指示が出された為、”弐号機”はこの後アルテリア法国に帰還する事になっています。」
「メルカバ――――――いえ、カレイジャス以外に運用できた飛行艇が使えなくなるのはかなり痛いわね……」
「ああ……昨日の作戦の時みたいに二手に分かれて行動する事は厳しくなるな。」
「しかも、七耀教会方面からの情報を手に入れる事ができなくなったのもかなり痛いですよね……」
ロジーヌの説明を聞いて疲れた表情で溜息を吐いたシェラザードの意見に頷いたアガットは複雑そうな表情を浮かべ、アガットに続くようにアネラスは複雑そうな表情で呟いた。
「トマス教官の”従騎士”達もアルテリアに帰還するとの事だが………トマス教官と共に”従騎士としての権限”が凍結されたロジーヌ君もアルテリアに帰還するのかい?」
「いえ、”今の私はトールズ士官学院生”でもありますから、皆さんに許して頂けるのならば、トールズ士官学院の一学生として皆さんのお力になりたいと思っています。」
アンゼリカの質問に対してロジーヌは静かな表情で答え
「許すもなにも、私達の方から頼みたいくらいですから、どうかこのままカレイジャスに残ってください。」
「ああ。この場合、ロジーヌが”星杯騎士”かどうかは関係ないな。」
「エマさん……ガイウスさん……」
エマとガイウスの答えを聞いたロジーヌは嬉しそうな表情を浮かべた。
「……水を差すようで悪いけど、本当に大丈夫なのかしら?ただでさえ、教会は自分達の関係者が紅き翼(アタシ達)に協力する事をあんまりよく思っていないんでしょう?」
「それについては儂の方から総長と共に既にトマスの件と共に教会の上層部達に上手く言っておいたから心配無用じゃ。”ロジーヌがトールズ士官学院生、トマスがトールズ士官学院教官である事に変わりはない”のじゃし、こう言っては何だが権限が凍結された事で教会に対する影響力を封じられた”守護騎士”と”従騎士”の為だけに教会はそこまで目くじらは立てんよ。」
「バルクホルン卿……お気遣いいただきありがとうございます。」
セリーヌの質問に答えたバルクホルンの答えを聞いたロジーヌは頭を下げて感謝の言葉を口にした。
「話をトマスの件に戻すが、トマスは教会の上層部達からの命令により、今回の戦争で連合の勢力とやむを得なく交戦する状況に陥った場合は聖痕並びに古代遺物の使用は禁ずるとの事じゃ。――――――それが教会の上層部達がトマスがお主達への協力の続行を許可する”条件”でもある。」
「す、聖痕と古代遺物の使用を禁止するって事はトマスさんは”守護騎士”としての力が使えない状態で戦わなくちゃならないってことですよね……!?」
「ん………連合との戦闘が発生した際のトマス教官の戦力は大幅にダウンしたようなものだね。」
「内戦勃発時や煌魔城が現れた時は魔導杖の使い手としてもそうだけど、アーツの使い手としても相当な実力だったから、戦力面ではそんなに低下していないとは思うわ。」
「……ただ、それでも聖痕を解放した状態と比べれば劣るだろうし、何よりも昨日のルーレの件のように厄介な相手を強制転移させることが封じられたのもかなり痛いな。」
バルクホルンの説明を聞いて不安そうな表情を浮かべたティータの言葉に頷いたフィーは複雑そうな表情を浮かべ、サラとクロウは静かな表情で呟いた。
「今までの話を聞いて気になったのですが………トマス様が守護騎士の権限を一時的に凍結される件はもしかしたらレン皇女殿下とルシエル様はアルテリア法国の思惑を考えた上で、そのような”策”を実行したのかもしれませんわね。」
「”アルテリアの思惑”だと?」
「それってどういう事なの、シャロン?」
「………………………………」
静かな表情で呟いたシャロンの言葉が気になったアガットは眉を顰め、アリサが不思議そうな表情でシャロンに訊ねている中バルクホルンは複雑そうな表情で黙り込んでいた。
