とある3年4組の卑怯者
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
6 貝殻(たからもの)
前書き
リリィの歓迎会の翌日、藤木は登校中にリリィに会うと共に彼女の家に招かれる事になる。その事で嬉しくなった藤木は体育でリリィにいい所を見せようとするも空回りにしてしまう。その事で永沢から嫌味を言われるものの、リリィに庇って貰えたのだった!!
リリィは昼休みはクラスメイトの女子達と一緒に遊んでいた。藤木は昨日の時のように寂しく思う事はなかった。何しろこの日は放課後リリィの家に招待されたのだから、自分とリリィの二人だけの時間が楽しめると思うと嬉しく思うのだった。
「藤木君」
永沢が不意に呼んだ。
「な、何だい、永沢君!?」
「君、今日は何か良い事でもあったのかい?」
「い、いや、そんな事ないさ!!」
藤木はまた誤魔化した。
藤木は放課後、自分が掃除当番だった事を思い出した。
「あ、リリィ、今日、僕掃除当番だったんだ?」
「ソージトーバン?何それ?」
「教室の掃除をするんだよ。順番でだれが掃除するか決まってるんだ」
「そうなの?日本じゃ自分達で掃除するのね」
「そうなのかい?」
「ええ、イギリスの学校では掃除してくれる業者さんがやってくれるのよ」
「いいなあ、イギリスは・・・」
「でも、自分達で掃除するのはいい心掛けだってママが言ってたわ」
「そうなんだ。終わるまで待っててくれるかい?」
「ううん、折角だから手伝うわよ」
「いいのかい?ありがとう」
「私も一緒にやれば早く終わるでしょ?」
「う、うん、そうだね!」
藤木は掃除当番になるとはツイていないと思っていたが、リリィも共にする事になり、少し嬉しくなった。リリィは掃除係の前田ひろみから雑巾を借りて窓拭き,床の雑巾がけなどをやっていた。掃除をしながらリリィはある事を思う。
(もし『あれ』を見せたら藤木君はどう思うかしら?)
その一方、藤木はリリィと掃除ができる事に喜びを感じ続けていた。
(リリィと一緒に掃除できるなんて・・・。こんな良い事あるのかな?)
「藤木君」
「な、永沢君!?」
永沢が不意に呼び掛けてきた。
「君、何ニヤニヤしているんだい?」
「あ、いや、何でもないさ!」
「兎に角、ボーっとしないでくれよ」
藤木はリリィの事ばかり考えていた為に箒で掃いている自分の手が止まってしまっていた。
「う、うん!」
藤木は我に返り、掃除を再開した。
掃除は終わった。リリィが手伝った頃で掃除係はいつもより掃除が捗ったとかなり上機嫌だったそうだ。
「藤木君、お疲れ様」
藤木は赤面しながら答える。
「あ、ありがとう・・・。それじゃあ、一緒に行こうか」
「でも藤木君、そのまま家に帰らずに直行して大丈夫なの?」
「うん、両親は共働きで夜遅くまで帰ってこないからね」
「そうなんだ・・・。お父さんもお母さんも大変ね」
「う、うん・・・」
2人はリリィの家に到着した。
「ただいま~」
「お邪魔します」
「お帰り、あら、あなたは確か藤木君ね」
リリィの母親が出迎えた。
「はい、こんにちは」
「まあ、いらっしゃい。よく来てくれたわね」
藤木はダイニングへと通された。そこへケーキと紅茶をご馳走になった。ケーキは生クリームが塗られており、ショートケーキのようだったが、苺ではなく、ブルーベリーが乗っていた。
「うわ、このケーキ美味しいですね」
「うん、ママの好きな製造者のケーキなの。他のケーキや焼き菓子もあるわよ」
「へえ、いいね。羨ましいよ。ウチじゃこんな美味しいもの食べられないからね」
「この紅茶も美味しいですね」
「それは三重県で栽培された伊勢紅茶よ。ストレートのままでもミルクを入れても美味しいのよ」
リリィの母が答えた。
「へえ、日本にも紅茶を生産しているんですね」
「ええ、静岡県もお茶が有名でしょ。緑茶にして飲む人が殆どだけど、紅茶にしても美味しいのよ」
「へえ、静岡県生まれなのに初めて知りました」
紅茶を飲み終え、ケーキを食べ終わった。
「藤木君、私、藤木君に見せたいものがあるの。私の部屋に来てくれるかしら?」
「うん、ありがとう」
藤木はリリィに彼女の部屋へ連れて行ってもらった。
「藤木君、私が初めてあなたと会ったとき覚えてる?」
「あ、うん、僕は花輪クンの別荘のビーチで貝殻を拾っていたんだ。そしたら君がやって来たんだったね」
「そう、そして営火の夜にまた会ったとき、あなたは私に貝殻をプレゼントしてくれたわよね」
リリィはそう言って机に置いてある瓶を持ってきた。その中にはあの時、藤木がリリィにあげた貝殻が入っていたのだった。
「名前は忘れていたけどこの貝殻をくれたあなたの顔はしっかりと覚えていたの。そしてこの貝殻もずっと宝物として大切にしていたのよ」
「そうだったんだ・・・」
藤木はこの貝殻を思い出して嬉し涙を流してしまいそうになった。
「リリィ・・・、大切にしてくれて、ありがとう・・・」
「藤木君も私のことを覚えていてくれてありがとう」
「うん、でも花輪クンじゃなくて、がっかりしたんじゃないのかい?それに僕は卑怯だし・・・」
「卑怯?そんなことないわよ。昨日私のために必死で庇ってくれたんだもん、嬉しかったわ。確かに花輪クンも素敵だけど貴方も優しいところ、あるのね」
「リリィ・・・」
藤木は嬉し泣きしてしまった。なぜなら一度消えた恋が蘇ったのだから。
花輪家では花輪が紅茶を一杯飲んでいた。
(リリィクン、きっと藤木クンと楽しい一時を過ごしているのかな・・・)
そして花輪は思う。
(藤木クンも良かったじゃないか。想い人とまた会えたんだから・・・)
リリィは瓶の貝殻を見る。
(藤木君、私、今度はもう藤木君の事、忘れないわ・・・)
リリィはラブレターの件で彼の名前を忘れてしまった事を反省すると共に、藤木に対して他の友達とはまた異なった想いを抱くのであった。
藤木はその後、お土産にリリィの母からパウンドケーキを貰って家に帰った。藤木は帰りながら思う。
(僕がリリィに貝殻をあげた事は無駄にはならなかったんだ・・・。ありがとう、リリィ。僕は君とまた会えたことを嬉しく思うよ・・・)
藤木はリリィに心の中で感謝するのであった。
後書き
次回:「招待」
3年4組の卑怯者・藤木茂。彼は2人の女子に恋する男子であるが、そんな彼に恋する女子もいた。その女子の名は吉川みどりと言った・・・。
一度消えた恋が蘇る時、物語は始まる・・・!!
ページ上へ戻る