| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

エターナルトラベラー

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

外典 【H×H編】その2

1999年8月下旬。

「テトラ、用意なさい。ヨークシンへ行くわよ」

バタンと扉を開けてテトラに与えられた自室へと入って来たネオンは開口一番そんな事を言った。

「ヨークシン、なんで?」

疑問の声を上げたテトラの容貌はこの数年でとてもネオンに似ていた。

初見では双子と言われても分からないだろうほどに。

なぜそんな事になったのかは分からない。遺伝子的には赤の他人のはずだし、連れてこられた時は確かに別人と判じられたはずだ。

だが、ともに生活し護衛と言う名の遊び相手として四六時中一緒に生活していく中で少しづつテトラは変化していったのだった。

それがさらにテトラをネオンの護衛兼影武者と言う役割に縛り付ける事になったのだが、テトラは別に構わなかった。

ネオンと同じものが食べられると言う事はとても美味しいものが食べられると言う事。それはあの時死にかけていた彼女には到底叶わない夢であったからだ。


「競売があるのよ。今年は自分で競り落とすのっ!楽しみだわ」

「なるほど…また趣味の悪いの増やすの?」

「趣味の悪いとは何よっもう。テトラには分からないかなぁ」

プンスカ怒っているけど、人体収集は悪趣味と言っていいと思う。

つまりネオンは9月1日(水)から始まるヨークシンシティでの裏競売に出ると言っているのだろう。

どうにかネオンをなだめすかしているとドアのノック音が響く。

「ボス、新入りを連れて来ました」

この声はダルツォルネだろう。

ネオンは少し逡巡したあとどうぞと答えた。

ダルツォルネに続いて新しい護衛が四人入って来る。

ネオンは余り興味が無いのかベッドに座ったわたしを後ろから抱きかかえる感じで体重を預けて怠惰のポーズ。

ベッドの前に片膝を着いたダルツォルネその後ろに控えるのが新しい護衛だろう。

えーっと…色気のあるお姉さんと男くさい髭、すこし愛嬌のある太めの女性と綺麗な女の子…いや男の子が控えた。

それぞれヴェーゼ、バショウ、センリツ、クラピカと自己紹介をする。

試験に合格して雇い入れられたと言う事は皆念能力者なのだろう。

「それで、どちらがボスなのか」

とクラピカと名乗った少年がダルツォルネに問いかけた。

その言葉にちっと舌打ちしてダルツォルネが答える。

「上に乗っておられるお方だ。下のは似ているが妹でも何でもない。ただの護衛、影武者だ」

「なるほど、理解した」

そう言ってクラピカは下がったがその視線はどこか険しい。

新しい護衛を引き連れて飛行船でヨークシンへと向かい、空港からは車でホテルへと移動する。

その社内でダルツォルネはネオンにいつもの仕事の催促だ。

ネオンは念能力者だ。しかし戦闘能力は無いに等しい。

しかし彼女の能力は稀有だった。

ラブリーゴーストライター(天使の自動筆記)と言う四篇の詩からなる一か月の予言。その的中率は高くそれ故に裏社会でも重宝されノストラード組はのし上がってこれたのだ。

一応ネオンの父が組のトップではあるのだが、ネオンに頭が上がらない状態だ。

テトラが買われたのもネオンを失う事を恐れた父親が故だった。

ヨークシンシティに着き、滞在するホテルに着くとネオンの父から伝言が有りダルツォルネはネオンの地下競売への参加を取りやめるように言伝た。

そうするとネオンはもう喚くは泣くは物は壊すはと大変な事に。

それでも強硬に地下競売への不参加を譲らないあたりきっとネオンの占いで良くない事が書いてあったのだろう。

ネオンのラブリーゴーストライターは自身の事は占えないが、他者の占いの結果から推測する事は可能だ。

つまり何人かの占いで地下競売に対する死の啓示が出たのだろう。それをネオンの父は警戒しているのだ。

結果ネオンは不貞腐れて寝てしまっていた。

荒らしに荒らした室内をお手伝いさんが片づけるとテトラはネオンと二人きりになる。

ネオンが他の人を追い出した感じだ。

「さて、テトラ行くわよ」

「行くって、どこに?」

「勿論地下競売よ」

「でも出られないよ?」

外はダルツォルネが見張っている。

「テトラならあたしを連れて抜け出せるでしょ」

「でも入場許可証が」

「それはオレが用意しておいたぜ」

そう言ってスっとどこからともなく忍び込んで現れたのはハンゾーだ。

「あ、は…は…ハゲゾー」

「ハンゾーだっ!」

ハンゾーはノストラード組の組員でも護衛でもないが、テトラの舎弟ではあるのでテトラのボスであるネオンにだけは紹介していたし他の人物の気配がない場合は直接ネオンの前に現れる事もあった。

「どうせ、こうなったらお嬢様は言う事を聞かないからな」

「さっすがハゲ、話が分かるっ!」

「ハンゾーだっ!それにこれは禿じゃ無くて剃ってるのっ!」

「まぁ名前なんてどうでも良いわ。テトラとあなたなら誰にも悟られずに抜け出せるでしょう」

「でも、わたし達はお金を払えない」

「品物はあの護衛達が競り落とすので我慢するわ。ただあたしもその場に居たいのよ」

結局最終的テトラはネオンのお願いを拒否しない。

それにわたしの占いでは死を暗示する詩は出てないからね。

一応月初めにテトラはネオンの占いを受けるとネオンの父が決めた。

殆どの時間を一緒に居るテトラを占う事で間接的に占おうと言う事らしい。しかもこれが結構バカに出来ない成果を上げていた。

そう言う意味ではハンゾーの襲撃は最初から警戒されていたものだった。

部屋には影分身と変化の術でネオンのダミーを寝かせて三人はホテルの窓から外へと出る。高層のホテルは夜ともなると肌寒くその高さがいっそうに引き立てていた。

ネオンをお姫様抱っこしてホテルの側面をまるで地面かのように歩いて地上へ。

「いつも思うけれど不思議な光景ね」

「ネオンも修行すれば出来るようになる」

「やーよ、めんどくさいもの」

その後ろにはハンゾーが同じように壁を歩いて控えていた。

「念とは奥が深いぜ…とは言えほとんどの念能力者はこんな事は出来ないんだがな」

「そうなの?」

「そうだ。お前がおかしいんだお前が」

「ハゲも出来てるじゃないの」

とネオン。

「出来ると分かって修行すればな…それでも結構難しいんだぜこれ」

「そんな事無い。壁昇りの業は初歩も初歩、常識」

「何処の常識だよどこの」

「…さあ?」

テトラの中では常識であるが、それに対する答えをテトラは持っていなかった。

偽造したのか盗んだのかは分からないが、ハンゾーが用意した許可証で地下競売へと入る。

勿論三人とも組の構成員に見つかっても面倒なので変装してだ。

裏取引のようなヤバイ物が並ぶ地下競売の会場は招かれた人物たちとは裏腹に簡素なパイプ椅子が立ち並ぶ。

安椅子に左からハンゾー、ネオンと腰かけ最後がテトラだ。

「ねー、まだー?」

「もう少しだと思う」

「早く始まらないかな」

そう言ったネオンだが、疲れていたのか寝息が聞こえて来る。

始まったとしても目当ての商品がセリに出されるにはまだ時間がある。喚かれても面倒だから寝かしておこうかと考えていると遠くの檀上に上がる黒いスーツの男が二人マイクに向かって歩いて行く。

1人は小柄で、もう一人は本当に同じ人間だろうかと疑うくらいプロポーションががっちりした大男だ。

「お、おいテトラ」

ハンゾーがテトラを振り向く事無く正面を見て注意を促す。彼の忍者としての勘がなにかヤバイと告げていた。

余りにも自然に、ただ雑草を間引く程度と同義とでも言うような軽やかさでその大男はこの会場に敷き詰められたような人へと向かって散弾の嵐を放った。

それは常人では無しえない念での攻撃。念弾だった。

念弾が放たれた瞬間、ハンゾーはネオンを私の肩がしっかり触れる程倒し込み自身も堅で防御力を上げている。

わたしはと言えば念の散弾が到達するよりも速く印を組み上げた。

飛雷神の術っ!

