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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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最終章:無限の可能性
  第272話「音を重ね、奏でる」

 
前書き
奏Sideの話。
ちなみに、奏以外は二話以上に分割する予定です。
また、天廻達は描写する予定はありません。
人数が一人or二人とはいえ、やっている事はクロノ達と似たようなものですから。
イリスがいなければ、足止めに残った神だけで十分耐久戦は可能です。
 

 










「ッ……!」

 高速で動きつつ、刃を振るう。
 その度に、無慈悲にも障壁に弾かれる。

「ッッ……!」

 跳び、駆け、神から繰り出される攻撃を避ける。
 それは、“天使”に対する奏の分身も同じだ。
 タイミングは違えど、どの分身も本体と同じように膠着状態となっていた。

「(相変わらず、攻撃が通らない……!)」

 通常の攻撃では、例え全力で放っても通用しなかった。
 カウンターを当てても、理力の障壁は常時展開されており、攻撃は通らない。
 元の世界と違い、“性質”を相殺する事も出来ないため、この状態が続いていた。

「くっ……!」

 分身の一人が苦悶の声を漏らす。
 その分身は、本体に隠れるように砲撃魔法の術式を展開していた。
 決まれば、おそらく防御を貫けるであろう威力の砲撃魔法だ。
 だが、その分の溜めが長く、それが原因でこうして“防がれて”いた。

「(単純な防御だけじゃなく、行動の阻止という意味でも、“防ぐ性質”は働く。……前回は、やっぱり手を抜いていたのね)」

 より絶望感を与えるためだったのだろう。
 神は前回の戦いで奏に対し、決して全力ではなかった。
 それを伝える事で当時の奏を絶望させる事も出来、もしその必要がなくても今回の戦いで全力を出せば負ける事はないと自負していたのだろう。

「(……そもそも、ここまでの“性質”なら、イリスの洗脳も……)」

 “防ぐ性質”であれば、洗脳されるという事を防げたはず。
 それにも関わらず、こうして洗脳されている事に、奏は違和感を抱いた。

「(……まさか)」

 イリスに加担する悪神は、原則“負”のイメージを持つ“性質”ばかりだ。
 だが、絶対ではない事も確かではある。
 現に、奏は知らないが、優輝とは別の“可能性の性質”の神が嫉妬という一感情のみでイリスに加担している。

「(……間違いなく、イリスの“闇”はある。……その上で、洗脳されずに活動している、という事ね……!)」

 洗脳されれば“性質”は弱体化する。
 だが、その分を補填するようにイリスの“闇”で強化もされる。
 それを、目の前の神はいいとこどりしていた。
 “闇”を持っていながら、洗脳される事だけは“防いで”いたのだ。

「(尤も、考えた所で今は関係ないわ)」

 そう結論付け、奏は再び目の前の戦いに集中する。
 分身も全員攻撃が通らず、貫通できそうな攻撃は“性質”で阻止される。
 完全に千日手となっている状態だ。

「(分身は増やし続けられる。けれども、それだけで倒せる程、甘くないはず)」

 分身を増やす事で相手が対処できない程の数にする。
 その作戦自体は不可能ではないだろう。
 だが、それを許す程相手も考えなしではない。

「ッ……!?」

 直後、奏はそれ以上分身を増やせなくなった。
 本来ならば、魔力の制限がない神界ならば、無制限に分身出来るはずだ。
 しかし、現に分身は増やせなくなっていた。

「(まさか……!?)」

「これ以上の分身は“防がせて”もらったぞ」

「(やっぱり……!)」

 何かを未然に防ぐように、奏の分身も“防がれ”た。
 こうなっては、物量で突破する事もままならないだろう。

「(……可能なのは一回だけ、ね)」

 驚愕はしたものの、それ以上の動揺はしない。
 この程度で挫けるようでは、この場に来てはいないからだ。

「(チャンスはきっと来る。見誤ってはダメよ。私……!)」

 分身が増やせなくとも、減らされる訳ではない。
 そのため、膠着状態を続ける事は可能だ。

「っ……!ふっ!」

「対処するか……!」

 動きが止められる。攻撃の初動を“防がれ”た。
 だが、即座に体の動きを変え、反撃を避ける。
 さらに反撃を繰り出し、何とか間合いを保つ。

「(ただ攻撃を防がれるだけじゃなく、未然に防ぐ形で私の動きを阻害してくる。でも、“意志”次第で動きを変え続ければ突破できる)」

 無闇に攻撃し続けても、どの道防がれてしまう。
 そのため、奏は攻撃を最低限に留め、分析に徹していた。
 その中で分かった事は、“性質”と言えど完封出来る訳ではないという事だ。

