| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

戦国異伝供書

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第百二十五話 誘い出しその六

「幾ら何でも」
「幾ら龍造寺殿が血気盛んでも」
「信じられませぬ」
「それがしも最初目を疑いました」
 斥候は三人にも話した。
「まさかと思いですが何度見ましても」
「龍造寺殿であられたか」
 義弘が問うた。
「影武者ではなく」
「影武者ではありませんでした」
 それでもなかったというのだ。
「例えそうであってもあれだけの巨体を完全にはです」
「真似られぬか」
「しかも風格が違い龍造寺家の軍勢全体を見ても」
 そうしてもというのだ。
「それでもです」
「あそこまでの巨漢の御仁はか」
「おられませんでした」
「ではか」
「間違いなくです」 
 先陣で輿に乗る者はというのだ。
「龍造寺殿ご自身です」
「そうなのか」
「一体どういうおつもりか」
 歳久もわかりかねていた、言葉にそれが出ていた。
「この度は」
「それがどうにもです」
「お主もわからぬか」
「はい」 
 斥候は歳久に戸惑いつつ答えた。
「聞いたこともないこと故に」
「総大将ご自身の先陣なぞな」
「出陣はありましても」
「後ろの本陣にいるもの」
 総大将はとだ、歳久は言った。
「そうである筈だが」
「我等をご自身で潰すおつもりか」
 家久は腕を組んで言った。
「それで、であろうか」
「そうでしょうか」
「龍造寺殿は短気であられるからな」
 こう斥候に話した。
「だからな」
「それで何かの弾みで癇癪を起され」
「そしてな」
「ご自身が先陣を」
「そうであろうか」
「しかしまことにです」
「龍造寺殿ご自身がであるな」
 斥候に確認を取った。
「まことに」
「先陣でして」
「そうしてか」
「軍勢の足もです」 
 行軍の速度もというのだ。
「かなりのものです」
「速いか」
「それも全軍がです」
 隆信が率いている先陣だけでなくというのだ。
「まさに脇目を振らずです」
「その様にしてか」
「こちらに来られています」
「兵は神速を尊ぶという」
 ここで義久が言ってきた。
「まさにな、しかしな」
「はい、それでもです」
「それが拙速ならば愚です」
「それは負けのもとの一つです」
 弟達がすぐに応えた。
「ですから足が速いのはいいですが」
「それが焦ったりして脇目を振らないのなら」
「こちらとしましては」
「狙い目であるな、伏兵も見抜けぬな」
 義久は鋭い目で述べた。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