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GATE ショッカー 彼の地にて、斯く戦えり

作者:日本男児
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第2章 異世界衝突編
  第1話 ゲームチェンジャー

 
前書き
第2章がスタートしました!! 
相変わらずオリジナル展開で進んでいきますがよろしいでしょうか?
今回、オリキャラがさらに登場しますが今回の話をより楽しまれる為にも先に番外編であり、前日譚に当たる『SHOCKER 世界を征服したら』の最新話までを読まれてからにすることをおすすめします。


準備はいいですか?
ではッ!!
(`゚皿゚´)/イーッ!!  

 
東南アジアエリア バンコク 大ショッカー党東南アジア支部



「失礼します!」


執務室にスーツ姿の役人が入室すると目の前の机に座る大幹部……地獄大使に敬礼する。


「イーッ!異世界への移民第1陣のリストが完成しました。あとは現地の開拓さえ完了すればすぐにでも実行できます」


「そうか、よくやった。思ったより早かったな」


地獄大使は役人に労いの言葉をかけた。


異世界のミラーワールドへの植民。
元々、侵攻直後から計画されていたことではあるが日増しに暴走し続ける。対日強硬派を押さえつけるために急ピッチで進められた事業である。
土地が広大過ぎるために調査中、測量中の地域が多く、まずはミラーワールド内のアルヌス、オ・ンドゥルゴ、イタリカのみの植民である。

当然、軍の一部からはミラーワールドを通って帝都や帝国主要都市に奇襲攻撃を仕掛ける案も出たが亜神…とりわけ、ロウリィにミラーワールドの存在を知られると植民事業の邪魔をされる可能性があると判断されたため、すぐに却下された。

送り込む移民については人口の多い州、自治区を優先的に枠を増やし、募集制にしたところ、非常に多くの希望者が殺到した。
移民を募る広告を見た人々が我先に挙って役所に押し寄せ、ネット上では募集を担当するコンピュータのサーバーが処理しきれず一時、ダウンするほどだった。
一部の貧困層を除き、未知の世界に対する好奇心を刺激された者ばかりである。
さすがにこれには政府も驚いた。勿論、反ショッカー的・思想的問題有りとされた人民を不合格にしても数百万人を有に越していた。第1陣だけでこれである。第2陣、第3陣と続ければ何千万、いや何億人もの人的資源を異世界に送り出すこができる。
政府としては嬉しい悲鳴が聞こえていた。


しかし植民に関するテストケースとしての側面が強い第1陣に関しては応募者全員を連れて行くというわけにもいかず、急遽、応募者の中から抽選という形をとって数百万人からやっと数十万人にまで人数を減らすことができたのだ。


結果、アルヌス、オ・ンドゥルゴ、イタリカという極めて局地的な地域にも関わらず第1陣だけでも数十万人もの移民団が組織されつつあった。




地獄大使はふと、あることが気になった。移民と同じくらい……いや、それ以上に重要な事業がもう1つ残っていた。


「訪日団の用意はできたのか?あと数日後だぞ?」


「はい、用意はできましたが……その……よろしかったのですか?あの御方を訪日団の長にして……もし、あの御方が強硬派だったら…」


「安心しろ。"奴"は穏健派だ。それにゾルや死神、(わし)、暗闇の半端者よりはよっぽど適任だと思うがな」


ゾル大佐は基地司令を任されているし、死神博士は日本エリアの統治者でありながら世界統治委員会の委員長の役職を兼任している為に非常に多忙である。かくいう地獄大使もこうして執務に追われている。かといって強硬派の多いネオショッカー、ドグマ王国、クライシスの大幹部に任せるわけにはいかなかった。


