ソードアート・オンライン 〜槍剣使いの能力共有〜
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SAO編ーアインクラッド編ー
04.龍使いと橙
前書き
第4話投稿!!!
使い魔を失った少女、《ビーストテイマー》のシリカ。
それを襲うオレンジ!!
二〇二四年二月二十三日 第三十五層・迷いの森
無情にも、ピナはポリゴンの光の欠片を振りまきながら砕け散った。長い尾羽が一枚ふわりと宙を舞い、地面に落ちた。
ドランクエイプが三匹同時にゆっくりと向かってくる。
(このまま死んじゃうのかな。でも、ピナがいないなら私は死んでも.....)
ドランクエイプが棍棒を振り上げたと思うと急に動きを止め、光の欠片となり同時に姿を消す。ドランクエイプが消えた先に長い槍を片手に持つ、黒衣のコートを身に纏う少年が一人立っている。
「ピナ........あたしを独りにしないでよ.......ピナ!.......」
地面に座り込み、泣きながら両手に光る青色の小さな羽を持っている少女。
「.......その羽は」
「......ピナです.......あたしの大事な......」
「君は《ビーストテイマー》なのか」
ビーストテイマーが使い魔を失った。それは、大事な人を失ったのとかわらない。
「ゴメン。君の友達助けられなかった」
「いいえ、あたしがバカだったんです。一人で森を突破できるなんて思い上がってたから」
少女はまだ、瞳に涙を浮かべながら顔をあげる。
「ありがとうございます。助けてくれて」
「その羽、アイテム名とか設定されてるか」
少女はアイテム名を見て再び泣き出す。
【アイテム名:ピナの心】
「泣かないで、ピナの心が残っていれば、まだ蘇生の可能性がある」
「本当ですか?」
「うん、四十七層の南に思い出の丘というフィールドダンジョンがある。そこのテッペンに咲く花が使い魔蘇生用のアイテムらしい」
少女は一度安堵の表情を浮かべたと思うとまた暗い顔をする。
「.........四十七層」
「う〜ん、俺が行ってきてもいいんだけど、使い魔の主人がいかないと花が咲かないらしいんだ」
「情報だけでもとってもありがたいです。頑張ってレベル上げすればいつかは」
「蘇生出来るのは死んでから三日までだ」
少女は再び暗い顔をする。
「......そんな。あたしのせいで.......ゴメンね.....ピナ」
この子にとってピナという使い魔は大事な友達。俺はもう、この世界で大切な仲間を失ったところを見たくないんだよ。
(この手で救える命があるなら......俺は)
「大丈夫、まだ三日もある。これなら五、六レベルは底上げ出来る」
俺は自分が持つ装備、《イーボン・ダガー》、《シルバースレッド・アーマー》、《ムーン・ブレザー》、《フェアリー・ブーツ》、《フロリット・ベルト》を少女に渡す。
「なんで、そこまでしてくれるんですか?」
少女は立ち上がり、俺に聞く。
「もう.......この世界で誰も悲しんでほしくないから」
少女は自分のこの世界での金、コルを払おうとする。
「あの、こんなんじゃ、全然足りないと思うんですけど」
「いや、いいよ。俺がここに来た理由ともかぶらないでもないから」
「あっ、あたしシリカって言います」
少女、シリカが手を差し出す。
「俺はシュウ、しばらくの間よろしくな」
第三十五層・ミーシェ
「おっ!シリカちゃん発見!」
街を歩いていると冴えなさそうな二人の男がシリカに近づく。
「ずいぶん遅かったんだね。心配したよ」
「......あっ、あの」
「今度、パーティー組もうよ。好きな所連れてってあげるから」
だいぶシリカは困り顔をしている。
「お話はありがたいんですけど」
シリカが俺の顔を一度見上げたあとに男たちの方を見て口を開く。
「しばらくこの人とパーティーを組むことにしたので」