「(次々に行動を起こせば、それだけ綻びが生じる。そのおかげで、“性質”を正面から突破する事が出来るのね)」

 刃を振るい、防御行動を取らせ、自身はきっちり攻撃を躱す。
 そうしながら、奏は思考を巡らせていた。

「(攻撃は軽くても、行動の早さなら負けない)」

 分析した結果、奏は自身が上回っているものに気づく。
 直後、神から見て奏の姿がブレた。

「くっ……!」

「シッ……!」

 途轍もない早さで連続行動を起こし、行動を“防がれ”る事を無効化する。
 さらに速度を上げ、防御の障壁を使わせる前に攻撃を放った。
 しかし、常時展開されている障壁に防がれた。

「速いな。だが、それだけでは倒せんぞ?」

「雨垂れ石を穿つって言葉を知らないの?」

 連撃を何度も叩き込む。
 分身は千日手を続けるようにし、本体である神を倒すために全力を注ぐ。

「ッ……!」

「遅い……!」

 砲撃、誘導弾、近接攻撃。
 あらゆる理力の攻撃を奏は躱し、即座に反撃を繰り出す。
 一撃を避ければ、お返しに二撃を。二撃ならば、四撃を。
 近接戦において、奏は決して神に劣っていない。
 今までならば互角だったかもしれないが、ミエラの経験を引き継いだ今ならば、正面から速さで圧倒出来るぐらいには強くなっている。

「ちっ……!」

「っ……!」

 普通の攻撃が当たらないのならばと、神は理力を放出する。
 全方位への攻撃ならば、奏も飛び退かざるを得なかった。
 だが、すぐにその動きを反転。
 転移魔法を利用し、攻撃を飛び越えて再び肉薄する。

「はぁぁっ……!」

 舞うように刃を繰り出し、回避と同時に蹴りも叩き込む。
 しかし、結局千日手に変わりはない。
 奏の攻撃は通じず、そして神の攻撃は奏に当たらない。
 不利なのは奏で、このままでは奏の気力が尽きるのが先になるだろう。
 防御にさえ注意を払えばいい神と違い、奏は常に全力で動き続けなければ“性質”によって止められてしまうからだ。

「……っ」

 まさに旋風のように、攻撃し続ける。
 反撃は空を切り、何十発もの連撃が一息の下に叩き込まれていく。

「む……!?」

 そして、変化が訪れた。
 あれほど強固だった障壁に、僅かとは言え罅が入ったのだ。

「そこ……ッ!」

 すかさず、奏がそこを突く。
 だが、刃は半ばで止まり、それ以上は進まない。

「動きを止めたな?」

「ッ―――!」

 それが“誘い”だと気づいた時には、僅かばかり遅かった。
 幸い、突き刺した刃は魔力で生成したもの。刃さえ消せばすぐに動けた。
 それでも、至近距離で放たれた理力の砲撃を躱し切れなかった。

「くっ……!」

「また、動きを止めたな!」

「しまっ……!?」

 そして、その攻撃の怯みから動けなくなる。
 理力を発揮し、全力で次の行動を“防いだ”のだ。

「ッッ……!」

「足掻くか……!」

 だが、“意志”はまだ足掻ける。
 全力で抵抗する事で、少しでも気を緩めれば動けるぐらいにまで拮抗させる。

「……私の目的は、足止め……!膠着状態になっても、それだけで私の役目は果たされる……!こうしている間にも、他の戦況は進んでいくわ……!」

「だから、どうした」

「っ……!」

 動揺を誘うために発言したが、まるで動じない。

「足止めが目的なのは、俺も同じだ」

「……そう。なら、せいぜい時間を稼ぐ事ね……!」

 相手も目的は同じ。
 ならば、後は真っ向からぶつかり合うしかない。
 奏はそう判断し、出し惜しみしていた力を開放する。
 最早、後の戦いの事は考えない。
 今この戦いに全力を注ぐつもりだ。

「なに……!?」

 神が驚きの声を上げる。
 奏の姿がブレ始めたのだ。
 それは、次の行動を“防ぐ”事が追い付かなくなってきた証だ。
 奏がこの戦いに勝つという“意志”を高めた事で、拘束が解けようとしていた。

