俺、ヤンデレ神に殺されたようです!?
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第1話 転生
午後4時過ぎ、帰りが早い高校生がちらほらと出没し始める時間。
買い物帰りの主婦たちがスーパーマーケットの前で談笑し合い、近くの公園では子供たちが楽しそうな声をあげ、鬼ごっこをしている。
昨日までここは平和な場所だった。
だが今日、昨日と同じ時間、周りには老若男女の叫び声が響き渡っている。
人殺しだの、刺されているだの、警察だのとうるさいくらいだ。
そんな中、俺は歩道橋の上に倒れている。俺にまたがるようにしながら、包丁を俺の腹、胸部、腕など何回も刺しているのはいつも一緒に帰っていた異性の幼馴染。
目の焦点があっておらず、「朝陽は私だけのもの! 」なんて狂ったことを言っている。
俺と幼馴染のまわりは俺から大量に流れ出た血によって汚れ、俺の返り血を浴びた幼馴染の顔はもう狂気に染まっていた。
不自然なほど冷静な頭の中。ただ浮かび上がる言葉は、『死ぬ』の二文字だけ。
いやだ、死にたくない。
縋り付く思いで、今はもうグチャグチャになっている右手を幼馴染の頰にのばし、
「な……んで……」
と、涙を零し、助けを乞うが……幼馴染は口を大きく開け、悪魔のような笑顔を浮かべた。
それだけでもう分かってしまった。もう、無理だと。
「ごめんね。待っててね、私の朝陽」
そう言うや否や、ひと際大きく包丁を振りかぶり、俺の顔に振り下ろされ───グシャ! という異音とともに、意識は呆気なく黒へ染まってしまった……。
☆☆☆
外が眩しい。まだ生きてたのか?俺は顔を刺されて死んだはずだ……。
恐る恐る瞼をあけると───眼に映る限りの花畑とどこまでも続く青空。そしてそこに1人の黒髪黒目の少女が立っていた。
(……誰?てかここどこだよ!?)
「ここは転生の間、私はゼウスよ」
「……What?」
目の前にいるロリが……ゼウス?もっとおじいさんみたいな───
「君が失礼なこと考えてるのは分かってるんだけど⁉︎ 」
心読めるのか⁉︎……あ、でもそんくらいは出来る……のか?
「君がなぜここに来ているかの説明義務が私にはあるわ。さっさと済ませたいから静かに聞いてね」
「わ、わかった。混乱してる俺にも分かりやすく説明してくれよ」
目の前の神様は、まずどうやって俺が死んだのか。また幼馴染が急変した理由について詳しく、ゆっくりと説明してくれた。
混乱気味の頭の中を整理し、なぜ殺されたのかということをもう一度神様に確認する。
「んで、その瑠瑠神とやらが俺を好きになって、他の女と関わらせたくないとヤンデレ化して、幼馴染に憑依して俺を刺し殺したと」
苦虫を百匹ほど噛み潰したような顔をしながらこのロリ「ロリじゃないわ」 に問うが・・・・・なんだよそれ、ただの自己満足で俺を殺したのか⁉︎
ヤンデレでもそれはやりすぎ……なのは知らんが人を巻き込まないでくれよ。というか、
「なんで俺のことが好きになったんだ? その瑠瑠神とやらは……」
「君、霊感があるでしょ? それも霊に干渉できるくらいの」
「ああ。まさかそれで引きよせちゃったとか?」
道を歩いていてぶつかってしまい、謝ったら、誰にそれいってんの? とか友人に言われてしまうほど俺には霊感があった。
そのせいでたまに取り憑かれることがあるから迷惑してたんだが……今回もそうなのか?
「あなたは1度、瑠瑠神に会っているわ。依り代無しで、しかも瑠瑠色金がそばになく、霊感が強い人でも普通は見つけられないのにあなたは見つけてしまった。あのバカ女……瑠瑠神は、本来人と関わることが大嫌いなの。だけどあなたとは波長があったようね。
それからはあなたの事ばかりを考え、私の言うことを聞かず、ついにあなたを我が物とするためにあなたを殺した、というわけ」
つまりまた引き寄せちゃったっていうわけかよ・・・・・運がないなぁ俺。
待て、瑠瑠色金だとか意味不明な単語より大事な、大切なことがある!
「おい! 俺の幼馴染はどうなった! 」
「あなたを殺した後、自分の……つまりあなたの大切な人の首を刺して自殺したわ」
なんで!俺だけ殺せばいいじゃないか! なんで関係ないあいつまで!
