歪んだ世界の中で
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第二話 二人のはじまりその八
「ちょっと、何時だと思ってるのよ」
「何時って」
「もう十時よ」
「十時!?」
「そうよ、何処に行ってたのよ」
「そんな、十時って」
母の言葉に慌てて携帯を取り出してその時間をチェックする。するとだ。
時間は確かにそうだった。もう十時だった。
その時間に唖然とする彼にだ。また母の声がしてきた。
「御飯なんて自分で食べなさい」
「晩御飯は」
「そうよ、もうあんたの分はこっちで食べたからね」
そうしたからだというのだ。
「食べたいのならインスタントラーメンでも自分で作りなさい」
声だけがする。リビングのところからだ。
「お母さん知らないからね」
「僕の分は食べたんだ」
「文句あるの?」
完全にだ。放り出した言葉だった。
「養ってあげてるのに」
「それは・・・・・・」
「わかったら自分で作りなさい」
そしてだった。さらにだった。
「シャワーも適当に浴びなさい。それにね」
「それに?」
「あんた夏休みに入ってからずっと遊んでるけれど」
完全にだ。そう思っている言葉だった。
「わかってるわよね。留年したらね」
「学校辞めろっていうんだね」
「そうよ。そうして働きなさい」
こうだ。冷たく言うのだった。息子と顔を会わせようともせず。
「わかったわね」
「・・・・・・・・・」
希望は母のそうした言葉に返答せずにだ。そのうえでだ。
俯いて靴を脱いでそうしてだ。自分でラーメン、チキンラーメンに湯をかけて食べた。
それからだ。シャワーを浴びて寝た。そうしたのだ。
その次の日にはだ。午前中にだった。
真人のところに見舞いに行きだ。千春のことを話した。
彼女の話を聞いてだ。真人はベッドからこう言って来た。
「よかったですね」
「よかったって?」
「遠井君もやっと僕以外にですね」
「友井君以外の?」
「頼りになるお友達ができたんですね」
このことをだ。心から喜ぶ顔でだ。ベッドの中から彼に言ったのである。
「ですから」
「よかったっていうんだ」
「はい、そうです」
それ故にだというのだ。
「だからです」
「そうなんだ。友達なんだ」
「はい、お友達です」
また言う真人だった。
「遠井君にとって頼りになる」
「友達かな」
「若しくは彼女でしょうか」
「まさか。僕にそんな彼女なんて」
出来る筈がないとだ。希望は真人の今の言葉は完全に否定した。
そのうえでだ。彼にこうも言うのだった。
「出来る筈がないよ」
「そう思われるのですか?」
「そうだよ。僕になんて」
「外見だけを見て判断する人はですね」
ここでだ。急にだった。真人は。
優しい笑顔から真剣な顔になりだ。ベッドの中から希望に言ったのだった。
顔は彼に向けたままだ。そのうえでの言葉だった。
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