瞬間、わたしに触れているものが全てその地下競売から姿を消した。

「はぁ…はぁ…はぁ…」

玉の汗を浮かべているハンゾー、息も荒い。

「ふぎゃっ!な、なにっ!?競売はっ!?」

滞在先のホテルのベッドに転がったネオンはその衝撃で目が覚めたようで辺りを見渡していた。

「あいつらヤベーだろ」

「ちょっとハゲ、何があったのよ説明しなさい」

「バッカっ!お前なっもうちょっとで死ぬ所だったんだぞっ!?」

「はぁ?バカはあんたでしょう。テトラが居るんだから大抵の事は平気よっ」

「そりょあそうだろーよっ!テトラが平気な所までお前さんを運んだんだ。あのまま会場に居たら確実に死んでたぜ」

「ほ、本当に?」

と言うネオンの言葉にテトラは頷いた。

念のためホテルに目印のクナイを置いておいて良かった。

飛雷神の術。それは印を刻んだ所へと逆口寄せする事で移動する一種の瞬間移動技だ。

この技の習得にはテトラは心血を注ぐ勢いで修練しようやく身に着けたその技はやはりこう言う時にはかなり役に立った。

「じゃあ競売は中止かしら」

「まぁ今日の分はね」

「そんなー…楽しみにしていたのに。つまんないつまんない」

そう言うとネオンはボフリとベッドに沈み込んだ。

「それだけ悪態がつけるお嬢様はやはり大物だな…さてオレはちょっくら外に出てくるわ」

「うん、お願い」

「へーへー、任されましたよ」

シュタッと影だけを一瞬残してハンゾーは消える。

「うー…あたしのオークション」

うん、本当にネオンは大物かも…欲望に素直な所とか特に…

ハンゾーくんが少し調べた事を連絡してくれた事を纏めると、競売を襲ったのは幻影旅団と呼ばれる盗賊団でおそらく念の使い手の集団だと言う事。

マフィアを束ねる十老頭は最強の武闘派集団である陰獣を差し向けたらしいがその半分はすでに殺されたのではないかと言う事だ。

「オレはすぐにここを立ち去る事をお勧めするが」

「無理だね」

「だよなー、そのお嬢様じゃなぁ」

コツリコツリ、複数の人の足音が聞こえて来る。

「誰か来たな」

そう言った次の瞬間、ハンゾーの姿は消えていた。流石一流の忍だ。

コンコンコン

「ボス、入りますよ」

最初入って来たのは確かクラピカと名乗った少年だ。

それから数人護衛が入ってくるがダルツォルネの姿が無い。

クラピカ達はわたしの膝を枕に眠っているネオンに用事があると言う。

仕方がないので眠っているネオンを起こした。

彼らの話を纏めると競売会場に居た人は何故か忽然と消え去りもぬけの殻になっており参加していた護衛三人も行方不明。

盗まれた競売品を追って幻影旅団の一人を拉致監禁したが逃げられてしまい恐らくそこでダルツォルネは殺されただろうと言う事だ。

そう言う事情なので指示が欲しいと言う事らしいが、そう言う事はネオンは壊滅的だ。

それこそ面倒だから自分の父親に電話するから適当に決めてくれ、と言う事らしい。

ダルツォルネが死んだために誰が電話に出るかで揉め誰もなり手が居ないようだ。

古株のスクワラすら断っている。

護衛と言うくくりで言えばダルツォルネの次に長いのはわたしだけど、わたしが電話するのも違うだろうし。

仲間内で推薦されたクラピカが代表してネオンの父親と電話するようだ。

電話口での話し合いの後クラピカがダルツォルネの後を継ぐ事が決定したらしい。

「どうでも良いわ、テトラ以外は誰が護衛でも関係ないし」

その言葉はテトラなら自分の事を絶対に守ってくれるという信頼からだろうか、それともただ付き合いが長いからなのか。

クラピカが最初にやったのは部屋の移動だ、チェックアウトはせずに他の階へと部屋を取った。間取りはそう変わらないらしい。

クラピカは一人前の部屋に残るようだ。

しばらくするとクラピカは誰かを伴ってホテルを出て行ったようだ。

荒野の岩山の上に音も無く佇む二つの影。

テトラとハンゾーは気配を殺し窪地で対峙するクラピカと幻影旅団であろう誰かを見下ろしていた。

当然本体では無く二人とも影分身である。

「クラピカか」

「知ってるの、ハンゾーくん」

「一応オレの同期だな」

「…?」

コテンと首を傾げるテトラ。

「ハンターのさ。なかなかの使い手だったが、あれほど危うそうなヤツでは無かった気がしたんだがな」

念能力は恐らくそのハンター試験の後に覚えたのだろうとハンゾー。

実力差は明白だ。

普通に戦えば100%クラピカが負ける。だが…

「誓約と制約かな」

「だろうな、どうにもクラピカは幻影旅団に恨みを抱いていると言う噂を聞いたからな」

「なるほど」

幻影旅団特攻能力であるなら地力の差をひっくり返せる。それが念能力のポテンシャルの高さだ。

二人の戦いを見届けると二人は影分身を解いて現場を去った。



ネオンの父親が到着した。

彼の決定もありオークションが中止となったヨークシンからネオンはホームへと帰る事に。

ぶつくさ言っているが開催されないのなら仕方ないとネオンは納得したようだ。

ネオンの父親に残るように言われたテトラとクラピカは彼の要望で十老頭が集める蜘蛛狩りへ参加して欲しいと言う事らしい。

一応わたしを買ったのはこのパパさんだからなぁ…バショウとセンリツと言う名の護衛二人が付き添うらしいが、一応護衛にハンゾーくんを回そう。

仕方ないと言う事を聞く事にしてクラピカと現地へと向かう。

その道中、車内にて。

「君も念能力者なのか?」

「当然、そうじゃ無ければわたしはネオンの傍に居ない」

「信用しても良いのか?…あだっ!」

ジンジンとクラピカの頭から煙が出ているくらいの衝撃が走った。

クラピカがテトラを見ると左手が何かを弾いたかのように向けられていた、それは所謂デコピン後の指を形をしているようだ。

「念を覚えたばかりのひよっこに心配されるほどじゃない。それにわたしの方がお姉さん」

「いや、どう見ても年し…あだぁっ!」

「次は無い」

「了解した」

競売が行われる会場の一つに到着すると他の殺し屋が居る場に引き合わせられた。

本来は殺し屋を雇う所にノストラードのパパさんが無理やりねじ込んだらしい。

その為敵愾心もひとしおだ。

ざっと見渡す。

使えるのはこのベレー帽の人くらいかな。

そして最後に入室してきた二人組。この二人は別格だ。能力者としても…そして殺し屋としても。

ちなみにこの会場にはパパさんも同行しているが、わたしとの相性は余りよくない。なのでお相手はクラピカくんにお願いして会場をプラプラと歩き回る。

幻影旅団のハントと言っても結局連携は取れずに個人行動となった。

盗賊である彼らはきっと追わずともこの競売場近くにはやってくるはずである。

待てば海路の日和ありってね。

プルルルル

携帯電話の着信音がなり相手を確認して通話ボタンを押す。

『どうしたのハンゾーくん』

『わりぃ、お嬢様を見失っちまった』

ハンゾーくん、普段は優秀なんだけどたまーに挽回不可能なミスをするよね…

どうやらネオンが行方不明になったらしい。護衛していたバショウとセンリツをもまんまと出し抜いて行方をくらませたとか。

ネオンの元にはすぐに飛雷神の術で飛ぶ事が出来る。彼女に気が付かれない所に印を付けてあるからだ。

緊急事態と言う事ですぐに飛雷神の術でネオンへと飛ぶとどこかの道路上へと出てしまった。

ネオンは…