それに訪日団員に求められる条件には
・ショッカーに対する揺るぎない忠誠心を持っていること
・いかなる時も職務を全うできる者
・穏健派であること
等々の他にも、


・日本側に警戒されない容姿のもの


というのがあった。
いくら口で友好を語ろうとも見た目が禍々しくては意味がない。最悪、現在進行中の日本世界征服作戦が日本側に漏れる危険性もあった。そういう意味でも団長の容姿(ビジュアル)は重要だった。ゾル大佐は日本世界で忌避されるナチスそのままであり、死神博士は中々に(いかめ)しい風貌をしている。地獄大使や暗闇大使に至ってはコスプレや仮装と思われてしまう可能性があるし、デルザー軍団やグロンギ族などの非人間タイプは論外である。

さらに訪日団には高度に政治的な判断力、社交力、交渉力が必要である。
そうなると使節団長が"彼"になるのは自然な流れだった。



「さて、話は変わるが…先の来賓拉致事件、こちら側に敵の内部協力者がいたことは間違いないのだな?」


来賓拉致事件……レレイ達が拉致されたあの事件である。あの事件は千堂がレレイ達を救出し、実行犯を全員逮捕したこたことで事なきを得た。しかし、その後の捜査や取り調べで政府内部に潜む内通者がいる可能性が浮上したのだ。


「はい、裏切り者がいることは確定のようです。問題はどこの誰、あるいはどの派閥かが分かってないことですが……」


そもそも拉致現場には武器類は勿論、カメラやペンなどの金属類に至るまで荷物の持ち込みには細心の注意を払っていたにも関わらず、相手はそれをいとも容易く潜り抜けてみせた。ナイフの1本や2本ならいざ知らず、ロケットランチャーに小銃、ガイアメモリまで持ち込まれていた。
ここまでくるとショッカー内部にテロリストの協力者の存在がいる可能性を疑うのは自然な流れだった。


「ネオショッカー州やクライシス自治区の奴らが裏で手を引いていた可能性もあるわけか……。もし、そうだとしたら厄介だぞ」


レレイ達、異世界人を襲撃して得をする派閥というと対日強硬派くらいしか思い浮かばない。彼らの内部にいる過激な軍人が出世目当てで戦線を拡大したがっていることは重々、理解している。だがネオショッカー大首領やクライシス皇帝らの支持を取り付けているため、こちらとしても迂闊には手を出せない。

こういう場合は大首領様が直々に御聖断を下さるのが手っ取り早いのだが大首領様もこれには慎重にならざるをえない様子だ。しかし、このまま放置していてはショッカー内部で分断が起こってしまう。最悪、この世界で血で血を洗う内戦が勃発する可能性もある。そうなれば対日外交や帝国戦どころではない。


なんとしても内部協力者の実態を洗い出して強硬派の勢いを削がなくてはならなかった。


「拉致事件の指示を出していたとされるアンチショッカー同盟東南アジア支部メンバーの粛清並びに証拠押収は例の部隊に任せています。間もなく作戦が決行される頃でしょう」


「例の部隊、例の部隊か…一応、あれでも強硬派じゃないのが救いだが……やり過ぎないかが心配だな……」


そう言うと地獄大使は再び執務に戻った。
―――――――――――――――――――――――

同エリア 某所にあるジャングル



かつてガモン共和国と呼ばれていたそのエリアの奥地には未だに熱帯性植物で構成された森……いわゆるジャングルが残っていた。

そしてその鬱蒼とした植物達に隠されるようにして存在している集落こそアンチショッカー同盟 東南アジア支部のアジトだった。アジトといっても東南アジア中に数ある基地の内の1つである。 

それにこのアジトには女子供などの非戦闘要員もおり、皆で生活を共にしているため、文字通りの意味の『村』と言っても差し支えない。
そのため、稀に旅人がこの村を発見することがあってもただの村だと勘違いして過ぎ去っていくのである。


このようにアンチショッカー同盟は民間人を装い、普段は一般市民として生活しながらショッカーに対してゲリラ戦やサイバー攻撃を仕掛けていた。この戦法を取られては民間人と不穏分子を見分けることが非常に難しいためショッカーは手を焼いていた。




