Fate/WizarDragonknight
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マザーズロザリオ
前書き
原作では、夕焼けの中、笑顔の涙。
ここでは……
「ほら、可奈美! 私、強くなったでしょ?」
木綿季の黒曜石は、一刺しで無数の波となり、可奈美を襲う。
可奈美はそれらを全て受け流しながら、何も答えられなかった。
「木綿季ちゃん……」
「ほら、もっと見せてあげるよ! 私の技!」
木綿季は、次々に可奈美が教えた技を放ってくる。しかも、それらはアマゾンとしての人智を越えた速度で行われており、可奈美は思わず舌を巻いた。
「ほら、すごいでしょ! 私、こんなにできるようになったんだよ!」
すごいよ木綿季ちゃん。ここまでの技、中々見れないよ。
違うよ木綿季ちゃん。こんなの、全然楽しくないよ。
二つの心が、可奈美の中に去来する。だが、木綿季はそんなことお構いなしに、攻撃の手を緩めない。
「ほら可奈美! この勝負に勝ったら、可奈美のこと食べさせて!」
その言葉に、可奈美の腕が一瞬遅れた。木綿季の攻撃が千鳥を反らし、可奈美の右腕を切り落とした。
「っ!」
写シの霊体でなければ、取り返しのつかないことだった。息つく暇もなく木綿季は、そのまま可奈美に頭突き。体がくの字になった可奈美は、そのままドアを貫通し、階段へ投げ出される。
「僕の勝ちでいい?」
木綿季は可奈美の首元へ、黒曜石の剣を押し当てる。あたかもふざけているようにも見えるが、木綿季の次の行動は明らかに本気のものだった。
「じゃあ、食べさせてもらうね」
「っ!」
降り降ろされる黒曜石を千鳥で受け止め、一気に息を吸い込むと同時に起き上がる。
「木綿季ちゃん! 本当に、私を食べようとしているの? 本当に、これが木綿季ちゃんが望んだ立ち合いなの!?」
「え? 僕、何か変なこと言ってる?」
可奈美の剣を切り払い、階段の上段へ浮遊しながら、木綿季は可奈美へ振り替える。
「だって、可奈美が言ったことでしょ? いつか、僕と立ち合いしたいって。今がその時だよ? ほら、僕こんなに動けるようになったんだから」
飛翔能力を見せつけるように、木綿季は階段でクルクルとホバリングをする。
それを見ているとき、可奈美は思い出した。
『あと二週間で、ボクの命がなくなるってこと。末期らしいんだ』
なぜ気付かなかったのだろうか。
なぜ、彼女が外へ出られるようになったのか。
なぜ、話すこともできない彼女が、車椅子だけで動けるように回復したのか。
なぜ、自分と竹刀の打ち合いができるくらいになっていたのか。
「アマゾンに感染していたから、体が自由に動いたんだ……アマゾンだったから、回復していたんだ……」
それが正解だというように、木綿季は無邪気に攻め立てて切る。ヒットアンドアウェイで、攻撃の時のみ地上に降りてくる。地下では戦いにくいと判断した可奈美は、階段を駆け上がり、入ってきた食堂まで戻ってくる。赤い模様がついたテーブルを蹴り飛ばし、椅子を投げて木綿季の狙いを反らす。
怯んだところへ、可奈美は千鳥で斬りつける。だが、木綿季はすぐに回復し、左手で可奈美を壁に押し飛ばす。
「うっ!」
息を吐き出した可奈美は、そのダメージにより生身に戻ってしまう。再び白い霊体になった直後、木綿季に黒曜石を突き立てられた。
「ぐっ……木綿季ちゃん……」
痛みのあまり、意識が飛びそうになる。可奈美は右胸___生身であれば、ちょうど心臓にあたる部分の剣を抜こうとする。
「ねえ、どう? 僕、強くなったでしょ?」
可奈美に顔を近づける木綿季。人間としての姿ではなく、アマゾンとしてのそれが、可奈美に見たくないという気持ちを強くした。
黒曜石の剣を抜いたと同時に、写シが解除される。階段に落ちた可奈美の頭上で、木綿季がケラケラと笑っていた。
「ねえ、どうしたの可奈美?」
「どうしたって……」
「僕の勝ちってことでいい? それじゃあ、いただきます!」
続いて、食欲を曝け出しながら、木綿季が襲ってくる。可奈美はそれを転がってよけるが、階段の段差により、数段転がり落ちる。
「あれ? 可奈美! どうして避けるの?」
可奈美よりも下の段に降りた木綿季が、再び可奈美へ迫る。生身のまま、千鳥で黒曜石の剣をガードするが、そのまま木綿季は階段を飛翔、階段入り口の扉を破る。
「うわっ!」
食堂を転がりながら、可奈美は木綿季が着地するのを見届ける。
窓際まで投げられたことで、可奈美の耳には、雨が窓をたたく音しか聞こえなかった。
「可奈美。さあ、ここなら広いよ? 立ち合いの続き、やろう?」
「……あああああああああああああ!」
可奈美は悲鳴を上げながら、千鳥を抜刀。