シリカが俺の腕を掴むと二人の男が俺の顔をすごい目で睨んでくる。
「すみません」
シリカが申し訳なさそうに俺を引っ張る。
「すいません。迷惑かけちゃって」
「君のファンか。人気者だな」
シリカは下を俯き言う。
「いいえ、マスコット代りに誘われてるだけですよ、きっと.......それなのに《龍使いシリカ》なんて呼ばれていい気になって」
シリカが足を止める。また、目に涙を浮かべる。
「心配ないよ。必ず間に合うから」
シリカの頭に手をのせ、撫でる。
「はい」
「シュウさんのホームって」
「俺はホーム特にないんだよ。転々と適当な層で寝泊まりしてる」
「そうですか。ここチーズケーキが結構いけるんですよ」
シリカが無邪気な笑顔で笑う。
「あ〜ら、シリカじゃな〜い」
その声を聞いた途端、シリカの顔色が曇る。
「ヘェ〜、森から脱出出来たんだ。よかったわね〜」
「どうかしたのか?」
「いえ、別に」
「あれ、あのトカゲどうしちゃったの?もしかして」
赤髪の女性がこちらに近づいてくる。
「.......ピナは死にました。でも絶対に生き返らせます」
「ヘェ〜、ってことは思い出の丘に行く気なんだ。でも、あんたのレベルで攻略出来るの?」
シリカはまたも泣きそうな顔をする。
「できるさ。そんなに高い難易度じゃないし」
「あんたもその子に垂らしこまれた口。見たとこそんなに強そうじゃないけど」
「行こう」
女を言葉を無視してシリカを連れて行く。
シリカがオススメの店に入り、席に腰を下ろす。
「何であんな意地悪言うのかな」
少し間を開けて口を開く。
「君はMMOはソードアートオンラインが始めて?」
「はい」
「どんなゲームでも人格が変わるプレーヤーは多い。中には進んで悪人を演じるプレーヤーもいる。俺たちのカーソルは緑色だろ、だが、犯罪を行うとカーソルはオレンジに変化する。その中でもPK(プレーヤーキル)、いわゆる殺人を犯したものは、レッドプレーヤーと呼ばれる」
シリカが驚く。
「.......人殺しなんて」
「従来のゲームなら悪を気取って楽しむことができた。でも、このゲームはわけが違う。......このゲームは遊びじゃねぇんだ」
手に持つ、湯のみを握り潰しそうになる。
「シュウさん」
「.....すまない」
「シュウさんはいい人です。あたしを助けてくれたもん」
シリカが机をまたいで、俺の手を握る。
「俺が慰められちゃったな。ありがとう、シリカ」
シリカは顔を真っ赤にして、熱くあった顔を手で仰ぐ。
「あれ、チーズケーキ遅いな。すみませ〜ん、デザートまだなんですけど!」
「シリカ、まだ起きてる」
シリカが泊まる部屋をノックする。
「しゅ、シュウさん!」
「四十七層の説明を忘れてたんだけど、明日にしようか?」
「あたしも聞きたいと思ってたところで......」
部屋のドアを開けるとベットの上に部屋着の白ベースのワンピースで座るシリカが。なぜかその顔は少し赤い。
俺は丸いテーブルを部屋の中央に移動させる。その机の上にミラー・ジュスフィアを置く。
「シリカ、どうかした?」
「いえ、なんでも。シュウさん、そのアイテムは」
「ミラージュ・スフィアっていうんだ」
ボタンを押すと、光が現れ、それは球体を描く。
「うわぁ、綺麗」
ミラージュスフィアは47層の地図を描く。
「ここが四十七層の市街区、こっちが思い出の丘、でこの道を通るんだけど......」
言葉を切る。
「シュウさ......」
「しっ、誰だ!!」
勢いよく扉を開けると階段の方に消える人影の姿が。
「なん、ですか?」
「聞かれていたな」
「でも、ノックなしだとドア越しの声は」
「ノックなしでも聞き耳スキルが高ければ別だ。そんなのあげてるやつなかなかいないけどな」
「なんで立ち聞きなんか」
(もしかしたら奴らの狙いは........)