夜明け前、民家に偽装した兵舎の隅で1人の男がテレビを見ていた。
テレビに映っているのはショッカーの公営放送の報道番組。番組では先の来賓拉致事件の模様……そして"とある精鋭の改造人間"が単身で乗り込み、彼女らを救出したことを報道していた。

 
「クソがッ!!日本支部の奴らめ、失敗しやがって……どれだけ重要な作戦だったか分かってたのか!?」


男は怒りで机を思いきり叩いた。
さらに男の怒りの矛先は敗北という醜態を晒した日本支部に留まらず、ショッカーにまで向いた。


「くそッ!くそッ!ショッカーめ!!異世界征服の為にこんな幼い女の子達まで利用しやがって!!」



異世界の少女達の確保には失敗し、日本支部の実働部隊には損害が出た。はっきり言って大損だ。
それに今回の作戦は日本支部と東南アジア支部の一部のメンバーによる独断行動である。間もなく自分は各支部長から責任を追求され、弾劾されることになるだろう。これが作戦が成功していたなら幾分か、処分は軽いだろうが現に失敗しているのである。厳罰は避けられないだろう。



男は目を閉じた。そうするとふつふつと自分がアンチショッカー同盟に入団した経緯がまるで昨日のことのように蘇った。




元々、俺は防衛軍の怪人兵士の一人だった。怪人兵士の中でもそこそこ強かった俺は同期に比べて少し早く出世をしていたこともあって、それが何より誇らしかった。それにその時は同盟のことをショッカーに反旗を翻す反逆者を悪と信じて疑わなかったし、そのメンバーを殺すことに抵抗など一切感じなかった。

だがそんな感覚もあの御方と出会ったことによって一変した。
ここ、東南アジアエリアで不穏分子との戦闘任務中に…一文字隼人様に出会ったのだ。最初こそ、息の根を止めてやろうと立ち向かった。
だがショッカーに属する改造人間だった俺に対して一文字様は拳ではなく言葉で最後まで言葉で語りかけてくださった。
どんなにこちらが敵愾心を向けようと友愛の精神を忘れず、心を見てくださった。次第に俺はショッカーの世界統治そのものを疑問に思うようになり、今まで感じていた改造人間であることの優越感が馬鹿らしくなった。それから義憤にかられ、アンチショッカー同盟に参加するまでになったのだ。


後に一文字様に「何故、あの時、俺を殺そうとせず、対話で説得しようとしたのですか」と尋ねると、「お前の眼に悪を感じなかったから」とだけ答えてくださった。なんと素晴らしい人徳者なのだろう。

今では、仮面ライダーのおかげで自分はショッカーの「洗脳」から解け、「良心」を取り戻すことができたと感謝している。








その時だった。ドォン、という轟音と共に足元が揺れた。男は反射的に投げ出すように床に伏せた。


―敵の攻撃。


そんな言葉が脳裏をよぎる。


ドォン、ドォン、ドォン、ドォンと何度もその轟音は響いた。比較的、遠くで鳴ったものもあれば2〜3メートル先で鳴り響いたものもあった。


辺りがシンと静まり返ると男は立ち上がった。そして肩越しに窓の外を見ると村中から煙が上がるのが見えた。所々、火事も起きているらしくチラチラと赤い炎が薄暗い夜の村を照らした。
何十回と起きたその爆発は"民家"を吹き飛ばし、運悪くその爆発に巻き込まれた者はもはや人としての原型を留めてなかった。


辺りは地獄絵図と化していた。



「ショッカーだ!!!」


大型の軍用トラック2台が村の入口付近で停車し、サーチライトを浴びせかけた。ライトがボンヤリとした闇を切り裂き、逃げ惑う女子供を浮かび上がらせる。
そして軍用トラックの荷台から兵士達が続々と勢いよく飛び出す。
彼らは一様にして目を血走らせ、息は荒い。


奴らの目的が"殺戮"なのは明らかだ。

 

