醜悪な一族

　その彼等を見つつだ、なつみはブンコに話した。
「皆いい子だから仲良くね」
「ワン」
「けれどね」　
　ここで母は雲った顔で言った。
「米介さんと興毅さん」
「あいつ等か」
「一番お金と土地のお話してたのに」
「ブンコのことはな」
「酷かったわね」
「あいつ等は昔からなんだよ」
　夫は妻に苦い顔で話した。
「うちの親戚でも特に性格が悪いんだ」
「そうなのね」
「だから俺も付き合わなかったしな」
「これからもなのね」
「ああ、そうしてな」　
「やっていくのね」
「そうするからな」
　こう話した。
「というかもう親戚全員とな」
「お通夜とお葬式で」
「今度付き合わないことにした」
　一切、そうした言葉だった。
「今後な」
「それがいいわね」
　妻も夫の言葉に同意した。
「あんな人達とはね」
「うちはもう十分お金があるからな」
「ええ、貴方も働いていて私もね」　
　妻も言ってきた。
「予備校の先生やってるから」
「お金はあるからな」
「普通に暮らせてワンちゃん達を飼えるだけ」
「だからもういい」
「そうよね」
「なつみもいるしな」
「そうよね」　
　そのなつみも言うことだった。
「私もワンちゃん達と仲いいしね」
「いや、そういう意味じゃないんだよ」
「違うの？」
「自分達の人間の子供もいるからな」
「人間の？」
「そうだ、犬の子供達にな」
　ブンコ達に加えてというのだ。
「お前もいるんだ、そしてお家もある」
「お家もなのね」
「これ以上何を望むんだ、幾らお金や土地を持っていてもな」
　それでもというのだ。
「死んでからの世界には持って行けないな」
「それもそうね」
「今の人生で充分暮らせたら」
　それでというのだ。
「いいんだ」
「だから大叔母さんの遺産にはなのね」
「その話にはな」
「関わらないで」
「ブンコだけ引き取ったんだ」
「そうしたのね」
「じゃあこれからはブンコとな」　
　父は娘にあらためて話した。
「宜しくな」
「ええ、ずっとね」
　娘も笑顔で応えた、そしてだった。
　一家はブンコを迎えてだ、そのうえで楽しく暮らしはじめた。彼等は幸せであったがそれでもだった。
　妻は夫が仕事から帰ってから怪訝な顔で話した。
「親戚の人達はね」
「ああ、大叔母さんの遺産の話で」
「揉めに揉めてるらしいわよ」
「お金に土地にな」
「マンションに駐車場にお店にね」
「皆少しでも多くみたいだな」
　夫は苦い顔で応えた。