と探すが目の前には車通りが少ない深夜に走る黒塗りの一台の外車が走るだけ。

あれか。

飛んだ直後にネオン自身が移動していた為に彼女の傍に現れなかったのだろう。

そう言えば、飛んだ直後は車の上だったかも。

仕方ないと車の追跡を開始すると、先ほど自分が居たホテルに向かっているようだ。

競売、諦めて無かったんだ…ネオンお金持ってないのにどうする気だろう。多分そこまで考えて無いんだろうな。

ホテルに着くとネオンらしき女性は連れの男性と三人でレストランへと入って行ったようだ。

しまった、ドレスコードが…

レストランでネオンを害する事は無いだろうと思いフロントへ戻ると衣装を借りすぐにレストランへと引き返す。

声を掛けてくるウェイターを無視して中へ。

三人で入って行ったはずだが男の人と向かい合う様に座っているネオンを見つけるとその肩を叩く。

「ネオン」

肩を叩かれて見上げた先の顔を見てバツの悪い表情をネオンは浮かべた。

「あちゃー、見つかっちゃったか。どんなに逃げてもテトラからだけは逃げられないわ。発信機でも付いているのかしら」

「付いてる…」

「え、うそっ!本当にっ!?」

「冗談」

「あ、なんだ冗談か。本当にびっくりしたわ」

ジロリと手前の男性を見る。アルカイックスマイルを浮かべているが、隠されている雰囲気が素人ではない。

この人、強い…?

「帰るよ、ネオン」

「えー、やだやだやだ、絶対オークション出るのっ!」

テトラにはネオンの我がままを止めるすべを持っていない。

何となく、最後はネオンの頼みを聞いてしまう自分が居た。

「ネオンさんもこう言ってますしどうです、あなたも一緒に会場に入られては」

そう手前の男、ネオンにクロロと言う名前らしいと教えてもらった男性が言った。

結局オークション開始時間が近い事からクロロとネオンに付いて会場へと向かうその途中。

素早い手刀。恐らくわたしじゃ無ければ見落とすレベルのそれがネオンへと向かって振り下ろされるその瞬間、その左手を私の右手が掴んでいた。

ゴキィ

複雑に折れただろう骨折音。

しかしそのダメージを負ったであろう本人は激痛だろうに特に表情を変えていない。

「え、なに?」

「ネオン、ちょっと離れてて」

「う、うん」

最前手は逃げの一手だけど、コイツをこのままにしておくと後で面倒な事になりそうだと感じたテトラはその左手を離さない。

左手は捨てたのだろうか、クロロは右手に大量のオーラを込めてテトラに殴りかかった。

やはり念能力者…

硬の威力で殴りかかられるそれをかわす動きで距離を取る。

ネオンの目の前に着地した瞬間片手を地面に接すると口寄せの術を行使。

ボワンと煙を立てて現れたのはハンゾーくんだ。

「ここは…」

一瞬の戸惑い、しかしすぐに状況を把握したらしい。

ハンゾーはネオンを庇う位置取りに移動した。

「ハンゾーくん。ネオンを安全な場所に連れてってくれるかな」

本来ならテトラがやった方が安全で速い。しかしそれをしないと言う事はテトラは全力で目の前のこの男を相手にすると言う事だ。

「ちょ、ちょっとうわぁあっ!?」

そう悟ったハンゾーの行動は素早い。ネオンを担ぎ上げるとすぐさま離脱。

その場にはテトラとクロロ、そして運の悪いオークション参加者が数人。

テトラがハンゾーを呼び出している間にクロロの右手に何やら本のような物が握られていた。

そしてどういう理屈なのか確かに折ったはずの左手にその負傷を窺えない。

面倒…

今は閉じられているあの本…たぶん具現化系か特質系の能力者…

どちらかと言えばそのフィジカルよりも特殊能力特化な分どんな攻撃が来るか予想もつかない怖さがある。

だがこいつはネオンに危害を加えた。それは明確な敵と言う事。

クロロは右手の本を開くといつしか風呂敷なような物を左手に握りしめていた。

本型はさらに面倒…蒐集、行使、再現。きっと能力は1つじゃない。と言うかもう二つ使ってるし。本と風呂敷は別の能力だよね。

ひらひらと揺れる風呂敷。

いつの間にか各地で銃声が聞こえている。

幻影旅団の襲撃が始まったらしい。

それが合図だったのかクロロは壁を蹴って空中へ。嫌らしい事に自分の体は風呂敷の死角に隠している。

まぁ関係ないけど。

「水遁・水断波っ!」

プクリと膨れた口からウォーターカッターもかくやの威力で撃ちだされる水弾。

首を左右に動かして点でなく面での攻撃。

拡げた風呂敷なぞなんのその念能力とて無敵ではない。具現化させたものも壊すことが出来る。特にもともと風呂敷と言う薄い布切れであるならなおの事だったがどうやら仕留めてはいないらしい。

二つに切り裂かれた風呂敷に隠れるようにしてテトラを襲うクロロ。

キィンっ

落下するクロロはいつの間にか本を閉じ左手に持ったナイフでテトラを斬り付ける。

それをテトラは忍ばせていたクナイで受け止め弾いた。

クロロは空中で死に体である。たしかにテトラも体勢を崩されているがそこで再びテトラの頬がプクリと膨れた。

出し切って無かった水断波を至近距離でぶつける。

この距離だ、再び本を開き何かを具現化したとしてももう遅い。

クロロは瞬間、強引にナイフに込めるオーラを増大させると押し負けたテトラの体勢が崩されて水断波の射線上からその体をずらすことに成功したようでテトラの水断波はクロロの頬を掠めるに留まった。

クロロはすぐさま体勢の崩れたテトラの足を狩って来る。普段なら難なくかわせるテトラであるが今はドレスコードで高いヒールを履いていた。

くっ…バランスを立て直すのが遅れた…

確実にクロロはテトラの足を壊しに来るだろう。だがそうはならなかった。

クロロの攻撃が当たる瞬間、テトラの姿が消えたのだ。

現れたのは体勢を崩した時に空中へと取り落としたクナイの傍ら。移動距離としてはそんなに離れた訳じゃ無いが、確かに一瞬でその数十センチを移動したのだ。

攻撃をすかされたクロロはすぐさま付いた片手で床を弾くように上体を立て直し距離を取った。

テトラは掌を離れていたクナイをキャッチして構えると、クロロはすでに右手に持った本を開きなおし左手には一本銛のような120cmほどの細長い棒を持っていた。

恐らく突く事を目的としているのだろう、オーラの伸縮で撃ち出すようにゴムのようなものが柄から伸びていて輪を作っている。

「ふっ」

テトラは今手に戻って来たばかりのクナイをクロロへと投げ放つが、左手に持った一本銛で弾かれ天井へと突き刺さる。

しかし、その一瞬の隙をついて手と腹素早く印を組んで大きく息を吸い込んだ。

クロロはテトラが先ほどの水刃を吐き出すと見抜いていても右足を力強く踏み込み一瞬のうちに迫る。

つまり彼の右手の武器はわたしに対してのアンチ武器…だけど。

クロロの手に持っている銛の効果は分からない、だが彼の表情や行動が自分の優位が揺らがないと言う自信の表れでありテトラの攻撃を封殺できると思っているのだろう。

だが、クロロは高速で組んだテトラの印が先ほどと全く別物だと気がついただだろうか。

「土遁・土流壁」

テトラの口から吐き出されたものは水刃ではなく大量の土砂。それもすぐに硬度をましてクロロが突き出した銛を飲み込んで固まっていく。

「くっ!」

素早く銛を手放してバックステップするがテトラが吐き出した土砂は廊下を先回りして逃げ道を塞いでいた。

土流壁からのっ!

