私利私欲
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第一章
私利私欲
テオドシウス帝の後である。ローマは彼の次男であるホノリウスが治めていた。
だがホノリウスはローマにはいなかった。
「皇帝はラヴェンナか」
「今はそこにおられるか」
「そしてラヴェンナの守りを固め」
「絶対に攻められない様にしておられるか」
ローマの市民達はこのことを話した。
「帝国の西を治めておられるが」
「それでもか」
「都のローマにおられず」
「それでか」
「ラヴェンナにおられるのか」
「そしてラヴェンナで優雅に過ごされている」
このことも話された。
「そうなのだな」
「我々のことは気にされず」
「そしてまともな政治も行なわれず」
「ご自身の贅沢のみにご執心か」
「この状況に」
「ブリタニアからもガリアからも兵を退けた」
守り切れない、そう判断してだ。もうローマはその領土全体を守れる程の力は残っていなかったのだ。
「そしてゲルマン人達の動きは物騒になる一方だ」
「ビザンチウムは我々を無視している」
「知ったことかという態度だ」
「西ゴート族のアラリックは皇帝との話し合いを望んでいるというが」
それでもというのだ。
「皇帝は話されようとしないというぞ」
「アラリックは金を払えば何もせず帰ると言っているが」
それがというのだ。
「皇帝陛下は一旦払うと言って払われない」
「約束を反故にされた」
「そしてローマに軍も向けられない」
「何もされない」
「軍があるにしても率いる将がおられぬ」
「スティリコ様は処刑された」
これまで皇帝ホノリウスに仕え国と彼を守ってきた彼がだ、戦えばどれだけの寡兵であっても勝ってきたが。
「他ならぬ皇帝陛下によって」
「よりによって下らぬ者の讒言を信じられて」
「そして一族全て処刑された」
「一体あの方は何を考えておられる」
「何も考えておられぬか」
若しくはというのだ。
「ご自身のことだけか」
「ご自身のことしか考えておられぬのか」
「ローマ皇帝は帝国全てを護る者だ」
この建前が話された。
「帝国の領土と権益、そして民達を」
「その全てをな」
「だがあの方はどうだ」
「ラヴェンナで贅沢三昧だ」
「他のことはされぬ」
「政治も何も」
「領土も権益も民も守ろうとされぬ」
一切というのだ。
「ただご自身のことだけか」
「一体どうお考えだ、帝国のことを」
「ローマを滅ぼすおつもりか」
この言葉も出た、そして。
西ゴート族、大柄で白い肌に金髪碧眼のゲルマンジン独特の外見の者達の中で一際目立つ外見引き締まった大きな身体と見事な口髭を生やした男が周りに言っていた。
「ローマ皇帝からの返事はないか」
「はい、全くです」
「こちらから何を言っても」
「それでもです」
「一切です」
「何もありません」
周りの者はその彼、アラリックに口々に話した。
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