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Fate/WizarDragonknight

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チー君の名前

『謎の怪物 アマゾンと命名』

 そんな見出しが、夕刊の一面を飾っている。
 配達員から受け取った新聞を見下ろしたハルトは、ラビットハウスの制服から着替えて降りてきた可奈美に手招きした。

「何?」

いつも可奈美の私服として使われている、赤いセーラー服。彼女の母校である美濃関学院(みのせきがくいん)なる学校の制服らしい。

「これ……」
「何々?」

 可奈美と入れ替わりで制服を着ているココアが、可奈美の背後より彼女に抱き着く。

「うわっ! ココアちゃん!?」
「えへへ……可奈美ちゃんもふもふ……何見てるの?」

 ココアの問いに、ハルトはアマゾンの記事を指さした。
 ココアはそれを見て、引き攣った顔をした。

「ああ……これ、怖いよね……」

 ココアの言葉に、ハルトは頷く。

「アマゾン……ここ最近、病院を中心に現れるようになった謎の怪物」
「人喰いだって噂だけど……人に化けているんでしょ?」

 ココアの言葉に、ハルトは首を縦に振った。ハルトが見たところ、あれはファントムと同様、人間が後天的に変異するように思えたが、彼女の不安を煽らないようにした。

「やっぱりココアちゃんの周りでもこれの話してるの?」

 その問いに、ココアは頷いた。

「うん……シャロちゃん……あ、私の友達なんだけどね。こんなのが出たらもう外を歩けないって、本当に怯え切ってるよ」
「まあ、それが普通だよね」

 ハルトは頷いた。

「それに知ってる? このニュース、見滝原中央病院が作ったバイオハザードだって噂」
「バイオハザード?」

 聞き慣れない言葉に、ハルトは首を傾げる。
 可奈美もそれを知らないようで、「何それ?」と聞き返している。
 ココアは「私もよく知らないよ。あくまで噂だけど」と前置きを置いた。

「なんでも、このアマゾンって、病院が人間に感染するように作ったウイルスじゃないかって話だよ。でも、嘘だって思いたいな」
「そりゃそうだよな。危ないからね」
「違うよ、ハルトさん」

 可奈美が首を振った。

「ほら。この病院、この前までチノちゃんが入院してたから……」
「ああ、そっか」

 チノまでアマゾンになる。そんな想像を振り切り、ハルトは時計を見上げた。

「……チノちゃん、まだ学校か……」

 四時を指す時計。よく友達といるチノだが、この話をした後だと、妙に心配になってきた。
 その時。
 チャリン、とベルがなった。

「いらっしゃいまし~!」
「いらっしゃ……」
「いらっ……」

 素っ頓狂なココアの挨拶の裏で、ハルトと可奈美は声を失った。

「うわあ……! ここがラビットハウス!」

 入ってきたのは、元気な明るい声の少女だった。車椅子に座った、黒く長い髪と、病弱そうな肌色の少女は、目をキラキラさせながらラビットハウス内を見渡している。

木綿季(ユウキ)ちゃん!?」

 この声は、可奈美から。可奈美は信じられないという眼差しで、車椅子の少女へ駆け寄った。

「どうして? もう外まで出てきていいの?」
「えへへ。もう、体もどんどん良くなっているんだ。だから、可奈美さんの剣術、どんどんできるようになれるよ!」

 元気に答える木綿季という少女。
 それに対し、ハルトの目線は、その車椅子を押す人物に当てられていた。

「クトリちゃん……?」

 蒼い髪の少女、クトリ・ノタ・セニオリス。日本人の名前ではないが、どうやら日本、それも見滝原の生まれらしい。

「どうしてここに?」
「木綿季ちゃんのリハビリだよ」
「リハビリ?」

 クトリはにっこりとほほ笑む。

「この子、ずっと病院で寝たきりだったから、せっかく体も快方だし、外に行こうって」
「こういうのって、患者を外に連れ出してもいいものなの?」
「街を歩いていいって院長から許可をもらったから。ほら、外出許可証」