印を組み替える。

「土遁・土流槍っ!」

創った左右の壁から複数の槍が突き出したしクロロに襲い掛かり、テトラはさらに印を組み替える。

「土遁・山土(さんど)の術」

槍の突き出した石壁事左右から挟んで押しつぶした。

挟み込んだことで互いの石壁を貫通する無数の石槍。

その突き出している石柱の数から逃げ道は無いように思える。

次の瞬間、地面が陥没するかのように砕け石壁諸共階下へと崩れ落ちて行った。

ゾッ

何かがテトラの円に触れたと認識した瞬間テトラは天井へと刺さっていたクナイへと飛雷神で飛ぶ。

天井にしっかりと足を着き見上げる階下にこちらを見上げるクロロの姿があった。

一張羅のスーツはボロボロで、体にはあちこち多少の裂傷は有るが生きていた。

テトラが先ほどまで立っていた所を見れば何かに削り取られたかのように抉られている。

どうやったのか見当もつかないが、どうやらあの強敵は複数の能力を操る事の出来る能力者と言う事で間違いない。

それでいてフィジカル面も一流…とても強くてとても厄介…

互いににらみ合った時間はどれ程のものだったか、一分か、数十秒か、数秒か。

長い一瞬が過ぎ去るとクロロは下の階を走り去って行った。

「しるしは付けたし逃げられないよ。まぁ、今日の所は痛み分け、だね」

クロロの左腕を取り押さえた瞬間に飛雷神の術の目印を付けておいたのだ。

彼は強い。だが飛雷神の術からの不意の一撃なら確実に殺せる。これ以上の戦闘はネオンが十分に逃げた以上必要ないと判断し、ネオンの元へと飛んだのだった。

新しくとった部屋にクラピカが競売品である『緋の目』を持って現れた。どうやら襲撃事件があったにもかかわらず競売が行われたらしい。

襲撃者である幻影旅団の死体が数人確認されたと言う情報が入った。

フェイクだろうね。あれ程の使い手があの程度の殺し屋に殺される訳無い。まぁ最後に入って来た二人も別格だったけど。

あの二人ならばもしかしてとテトラはそう思い、嘆息。

ないな。

ネオンは手に入れた新しいおもちゃにすごく喜んでいたが、テトラは興味が無い。

ただクラピカが複雑そうな表情を浮かべているなと言うだけの事だった。



ヨークシンシティに来てからあれだけ事件に巻き込まれていると言うのにネオンはまだ買い物がし足りないらしい。

護衛とお手伝いさんを引き連れて街へと繰り出している。

護衛にはハンゾーくんに影から守らせて、一応わたしも影分身を付けている。

本体はと言うと部屋に残ってスクワラの飼い犬をモフっていた。

この間の戦闘でのストレスを緩和するためだ。

多種多様な犬種が揃っているのでスクワラはアニマルセラピーを開いた方が良いんじゃないかな、とも思う。

スクワラはわたし以外誰も居なことを良い事にルームサービスで豪華ディナーを頼む頼む。

まぁ良いけどね。それくらいの役得は有って然るべきだし。

スクワラのワンちゃんが信用の置けないボーイの代わりに部屋の前からルームサービスを運び入れ臭いを確認。毒物などは入っていないらしい。

カワイイ。

わたしはその光景に近くの仔をモフりながら癒されていたのだが、備え付けの電話がなりその相手がクラピカからの緊急事態を告げたのだった。

どうやら幻影旅団の死体はやはりフェイクで、どうやらここに向かっているらしい。

スクワラは部屋を引き払う事も構わずにネオンのお気に入りである『緋の目』をもってすぐに部屋を出て犬たちと共に車を走らせた。

運の悪い事に車は渋滞に捕まってしまい思う様に動かない。

ぎゅうぎゅうに詰められた車内でテトラはモフモフパラダイスを味わっていたのだが、突然の来客で終わりを告げた。

運転席の窓ガラス越しにノックされ着流し腰に東洋の刀だろうそれを括り付けた男が外に出ろと告げる。

スクワラはそれには逆らわず後部座席を開け犬たちを逃がしていた。

「ああ…」

全ての犬が下車すると今度は胸元の開いたセクシーなスーツを着こなした女性が後部座席をのぞき込みテトラと視線が合った。

「あなたも降りなさい」

スクワラは既に抵抗の意思は無いかのよう。

まぁ、スクワラの能力は犬頼み。マフィアだろうが殺し屋だろうが普通の人間ならば有効だろうか相手は一流の念能力者ともなれば彼我の実力差は歴然だった。

「お嬢様とその護衛か?」

侍風の男が問う。

「あ、ああ…そうだ」

「違うようよ、お嬢様の影武者みたい」

答えないスクワラの代わりに答えたのはスクワラを羽交い絞めにしているスーツの女だ。

もう一人テトラの正面に低身長の男がこちらを警戒している。

彼らはしきりに鎖を使う念能力者の事を問いただす。

鎖を使うと言えば目に見えて鎖を巻いている最近護衛に加わったクラピカを一番に思い浮かべるだろう。

スクワラも連想したらしい。

だが、そう簡単にスクワラも言う事は無いだろうが…洗脳や催眠、記憶の読み取りなどの能力持ちが居れば変わる。

スクワラは答えていないのにわたしを護衛と判断した事を見るにスーツのお姉さんは情報収集に特化した能力持ちなのだろう。

動けば殺すと言われていたスクワラだがスーツの女性、侍からパクノダと呼ばれた彼女が何かを言った瞬間スクワラが逆上。

それを反抗と捉えたのかパクノダからノブナガと呼ばれた男が一瞬で刀を振りぬいた。

スクワラの命は彼がそうと認識する前に首が刎ねられて終わるはずだった正にその瞬間、何かがその軌道を遮った。

ギィン

信長の太刀とテトラが忍ばせていた小太刀が火花を散らす。

「あぁ?」

止められた事に驚いたのだろうか、ノブナガが言葉を漏らした。

驚いている隙に開いてる左手にクナイを持つとパクノダ目がけて投げつける。

当然パクノダは避ける為にスクワラの拘束は緩む。

その隙を見逃さずスクワラは逃亡。

「テメェ」

必殺の一撃を小娘に止められたノブナガは苛立っていたがすぐに冷静さを取り戻し刀を引いた。

「ノブナガっ!」

援護だろうパクノダが手に持った銃を発砲するがテトラの手に持った刀で弾かれ跳弾が三人目の男、コルトピを襲った。

それがコルトピがスクワラを追う動作を妨げになった事を誰が悟れたか、今この場を支配しているのは紛れもないテトラであった。

三対一だけど時間を稼がないと…じゃないわたしのモフモフがっ!