「バルクホルン様はトマス様がアルテリア法国から処罰を受けた件で、セリーヌ様が先程口にした推測――――――”戦争にメルカバを運用して大勢の前に晒した件についても否定されませんでした。”そしてトマス様が紅き翼への協力の続行の条件である”メンフィル・クロスベル連合に所属している勢力との戦闘が発生した際、聖痕と古代遺物の使用禁止”の件も考えると、アルテリア法国――――――いえ、七耀教会は将来――――――いえ、最悪は現在も危険な勢力として警戒しているメンフィル・クロスベル連合に自分達の最高戦力の一人であるトマス様が保有している古代遺物の能力やトマス様自身の戦闘能力、そして”メルカバ”の機能を把握された事についてよく思っていないように思えるのですわ。」
「ハア?教会の連中が連合の事を警戒しているんだったら、今回の戦争の件で裏で手を組んでまでエレボニアを敗戦させるような事はせずに、”漁夫の利”を狙うみたいな事をするんじゃねぇのか?」
「アッシュ……あんたね、星杯騎士――――――それも、守護騎士の目の前でそんな危なすぎる発言をするんじゃないわよ……」
シャロンの推測に対して反論したアッシュの指摘を聞いたサラは呆れた表情でアッシュに注意した。
「ふふっ、儂の事は気にしなくてよい。それに実際七耀教会がメンフィル・クロスベル連合を警戒している事も事実じゃしの。」
「一体何故七耀教会がメンフィル・クロスベル連合を………」
苦笑しながら答えたバルクホルンの答えが気になったガイウスは不思議そうな表情で疑問を口にした。
「……君達も知っての通り、メンフィルは元々異世界の国である事でゼムリア大陸の各国と教会が結んでいる”盟約”を結んでいないのじゃ。」
「”盟約”…………確か、遥か昔から古代遺物が発見されたら七耀教会に引き渡す事を国家の元首達が結んでいる約束ね。」
「遥か昔から国家の元首達と教会にそのような約束が……という事は父上もその件はご存じなのでしょうね。」
「ああ。その国で発見された古代遺物は教会に渡すというのが”原則”だ。まあ、私が教会に見逃してもらっている”響きの貝殻”や”影の国”の件で追及されまくったケビン神父が根負けしてティータ君の母君に渡した”レグルスの方石”みたいな”例外”もあるけどね♪」
「あ、あはは………」
「本来ならば責められるべき事実を自慢げに話すな、阿呆。」
バルクホルンの話を聞いて心当たりを思い出したシェラザードの言葉を聞いて目を丸くしたセドリックの推測に頷いたオリヴァルト皇子は笑顔を浮かべて答え、オリヴァルト皇子の答えにその場にいる多くの者達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中オリヴァルト皇子の話に出てきた自分の母親を思い浮かべたティータは苦笑し、ミュラーは顔に青筋を立ててオリヴァルト皇子に注意した。
「話をメンフィルの件に戻すが……13年前の”百日戦役”後メンフィルがゼムリア大陸で本格的に活動を始めるようになってからも、メンフィルは”盟約”を結ぶ教会の要請を断り続けており、現在もその状況なのじゃ。」
「何故メンフィルは”盟約”を結ぶ事を断り続けているのでしょうか?古代遺物は使い方を誤ればそれこそ今回の”黄昏”の件のような”災厄”が起こりかねないというのに……」
「―――メンフィル帝国の本国がある異世界――――――ディル=リフィーナは魔法技術が発展していることにより、私達の世界で言う古代遺物のような魔導具や魔法効果が付与された武装すらも一般の市場に流通している事、またエルフ族のような古から生き続けている異種族達とも協力関係を結んでいる事から古代遺物の使用方法等を熟知している為、教会による管理は必要ないという理由で断り続けているのです。」
バルクホルンの話を聞いて新たな疑問を抱いたラウラにロジーヌが複雑そうな表情で答え
「確かにレン皇女殿下を始めとしたメンフィル帝国の関係者から話を聞いた感じではディル=リフィーナは魔法技術が発展した世界のようですから、何らかの魔法効果がある古代遺物にもすぐに対処できるでしょうね。」
「そうね。しかもエルフのような長寿の種族だったら古代の魔法技術を扱ってきた”当事者”、もしくはその技術が受け継がれたりしている可能性も考えられるでしょうから、そんな連中からすればアタシ達の世界の古代遺物の扱いなんて朝飯前かもしれないわね。」
