帰宅出来て
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第一章
帰宅出来て
この時山崎家は心配で仕方なかった、それは家の愛犬であり家族であるタロー、丸々とした小さな茶色と白の雄の柴犬の彼が首輪を外して家から出てしまったのだ。
それで一家三人で必死に彼を探したが見付からなかったのだ、それでだ。
家の父である徳一は腕を組んで言った、如何にも優しそうな中年の男だ。
「保健所にも連絡したしな」
「警察や保護団体にもね」
母も芳恵も言った、やはり優しそうな外見である。
「そうしたからね」
「若し保護されたらな」
「すぐに連絡がいくわね」
「ああ、しかしな」
それでもとだ、父は家の中で言った。とても清潔で温かい家の中で。
「車にはねられたりしていないといいな」
「そうよね」
「タロー何処に行ったのかな」
家の息子である徳太も心配そうだ、ころころとした外見で両親譲りの優しそうな顔で黒髪を短くしている。今は小学二年生である。
「怖い犬にいじめられてないといいけれど」
「そうだよな」
「本当にそうなってないといいけれど」
両親は我が子の言葉にも応えた。
「何もなかったら」
「無事であっていればな」
「そうよね」
「うちに帰ってきて欲しい」
心から言う両親だった、それは徳太も同じで。
タローを心配したまま夜を過ごし朝起きても心配していた、それでまず父が朝食の場でこんなことを言った。
「保健所とかから連絡が来たらな」
「すぐに行くわ」
妻が応えた。
「そうするわ」
「そうしてくれ、それで会社でもな」
「タローを探すことをなのね」
「頼んで来るな」
「僕も学校でタロー見たか聞いて来るよ」
徳太も言った、それでだった。
一家はこの日も何とかタローを探そうとした、そうして会社でも学校でも彼等はタローのことで頭が一杯だった。
徳太は学校から帰るとすぐにタローを探しに行こうと思っていた、だが自宅の前でだった。
首輪のない小さく太った茶色と白の柴犬を見た、それでだった。
徳太はすぐにその犬に声をかけた。
「タロー!?」
「ワン!?」
「帰って来たんだ!」
徳太はすぐにタローに駆け寄った、するとタローも徳太のところに駆け寄って来て徳太の腕の中に入った、徳太はタローを抱き締めるとすぐに家の中に入って言った。
「お母さん、タローいたよ!」
「えっ、何処にいたの?」
母は我が子の言葉に声がした玄関の方に駆け寄って尋ねた。
「一体」
「家の前にいたんだ、今僕が抱っこしてるよ」
「そうなの!?」
母は玄関の方に駆けた、そしてだった。
我が子の腕の中にいるタローを見てだった、泣きそうな笑顔になって言った。
「本当にいたのね」
「うん、さっきね」
「よかったわ、さっきまでお母さんインターネットで探していたけれど」
それがだったのだ。
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