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幻の月は空に輝く

作者:国見炯
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趣味が合うと仲良くなりやすい?




 そんなわけで、只今ネジと向かい合わせでクナイの意匠を考えております。何故そういう話しになったっていうのは至って単純。
 単に、じゃ、作る?という私の言葉に、それなら意匠から決める。とネジが言い出したからだ。
 多分私専用のクナイを見たからだと思う。私専用のクナイはタイプが幾つかある。使い捨てのもの。それは当然、持ち主は特定されない一般的な材料と形のクナイだ。私専用っていうぐらいだから、見るからに持ち主が特定出来るものもある。
 クナイに分類していいのか分からないけど、これは使い捨てじゃないやつだ。
 シンプルなデザインながらも、鍔や柄には拘る。段々と腕が上ればもっと細かいのも出来るようになると思うんだけど、今はこれが精一杯。
 そんな品々を見て、ネジがそれじゃあ、と言い出して一緒に顔を付き合わせて意匠を考えてるんだけど…。

「植物」
「……」
「風景」
「……」
「左右対称」
「……」
「動物」
「……」
「鳳凰や龍?」
「……」

 何も答えてくれないってなんだろうなぁ。
 いや……言葉だけじゃイメージがつかないのかも。手作りノートを持ってきて、サラサラと軽く書く。
 大まかな線だけど、何もないよりはイメージが掴みやすいはず。
 ノートを黙って覗き込むネジは、時折頷いてるから何となくだけど固まってきたんじゃないかな。
「お前は?」
「ラン」
 お前呼ばわりは嫌なので、とりあえず訂正を入れてみる。
 ついでにジッとネジを見上げてみれば、ネジは微かに眉間に皺を寄せながら蚊の鳴くような声で私の愛称を呼んでくれた。
 根負けした感じがするけど、まぁいいか。長い付き合いになりそうだし、愛称で呼ぶのに慣れて損はないと思うしね。

「俺は、気の向くまま。外にスケッチに行って、その時気に入ったものがあれば作る」
 武器だけじゃなくて、工芸品にまで手を伸ばしてたりするんだけど、それはとりあえず言わなくいいよね。
 工房の片隅じゃなくて、棚に堂々と木彫りやら何やらが飾ってあるけど、目に入ってないみたいだし。
「そうか」
「あぁ」
 しかし…無口設定をやってるとこんな時は辛いなぁってしみじみと思う。ネジも喋るタイプじゃないし、私も必要以上には話さない。
 つまり沈黙が多くなるわけだけど、ネジは一切気にならないのかひたすら私のデッサンを見てたりする。
 すごいね。この沈黙が気にならないって。六才児のはずなんだけどねー。ネジって。

「描いたものはあるか?」
 どうやら、走り書きじゃなくて他の物を見せてという事らしい。
 コクン、と一回頷き、私は棚にしまってあったノートを何冊か手に取る。自室にも何冊か置いてあるけど、とりあえずはこれだけで足りるだろう。
 自室のは今度機会があったらにしておこう。うん。
 棚から取ってきたノートを全てネジに渡して見だすのを確認した後、私はネジから返してもらった描きかけのノートにサラサラとデザインを描き始める。これはナルト用のデザインだ。
 金と銀でおそろいにして持つんだと言った時のナルトの冷たい眼差しを忘れたわけじゃないけど、その程度でめげる訳がない。
 かっこいいものさえ作れれば、きっとナルトも持ってくれるはず!
 そんな希望を忘れずに、私は一気に何枚かのデザインを描きあげた。
 気まずさから逃げる為の現実逃避なのか、今日は筆が進むなぁ。本当に。しかしネジからの視線が何とも言いがたいよなぁ…。

「何だ?」

 デッサンを見たいのか、私と話したいのかどっちだとつっこみたくなるネジの態度に、私は忙しなく動かしていた左手を止めてネジの方に視線を向けた。
「あ…あぁ」
 まさか話しかけられるとは思っていなかったのか、どもるネジ。ゆっくりでいいから話したい事があるなら話せ、とばかりの視線を向けながら、私は急かすのでもなく他の事をやりだすのでもなく、ただネジが話しだすのを待っていた。
 というか、本当に六才児ってこんなんだっけか。
 ここの子供って子供らしくないよね。
 話したい事を話さないっていうか、素直じゃないっていうか。

「どうして…初対面の俺に、日向の恩恵を預かりたいわけでもないのに、こうやって話す?」

「……」

 え、それ?
 聞きたい事って…?
 思わず無言になった私に、ネジは真面目な表情でひたすら私を見てくる。
 だからこれって子供の会話じゃないよね。そう思うのは私だけかなぁ…。
 いや、答えるけどね。
 寡黙を押し通してるからってスルーしたりはしないけどね。


「クナイに拘るのが俺と同じで、面白いヤツだと思ったからだ」
 
 さも当然とばかりに淀みなく言ってみせれば、ネジが一瞬だけ瞳を瞬く。そんなに驚くような事を言っただろうか。
 今度は逆に、私がネジの反応を待ってみる。
 時間だけがいたずらに流れている気もするが、こういう沈黙は気にならない。待たれていると思えば気になるけど、自分が待つ分には構わない。

「……そうか」

「あぁ」

「「………」」

 待ってみたけど、やっぱり沈黙だった。
 ネジの対話能力は育ってないのか。
 育ってないんだろうなぁ。

「ネジ。俺は大体ここにいる。外に出れば修行してる。
 何かなくても、来ればいい」

 だから、ネジに向けて言ってみた。
 やっぱりネジは驚いた顔をしてたけど、やっぱりそういう年相応の顔を見るのは嫌いじゃない。
 私の方も困ったヤツだな、なんて苦笑を浮かべてた。
 
「……あぁ。ラン。お前も、俺に声をかけろ。俺も大体修行してる」

「わかった。ネジ。お前もな」

 なんていうか…。
 あのネジとこんなふうに仲良くなるきっかけをあっさり得た事にも吃驚だけど、やっぱり趣味が合うと気が合いやすいのかな。
 ネジが開いたままのスケッチのページをみながら、しみじみとそんな事を思ってた。

 
 
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