「フン、なるほどな…………――――――要するに”七耀教会が古代遺物の管理をする事が当然という定義”を守り続けていた教会からすれば、その定義に応じないメンフィルの事を内心よく思っておらず、警戒――――――いや、危険視しているという事か。」
「お、おい、ユーシス。」
ロジーヌの答えを聞いたエマとセリーヌは静かな表情で呟き、事情を察して鼻を鳴らした後呆れた表情で呟いたユーシスの言葉を聞いたマキアスは冷や汗をかいてバルクホルンとロジーヌに視線を向けた。
「教会がメンフィルを警戒する理由はわかったが……クロスベルは何でなんだ?」
「恐らくはクロスベルも”クロスベル帝国”建国後から来た教会の要請をメンフィル同様断ったからではないかと。」
「言われてみればクロスベルは他の国と違って建国されてからまだ日が浅いまさに”新興の国家”の上皇帝を始めとした上層部達はディル=リフィーナの出身だから、メンフィルと同じような理由で教会との”盟約”を結ぶつもりはないんだろうね。」
「うん……それに、セシルさんや特務支援課の人達の話だと、クロスベルの上層部の中には魔法技術に長けた人や古代の魔法技術に詳しい長寿の異種族の人達もいるらしいから、古代遺物をメンフィルのように自国の発展の為に利用するつもりでいるクロスベルも教会の要請に応じないつもりなんだと思うよ。」
真剣な表情で呟いたクロウの疑問に対して静かな表情で答えたシャロンの指摘を聞いたアンゼリカとトワはそれぞれ考え込みながら推測した。
「うむ……加えて連合――――――いや、メンフィルはあの結社すらをも滅ぼし、更には結社の中でも相当な使い手達を受け入れて自国の戦力として組み込んでいるからの。その件も教会の上層部達がメンフィルを警戒している理由の一つでもある。」
「メンフィル帝国が受け入れた結社の人達ってレーヴェさんの事ですよね?」
「ああ。後は”鋼の聖女”とやらに”鉄機隊”だな。」
「確かにどの連中も揃いも揃って結社の使い手の中ではトップクラスに入る連中ばかりね……」
バルクホルンの話を聞いて心当たりを思い出したティータの言葉に頷いたアガットは他の心当たりを口にし、サラは真剣な表情で考え込んだ。
「なるほどね~。教会の上層部がトマス教官達に対して決めた処罰の理由の一つは警戒している勢力に不用意に教会が保有している”力”を見せた事もあるんだろうね~。」
「そしてその教会の思惑を知っていた殲滅天使や殲滅天使から七耀教会とメンフィルの関係について教えてもらったルシエルは少なくても教会がこれ以上トマス教官が連合に対して”守護騎士”としての力や権限を使わせないように制限をかけると想定して抗議したって事か。」
「……はい、恐らくは………」
ミリアムとフィーの推測に対して頷いたロジーヌは複雑そうな表情を浮かべ
「ハッ、そこまで連合の事を警戒していたにも関わらず、今回の”黄昏”の件に関しては裏で手を組んだのは”黄昏”の件を解決するには連合の力を借りざるを得ないって事もあるだろうが、今回の”黄昏”の件を利用して連合の戦力を把握する為もあるんじゃねぇのか?」
「それは………」
「否定はせぬ。遥か昔からゼムリア大陸の各国に影響力があった七耀教会の権威をものともせず、あの結社を滅ぼし、今回の”黄昏”の件にしても”地精”を始めとした様々な”裏”の勢力による協力を得たエレボニア相手に圧倒し続ける連合を警戒するのもわからなくもないが、教会の本来の役目は民達の”支え”を務める事じゃ。今まで守り続けてきた自分達の定義を守らない事もそうじゃが教会の権威を脅かす事を恐れて、その国家を敵視する等聖職者の一人として恥ずかしいわい。」
「神父………そういえば神父。七耀教会が崇めている”空の女神”自身が現代のゼムリア大陸に滞在している事は知っているだろうか?」
鼻を鳴らして嘲笑したアッシュの推測にラウラが複雑そうな表情を浮かべている中、重々しい様子を纏って答えたバルクホルンの様子を辛そうな表情で見つめていたガイウスはバルクホルンに新たな質問をした。
「うむ、儂自身はまだお会いできていないがクロイス家によるクロスベルの”異変”を解決する為に”空の女神”がご両親や先祖の方々と共に現代のゼムリア大陸に降臨し、現地の者達やワジ達と協力して解決した話はワジ達の報告で知っているが……それがどうかしたのか?」