 クトリはそう言って、フラダリ院長のサインが書かれた用紙を持ち出した。

「それで、見滝原の色んなところを回っていたんだけど、まさかここに君が働いていたなんてね」
「もしかして偶然?」
「偶然偶然。ほら、チー君も入って」

 クトリの声に、玄関の外にいた少年も入ってくる。チー君は、少しふてくされたような表情で入ってきた。

「……あれ? チー君、そんなに背が高かったっけ?」

 ハルトは目をこすった。
 おおよそ小学生高学年の背丈らしいチー君。レザーコートとダメージジーンズの彼は、「別にどうでもいいだろ」とぶっきらぼうに答えた。

「あれ? しかもなんか反抗期?」
「ちげーし」
「まあまあ。お客様。こちらへどうぞ」

 ココアが割って入り、クトリに会釈して木綿季の車椅子を代わる。テーブル席、その奥にクトリ、その隣へ、ココアが木綿季を座らせた。

「はい。君も!」

 ココアがチー君の肩をポンポンと叩いた。チー君は仏頂面のまま、二人の向かいの席に座る。

「それではこちら、メニューになります」

 ハルトはそう言って、ラミネート加工されたメニューを人数分机に置いた。

「うわぁ! 私、喫茶店来るの初めてなんだ! こういうの、大人っぽい!」

 木綿季が、目をキラキラさせてメニューの品目一つ一つに感激している。

「そうだね。私もこういう喫茶店は久しぶりかも」

 妙に通いなれたような口ぶりをしながら、クトリは言った。

「クトリちゃん。ちょうどさっきまで、アマゾンのこと話してたんだけどさ。病院大丈夫なの?」

 一瞬、チー君の頬がピクっと動いたような気がした。
 クトリは「ああ、それね」と頷き、

「今は大変だよ。昨日の事件から、今にいたるまで報道陣が押しかけて大騒ぎ。フラダリ院長が、病院にいても仕方ないから、木綿季を連れて外を回ってこいって言われたんだ。他の子供たちは、近くの勉強施設だよ」
「やっぱり現場は大変だよね……」
「ねえ、可奈美!」

 クトリの隣に座る木綿季の声に、可奈美はカウンターから出てきた。

「オススメは?」

 純真無垢な木綿季に、可奈美は「うーん……」と首を傾げる。

「この、ココアブレンドって、おいしいよ」
「じゃあそれ! ココアブレンドお願いします!」
「はーい! ちょっと待っててね!」

 可奈美に代わり、接客のココアがカウンターに入る。
 ココアを見送った木綿季は、そのまま可奈美に「それでそれで!」と話し始めた。
 話の内容はハルトにはさっぱりわからないが、出てくる単語一つ一つを拾うと、どうやら剣の話をしているようだった。無垢な病弱少女に可奈美の剣術バカがうつったか。

「元気な子だな」
「これまで病室から出てこれなかったからね。その分、元気が爆発しているんだよ」

 クトリがにっこりとほほ笑んだ。

「へえ……チー君は……」
「そんな子供っぽい名前で呼ばないでよ」

 だが、チー君はハルトの言葉をぶっつりと切った。

「俺だってもう子供じゃないんだ。そんな変な呼び方、やめてよ」
「ああ、そっか……そうだよね……もうそんな呼び名で呼ばれる感じじゃないよね……あれ? なんだろう、ちょっと変な感じ」

 ハルトは、ここで首を傾げた。

「何が?」

 チー君がぎょろりとかみつく。ハルトは「ごめんごめん」と謝罪し、

「チー君、名前なんだっけ?」
「あれ? ハルト君、教えてなかったっけ?」

 クトリの言葉に首を振る。

「ああ。ずっとチー君って……呼んで……た……」

 言葉を口にしながら、ハルトの中で違和感が大きくなっていく。

 初めて見滝原中央病院に訪れ、チー君と出会ったのは十一月初頭。
 フェニックスが現れ、なぜか(・・・)病院から近くない公園にチー君がいたのはその数日後。
 アマゾンが四体出現した時、チー君という呼び名を受け入れたのは昨日、さらに数日後。