けっしてテトラのモフモフではないが。

一端アスファルトを蹴って距離を取った。

周囲はまだ車の中から人が出て来てはいないが一般人を巻き込むほどの大技は使いづらい。

それと今ここに居る自分は半分だ。この状況で影分身を回収は出来ない。

ネオンの方も心配だった。一応ハンゾーが付いているが、たまにうっかりミスをするハンゾーを信用はしても信頼は出来なかった。

空中から着地と同時に左の拳を右の掌で握り込み影を伸ばす。

「影真似の術」

テトラの影が変形すると三方向に延びる。

「影がっ」

「伸びるっ」

パクノダは銃弾で迎撃するが影は銃で撃っても効果は無い。打ち尽くしたのか次弾を装填するまでの隙でパクノダの影を捕まえた。

ノブナガ、パクノダ、コルトピへと伸びた影の内パクノダとコルトピは捕まえたがノブナガは後ろに下がってかわされてしまった。

「くっ」「動けない…」

金縛りに有ったかのように縫い留められるパクノダとコルトピ。

「パクっコルトピっ!」

ノブナガの怒声。

ノブナガが地面を蹴ってテトラに接近しようとした時、テトラは銃の引き金に指を掛けるようなポーズを取ると右斜め前方に腕を向け人差し指を引き金を引くように握り込んだ。

バンと言う発砲音の後ノブナガに迫る銃弾。パクノダの持つ拳銃が硝煙を上げていた。

当然ノブナガはその銃弾を弾く事は出来たがまさか仲間から発砲されるとはと動揺が走る。

「パク、てめぇ」

「ち、違うの体が勝手に…」

更に次弾を発砲してノブナガを襲う銃弾。

「テメェか。パクを操りやがったな…あの影か…コルトピは…」

「やられた」

パクノダと同じ姿を取っているコルトピにノブナガは若干あきれ顔だ。

「まぁ影に気を付ければ良いと分かれば簡単だな」

念ので強化した脚力でアスファルトを蹴り一足でテトラの首を斬り落とそうと迫る凶刃。

それをテトラは上体を後ろにそらして避ける。さらに避ける勢いを加味して振り上げた右足を振りぬきノブナガを攻撃するが振り戻した刀の柄に当たり両者距離を取った。

ズザザーと互いに煙を巻き上げながらアスファルトを滑り再び対峙。

テトラの影が縮んだのを確認してノブナガはパクノダに声を掛けた。

「おらパク……おいどうしたっ」

パクノダとコルトピは上体をそらし後ろにある何かに頭を強打して意識を失っていた。

「同じ動きを強要するとしても同じ位置に居る訳じゃ無い」

何もないアスファルトの上に居たテトラと車や道路のガードレールの近くに居たコルトピの差が出た感じで、上体を勢い良く反らしたテトラの動きを強要された結果自ら背後の物に頭をぶつけたと言う訳だ。