「それで……今そいつはどこにいる」
「人の運命を変え、二人の人物を殺した、その罪で【断罪の間】あなたたちの世界で言うところの刑務所に彼女はいるわ」
……そうか。だったら大丈夫だな。
でもアイツはもう俺と同じで死んだんだよな……生まれてからずっと一緒だったのに。飯も作ってくれて、相談とかにものってくれて……クソッ!!
俺もあいつも短い人生だったな。俺の顔は普通だったと思うけど、あいつはなかなか可愛かったしな──楽しかったことも、もう終わりか。
「あなた、随分落ち込んでいるようだけど私の話聞いてなかったの?」
「……え? 」
ちゃんとこのロリの「だからロリじゃない」話は聞いていたはずだが。
「ハァ……最初に言ったでしょ。ここは転生の間だって」
「あ……」
完全に聞いてなかった。てか混乱してたから覚えてるはずねえだろ。何? お詫びに転生でもさせてくれんの?
「あなたの思っている通りよ」
「本当か⁉︎ 」
「あ、でも1つだけいっておくと、あなたは転生先の世界でも殺されるわ」
「は? 」
転生先でも殺されるって……運なさすぎるだろ俺!
でも、なんでそんなこと知ってるんだ?
「あなたそこまで考えてもわかんないのね。あなたのことを瑠瑠神がまだ狙ってるからよ。
瑠瑠神というのは説明すると長いから省略するけど……いわば、特殊な金属にいる神様。あなたが行きたがってる世界に瑠瑠神はいない」
「だったら! なおさらいいじゃねえか。そいつがいないところで俺は平和に暮らすんだ」
「ダメなのよそれでは。あなたがいないとあの子は暴走して……私よりも強大な力をもって
断罪の間から抜け出してあなたの世界に干渉し始めるわ。仲良くなった人たちも、全員殺される」
な⁉︎ それじゃどこにも行けないじゃねえか! てか、ゼウス様⁉︎ あなた全知全能で神様の王なんじゃないの⁉︎ ゼウス様1番強いんじゃないの⁉︎
「確かに、私は王よ。だけど、あの子の君に対する執着心は並大抵のものじゃない。君に会うためだったら何でもする子よ」
これはもう所謂『詰み』というやつではないか……
「だから君にはあのバカ・・・・・瑠瑠神を止めてもらうために、『緋弾のアリア』の世界に行ってもらうわ」
聞いたことは……一応あるが、原作知識は皆無だ。なぜそこに行けと? 殺されるんじゃないの?
「その世界に行けば、瑠瑠神を殺せる、即ち君が瑠瑠神からの呪縛から解放されるかもしれないの。
その世界は瑠瑠色金がある世界。色金というものは、『1にして全、全にして1』。つまり自分の体とも言えるものが最もある場所。
自分の体とも言えるものが傷つけば、瑠瑠神も傷を負って力を失うわ。それができれば私があの子を消滅させることができるの」
つまりこのロリは「瑠瑠の前にあなたを殺すわよ! 」俺にその緋弾のアリアとかいう世界に行って、何とかしてその瑠瑠色金を傷つけろと……一般人になんてこと言ってやがる。神様とも言える物体を傷つけろと? ドSだろこのロリ。
「ロリ呼ばわりされていることに非常に腹がたつんだけど・・・・・あなたがその世界にいっても苦労しないように3つだけ、願いを聞いてあげる。どんなことでもいいわ。」
「そうか! だったら……」
その瞬間、幼馴染とのたくさんの楽しかった思い出が脳裏に流れた。あいつのためなら───
「どんなこともか? 」
「ええ、私に二言はないわ」
「だったら……1つ、俺の幼馴染を生き返らせてくれ。もちろん、俺がいない世界に再構築してくれよ」
あいつはだけは生きて欲しい。俺のせいで死んだんだ、あいつは……幸せに生きて欲しい。
いい男のところに嫁に行って、いつまでも笑顔で暮らしてほしいんだ。
「あなた……まあいいわ。2つ目は? ちなみに、体質とかはあなたのいた世界と変わらないわ」
「そういうこと先言えよ⁉︎ だったら……俺の霊感を無くしてくれ。もう取り憑かれるのはゴメンだ」
転生先で取り憑かれるののは勘弁だ。本当にやだ。
「はい、3つ目は? 」
「お前といつでも会話がしたい。もちろん、俺はロリコンじゃない。瑠瑠神がどうなってるか随時知りたいだけだから」
