お婆さん猫の楽しみ
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第一章
お婆さん猫の楽しみ
リンは白いペルシャ猫である、小池家に来てもう二十年になる。家の息子で大学生の聡と大体同じ年齢である。
聡は黒髪を左で分けた面長で穏やかな顔立ちの青年である、目は優しく眉の形はいい。背は一七五位で家ではいつもリンと一緒にいる。
子供の頃からそれこそ赤子の頃から両親よりもリンと一緒にいる方が多い位だ、リンは元々大人しく穏やかな性格である。
そして最近はである。
「リンも歳だからね」
「そうだな」
四十五になっても若々しく整った顔の母と聡がそのまま歳を取った感じの父がリンを見てそのうえで話した、今リンは家のソファーの上でじっとしている。
「最近はな」
「あまり動かないわね」
「猫で二十年といったら」
「もうお婆さんだから」
「人間で言うと九十歳位か」
「それ位ね」
「そこまでお婆さんだと」
リンは雌猫なのでこう言った。
「人間だってあまり動かないしな」
「そうよね」
「だからリンも動かないこともな」
「普通のことね」
「そうだな、じゃあこれからもな」
「リンと一緒にいましょう」
「生きものは一旦家族になったら」
そうなったらというのだ。
「一生一緒にいる」
「そうするのは当然のことだからな」
「それじゃあね」
「リンとはこれからも一緒にいような」
「ニャア」
ここでリンは鳴いたが穏やかな声だった、如何にもお婆さんといったものだった。
リンは両親だけでなく聡ともいつも一緒にいた、元々大人しい猫で暴れたりしなかったがそれなりに動いていたが。
本当に動かなくなってだ、聡も言った。
「やっぱりお婆さんなんだな、リンも」
「そうよね、けれど頭はしっかりしてるから」
母はリンを見ながら息子に話した。
「いつもテレビ観てるわ」
「そうなんだ」
「そう、おトイレとご飯の時は動いて」
そしてというのだ。
「それ以外はね」
「ずっとテレビ観てるんだ」
「そうなの、けれどね」
「頭はしっかりしているから」
「じっと観てるわ」
テレビをというのだ。
「そうしているわ」
「そうなんだね」
「やっぱりわかっているみたいよ」
テレビでやっていることがというのだ。
「しっかりとね」
「猫って人間の言葉がわかるし」
「それでリンもね」
「テレビでやっていることわかっていて」
「それでじっと観ているわ」
「そうなんだ」
「まあずっとね」
リンはとだ、母は話した。
「テレビ観てね」
「リンは凄していくね」
「そうなるわ」
こう言ってリンを見る、実際にリンはじっとテレビを観ている。家族が傍に来ると応えるが確かに食事やトイレの時以外はだった。
テレビばかり観ていた、だがそんな中で。
聡が交際相手の小池凛、大学の同じサークルの一つ上の先輩で小柄で短い黒髪をおかっぱにしていて大きなはっきりとした目の穏やかな顔立ちと性格の彼女を家に連れてきた、両親はその話を聞いた時は驚きつつ笑顔で話した。
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