「受けよ、天軍を束ねし聖なる剣……!」

「理力だと……!?」

 行動を“防ぎ”きれなくなると同時に、奏の両手に光が集束する。
 光は一振りの剣を形成し、拘束を完全に無効化した。

「はぁああああああっ!!」

「ッ……!ぉおおおおおおおっ!!」

 そのまま、奏は剣を振りかぶる。
 神も負けじと“性質”をふんだんに利用した障壁を多重展開。
 剣と盾がぶつかり合い、眩い光を撒き散らした。

「はぁっ、はぁっ……!これでも、倒し切れないのね……!」

「っ……!(まさか、全力で張った障壁を全部割るとは……!)」

 果たして、その剣は神の守りを全て破った。
 だが、倒すには至らない。
 ダメージはほとんど障壁で減り、直撃しても“領域”を砕くには遠かった。

「だが……これで、切り札は消えた……!」

「ッ……!」

 お互いに無事では済まなかった。
 しかし、奏の方が疲労が大きい。
 ただでさえ不利な奏が、さらに不利になった。

「(―――そう、相手は思うでしょうね)」

 “否”と、奏は神の言葉に心の中で答える。
 先ほどの理力の剣は、むしろ奏にとっても想定外の産物だ。
 ミエラが宿っていた影響、そして理力の残り滓で再現したに過ぎない。
 同じ事を奏がやろうとしても、ほぼ確実に失敗するだろう。
 例え出来たとしても、それは理力を扱える“天使”にでもなった後の話だ。

「っ、ふっ……!」

「そこだ!」

「くっ……!」

 先ほどの攻防で、奏は疲労を蓄積させた。
 その影響か、行動の阻害を跳ね除けられなくなってきた。
 躱せていた攻撃も躱し切れなくなり、理力の衝撃波に吹き飛ばされてしまった。

「しまっ……!?」

 本体の拮抗が崩れた。
 その事実は分身の奏達にも影響した。
 各々、少なからず隙を晒してしまい、最低でも防戦に陥ってしまった。
 中には、攻撃が直撃して決着が着きかけた分身もいる。

「(……まずいわね)」

 劣勢になった。これはまだいい。
 だが、分身を減らされるのは奏としても見過ごせなかった。
 しかしながら、本体の奏も他の戦闘に意識を向ける余裕はない。

「『全員、死んでも耐えきりなさい』」

 故に、ただ一言のみ、念話で告げた。
 戦闘の違いによる考え方のずれがあるものの、分身も奏そのものだ。
 どういった戦術、戦法、想定で動くかなどは、当然ながら分身も承知だ。
 そのため、その念話のみで、分身達は立ち直る。

「……ほう……」

「前回みたいに、簡単には揺らがないわよ」

「そう来なくては、潰し甲斐がないというものよ」

 面白そうに笑みを浮かべる神に、奏は顔を僅かに顰める。

「(……やっぱり、この神は“性質”にしてはおかしい。歪んでいる……!)」

 原則、神界の者はその“性質”を思わせる性格をしている。
 光の類であれば善人、闇であれば悪人と言ったように、大まかな区分もある。
 だが、目の前の“防ぐ性質”の神は、明らかに悪人染みた性格をしていた。

「(……考え方を変えるのよ。“天使奏”としての捉え方だと歪んで見えても、神界では特別おかしい訳ではないかもしれない)」

 ミエラの知識から、神の歪さをを推測する。
 しかし、その暇はなく、攻撃の回避を強いられる。

「なぜ……なぜ貴方は、イリスに味方する……!?」

「今更そんな事を聞くのか?」

「貴方は、あまりにも在り方が歪すぎる……!」

 思わず、奏は問いかけていた。
 その問いに、神は鼻で笑うようにあっさりと答える。

「俺が“性質”に沿う事を“防いで”しまったからだ」

「ッ―――!?」

 回答を聞き、奏は息を呑んだ。
 普段なら、理解はしきれなかっただろう。
 だが、ミエラの経験を引き継いでいるがために、理解出来てしまった。
 
「……一種の、アイデンティティの崩壊……」

 “性質”に沿う事を否定する。……否、否定して“しまう”。
 そうなれば、自我の改変、性格の改竄と変わらない。
 他の同じ“防ぐ性質”の神が避けていた事を、目の前の神が行ったのだ。

