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ソードアート・オンライン 〜槍剣使いの能力共有〜

作者:カエサル
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SAO編ーアインクラッド編ー
  01.現実の終わり

 
前書き
第1話投稿!!



 

 
 

 二〇二二年人類はついに───
 完全なる仮想空間を実現した




 半開きのカーテンから光芒が差し込み、部屋中に暖かな陽射しが差し込んでくる。
 パソコンから流れるニュースキャスターの声が響くのみでこれといって他に音は聞こえない。
 部屋にはこれといって目立っているものはない。あるものといえば机の上に置かれたデスクトップのパソコン、壁にかけられた液晶電波時計、ベット、教科書類が整頓されている本棚しかない。
 壁に掛けられた時計は短針が間もなく午後一時を指そうとしていた。

「……そろそろか」

 隠しきれないほどの笑みを浮かべる少年が室内にいた。
 口元が緩みきった状態で少年はベットの上に置かれたヘルメット状の機械を持ち上げる。それを持ちながらベッドの上に寝転がる。
 それこそが人類が完全なる仮想空間へとたどり着いた機機械───接続機器《ナーヴギア》だ。
 期待感をはち切れんばかりに膨らましながら頭へとそれを被り、ナーヴギアに接続されたLANコネクトケーブルを部屋のLANコンセントへと差し込む。
 興奮で震える手のせいで電源ボタン上手く押せない。
 落ち着け、と自分自身に言い聞かせながら興奮する手を押さえつけて電源ボタンを押した。
 目の前のナーヴギアの液晶モニターに接続中の表示と現在の時刻が示される。12:59の数字が映し出されている。

 ───そろそろだ。もう一度あの世界へ

 再び口から笑みがこぼれる。
 たかが一分なんだ。秒数にすれば六十秒。針が六十回記された点を通るだけなのにこんなにも長く感じてしまう。
 だが、その時間は興奮しきった脳を抑えるには十分な時間だ。
 そして少年が待っていた時刻を告げる。
 瞼を閉じる。そして現実世界から偽りの仮想世界へと誘う魔法の呪文を一拍おいて唱える。

「リンクスタート!!」

 意識を、記憶を、自分を構成している肉体を除いたものが光の束となって運ばれていく。
 そして次に目を開いたときには世界はその色を変えていた。先ほどまでの隔離された狭い部屋の中ではない。大きな広場、地面に一面にしかれたアスファルト。

「……また戻ってきたんだ。この世界に」

 先ほどまでいた自室とは全く違う空間。全てがプログラムで作り出された偽りであり、完全なる仮想世界。
 ───剣と戦術の世界。
 またの名を……《Sword Art Online》

 この世界を迷いのない足取りで如月 集也(シュウ)は突き進んだ。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 第一層・はじまりの街・西フィールド

「おりゃぁぁぁ!!」

 片手用直剣が閃光をまとう。イノシシのようなモンスター《フレンジーボア》の身体を刃が貫き、オブジェクトの光の破片が爆散する。経験値表示とレベルが空中に現れ、レベルの表示が一から二に変わる。

「この感覚……やっぱたまんねぇな」

 懐かしの感覚に長身の少年は笑みを浮かべた。目元まで伸ばしきった髪を邪魔にならない位置までかきあげ、

「……よしっ! 次の狩りだ!」

 そこから夢中で狩りを進め続ける。気づけば空は紅く染まり、仮想の太陽が地平の彼方へと沈もうとしていた。

「そろそろ、腹も減ったしログアウトするか」

 誰に言うでもなくシュウは呟いて大きく伸びをする。過去の記憶を探りながらも手慣れた手つきでメインメニューを開き、オプションからログアウトまでの表示を行う。

「あれ……?」

 思わず声が洩れた。
 ログアウトするための表示が存在しないのだ。
 ベータテスト時とは設定が変えられているのであろうか。
 メインメニューにあるボタンを一つ一つ探し、ログアウトボタンを探す。
 探すこと数分。すべての表示を開き終えてしまった。だが、メインメニューのオプションのどこにもログアウトのためのボタンは存在しなかった。
 製作者サイドのミスだろうか。
 メインメニューに存在するGMコールを押す。ゲームマスターへログアウトボタンがないことを知らせなければ、プレイヤーたちはこの世界から抜け出すことができない。
 プレイヤーがログアウトするにはメニューのログアウトを操作するか、外部の誰かがナーヴギア本体の電源を切るかしか方法がない。
 しかし、コール音が響くだけで出る気配などなかった。

「……どうなってるんだ?」

 すると突然として大きな鐘の音が響き渡る。
 なにかの時間を知らせるためかと思ったが次の瞬間、身体は強烈な光に包まれる。
 身体を包み込んでいた光が消え、視界が晴れた時には先ほどまでの高原のフィールドではなくログインした時に現れた中央広場だった。
 すると次々と第一層の中央広場へとプレイヤーたちが光に包まれて出現する。
 数えられたわけではないが多分だが、SAOにログインした約一万人のプレイヤー全てが中央広場に集められた。