ジャラリと右足に着けたホルダーからクナイを数本取り出した。

「少し本気で行く」

この前の本の男の時は準備不足も甚だしかった。だが今回は十分に備えてある。確かに影分身を行使中で半分しかチャクラは無いがそれでもやりようは有る。

相手は自身の太刀に大層自身があるようだ。恐らく強化系能力者だろう。

絡め手は既に警戒されているけど…

テトラはクナイをノブナガを囲むように投げるとクナイはアスファルトに突き刺さり次の瞬間、テトラの姿がノブナガの前から消えた。

キィン

ノブナガの円に触れたテトラの攻撃はしかし思いもよらぬ角度からだったが、流石ノブナガの対応は見事なもので間一髪で刀と小太刀が打ち合わされた。

ノブナガが押すと体の力を抜いていたのかテトラの体が宙に浮く。

バカが、死に体だ。

返す刀でテトラを斬るがどうにも斬った手ごたえがない。

そう思うと次の瞬間にはやはり後ろからテトラの気配がノブナガの円に触れていた。

「チッ」

キィン

再び打ち合い、そしてテトラは消える。

キィンキィンキィン

振れば空振り、気が付けば死角から攻撃してくるテトラの攻撃。

原理は簡単だ。攻撃をくらう前に飛雷神の術で複数散らばせたクナイを目印にして転移しているのだ。それも高速で。

一撃耐えても次の一撃更には飛び道具までも投擲される始末。

放つ飛び道具は転移先で回収したクナイを飛ばしけん制兼移動先の変更とそつがない。

包囲網を出ようと足掻けば足掻くほど対応が遅れ着実にノブナガを蝕んでいく。

「くそっ」

相手の手数の多さに一瞬増えて無いか?などとバカな事を考えるくらいだ。

実際テトラは増えていた。

隙をついて影分身で二人に増えたまま高速攻撃を繰り返しているのだ。二対一ではいくらノブナガと言えど劣勢だった。

ノブナガに突飛な能力があったなら、展開は二転三転しただろう。

しかし刀に生きるノブナガは念能力者としての完成もやはり刀だった。

確かにノブナガは強い。並の念能力者など一刀で斬って捨てる。並み以上だとしても苦戦はしない。

それほどに完成された実力者だ。

例え相性の悪い相手でもつるんだ仲間の助けが有ればまず負ける事などあるはずも無い。

だと言うのにこの場面では仲間は気を失い倒れ、相手は自分とタメを張る能力者で相性が悪かった。

ノブナガの知らぬ事だが順次隙を見てテトラは影分身を増やしていたのだ。これではノブナガの手数が追いつかないのは道理である。

そして物量がノブナガの技量を上回った瞬間…

ブシューーーーッ

ノブナガの左手が宙を舞う。

幸い刀は右手が持っていた。残った右手を強引に振りぬきテトラを斬る。

左手はくれてやる…だが…

「取ったっ」

この一撃はテトラが消えるよりも速くテトラの首を刎ねるはずだった。しかし…

「なっ!?」

刎ねた首は血を流さず煙となって消え背後に感じたテトラの気配に既に振り切っていた刀は間に合わず残った右腕も宙に舞った。

その段になって周囲は慌てふためいて三々五々に車を捨てて逃げていく人々。

ノブナガの手から離れた刀を空中でキャッチしてノブナガの目の前に現れるテトラ。ノブナガは彼女のその赤い瞳に魅入られていた。

「負けだ、殺せ」

諦めたように地面に臥せるノブナガ。

「………帰る」

抜き身の刀を持って歩き出すテトラ。

「っておいッ!オレの刀返せよっ!」

「………?」

「ハテナじゃねーよっ!首を傾げんなっ!」

トコトコとノブナガに歩いて行くテトラはノブナガの腰に刺さる鞘の鯉口へと刃先を向けて納刀。

「お、あんがとよ」

そして鞘事引っこ抜いた。

「て、おいっ!待て待て待て」

「襲ってきておいて文句が多い」

「おう、そりゃあ悪かったな。刀が振れなくてもその刀はやれねぇ」

「……仕方ない」

トコトコ歩いて斬り飛ばしたノブナガの両腕も持ってくると切断面を確認。

「綺麗に切れてる」

「だな、綺麗すぎて涙が出てくるわ」

その綺麗な切断面を傷口と合わせるテトラ。

「ソフビ人形じゃんねーんだからくっつかねぇよ。後で仲間にって…」

違和感は突如として現れた。

「次、左手」

テトラの掌が傷口に当てられると腕の細胞同士が接着し新しい細胞が出来たかのようにまるで最初から斬られていないかのようにくっついていた。

「お、おう…」

右手もくっつけるとグーパー握りしめているノブナガをよそに振り返った。

「い、いやだから刀は…」

「治療費に貰っていく。丁度日本刀欲しかった。ありがとう」

「どういたしまして、ってちげぇよっ!」

「……?…もうノストラード組には手を出さないで。次は殺さなきゃならなくなる」

そう言うとテトラの姿は霞となって消えた。

「チクショウ…化け物かよ…………、あー…よぇえなあオレは。だが、次は負けねぇ」

残されたノブナガは茫然として呟いた。


スクワラは無事に帰還していた。犬たちも全頭無事だったようでテトラは彼らを思いっきりモフモフして楽しんだ。

すぐにヨークシンを離れた方が良いのだが結局、ごねたネオンに負けオークションが終わるまではこの街を離れられなくなってしまった。

幻影旅団の事は気になるしこれ以上の厄介事は勘弁願いたいのだが…

「なんで出なくなっちゃったんだろう」

ベッドで寝そべるネオンが不思議そうにペンを持った右手を見つめていた。

ここ数日、ネオンの念能力であるラブリーゴーストライターが発現しない。

心因的なものか、それとも他の原因か、元に戻るのか、戻らないのか。

ノストラード組の躍進の基盤はネオンの能力に得る所が大きい。それが使えない今ノストラード組はピンチに陥っていた。

ガチャリと部屋のドアが開くとここ数日で10年は老けたような顔をしてライト・ノストラードが入って来た。

「ね、ネオン…どうなんだ…占いの力は戻ったか?」

顔面からは血の気が引いているのか青白く、また体は小刻みに震えている。

「それが全然…困ったわ」

「ネオンっ!困ったじゃすまないんだっ!」

今にもネオンを害するように怒気を上げて駆け寄るライトに先日手に入れた日本刀を突き付けるテトラ。

その刀身は狙い違わずライトの首筋に当てられている。一歩でも動けば首が落ちるだろう。

「くそっ…おいっ誰かっ!」

ライトのその声で駆け寄って来たのはバショウとセンリツだ。クラピカはここ数日見ていない。

「コイツをどけろ」

「悪いけれどその命令は履行不可能だわ」

「確かにな」

センリツの言葉に同意するようにバショウが首筋を掻いている。

「何故だっ!」

「彼女とてつもなく強いわ。私では彼女を抑え込むのは無理そうね」

「ああ、悔しいがオレ程度の能力者じゃ恐らくかすり傷も与えられないだろう。クラピカなら…いや、あいつはしっかりしているがルーキーだ。不可能だろうな」

センリツとバショウは彼我の実力を正確にとらえていた。

「私やあなた程度じゃ次の瞬間に首が飛んでいても気が付かないわね」

「そりゃおっかねぇな。それを否定出来る材料が無いのがまた、な」

「くそっ!」

それを聞いたライトは癇癪を起したまま部屋を出て行った。

「パパ大丈夫かな」

「ありゃ相当堪えてるな」

ネオンの問いに答えたのはバショウだったが、この先どうしようか考えているようだ。

確かにこのままでは泥船だ。進退を考えるべきなのだろう。

「別にネオンの占いの力が無くなったのは悪い事じゃない」

「えー、何でよ。テトラ」

「襲撃を企むものが減る。今までよりも安全、かも?」

ノストラード組の台頭を快く思わない組織がネオンの襲撃を企てるのだ。ネオンの重要性が薄れれば確かに襲撃は減るだろう。

「えー、でもでもそれじゃ贅沢出来ないじゃないっ」

確かにネオンを当てにしていただけに組のしのぎは減るだろうが、既にここまで大きくなっている。これ以上を臨まなければそこそこの贅沢は出来るだろう。もちろん今まで通りとはいかないが。

だがライト・ノストラードがいつまで正気でいられるか。このままでは遠からずネオンを害するだろう。

まぁテトラが付いている限りそんな事にはならないが。

「あなたはどうするの」

とセンリツ。

「しばらくネオンを連れて隠れる」

「そう、トップがあれじゃそれが建設的ね。彼の心音は不安でいっぱいだもの」

センリツの言葉にコクリと頷いた。

テトラは今マフィアコネクションを使いバッテラ氏が主宰するグリードアイランドと言われる伝説のゲームのプレイヤー選考会に来ている。

ネオンは大分ごねたがテトラが引っ張って来た感じだ。

会場にはネオン、テトラ、ハンゾーの三人。

何故ここに来たのか。テトラの知識にグリードアイランドと言うゲームが有ったからだ。

グリードアイランドは念能力者専用のゲームらしい。

現在入手手段が殆ど無く、その入手も世界的大富豪であるバッテラ氏がその私財を投げ打っている為にほぼ独占状態と言った状況。

さらにはゲームのクリアデータに懸賞金がかけられておりクリアしたものは莫大な賞金を得る事が出来るのだが、未だにクリアした者はいないと言う。

今回のヨークシンシティのオークションでも何本かの出品があったがバッテラ氏が買い占めてしまった。

念を使ったゲームである以上、プレイヤーを雇い入れる為にこうして選考会が行われていると言う事なのだった。

「あ、お前は」

「あ、ハンゾーさんだっ」

年若い少年二人がハンゾーに声を掛けて来た。

「お前らはゴンおキルアだったか」

「うん、ハンゾーさんもこのゲームに?」

「うん、まあな。クライアントの都合でな」

「そうなんだ。一緒に合格できると良いね」

「行くぞゴン」

「じゃあね、ハンゾーさん」

そう言ってゴンとキルアと呼ばれた少年は離れて行った。

「クライアント?」

「あはははは…」

ハンゾーくんは弟子か何かだと思ってたよ。

ネオンはつまんないとギャーギャー喚いていたが最後は諦めたのか会場内の椅子に座って眠っていた。

しばらく席に座って待っていると背の高い中年の体格の良い男が司会進行役の後に現れこれから1人1人テストをすると言う。

練を見せろと言う事らしい。

試験は始まったが今度はネオンが起きない。

結局、結構な人数が居たにもかかわらずわたし達の審査が一番最後になってしまった。

「先に行くぜ」

そう言ってハンゾーくんが席を立つ。

「ネオン、起きて」

「んー…」

「ダメだこりゃ…」

テトラはわがままお嬢様を担ぎ上げると審査へと向かう。

「なんだお前たちは、審査は一人ずつと言っただろう」

若干あきれ顔の審査員。

念能力者。そこそこの使い手かな。

「合格者会場はどっち?」

「まて、それは練を見てから合否はこちらで判断する」

「念能力は他人に見せない。常識。何で判断する?本当に練をすればいい?」

「ぐむっ…」

審査員の男、ツェズゲラと言うらしい彼が言葉に詰まった次の瞬間、会場内を溢れんばかりのオーラが包み込んだ。

しかしそれは一瞬の事でツェズゲラの目の前の少女の練は激しさとは逆にとても澄み渡り凪いでいるようで、しかし発せられるオーラはツェズゲラに練度の差をまざまざと見せつけていた。

それはツェズゲラに自身すら気が付かぬうちに体は半歩下がり、大量の汗が噴き出している事にようやく気が付く。

「…むこうだ」

「そう、ありがとう」

トコトコと歩き去るテトラをツェズゲラはただ見送る。

「はぁ…はぁ…はぁ…化け物か…この俺が震えている。殺気は微塵も感じないが、異を唱えれば首が繋がっていたかもわからん…」


さて、選考会が終わると別室でグリードアイランドの説明を受けた。

結局選考会を突破したのは20人を超えたほどで上限には達していないよう。

ゴンとキルアは当然のように合格していた。

ゲーム機の前で練をするとどこかに飛ばされてチュートリアルを受けるらしい。

どのゲーム機から始めも同じ場所に飛ばされるらしいので、開始順はグー・パーで決めると言う事で決定。

最後はジャンケンだったが、ネオンの事もあるのですべて辞退し最後に回してもらった。

テトラたちはハンゾー、ネオン、テトラの順でゲームに入る。

「練って何よ」

「んー、まぁ占いをする時みたいに力を込めてみて」

「えーってきゃぁっ!?」

そう言って手をかざしていたネオンがゲームに吸い込まれて消えた。

チュートリアルを終えると草原に出た。

「もう、テトラおそーい。あなたがくるまでこのハゲと二人きりだったんだからねっ」

プクリと膨れているネオン。

「ごめん」

そんなに遅れてないと思うのだけれども…護衛の観点から仕方なかった。

ゲーム内に持ち込めたものは身に着けていたもの全て。

クナイ、手裏剣、あとはこの貰い物の日本刀。

「で、こんな所に何しに来たんだ」

とハンゾー。

「ネオンのパパさんの頭が冷える時間を稼ぐのが一つ。ここなら絶対に見つからない。来たことを知られたとしても追ってこれない」

「なるほどな。二つ目は」

「ネオンの修行。グリードアイランドは念能力を向上させるための遊び場」

「修行なんてやーよ。面倒くさいもの」

「ネオン。ネオンは念能力を使えるのだから、自分の身を最低限守るくらいは出来ないとだめ」

「テトラが助けてくれるんでしょ」

「この間みたいにいつも傍に居れるとは限らない。お願い」

「うーうー。嫌だけど、本当に心底嫌だけど…テトラのお願いかぁ…わかった…やってみる」

ネオンはわがままだ。それは超がつくほど自己中だ。しかしただ一つ例外としてテトラのお願いだけは聞くと自分で決めていた。

テトラのお願いは全てネオンの為を思ってでる言葉だと長い付き合いで知っているからだ。

とは言え、その長い付き合いでもテトラにお願いされた事は片手で数えられるほどしかないのだが。

「つまりはここは広大な修行場って事なのか、面白くなってきやがった」

ハンゾーくんが何故か燃えていた。

「で、そいつらは無視で良いのか?」

周りには複数の気配を感じるし、見える所にも居るようだ。

「いい。ゲームをクリアしに来たわけじゃないから」

「かー、まぁお前さんが言うんだから別にいいけどよ」

複数のプレイヤーから追跡(トレース)のスペルカードを使われたが無視している。

このゲームでゲットできるカードには取得難易度が設定されている。

高ランクカードはやはり要求される能力も高く、もしもそれをテトラが手に入れそれを自力で取得出来ないほどのプレイヤーが目の前に現れた所で無力化する自信がテトラにはあったからだ。