『我々は防衛軍の対テロ部隊です。武器を捨てて投降しなさい。我々は無益な争いを好みません。繰り返します、我々は―』



ショッカーの犬共はスピーカーを通じて大音量で降伏勧告を行っている。



「ふざけるな!!武器を突きつけ、先に攻撃しておきながら何が『無益な争いは好まない』だ!」


男は兵舎を飛び出し、外に出ると大声で叫んだ。


「女子供は逃げるんだ!生き残った男達は戦うんだ!ここで奴らを食い止めるぞ!!」



見る限り、摘発部隊に戦闘員がいないのが幸いだった。戦闘員はあんな珍妙な見た目ながら人間の10倍以上の怪力を持つ。通常弾で倒せないこともないが、耐久力が常人の比ではない。
おまけにどんどん湧いて出て来るので倒すためにはこちらはガイアメモリや改造人間で立ち向かうしかない。しかし今、この村にいる改造人間は自分一人だけだし、同盟が自主開発したガイアメモリも数本だけしか用意されていなかった。そんな状況で敵方に戦闘員がいないのは男にとって九死に一生を得たような感覚であった。

 

しかし軍服を着た指揮官らしき青年の肩についている部隊章を見てその安堵も消え失せてしまった。



反逆者に飛びかかる狼  



ショッカーの対ゲリラ特殊部隊の部隊章だ。


"元"ショッカー怪人の男はこの部隊のことをよく知っていた。対ゲリラとは名ばかりで実際は不穏分子・反乱分子の粛清が主だということも、隊員全員が高い戦闘能力を持っているということも………ショッカーの中で人一倍、不穏分子…つまり自分達を憎み、怨んでいるということも。

洗脳が未だに解けず、それ故に悪に身を落としたままの彼らに同情の余地はあるが仲間を守る為には戦わなければならない。



男は意を決して、深く目を瞑ると腕を大きく振るって叫んだ。


「変身ッ!!」


一瞬にして男の身体は茶色に変色し、頭頂部には黒い房毛の着いた耳、臀部には長い尾が生える。顔つきや手足もネコ科動物のそれに変化する。



男はアフリカ・中東原産のネコ科動物……カラカルの怪人だったのだ。ショッカー在籍時には『カラカリアン』と呼ばれており、今でもその名を名乗っている。



カラカリアンの姿を見た兵士達は小銃を発砲しながら彼の方へ駆けてくる。



「裏切り者がいるぞ!!」
「殺せッ!!息の根を止めるんだッ!!」


兵士達はカラカリアンに接近するとスリーマンセルで取り囲む。しかし、カラカリアンは迫りくる兵士達を文字通り、千切っては投げ、千切っては投げた。
カラカリアンも伊達に改造人間を名乗ってはいない。仮面ライダー程ではないが戦闘能力なら並のショッカー怪人以上なのだ。



そんな中、指揮官らしき青年が目の前に現れた。



「テロリスト風情が……粋がりやがって…ここがお前の墓場だ」



目の前の青年は呟くように「変身ッ……」と叫ぶ。


すると白い霧が青年を覆う。そしてその霧の中で一瞬、閃光が起こると次第に白い霧が晴れていく。


「グルルル……」


唸り声が空気を振動させ、その場にいる者をこれでもかと威嚇する。

目の前には漆黒の毛並みを持った人狼がいた。さらに上級怪人を表す金色のベルトをしており、夜の闇の中、カラカリアンをまるで親の敵でも見るように鮮血のように紅く光る眼でこちらをジッと睨んでいた。


「お前が粛清部隊の指揮官だな!この村は俺が守る!!」


カラカリアンは黒い狼男に迫ると、固い地面を蹴って飛び上がった。
狙うは目だ。目を潰して胸を裂こう。そうすればどんな敵も死に絶えるはずだ。
そう考えながら狼男を見下ろすと急降下し、爪の生えた腕を伸ばした。




だが相手はその上をいっていた。



ガシッ!!