「……強制テレポート」

 どうやら何者かによってすべてのプレイヤーたちがテレポートさせられたらしい。この状況に妙に落ち着いて分析してしまっているシュウは少し異常なのかもしれない。それはβテストという経験を得たというのが一番の支えになっている。
 これほどの人数のプレイヤーを強制テレポートさせることができる権限を持つものなどこの世界には一人しか存在しない。

「おい、上!」

 誰かの声でその場のプレイヤーたちが指を指した方向。夕焼けで紅く染まった空。それが一瞬にして鮮血へと変化し、何かが溢れ出てくる。

「なんだよ、あれ」

 鮮血が徐々に形を形成していく。それはローブを身にまとい、身長はゆうに五、六メートルはあるであろう巨大なアバターへと変化した。

『プレイヤーの諸君。ワタシの世界へようこそ。ワタシの名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロール出来る唯一の人間だ』

 茅場晶彦と名乗ったローブのアバター。それはこの世界をコントロール出来る唯一の人間───それはつまりGM(ゲームマスター)だ。

『プレイヤー諸君はすでにメインメニューからログアウトボタンが消滅していることを気づいていると思う。しかし、これはゲームの不具合ではない。繰り返す、不具合ではなくこれはソードアート・オンライン本来の仕様である』

 その言葉を理解するのにそう時間は掛からなかった。
 その言葉が意味するのはここにいる約一万人にとって最悪の答えだ。想像すらしたくないその答えをローブのアバターは一方的に言い放った。

『諸君は自発的にログアウトすることは出来ない。また外部の人間によるナーヴギアの停止、解除もありえない。もしそれが試みられた場合、ナーヴギアの信号阻止が発する高出力マイクロウェーブが諸君の脳を破壊し生命活動を停止させる』

 マイクロウェーブ? 脳の破壊? 生命活動の停止?
 あまりにも現実離れした言葉の数々に理解するまでに脳が追いつかない。
 そんな単語はゲームや漫画の中だけの話なはずだ。
 マイクロウェーブといえばポピュラーなところでいえば電子レンジに使われているものだ。それが仮にナーヴギアから発することができるなら簡単に脳を焼き切ることなどできてしまうだろう。

「なんだよこれ!」

 二人組のプレイヤーが広場から出ようとするが不可視の壁がそれを遮る。

『残念ながら現時点でプレイヤーの家族・友人などが警告を無視しナーヴギアの強制的に解除しようと試みた例が少なからずあり、その結果、二百十三名のプレイヤーがアインクラッド及び現実世界からも永久退場している』

「……永久退場」

 アインクラッド及び現実世界からも永久退場。それが意味することは───

『ご覧の通り、多数の死者が出たことを含め、ご覧の通りあらゆるメディアが繰り返し報道している。よってすでにナーヴギアが強制的に解除される危険は低くなっていると言ってよかろう。諸君らは安心してゲーム攻略を楽しむとよい。しかし、十分に留意してもらいたい。今後ゲームにおいてあらゆる蘇生手段は機能しない。HPが0になった瞬間、諸君らのアバターは永久に消滅し同時に諸君らの脳はナーヴギアよって破壊される』

 ゲームは死なないという前提だからこしプレイヤーたちはHPというこの世界での命を犠牲にしてモンスターたちと戦うことができる。
 だが、その前提が覆されたら……いや、現に茅場の言葉を信じるならそれは、HPが消滅とともにプレイヤーたちは現実でも死となる。
 ゲームの命と現実の命が天秤に乗せられた。この価値などどれだけ思案しようと現実の命の方が重いに決まっている。しかしこの世界ではそれらは同じ重さとなった。

「………ざけんなよ」

 ざわめいていたプレーヤーたちも唐突に突きつけられた現実に言葉を失う。

『諸君らが解放される条件はただ一つ……このゲームをクリアすればよい。現在君たちがいるのは、アインクラッドの最下層、第一層である。各フロアの迷宮区を攻略し、フロアボスを倒せば上の階に進める。第百層にいる最終ボスを倒せばクリアだ』

 第百層。それがどれだけ無茶なことを言っているのか俺は理解した。βテストの時を考えればほぼ不可能に近い。あの時は、二ヶ月でろくに進めなかった。
 それにβテストでは、死ぬことが許された。だから未知のボスに挑んで負けて攻略を立ててまた挑むことができる。
 しかし、この世界では、それが不可能だ。