「空の女神自身は連合が教会の定義を守らず、国の為に古代遺物を利用していることについてはご存じでないのだろうか?」
「その件か………勿論法王猊下達もその件をエイドス様に説明し、古代遺物の件で”空の女神”として連合に教会が今まで守り続けていた定義を守って欲しい事を指摘するような内容の嘆願をしたそうなのじゃが……リベールで邂逅したガイウス達ならば知っているだろうが、エイドス様達は”過去の存在”であるご自身達がご自身達にとっての遥か未来の時代である現代のゼムリア大陸の政治に介入しない事を固く戒めておられる上、”エイドス様達の時代では古代遺物クラスの魔導具がありふれた道具や武装として利用されていた為”、当時のエイドス様達の時代のように魔法技術が発展した世界から進出したメンフィルもそうじゃが、その出身であるクロスベルの上層部達が古代遺物を利用しても問題ない上、例え問題が起こったとしてもそれは連合の”自己責任”であるという答えを返されて法王猊下達の嘆願を断ったのじゃ。」
「そ、”空の女神”達が生きている時代は古代遺物がありふれた存在として利用されていた”って一体どんな時代だったのよ……」
「ハッ、女神サマが実際に存在していた時代なんだから、オカルトだらけのイミフな時代だったんじゃねぇのか?」
「……まあ、エイドス達が存在していた時代はそれこそ”神代の時代”である事でアタシ達の世界では古代遺物扱いされる代物が普段の生活とかで使われていた時代なのでしょうから、エイドス達からすれば古代遺物の使用を固く禁じる教会の考えとは合わないのかもしれないわね。」
ガイウスの質問に対して複雑そうな表情で答えたバルクホルンの説明を聞いたアリサは表情を引き攣らせ、アッシュは鼻を鳴らして推測し、セリーヌは静かな表情で呟き
「で、でも……わたしは女神様の言っている事は何となくわかります……実際3年前の”異変”を解決するためにアルセイユで乗り込んだ”リベル=アーク”は今の時代では再現不可能な凄い技術ばかりで、遥か昔のリベールの人達が生活をしていた都市だったとの事ですし……」
「ああ………帝国の鉄道すらも比較できない速さでそれぞれの区域を行き来する”レールハイロゥ”もそうだが、何よりも結社の”計画”に使われていた”ゴスペル”が一般市民達の端末として使われていたからな。」
「フッ、懐かしい話だね。うーん、あの頃の事を考えたらあの時のメンバー――――――いや、いっそ”影の国”のメンバーを集めて同窓会を開いてみたいね、はっはっはっ。」
「この状況でそんな呑気な事を考えられるなんて、アンタらしいわね……」
「というか私達の時代よりも遥か昔の時代で生きていたナユタ君達やアドルさん達もそうですがヴァイスさんとリセルさんも今現在私達の時代に存在している事でその気になれば”影の国”のメンバーほぼ全員を集められますから、洒落になっていませんよねぇ。」
「それ以前に”宿題”を終わらせるどころか、最悪の事態が避けられなかったことで解決すべき”宿題”が増えた貴様にそんな暇はないだろうが。」
複雑そうな表情で呟いたティータの言葉にアガットは頷き、二人の話を聞いて当時を思い返した後呑気に笑いながら呟いたオリヴァルト皇子の提案にシェラザードとアネラスが苦笑している中、ミュラーは顔に青筋を立ててオリヴァルト皇子に指摘した。
「話を元に戻すけど……シャロンさんの推測通り、レン皇女殿下達は連合に対して思う所がある教会がわたし達を助けるために”守護騎士”としての力を振るったトマス教官の事を知ったらトマス教官の行動に制限をかける事を確信していたから、アルテリアに抗議したんだろうね……」
「自分達が考えた”策”で暗躍して相手を陥れる――――――まさに”参謀”らしいやり方だねぇ。」
「ったく、そういう裏でコソコソして相手を陥れるような腹黒くて卑怯なやり方が一番腹立つのよね。その気になればあたし達を叩き潰す戦力があるんだから、あたし達が目障りなら正面から叩き潰せばいいでしょうに。」
