歪んだ世界の中で
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第七話 洋館の中でその九
その話をしてだった。希望にだった。
いつもの明るい笑顔に戻ってだ。告げたのだった。
「皆と一緒だから。皆の声や空気を感じられるから」
「森林浴かな」
千春の今の言葉は具体的にそうなると。希望は考えた。
それでだ。今はだった。千春の手を。自分から握ってだった。
「じゃあ一緒にいよう」
「今日はここでよね」
「うん。一緒にいよう」
こう提案したのだった。千春のその右手首を自分の左手で握り締めて。
「植物園の中をね。全部ね」
「周るのね」
「それでどうかな。運動にもなるし」
千春も楽しめる。だからだった。
そのことを話してだ。希望は千春の手を引いて。
前に出た。そして千春もだった。
希望のその動きに合わせてだ。彼女も前に出たのだった。二人の動きが一つになった。
そのうえで二人でだ。植物園の中を周っていく。そうしてだ。
昼になり休憩に入った。休憩に選んだ場所は。
喫茶店、植物園の中のそこだった。屋外の形、鏡のハウスの中にあるがだ。
その喫茶店の二人用の席に座ってだ。そこでだ。
希望はコーヒーを頼んだ。二つだ。そしてそのコーヒーを飲んでだ。千春は言った。
「コーヒーもね」
「千春ちゃん好きだよね」
「お茶も好きだけれど」
前に飲んだ、だ。紅茶のことを思い出しながらの言葉だった。
「コーヒーもね」
「それもだよね」
「そう。コーヒーも好きなの」
「嗜好品が好きなの?」
「ううん、そうじゃなくてね」
嗜好品だからではないというのだ。千春がお茶やコーヒーが好きなのは。
「皆の味がするから」
「皆の?」
「お茶の皆とコーヒーの皆の」
それでだというのだ。好きだというのだ。
「心があるから」
「お茶やコーヒーの」
「そうなの。美味しいものを皆に飲んでもらいたいっていうね」
「それがあるからなんだ」
「そうなの。だから好きなの」
つまりだ。それは何かとだ。千春は希望にこのことも話した。
「皆の心を飲んでるから」
「それでなんだ」
「希望も皆の心飲んでるんだよ」
彼もだ。そうだというのだ。
「そうしてるんだよ。どうかな」
「そのことに気付けば」
「そう。どうかな」
こう尋ねるのだった。希望に対して。
「美味しいよね。そうだよね」
「うん。これまでも美味しいって思ってたけれど」
美味しくなりたいというだ。茶やコーヒーの心があればどうかというのだ。
このことをわかるとだ。今のコーヒーの味もだった。
「違うね」
「美味しいよね。前よりもずっと」
「うん、美味しいよ」
実際にそう感じることができていた。希望も。
そしてそのうえでだ。彼は言うのだった。
「これがコーヒーの心なんだね」
「そうだよ。心は何よりも美味しいんだよ」
「うん。それじゃあ」
「これからは」
「これからは?」
「コーヒーの心を頂いてね」
そしてだった。心を味わってからだった。
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