二〇二四年二月二十四日 第四十七層・フローリア
そこは一面花に囲まれた街だ。
「うわぁ、夢の国見たい」
「この層はフラワーガーデンと呼ばれていてフロア全体に花が咲いてるんだ」
はしゃぐ子供のようにシリカは花を見る。
「......シリカ」
「お待たせしました」
「どうした、顔赤いぞ?」
シリカは照れ隠しのように髪を直す。
「いえ、なんでもありません」
「それじゃあ、行くよ」
「はい」
「これは」
俺はシリカに青色の立方体の結晶、転移結晶を渡す。
「もし、予想外のことが起きて俺が離脱しろって言ったら、必ずどの街でもいいから飛ぶんだ」
「でも......」
「約束してくれ」
「わかりました」
シリカは少し、不安そうな顔で転移結晶を受け取る。
「じゃあ、行こう。この道をまっすぐ行けば思い出の丘だ」
少しの沈黙の中、シリカが口を開く。
「シュウさん」
「きゃあぁぁ!!」
急にシリカ叫び声がしたと思うとシリカが花のモンスターの二本のツルに足を取られている。
「落ち着いて、シリカ。そいつすごく弱いよ」
シリカは宙逆さずりにされており、スカートの裾を左手で押さえながら右手の短剣(ダガー)を振り回す。
「シュウさん!!助けて!!見ないで!!助けて!!見ないで!!」
「それは無理だ」
「この、いい加減にしろ!」
シリカは裾を押さえていた左手で一本のツルを掴み、右のダガーで切り裂く、続けてもう一本、そして本体にソードスキルを放ち、倒す。
「見ました」
すごく恥ずかしがっているシリカ。
「見てない」
「ここが思い出の丘だ」
シリカは、思い出の丘の石碑まで走る。石碑の前で止まるとそこから花が姿を現す。
「手にとってご覧」
その花を手に取る。
【アイテム名:プネウマの花】
「これでピナが生き返るんですね」
「あぁ」
「よかった」
シリカは花を持ちながら安堵の表情を浮かべる。
「でも、この辺は強いモンスターが多いから街に戻ってから生き返らせよう。ピナだってきっとその方がいいだろ」
「はい!」
シリカが笑顔でこちらを向く。街に戻るため、思い出の丘に行く時も通った橋を通るとやはり奴らがいた。
シリカの肩を掴み止める。
「シュウさん?」
「そこで待ち伏せてる奴、出て来いよ」
木の影から街で会った赤髪の女性が現れる。
「ロザリアさん!?」
「あたしのハイリングを見破るなんて、中々高い索敵スキルね、剣士さん。その様子だと、首尾よく《プネウマの花》をGETできたみたいね。おめでとう」
その時、ロザリアの顔色が一気に変わる。
「じゃあ、早速、花を渡して頂戴」
「な、何を言ってるんですか!?」
シリカが声をあげる。
「そうは行かないな、ロザリアさん。いや、オレンジギルド《タイタンズハンド》のリーダーと言ったほうがいいかな」
ロザリアが感心したようなに、ヘェ〜、という。
「でも、ロザリアさんはグリーン」
「簡単な手口だ。グリーンのメンバーを獲物に繕い、オレンジが待ち伏せてるポイントまで誘い込むのさ。夕べ、俺たちの話を盗み聞きしてたのはあんたの仲間だろ」
「じゃあ、この二週間一緒のパーティーにいたのは」
シリカも気づいたみたいだな。
「そうよ、戦力を確認して、冒険でお金が溜まるのを待ってたの。一番楽しみな獲物のあんたが抜けて残念だったけど、レアアイテムを取りに行くっていうじゃない。でも、そこまでわかっててその子に付き合うなんてバカァ〜、それとも本当に垂らしこまれちゃった」
「いや、どっちでもないね。俺はあんたを探してたんだ。ロザリアさん」
「どういうことかしら」
「あんた十日前に《シルバーフラグス》っていうギルドを襲ったな。リーダー以外の四人が殺された」
「あぁ、あの貧乏な連中ね」