「だから、歪んだ……!イリスの“闇”で洗脳されずに、それを受け入れてしまう程に……!秩序を保つ側の“性質”なはずなのに、それと敵対した……!」

「その通りだ。……説得、及び洗脳の解除など、考えても無駄だ」

 歪だった。だが、それでいて奏は納得もしていた。
 明らかに“意志”の通りが悪かったのだ。
 普通の“性質”ならば、比較的“意志”を貫きやすかった。
 しかし、その在り方を“防いで”しまったがために、“領域”が歪になった。
 そのため、“意志”を貫いても“性質”による拘束から抜け出せなかったのだ。

「それと、()()()()()()

「ぇ……ッ!?」

 躱した方向に、不可視の壁が現れた。
 高速移動中故に、奏はそれを躱し切れずに激突する。

「(まずい……!)」

 動きを止めた。その上、神は“見切った”と言った。
 そこから予測できる未来。それは……

「かはっ……!?」

 ……不可避の一撃だ。
 先読みされた攻撃を奏は躱せず、理力の閃光が胴を貫いた。

「ッ……!」

 ただの閃光ではなく、それは針となって奏を地面に縫い付けた。
 そして、抜け出す前にその行動を“防がれ”る。

「どこまで耐えるか、見ものだな」

「生憎、それを見届ける事は出来ないわ。私が、倒すもの……!」

 “意志”を高め、ゆっくりながらも針から体を抜く。
 転移などによる脱出が出来ないのがもどかしく感じる程ゆっくりだ。
 当然ながら、神はそんな見え見えの隙を逃さない。

「ッッ……!?」

 まさに針地獄。奏は四方八方から理力の閃光に貫かれる。
 優輝達程ではないとはいえ、理力を圧縮した一撃だ。
 食らえば食らう程、奏の“領域”はダメージを受ける。

「くっ……!」

 “意志”でもなかなか抜け出せない。
 ならば、その時間を稼ぐ必要がある。
 そう判断して、奏は“意志”と共に魔力を圧縮させる。
 その圧縮した魔力弾を閃光にぶつけ、相殺を試みる。
 無論、全てに“意志”を込め、行動の阻害を何とか突破する。

「っ、ぁ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」

「ちっ……抜け出したか……」

 ぞっとした。
 歪んだ“性質”による拘束は、ここまで強くなってしまうのかと。
 ミエラの知識に照らし合わせられるからこそ、恐ろしく思えた。

「(……今までなら、ここで絶望してた。……でも……!)」

 だからこそ、()()()()()()()だと、そう決意出来た。

「だが、ここまで打ちのめされれば―――」

「シッ……!!」

「なにッ!?」

 早く、速く一撃が繰り出される。
 その速さは、今までで一番早い。
 遅くなるどころか、さらに動きが速くなった事に、神も驚愕する。
 攻撃自体は相変わらず障壁に阻まれるものの、動きは一切衰えていない。

「いくら“意志”の通りが悪くても、私自身に作用する分には問題ないわ。……まだ、私は戦えるわ。攻撃は通らなくても、この動きについてこれるかしら?」

   ―――“Delay(ディレイ)

 原点回帰とばかりに、移動魔法を連発する。
 行動を“防がれ”れば、その分だけ魔法を連発し、無理矢理動く。
 その動きが逆に不規則性を生み出し、神を翻弄する。

「っ……無駄だ!」

「それでも、敗北を認める理由にはならない……!」

 斬撃が迸り、その悉くが障壁に阻まれる。
 攻撃は一切通らない。
 斬撃だけでなく、魔力弾や砲撃魔法も使うが、結果は同じだ。

「――――――」

 当然、そんな千日手で奏は終わらせない。
 並行して一つの魔法を組み上げていく。
 それを事前に“防がれ”ないように、同時にいくつもの攻撃魔法を使いながら。

「(これで……!)」

「見えているぞ!」

「ッッ……!」

 だが、発動直前でその魔法は“防がれ”た。
 発動するのに近づくにつれ、その魔力の動きを察知されてしまったのだ。
 “意志”を伴えば、確実にダメージを負わせられる威力だからこそ、神も決して警戒を緩めずにいた。

「唯一通じる手札は決して切らせん。……このまま千日手になるか?」

「………」

 既に千日手の自覚は奏にもある。
 そして、もうそれを打開できないと神が思っていると、確信した。

「―――お断りよ」

 大きく息を吐き、間合いを取ると同時に微笑むように奏は言った。

「ガードスキル“Absorb(アブソーブ)”」

 分身を本体に還元するスキルを使う。
 当然、それも“防がれ”るため、連打するようにゴリ押して使用した。
 そして、分身が戻ってくる。

   ―――“Angel Beats(エンジェルビーツ)-Orchestra(オーケストラ)-”