複雑そうな表情で推測したトワに続くように呟いたアンゼリカは疲れた表情で溜息を吐き、サラは苦々しげな表情で呟いた。
「そういう事を言っているから、レン達から”脳筋”ってバカにされるんじゃないの?」
「全く持ってその通りだな。セシリア将軍も指摘したように”A級正遊撃士”の資格を持っているのならば、もう少し思慮深い行動や考えをすべきではないのか?」
「ぐっ………そこであの陰険女将軍達の味方をするとか、アンタ達、それでもあたしの教え子!?」
ジト目のフィーとユーシスの指摘にその場にいる多くの者達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中図星を刺されたかのように唸り声を上げたサラは二人を睨んで反論した。
「あ、あはは………それよりも一つ気になっていたのですが、何故バルクホルン卿程の多忙かつ特殊な立場の方が僕達にトマスさんの件を説明する為にわざわざこちらに足を運ばれたのでしょうか?」
「実はトマスから自分に”万が一”の事があれば、殿下達の力になってやって欲しい事を頼まれていたのじゃ。」
「トマス教官がそのような事を……」
「という事はこれからは神父がオレ達に協力してくれるのだろうか?」
セドリックの疑問に答えたバルクホルンの答えにその場にいる全員が血相を変えている中ラウラは驚きの表情で呟き、ガイウスは真剣な表情でバルクホルンに訊ねた。
「いや、期待している所悪いが儂には教会から指示された”黄昏”の件に関する対処で他にもやる事があり、戦力としてお主達に加勢したトマスのように直接協力する事はできん。――――――が、それ以外の方法ならば可能な限り協力する所存じゃ。」
「直接的に協力するのは無理って事は間接的にはオッケーって事だから、例えば七耀教会独自が手に入れた情報とかはボク達に回してくれたりするの~?」
バルクホルンの答えを聞いてある事に気づいたミリアムは興味ありげな様子でバルクホルンに訊ねた。
「うむ。それとエイドス様達と接触し、お主達への”加護”の件を頼むつもりじゃ。」
「エイドス様達に”加護”の件を……」
「そういえばエリンの里でリウイ陛下が”相克”の影響を受けないようにする為には”神の加護”が必要な事を言っていたよな?」
「ああ。皇太子殿下とクロウが相克によって強制的に戦わさせられない為にもエイドス様を探す必要はあったが、そちらはまだ何も手を付けていなかったな……」
バルクホルンの話を聞いたエマが驚いている中ある事を呟いたマキアスの話に頷いたラウラは考え込んだ。
「何から何までお世話して頂きすみません、神父。」
「ふふっ、儂らの”副長”が世話になったのじゃから、その恩返しのようなものじゃから気にするでない。――――――トマスの件はあまり気負うでないぞ、ロジーヌ。」
「はい、私のような末端の者にまでお気遣いいただきありがとうございます、バルクホルン卿。」
ガイウスの感謝に対して謙遜した様子で答えたバルクホルンはロジーヌに声をかけ、声をかけられたロジーヌは会釈をして答えた。
その後バルクホルンを見送ったアリサ達は今後のことについての話し合いを始めた。
メンフィル・クロスベル連合によるノルティア州占領の2日後、エレボニア帝国の”屋台骨”であったザクセン鉄鉱山に加えてエレボニア帝国の工業地帯であったノルティア州が陥落させられた事でエレボニア帝国軍の兵器、武装の生産が滞る事によってエレボニア帝国軍の物資、戦力が激減して今後の連合との戦争に相当な支障が出てしまうという事態を重く見たヴァンダイク元帥は連合がノルティア州防衛の為に本格的に戦力を集める前にノルティア州を早期奪還する為にオズボーン宰相に出撃の許可を取り、帝国軍の全軍のおよそ3割にあたる20万の戦力という圧倒的な数を率いてノルティア州の奪還の為にノルティア州に進軍した。
しかしエレボニア帝国軍がノルティア州奪還の為に相当な戦力を投入してくることを想定していた連合はノルティア州奪還のエレボニア帝国軍を撃退する作戦を開始していた――――――
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