「リーダーは朝から晩まで最前線の転移門広場で泣きながら仇討ちをしてくれる人を探してた。彼はあんたらを殺すんじゃなく、牢獄に入れてくれと言ったんだ。あんたに奴の気持ちがわかるか?」
「わかんないわよ、マジになっちゃってバカみたい。ここで人を殺したって本当に死ぬなんて証拠なんてないし、それより、自分たちの心配した方がいいんじゃない?」
ロザリアが指を鳴らすと木の影に隠れていたオレンジギルド《タイタンズハンド》のメンバーが七人現れる。
「シュウさん!人数が多すぎます。脱出しないと!」
「大丈夫、俺が逃げろっていうまではクリスタルを準備してここで待ってて」
「でも、シュウさん!!」
背中に背負っている、槍を引き抜く。
「シュウだと!?黒衣の服装、楯無、まさかコイツ!?《槍剣使い》!?ロザリアさん、コイツ、ソロで前線に挑んでる攻略組の!?」
「攻略組がこんなところにいるわけがないじゃない!!」
馬鹿なこいつらの声を聞いていると口が緩む。
「ホラとっとと始末して身ぐるみはいちゃいな!!」
同時にタイタンズハンドの七人が襲いかかる。
「.......遅ぇんだよ」
槍を前へと突き出し、地を蹴りシステムアシストで三回連続移動。
槍三連突撃技《トリシューラ》
「う、嘘だろ」
「あ、ありえねぇ」
俺の槍がとらえたのはタイタンズハンドの七人の体ではなく.......武器。
武器破壊(アームブラスト)......その名の通り、武器を破壊するシステム外スキル。俺はタイタンズハンドの七人の武器を全て破壊した。
「そんな、貧弱な武器じゃ俺にダメージはおろか俺の武器にすらダメージを与えられねぇぞ」
タイタンズハンドの七人は戦う武器を変更し、再び俺を襲う。
同時に三人が武器を振り上げる。その瞬間、槍の中心部を両手で持ち上へとあげ、その場で高速回転させる。
槍回転技《ブリューナク》
さらに三人の武器を同時破壊。
残るは四人。再び、槍三連突撃技《トリシューラ》で四人の武器破壊する。
タイタンズハンドの七人は戦う武器がなくなる。それもそのはずだ。アイテムストレージは極力減らしておかなければアイテムを奪うことができない。そもそも、武器破壊などそんなもの考えていなかっただろう。
「これは俺の依頼人が全財産を果たして買った回廊結晶だ。監獄エリアの出口に設定したある。全員これで牢屋に飛んでもらう」
「グリーンのあたしを傷つければあんたがオレンジに......」
刹那!!
ロザリアの首元に高速で入れ替えた片手剣を突きつける。
「言っとくが俺はソロだ。オレンジになったところで問題なんてねぇんだよ」
ロザリアは諦めたようにこちらに向けていた槍を手放す。
「俺の出番はないみたいだな」
木の陰にいた黒いコートを身に纏った少年が現れる。
「そうみてぇだな。キリト」
「ゴメンな、シリカ。君を囮にするようなことになっちゃて。俺のことを言ったら怖がられると思ったんだ」
シリカは首をふる。
「シュウさんはいい人だから、怖がったりしません」
シリカはまた少し暗い顔をする。
「やっぱり、行っちゃうんですか」
「あぁ、五日も前線から離れちゃったからな。すぐに戻らないと」
「攻略組なんてすごいですね。あたしなんて、何年経っても無理ですよ。.......あの、あたし......」
「レベルなんてただの数字にすぎない。この世界での強さは単なる幻想にすぎない。そんなものよりもっと大事なものがある。次は現実世界で会おう。そしたらまた、友達になろう」
「はい、きっと必ず」
シリカが笑顔でこちらを見る。
「さぁ、ピナを呼び戻したあげよう」
「はい!!」
シリカが《ピナの心》と《プネウマの花》を取り出す。
《プネウマの花》の蜜が《ピナの心》に触れると光る。
その光は優しく、暖かい光だった。
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