 まだ、一か月も経過していない。

 チー君というあだ名が定着していた子供が、たった一か月もたたないうちに、チー君という呼び名を変なあだ名とするまでになるだろうか。

「ブラック!」

 物思いにふけるハルトを、チー君の声が呼び覚ました。

「え? な、何?」
「だから! 注文! ブラックコーヒー!」

 名前の問いをすっ飛ばして、注文を言いつけるチー君。ハルトは自分が店員であることを思い出した。

「チー君。……もう……あ、私はホットココアでお願い」

 クトリの注文をココアに伝え、「了解! すぐ持っていくね!」ハルトはテーブル掃除を再開しようとした。

「あ! そうだ!」

 だが、その足をクトリの声が止めた。

「ねえ、ハルト君。せっかくだし、マジック何か見せてよ」
「え? ここで?」
「うん! だって……」
「止めてよ、姉ちゃん」

 だが、クトリの声をチー君が遮る。

「あんなのつまんないよ。ただのタネ隠しじゃん。くだらないよ」
(そのタネ隠しを楽しみにしてなかった君?)
「チー君!」

 クトリがチー君を咎めるが、反抗期の少年はどこ吹く風。

「何が面白いのあんな子供だまし。姉ちゃん、案外お子様じゃん」
「チー君!」

 今度のクトリの声は、棘があった。ビクッとして、可奈美と木綿季の会話も止まる。

「そういうのは失礼でしょ!」
「フン」
「チー君!」
「まあまあ。俺も気にしてないし」

 ハルトはクトリを宥める。

「そっか……もうチー君は、マジックは卒業か……」
「まあまあ、ハルトさんもがっかりしないで」

 そう慰めてくれたのは、盆に注文の品を乗せたココアだった。

「はい。えっと、チー君って呼んでいい?」
「ダメ」
「じゃあ、お兄さん! ブラックコーヒーだね」

 一瞬、チー君の顔が綻んだ。お兄さんという響きがよかったのだろうか。
 ブラックコーヒーを一気に飲み、「苦っ!」とむせる。

「で、クトリちゃんにはホットココア!」
「ありがとう!」
「木綿季ちゃんは、ココアブレンドだね!」
「うん!」

 ココアの手で、クトリと木綿季の前に、それぞれの注文が並べられた。

「にが……ねえ、これ苦くない?」

 チー君の文句に、ココアはきょとんとした。

「だって、ブラックコーヒーだよ? 苦いのものだけど……お砂糖いる?」
「! い、いらない!」

 チー君はかすかに顔を赤くしながら、ココアの提案を拒絶した。

「な、何だよ!?」
「ううん。可愛いところあるなあって」
「っ!」

 チー君は、机を強くたたいた。

「そういうの、止めてよ!」

 突然の大声に、その場の誰もが動きを止めた。
 その中、チー君は続ける。

「もう子供じゃないんだ! そういうこと……やめてよ!」

 チー君は、怒りの眼差しでクトリを睨む。

「うんざりなんだよ! どいつもこいつも!」

 そのままチー君は、ハルトを突き飛ばし、ラビットハウスを飛び出していった。

「待ってチー君! ……千翼(ちひろ)!」

 ようやく聞けた、チー君の名前。
 クトリがその名を呼ぶも、それを無視したチー君こと千翼は、そのままラビットハウスを出ていた。

「千翼!」

 クトリが、彼に遅れて店を出るも、時すでに遅し。彼の姿は、もうどこにもなかった。
 
 

 
後書き
可奈美「飛び出して行っちゃった……」
木綿季「千翼君、大丈夫かな……」
可奈美「知り合いなの?」
木綿季「たまに病室に来てくれるんだ。でも、あんなに背が大きいとは思ってなかったけど」
可奈美「そっか……ハルトさんとクトリちゃんも追いかけちゃったけど、大丈夫なのかな」
ココア「さ、さあ! 心配だけど、二人に任せよう!」
可奈美「それも……そうだね。心配だけど、気を取り直して! 今日のアニメ、どうぞ!」



___だんだん芽生えた最初の想い わからないことは日々のページめくり物語を___



可奈美「アウトブレイク・カンパニー 萌える侵略者! ……侵略者!?」
ココア「こちら、2013年の10月から12月になります!」
可奈美「異世界へ、所謂オタク文化を持ち込んで、異世界に広めようという作品だよ。そのために主人公の加納(かのう)慎一(しんいち)さんが四苦八苦していくよ!」
ココア「でも、その裏では実は日本政府の大きな野望が……」
可奈美「野望っていうのかな……? でも、そういう異世界の捉え方もあるから、ぜひ見てみてね!」 
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