モンスターを狩りつつ近場の街へと移動する。

倒して手に入れたカードを換金し宿を借りるとテトラの修行を開始。

ネオンは念能力は使えていたが纏も練も絶も出来ていなかった。

「むーりー、つかれたー」

纏の修行を開始して10分ももたなかった。

「しかたない…裏技を使う」

「お、なんだ裏技って」

「心転身の術を使う」

「忍術か」

ハンゾーくんが嬉しそうに言った。

「そう。使った事無いけど…たぶん行ける、はず?」

「ちょ、ちょっとあたし何するのよっ!」

「大丈夫、痛くは無い」

そう言って印を組むテトラ。

「心転身の術」

ベッドの上にクラリと倒れ込むテトラ。呼吸はしているが意識は無い。

「お、おい…大丈夫か…?」

「大丈夫、成功した」

「お嬢様…いやテトラ…?」

ネオンの体から淡々とした口調で帰って来たために聡いハンゾーはすぐに気が付いたようだ。

(ちょ、ちょっと体が動かせないんだけど)

「当然、今ネオンの体の主導権を握っているのはわたし、この状態で体に覚え込ませる。大丈夫、死ぬ事は無い…たぶん」

(ちょっとーーーーーっ!?)

纏、練、絶の修行を影分身を使いながらで高速習得。

まぁ、それらが出来るようになったからと言ってネオンが戦えるようになったわけでは無い。

ネオンが軽々とするバク転宙返りが出来るようになった訳じゃ無いのだ。

オーラを操る技術はほんの少し出来るようになっても圧倒的にフィジカル面では脆弱で、一流の殺し屋に対峙すれば抵抗むなしく殺されるだろう。

だが多少の時間さえ稼げれば必ずテトラが駆けつける。この時間をどれだけ長く出来るかが重要なのだ。

ネオンの修行の傍らハンゾーくんとは忍術を交えた鍛錬を行っている。

流石に本職の忍者、忍術の習得は速くテトラが教えられるのも後わずかであろう。

ネオンが念の初歩を覚えたので街を移動する事に。

スタート地点から近い場所では狩りをしても取得難易度が低くまた換金率が低い為にカツカツの生活になってしまう。

それならばと拠点を変える事にしたのだ。

なけなしのお金で地図を買いマサドラへと移動する。

「なんじゃぁこりゃぁっ!」

マサドラへと続く岩山の屹立している荒野に一本洞窟のような縦穴が彫られていた。

洞窟を確認すると彫られてからまだ時間は経っていないようだ。

「誰かが師の元で周の修行でもしてたんじゃないかな」

「なるほど、だが豪儀なもんだ。シャベルで勢いよく搔き出されているいる。確かに周を使わなければ掘れないだろう」

「じゃぁネオンの次の修行…」

「イヤよっ絶対にダメ」

だよねー…

肉体労働とか土埃にまりれるとか汗臭くなるとか、とにかくネオンは嫌う。

さて、この穴を開けた張本人はと言えば、まだこの岩石地帯に居るようで、遠くで石を打つ音が聞こえた。

「ん、あれはゴン達か」

視力を強化したハンゾーが見つめる先に少年が二人岩に座りながら黙々と石を割っていた。

「あいつらならいきなり襲ってくると言う事も無いだろう、行ってみるか」

「えぇ…あたしは早く次の街に行きたいんだけど…ってテトラっ!」

テトラの視線の先には小柄で華奢な少女がゴン達を見守る様に座っている。

…強い。

テトラは勘であったが大きく外してはいないだろう。

「あ、ハンゾーさんっ」

ゴンが大きく手を振ってハンゾーを迎え入れた。

「お前はちょっとは警戒しろよな」

「なんで?」

はぁとキルアがため息を吐いている。

「おう、久しぶりだなゴン。念の修行か」

「うん、ビスケにに見てもらってるんだ」

そう言って紹介されたのはテトラの目が追った少女だ。


ゴンとキルアの修行を見ていると彼らの知り合いだろう三人組が近づいて来たのが遠目にも分かった。

私の趣味じゃ無いけどあのハゲは中々やるだわさ。

見るからに裏稼業と言う感じの青年は恐らく一流の使い手だろう。

その後ろに居る少女は…まるでダメね。今まで守られて生きて来ましたーって感じがビンビンするわさ。

その後ろ。少女を挟むように歩いて来る彼女はヤバイはね。まるで本気のネテロのじじいを前にしているかの様だわさ。

やり合っても私だけなら最悪逃げ切る事も可能だと思うけれど、あの二人を守り切る事は不可能。

置いて逃げちゃおうかな…

はぁ、人の気も知らないで旧交を温めているバカ弟子二人に文句が言いたいわさ。

ヤメテ、さっきから私をロックオンしちゃってるの分かるもの。

やる気の感じられない真ん中に居た少女が何か喚いているが、もう耳に届かない。

ああ、認めよう。ただ武道家としてテトラと紹介された彼女と戦わないと言う選択肢は無いのだと。

「ビスケ、何やってるの?」

「テトラもなに二人で見つめ合っているのよ」

ゴンとネオンの問いかけも二人の間を流れる空気を断ち切るほどでは無かった。




テトラは腰に差していた日本刀を外し手裏剣ホルダーも地面に置くと2・3度とんとんと地面を蹴ってジャンプ。

そして一度目を閉じると目の前で印を組み上げてチャクラを練った。

そして再びテトラが瞳孔が真っ赤に変化した瞳を開いた瞬間が開始の合図であるかのように互いに地面を蹴って一息に距離を詰めた。

「っ!」

「はっ!」

合わさる肘と肘。

ドゥン

互いに音を置き去りにした組手。

「ちょ、なんだなんだ、いったい何を始めやがったんだあのバカは」

「ビスケ?」

「っ…それより二人の動き見えたか?」

「……ギリギリだな」

「ちょっとちょっと何が始まったのよっ!こらーテトラっ!」

外野の声など届いてはいない。

打ち合い、距離を取り、また組み合い、弾き飛ばされる。

無数にあった岩山がいくつ礫の山になったか。

音を置き去りにする攻防は少しでも流の速度が遅れれば致命傷を負いかねないほどだ。

すごい、強いっ!

死と隣り合わせのその攻防でテトラが感じたのは歓喜だった。

今までの研鑽がただ報われた。

いや、それだけじゃない。

一瞬一瞬相手の技を盗み強くなっていく実感。

テトラが自身の発として作った能力は他人から見ればそれは能力とは言えないものだった。

ただ瞳にオーラを集め、視る。

視力の向上。

そんな物は念能力を習得し、発展技を知れば誰でも使う事の出来るもの。凝だ。

だが、テトラはその能力に拘った。

知っていたからだ。知っていたからこそ欲した。

その瞳は相手の動きを捉えない事は無い。

その瞳は相手のオーラを見逃す事は無い。

認識し、記憶して、学習する。

『写輪眼』

それこそがテトラの発だった。

打ち合っているこの一瞬にテトラはビスケの技を盗み、返している。

ビスケにしてみれば驚愕だろう。自身の研鑽の粋をこの一瞬一瞬で盗み取られているのだから。

この娘、攻防力の移動が正確すぎだわさ。

交ぜるフェイント攻撃にも引っかからずに本命の攻撃にはきちんと同程度のオーラを込めてガードし、余剰分は次の自身の攻撃へと当てている。

そして厄介なのが、私の技を盗みに来ている…ふざけんじゃ無いわよっ!

