歪んだ世界の中で
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第一話 底のない絶望その八
テストが終わりだ。実際に日曜にだ。山に入ったのだった。
山の中は清らかでしかも静かだった。川のせせらぎに鳥の声がだ。初夏の山の中に聞こえていた。
葉は黄緑から緑になろうとしていた。その葉も見てだ。
希望はだ。穏やかな顔で真人に言うのだった。
「来てよかったよ」
「そうですね。この山にいると」
「子供の頃も思い出すしね」
だからこそだとだ。希望は笑顔で話すのだった。
そしてだ。彼はまた真人に述べた。
「それでね」
「森の中に入りますか」
「そうしよう」
こう言ってだ。真人を誘うのだった。
「今からね」
「はい、それなら」
「行こう」
「そうしましょう」
二人でだ。笑顔で頷き合いだ。
森の中に入った。その森の中は。
木々の間から白い光が差し込めている。その光に照らされてだ。
森の中は淡い穏やかな中にあった。その中にあってだ。
真人はだ。こう希望に言うのだった。
「どうですか?」
「気持ちだね」
「はい、今のお気持ちは」
「落ち着くよ。それに」
「それにですか」
「凄い。開放された気持ちになってるよ今」
そうだとだ。ほっとした様な顔で言うのである。
「こんな気持ちになったのは久し振りだから」
「学校では、ですか」
「それに家でもね」
最早家にもだ。彼の安住の場はなかった。
それでだ。こう真人に言ったのである。
「親父とお袋に」
「おじさんとおばさんがですか」
「勉強しろ、留年になったら退学だってね」
いつも言われている。だからなのだった。
「今の僕には居場所がないから」
「そうなんですか」
「本当にさ。友井君がいないと」
そのだ。真人を見ての言葉だった、
「僕、どうなっていたか」
「わからないですか」
「本当にさ。辛いから」
今の状況がだ。とてもだというのだ。
「死にたくなることもいるもだし」
「そうなんですか」
「生きるのって辛いんだね」
沈痛な顔になりだ。言う希望だった。
「僕の今って」
「だからこそですか」
「うん、今凄くほっとしてるよ」
極限まで開放された、そうした顔だった。
「こんなにほっとしたなんてね」
「そうですか」
「久し振りだよ」
「ではです」
「それでは?」
「もっとほっとされますか?」
真人は優しい笑みになり希望に言った。
「そうされますか」
「そうしていいのかな」
「遠井君が気が済むまで」
そうしていいとだ。真人は微笑み希望に述べた。
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