「ッ―――!?」

 直後、極光が神を呑み込んだ。
 張られていた障壁を容易く破る程の“意志”と威力の攻撃が、奏から放たれたのだ。

「……倒し切れなかったわね」

 対し、奏は当然と言った様子で結果を見ていた。
 分身を戻した際の反動も想定していたのか、大して堪えていない。
 むしろ、分身一人一人が“意志”を強く持っていたようで、回復していた程だ。

「がはっ……!?な、何、が……!?」

「オーケストラは、一つ一つの楽器の音を重ね、一つの音楽として成り立たせるわ。……音を重ね、奏でる。それを私もやっただけの事」

 分身が、それぞれ術式の一部と魔力を用意しておく。
 その分身を本体に戻す際、術式の欠片は合わさり、完成する。
 後は用意していた魔力で魔法を即座に発動という流れだ。
 当然、分身達の“意志”も戻ってくるため、その魔法が“防がれ”る事はない。

「耐えたのは、予想外だったけどね」

「っ、ぁ……!?」

 神は息を呑んだ。
 自身の守りを容易く打ち破る攻撃。
 それを、奏はこの時まで隠し通していたのだ。
 そして、その切り札は確かに神を打ちのめす威力を持つ。
 そうなれば、神も戦慄せざるを得なかった。

「ッ、だ、だが……一度耐えれば、もう……!」

「それは」

「どうかしら?」

「なッ……!?」

 再び奏が増える。
 “防がれ”る事で阻止されていた分身が、使えるようになっていたのだ。

「一度大きなダメージを受けた事で、貴方の“性質”による干渉が途切れた」

「そうなれば、分身も再度可能よ」

「このように、ね」

 増える。増える。
 鼠算式の如く、奏の数が神と“天使”と同等に増えていく。
 神も再度“防ごう”とするが、“意志”を貫く事で奏はそれを跳ね除ける。

「貴方は言ったわよね?“これで、切り札は消えた”と……」

「―――そんな訳、ないでしょう?」

 最早、奏の分身は止まらない。
 奏の言葉が突き刺さり、神の戦慄も止まらなくなった。
 “天使”が割り込もうとしていたが、分身がそれを止めていた。
 そうなれば、もう奏の独壇場だ。

「まとめて、薙ぎ払ってあげる……!」

 増えに増えた分身が、再度集束していく。
 積み上げられた術式が、大きく展開される。
 欠片のように集められた“意志”が、“性質”の干渉を跳ね除ける。

「これが、私が奏でる“音”よ!」

   ―――“Angel Beats(エンジェルビーツ)-Orchestra(オーケストラ)-”

 そして、再度極光が放たれた。
 それは先ほどよりも大きく、鮮やかで、まさしく楽団(オーケストラ)の如き魔法だった。













「………私の、勝ちよ」

 極光が消えた時には、神の姿はなかった。
 奏自身、確実に“領域”を砕いた手応えを感じていた。

「……かなり、時間を使ったわね」

〈地球換算で、戦闘だけでも21分かかりました〉

「神界ともなれば、どれだけのロスになるかわからないわね……」

 戦闘に専念するため沈黙していたエンジェルハートの言葉に、奏は少し考える。

「……進むわよ」

〈彼の下へ?〉

「当然」

 すぐに考えはまとまり、奏は神界の奥へと歩を進める。
 向かうのは、イリスのいる場所。
 優輝の力となるため、奏は突き進んでいった。















 
 

 
後書き
Angel Beats(エンジェルビーツ)-Orchestra(オーケストラ)-…奏の切り札を分身を利用して放つ最終奥義。まさにオーケストラの如く、分身一人一人が術式の欠片及び魔力を用意し、本体に還元すると同時に魔法を発動させる事で発動。即時発動なだけでなく、威力も本来の魔法よりはるかに強力になっている。


終盤になって若干短くなってきましたが、変に長くしても中身が薄くなるのでこれで行くことにします。
行動を事前に“防ぐ”。かなり強力な“性質”ですが、奏はそれをPCやゲームなどで言う更新やボタン連打のような行為で強引に突破していました。傍から見れば単純な高速戦闘ですが、中身は割とシュールな事をやっています。
 
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