『それでは最後に諸君らのアイテムストレージにワタシからのプレゼントを用意してある。確認してくれたまえ』

 言われるがままに恐る恐るメニューウインドウのアイテムストレージを開く。そこには先ほどまでのダンジョンで入手した中に見覚えのないアイテムがあった。“手鏡”というアイテム名のようだ。
 手鏡をオブジェクト化する。何の変哲もない現実世界のどこにでもあるような普通の手鏡だ。
 そこに映し出されるのは、βテスト時代に作ったアバターである俺の姿だった。髪が目元まで伸びており、目つきは鋭い。身長も百八〇はある長身で現実とはかけ離れている。
 その手鏡を覗きこんでいると突然だった。身体が眩い閃光に包みこまれていく。眩い光が消える。

「なんだ?」

 辺りを見渡すとそこにはさきほどまでいたはずのプレイヤーたちの姿が消えていた。代わりに全く違うプレイヤーたちがそこにはいた。
 だが、わずかな違和感を感じ手鏡で再度自分の姿を確認する。

「───ッ!?」

 手鏡に映る姿に驚愕する。整えられずに寝癖で所々が跳ねている黒髪。先ほどの鋭い目つきとは全く違う少し大きめの目。その顔立ちは、ごく稀にだが女性に間違えられたこともあった。
 その顔を見間違えるわけがない十四年間、見てきた如月集也(じぶん)の顔なのだから。

「なんで、現実の俺が」

 不意に俺はこの状況を理解することができた。
 先ほどまでいたプレイヤーたちは消滅したのではなく容姿がアバターから現実世界の顔に変わったのだ。

『諸君は今、何故と思っているだろう。何故、ソードアート・オンライン及びナーヴギア開発者の茅場晶彦はこんなことをしたのかと。ワタシの目的はすでに達成されている。この世界を創り出し鑑賞するためにのみ、ワタシはソードアート・オンラインを創った。そして今、全ては達成せしめられた』

 茅場晶彦のアバターは、眈々とした口調で説明のように声をあげる。その声は冷酷で無感情の機械のような声だ。

「ふざけてやがる……茅場晶彦」

 右手を強く握り締める。
 掌に爪が食い込んでわずかな痛みが走る。
 それすらもこの世界では現実の痛みに等しいのだ。

『以上でソードアート・オンライン正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君健闘を祈る』

 ローブアバターは登場した時とは逆再生のように空中へと消え去り、空は再び夕日に染まる。
 もはや先ほどの非現実的なことさえもなかったかのように。
 これは現実だ、と頭は何度もその言葉を繰り返していく。
 彼のインタビューのときの台詞が頭をよぎる。

 ───これは、ゲームであっても遊びではない。

 これは文字通りの意味だったんだ。

「きゃあぁぁ!!」

 一人少女の叫びの後にプレイヤーたちの不安と恐怖を押さえ込んでいた糸が切れたかのように慌てだした。
 怒りを表す者、泣きじゃくる者、何もできない者……そして動き出す者。
 この広場からの離脱を妨げていた不可視の壁が姿を消す。プレイヤーたちの波を掻き分けて広場から離脱する。
 目指すのは次の街だ。
 この辺りの狩場はこの騒ぎが鎮まればこのゲームを生き抜こうとする者たちが狩り尽くすだろう。
 それなら次の街に行って効率良くレベリングをした方が攻略が楽になる。

「ちょっと待ってよ!」

 はじまりの街を出ようとした時、後方からの声に足を止める。
 振り返ると同い歳くらいの少年がいた。少し長めの黒い髪。女性に見えなくもない顔立ちの少年がそこにいた。

「なんだ、お前も次の街に向かうのか?」

 黒髪の少年は浅く頷く。
 この少年とどこかで会ったことがあるような気がする。
 だが、顔立ちや容姿には全く見覚えはない。
 それでも、どことなくアイツ(・・・)に似ていた。
 βテストの時とともに前線を駆け、背中を預けた相棒の姿に……

「……キリト?」

 少年は目を見開く。

「……シュウ?」

 彼が名を呼ぶ。それはやはり少年の正体はβテスト時代に相棒だったプレイヤー。
 ───キリトだ。

「キリト、お前がいて安心した」

 キリトに向けて右の拳を突き出す。キリトは、少し懐かしむような表情を見せてから右の拳を突き出す。二つの拳がぶつかり合う。

「もうこれはゲームじゃない」

 言葉にキリトは頷いた。
 βテストの時のような無茶苦茶なレベリングも自爆特攻覚悟の攻略も邪魔なプレイヤーを殺すPKも何もできない。
 これは現実なのだから……。

「俺はこのゲーム……死んでも生き残ってやる」

 それがSAOに閉じ込められた約一万人のプレイヤーたちの最悪の幕開けだった。 
 

 
後書き
未だに1層もクリア出来ないプレイヤーたち。

そこで行われたのが第1層ボス攻略組だった。

次回、ついにボス激突!!


 
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