憤るビスケだが、打開策は無い。

私の研鑽がこの程度で真似を出来ると思うなっ!

本気の攻勢にでたビスケの攻撃にテトラは徐々に押され始めたが、更に早く、強くとその攻撃を凌いでいく。

「すごい」

「目で追うのがやっとだぜ、バケモノかよ二人とも」

ゴンとキルアがクレータを作りながら戦場を移動しているテトラとビスケの戦いを見ていた。

「楽しそうだな、テトラのやつ…くそう、まだこんなに実力に差がありやがる」

ハンゾーは忍術でテトラに負けた訳じゃ無いと理解して身震いした。

「殺せないとは思わないけど、くやしいけど武道家として念能力者としてアレは次元が違うよ」

とキルア。


まさか私がここまで本気になってまだ壊れないなんてね。たいしたものだわさ。

数百、数千に及んだ攻防。

研鑽を積んで会得した技の悉くを出しつくさせられた。

それを相手は驚くほどの速度で吸収していっている。

しかもすぐさま実戦で返してくるとはね。

強すぎる。ああ、だから今自分なのだ。とビスケは理解した。

彼女は何のしがらみも無く全力をぶつけられる機会に巡り合わなかったのだろう。

恐らく自分より強い師と言う存在を持たないまま強くなってしまった娘なのだ。

いいわ、全力でかかって…て、ちょまっ!ギブギブっ!本物の化け物だわさっ!


ドンっと膨れ上がったテトラの練によるオーラの爆発。

その圧だけで周囲の岩山が崩れ落ちた。

「ぎ、ギブアップだわさ」

両手を上げてビスケが構えを解いた。

呆気に取られていたテトラだが、オーラをしまうとテトテトとビスケに近づいて行くとペコリと頭を下げた。

「ありがとう。お陰で少し強くなった気がする」

「まったく、もう二度とごめんだわさ。あんたとなんて命がいくつあっても足りなさそうだしね」

ハンデを貰っていたのは私と言う事ね。私もまだまだね。

自身の武器を拾い上げているテトラをビスケは複雑そうな視線で見ていた。

「ひとつ聞かせて欲しいのだけれど」

「何?」

「最後、オーラが膨れ上がったのはどうして?あれはとても人としての潜在オーラを超えている」

その問いに少しテトラは考え込んでから答える。

「あれは食義の一種、食没を使っている」

「食没?」

「経口摂取でエネルギーをより多く体に蓄える技術」

「それは私も覚えられるものなのかしら」

「……この技の根底は感謝。これは一朝一夕では難しいと思う」

「なるほど…私には向いているかもしれないわさ」

どう言う事だろう。

聞けば心源流の師範であるネテロと言う人物。彼の言葉に武道に対する心、感謝を忘れるなと言う教えがあると言う。

ネテロの教えに影響されたビスケもまた感謝の気持ちを忘れた事は無いらしい。

強さの探求という面ではビスケもまだまだ向上心の塊だ。覚えられるのなら覚えたいようだ。

「教えても良い。だけどハンゾーくんも無理だった」

「やるだけやってみるわさ」

「彼らの修行は?」

「あのハゲにしばらく任せればいいわさ。どうせしばらくは同じ修行なのだし」

まぁ、良いか。自分だけ得るのも悪い。ただネオンの機嫌が悪くなりそうだけど…

ただビスケに食義の才能が有ったのは嬉しい誤算だった。

修行時代には感謝の正拳突き一万回と言う日々を送った事もあったらしい。

武道の初心に返る時には今でもたまにするようだ。

ただ食没を覚えるための試練は二度とごめんだと喚いていたが、どうにか無事に覚えることができたらしい。

食義を教える代わりにテトラはビスケからフィジカル面の模擬戦に付き合ってもらい目まぐるしいレベルアップを上げていた。

それは勿論ビスケも同様で。ついつい模擬戦に力が入る。

「少し前は岩山が屹立していたんだがなぁ…今はクレーターしか存在しない…」

ハンゾーが呆れた表情でつぶやいていた。

そう言えば修行を嫌がっていたネオンだが、ゴンに乗せられたのか周と流が出来るほどには成長していたのは嬉しい誤算だった。

ビスケの修行の目途が立った頃合いにこれ以上はゴンたちの修行の邪魔になると分かれると幾つかの街を経由してアイアイへと到着。

恋愛都市アイアイ。

この街にネオンがどっぷりとはまってしまった。

この街はギャルゲーや乙女ゲーと言ったジャンルのストーリーを疑似体験できる一種のアトラクションなのだ。

ネオンはしばらく恋愛ごっこ遊びで男をとっかえひっかえ楽しんでいる。

ゲームの攻略?

そもそもライト・ノストラードから逃げて来ただけだよ。

まぁ、ハンゾーくんが面白半分で修行ついでに攻略しているようだけどね。

二回目のゲームクリアのアナウンスが流れた頃、そろそろ帰るかと離脱(リーブ)のカードで現実世界へと帰還する。

少しはライトの頭も冷えただろうし、一般人のライトではもうネオンを害する事は出来ない位には彼女の念能力は習熟している。

帰って来たは良いが、ノストラード組は若頭であるクラピカの手腕で盛り返していたが、実権も彼に握られてしまっていた。

相変わらずわがままを言うネオンと実権を握っているクラピカの相性が悪い悪い。

一度正面から切って捨てられそうになったのでボコっておいた。

幻影旅団特攻のクラピカの念能力。確かに汎用能力もあるようだが念を覚えてまだ一年ほどの彼に負けてやるほど弱くは無いつもりだ。

それからのクラピカは一応大人しくネオンの言葉にも従っている。

よほど怖い思いをしたみたいね。とはセンリツの言葉だ。

そもそもここはノストラード組。ネオンのわがままがイヤなら自分で組織を立ち上げれば良いのだ。

とは言え、組に貢献していない娘も本来なら厄介者だ。

仕方がないのでテトラは以前マーキングしていたあの本の男へと飛雷神の術で飛ぶ。

完全な不意打ちで彼の左手を締め上げ床に組み伏せる。

どこかの廃屋のようだが好都合。さらに運の良い事に周りに人の気配は無かった。

「動かないで」

「君は…」

「要件は分かっている?」

「…ああ。それにしては遅かったじゃないか」

その答えでテトラの予想が当たっている事が分かった。

テトラの予想ではネオンの念能力は誰かに奪われたか封印されたかの可能性が高い。

その中で犯人を絞り込めば最後にネオンが念能力を見せたと言うこの男だろう。

「丁度良かったからしばらく見逃していただけ。無理、抜け出せないよ」

グッと念を込めたクロロをそれ以上の力で押さえつけるテトラ。

「今日は準備もして来たし油断も無い」

「そのようだ」

抵抗を諦めたクロロはそれでもふてぶてしい態度を崩さない。

「ネオンの念能力を返して」

「それで俺を見逃してくれる保証は」

「無い」

「なら…」「けど、返してくれないのなら取り合えず殺す。あなたが死ねば戻るかもしれないし」

「それは困るな」

「時間も稼がせない。別にどうしても戻したい訳でも無いから時間が掛かるようならやっぱり殺す。1分だけあげる。すぐにネオンに返して」

「直接彼女に会わないと返せない」

「そう、それは残念だった」

グッとさらに力を込める。

「うそ、冗談だ」

「1分」

しぶしぶとクロロは本を手に取った。 
 

 
後書き
アオ達とのニアミスはあったかもしれないけれど直接出会ってはいない感じです。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