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北海の大魚

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第三章

 呉島はその様子を暫く見た、そして水島の言ったことは本当のことだったとしみじみと思った。そうして。
 この日は寝て日曜に札幌に帰り水島に連絡して月曜の夜に二人が会った居酒屋で落ち合いそこで飲みつつ話した、すると水島はこう言った。
「いや、私も噂は聞いていましたけれど」
「実際にですか」
「いるとはです」
「伝承とですか」
「半分以上思っていました」
 この話を紹介した彼もというのだ。
「本当に」
「そうでしたか」
「ですが」
 それでもとだ、水島はさらに話した。
「本当にいるとわかって喜んでいます」
「私はまさかですよ」
 呉島はビールを飲みつつ言った、実は彼はビール派である。
「いるなんて」
「あそこは魚が豊富ですが」
「豊かな漁場でもありますね」
「アイヌの人達は海と空が紅に輝いていると漁に出なかったそうです」
「魚に船ごと飲み込まれない様にですね」
「そうしていたとか、どうしても漁に出る時は多分口の中で暴れて吐き出させる為に大鎌を持って行ったとか」
「そこまでしないと駄目だったんですね」
「そうみたいですね」
 水島は今は日本酒を飲んでいる、イカゲソを焼いたものをそれで楽しみつつ話す。見れば呉島も今はイカゲソを食べている。
「どうも」
「そこまで大きな魚だとそうですね」
「百メートル以上ですからね」
 昔の単位で言うと一町以上だ。
「それだけの大きさだと魚に悪意はなくてもです」
「餌と思われて一飲みですね」
「そうなりますから」
 だからだというのだ。
「その辺りはです」
「難を避けていたんですね、アイヌの人達も」
「神は災害を表してもいますし」
「そこまで大きな魚ですと災害ですよね、もう」
「そうですね、しかし」
 水島は飲みながらさらに話した。
「実際にあの魚達を見られたことは幸いだったかと」
「言い伝えの存在をですね」
「はい、近寄れば何があるかわかりませんが」
 それでもというのだ。
「見られたことはよかったと思いますよ」
「そうですね、滅多に見られない様なことは傍に寄れば災害でも遠くの安全な場所から見れば幸いなことですね」
「そうかと、それで画像は」
「それは撮っていません」
 トイレで起きた時に見たのでそこまで用意していなかったのだ。まさか本当にいるとは思っていなかったしそのこともあってだった。
「申し訳ないですが」
「そうですか、では仕方ないですね」
「画像がないことはですね」
「はい、しかし実際にアヅイイナウとレブンエカシがいたことは学者として論文も書いて世に出します」
「そうしてくれますか」
「アイヌの人達の伝承が嘘ではなかったことはそれだけで素晴らしいことですから」
 言い伝えられるには理由があるというのだ、水島はこう話してだった。
 呉島に今度は北海道のクッシーがいるという湖の話をした、呉島はこちらは結構信じていて時間がある時にそちらに行ったが残念なことにクッシーは見ることが出来なかった。だが噴火湾即ち内浦湾に魚達がいたことがわかってよしとした。北海道での話である。


北海の大魚   完


               2020・6・14 
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