「分かった……分かったよ! やろうよ立ち合い……! やればいいんでしょ!」
これまでこんな気持ちで剣を持ったことがあっただろうか。可奈美は木綿季をきっと睨む。
「そうだよ可奈美! やろうよ!」
木綿季は風のような速度で斬りかかる。可奈美はそれを受け流しながら、その頭を足場に跳ぶ。
「え?」
木綿季が対応する前に、千鳥が二閃。インプの悪魔の翅は、それにより切り落とされた。
「うわっ!」
飛行手段を失った木綿季は、そのままガラスへ激突。雨の世界へ投げ出された。
可奈美はそれを追いかけて、病院の外へ出る。
「木綿季ちゃん。まだ戦うんだよね?」
可奈美のその言葉に、木綿季は「当然」と返事した。
「えへへ……すごいよ。まさか、空を切り落とされちゃうなんて」
「……」
つまらない。
「じゃあ、次は僕の番! 僕が驚かせてあげるよ!」
つまらない。
「ほら! 受けてみてよ!」
木綿季の突き技。木綿季の黒曜石のレイピアは、雨を切り裂く輝きを放っていた。可奈美の正面でまっすぐ構えた。
それは、可奈美には、止まっているようにも見えた。可奈美に反応を許す時間でもなかったが、彼女がありったけを剣の先に込めているのが分かった。
「やあっ!」
木綿季の右手が閃く。可奈美の体へ、右上から左下に、神速の突きを五連発。
「がっ!」
そのあまりの速さは、可奈美でも受けきれない。
続いて、左上から右下への五発。突き技が一発命中するたび、凄まじい炸裂音が鳴り響き、可奈美を守る写シがどんどん削がれていく。
十字に十発の突きを放った木綿季は、もう一度全身をいっぱいに引き絞ると、最後の一撃をその交差点に向かって突き込んだ。青紫色の眩い光が四方に迸り、可奈美の痛みが全身に放射線状に広がった。
「ぐあっ!」
写シの解除。それを貫通してきた、生身へのダメージ。
びちゃびちゃと水たまりを弾きながら、可奈美の体が吹き飛ばされる。
「うう……」
起き上がろうとするも、もう全身に力が入らない。顔が水たまりに沈み、右目だけが木綿季を捉えている。
「可奈美! もう終わり?」
木綿季の声が遠くに聞こえる。
「すごかったでしょ? 私が編み出した必殺技! この前は失敗したけど、今度はしっかりできたよ! 可奈美だって倒せるくらいの技!」
意識が朦朧としていく。やがて、可奈美の世界は、木綿季から完全なる闇の中へ___
『ほら、しっかり! まだ負けてないよ! それに、あの子にこんな重圧背負わせていいの? あの子、このままじゃ本当に怪物になっちゃうよ? 姫和ちゃんだけじゃなく、木綿季ちゃんも救えなくなっちゃうよ? それでもいいの?』
___いいわけないじゃん。でも___
『身勝手かもしれないけどさ。あの子のためだよ』
___それって、結局木綿季ちゃんを___
『でも、ここは天秤にかけるしかないでしょ? それとも可奈美は、怪物になった友達に人喰いをさせるの?』
___それは……嫌だけど……___
『だから……ね?』
口に入ってきた石をかみ砕く。
可奈美は大きく目を見開き、解体しようとしてきた黒曜石のレイピアを弾く。そのまま両足をプロペラのように回転させ、木綿季を蹴り飛ばすと同時に跳び起きる。
「だああああああああ!」
レイピアを立て直すより先に、千鳥で木綿季の体を引き裂く。大きく後退した彼女を足場に可奈美はジャンプ。二度目の剣で、さらに大きく後退させる。
「あはは……あはは……!」
木綿季の笑い声。可奈美は千鳥を握りなおし、叫んだ。
「さあさあ! もっとやろうよ! 立ち合い!」
再び迫る木綿季。それに対し、可奈美は突く。
最初は左肩。そこから右腰に掛けて、合計五回、千鳥で突く。
そして右肩。そこから左腰へ、これも合計五回、千鳥で貫く。
「うあああああああ!」
悲鳴を上げながら、可奈美は腰を落とす。全力を込めて、十突きの中心へ一撃を入れた。
「があああああああああああああ!」
可奈美の最後の一撃は、木綿季の胸を貫く。ビクンと体を動かした木綿季は、そのまま地面を数回跳ね、病院の壁に激突。
「木綿季ちゃん……」
膝を折った可奈美は、脱力した腕から千鳥をこぼす。だが、可奈美はもうそれを拾う余力もなかった。
動くこともできず、ただ茫然とインプアマゾンを見つめていた。
アマゾンの顔。だが、その口元は大きく開き、吊り上がった口角から、まるで笑っている。
だが、雨の元、小さな悪魔妖精が動くことは、もうない。
「どうして……どうして……!」
可奈美の悲鳴は、大雨の中掻き消されていった。
「うわああああああああああああああ________!」
ただそれを。
千鳥は、じっと見守っていた。
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