「あなたホントに殺すわよ⁉︎……ハァ、わかったわ。じゃあ決まりね。さっさと行ってちょうだい。」
おっと、ゼウス様のおでこに怒りマークが見えた気がする。これ以上はやめておこうか。
ん?……少し焦りも見えるような気が……
「はやく君の後ろの扉をくぐって。あいつがくる。ここが崩れるのも時間の問題よ! 」
「あいつってまさか⁉︎ どれだけ強いんだよあのヤンデレ! 」
俺は後ろの扉に走り出し、くぐろうとしたところでロリにまだ感謝を伝えてなかったことを思い出す。
「おいゼウス様! 転生させてくれてありがとよ! あんたも気をつけろよ! 」
ゼウス様は俺の言葉に……少し驚いたような表情をし……元いた世界であれば即アイドルになれるような
とても可愛らしい顔を向け、
「君ごときに心配される私ではないのよ? いってらっしゃい! 」
扉を開き、一歩踏み出すと……何かに引きずり込まれるように下に落ちていった。
☆☆☆
「ねえ、私の朝陽と何話してたの? 」
「ただの世間話だよ。君もそんなにあの子のことが好きなのかい? 」
そう言うとバカ女……瑠瑠神は長い髪を振り回しながら自らの頭に爪をたて、狂い始める。よくもまあ、ここまで変質したものだ。
「うるさいうるさいうるさい‼︎ アアアアアアアアアアアア‼︎ お前ごときが! 私の朝陽と喋るなんてええええっ!許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さないッッ! 」
どんどんドス黒い狂気が転生の間に満ちていく。ここが崩壊するのも時間の問題だろう。それにしても……瑠瑠神をこんなにしてしまうなんて。あの子も罪深いなあ。
「ふふっ、君のせいであの子が迷惑してるとは思わないのかい? 」
「迷惑? 朝陽は私を愛しているの! 愛してなければいけないの! だから! 朝陽に近づく女は殺すの! 殺さなくちゃいけないの! 」
ああ、このままじゃ……またあの子が殺される。今度は現世に生まれた瞬間だ。そうなる前に、また閉じ込める必要がある。でも──1つ瑠瑠神にいっておかなくちゃ。
「君があの子のことをどう思うが私には関係ないけど……ちょっとヤキモチ妬いちゃうかなあ? 」
少し頰を赤く染め、右手を人でいう心臓の位置に持ってくると……
「お前ええええええええええ! 」
案の定怒ってくれた。ここまで敵意むき出しで来てくれないとあの人達は出てきてくれないんだよね。
「だから、また閉じ込められてね」
私は今にも私を殺そうとしてくる瑠瑠神に手の平を向けるようにつきだし、
「オリンポスの神々たちよ、力を貸せ。てか起きろニートども! 仕事だ」
どこからか、面倒だの嫌だだの聞こえてくるが一切無視し、最上封印術式を展開する。
「瑠瑠神よ! たかが金属の分際で私に勝てると思うなよ! しばらく閉じ込められて、己を見直せ! 」
私のまわりに、11もの魔法陣が展開され、私の手のひらにも一つ展開される。まばゆい光を放ち、エネルギーが収束されていく。
「 絶対にコロシテヤルウウゥゥゥゥゥゥゥっっっっ! 」
瑠瑠神が私に近づき、あと一歩で私に触れられる位置にまで来たとき……術式を開放する。
「最上封印術式! 【絶無世界】! 」
ーーキュウウゥゥゥゥゥゥウウン! ーー
光の粒子が瑠瑠神を囲い、魔法陣から大質量の光の粒子が放たれる。
瑠瑠神はその光に溺れながらも、狂気に染まった目をこちらに向け……開きっぱなしだった扉の方に一筋の光を照射した。
「しまった‼︎ 」
瑠瑠神はそれに満足したように足掻くのをやめ、再び強化された断絶の間に閉じ込められた。
「ハァ……ドッと疲れが来るわ。ありがとね、オリンポスの神ニート達」
『ニートじゃない! 』
「それにしても私のミスだわ……あの光、あの子が大変なことになりそうね」
自分のミスを悔やみ、あの青年が無事に生まれることを祈る。手出しできるのはこの空間内か、いずれかの世界でのみ。ここと世界を繋ぐ道において私は無力も同然。だから──
「無事に、生まれてくれ! …… 」
そう願うしか、私には出来なかった。
ページ上へ戻る