「何ッ!?」


カラカリアンは驚愕の声を漏らした。
なんと黒い狼男はカラカリアンの腕を掴んだのだ。猛スピードで急降下する自分の腕を。


ありえない。俺の渾身の業だぞ!!それを片手で受け止めるなんて!!


彼は何が起きたのかはっきりと理解できないまま回し蹴りを食らう。
カラカリアンは鈍い痛みと共に付近の民家の壁に叩きつけられた。壁が衝撃に耐えられず、ガラガラと崩壊する。


「う、うう………」


カラカリアンはフラフラとした足取りの中、何とか立ち上がった。
それを見た狼男は心底煩わしそうな顔をして呟く。


「……全く、とっととクタバレばいいものを…鬱陶しい!!」


狼男がまだふらついた様子のカラカリアンに向かって両腕を広げて駆ける。
鋭い爪を伴った拳がカラカリアンの鼻先を掠った。
その瞬間、暴風のような衝撃波が起きる。それに驚いてバランスを崩した途端、天地がひっくり返った。

黒い狼男はその隙を逃さず、カラカリアンの尾を掴むとハンマー投げの要領で投げ飛ばす。
カラカリアンは宙を舞ったが背中から落下する直前、ネコ科動物特有の鋭い反射神経で一気に後方へ下がると体勢を立て直す。


「フンッ!小癪な。遊びもここまでだ…」


黒い狼男は両腕を引絞るとうずくまるようにして震えた。そして急に立ち上がると空を仰いだ。


「アォォォォォォォォォンンン!!!」



狼の怪人が遠吠えをすると先程まで雲一つなく、美しい星々が見えていた空が次第に暗雲に覆われ始めた。



「何だ?空が……急に曇って……?」



カラカリアンは突然のことにただ呆然とする。



―ゴォォォォォォ!!!!


その瞬間、熱帯のジャングルに凍てつくような冷たい風が吹き荒れる。
よく見ると辺りにはチラチラと白い粒が降り注いでいた。雪だ。東南アジア、それもこんなジャングルの奥地で雪が降っている。


「これは……この技は…ま、まさかッ!!」


最悪の事態を想像してしまい、カラカリアンは震え上がる。
そして、彼は目の前の怪人から少しでも距離を離そうとした。
もし、自分の想像通りの能力を持った怪人なら正面から戦っても勝ち目はない。
そう判断したからだ。
幸い、自分にはカラカルの怪人。スピードには自信がある。
このスピード能力を駆使し、背後に回れば勝機はある!!


カラカリアンは全体重をかけて踏み込み、大地を蹴って高速移動をしようとした。だが、肝心なところで脚が動かなかった。


(動かない!?何故だ!?)


何事かと脚に目をやると驚愕し、恐れおののいた。
両足が氷柱に覆われていたからだ。氷はやがて脚から腰、腰から腹へと昇っていく。


(やはり、……やはり……この怪人は…、あいつの血統なのか…!?!?)



必死に氷の拘束から逃れようと藻掻くカラカリアンを前に黒い狼男はゆっくりと近づく。狼男がカラカリアンの目と鼻の先まで近づいた時には氷の拘束は胸を超え、首元までに及んでいた。


「ふッ、無様だな……」


黒い狼男が侮辱するとカラカリアンは怒りに顔を歪ませ、抵抗をますます強める。だがそれも強靭な氷の拘束を前にしては無駄な足掻きに過ぎない。


「聡明で偉大なる大首領様に仇なす屑め、貴様らの反乱の芽など俺が摘み取ってやる」


そう言うと黒い狼男は腕を大きく振りかぶった。そしてカラカリアンの右肩に狙いをつけると―


右肩から胸にかけてを切り裂く。
カラカリアンはフラついた足取りで2、3歩前に進むとガックリと膝を落とした。


「ぐ……グフ………自由…ばんざ……い」


ドガァァァァァァン!!!!


カラカリアンは口から血を噴き出すと小規模な爆炎と爆風を上げた。


―――――――――――――――――――――――――――


「裏切り者め……ショッカーに選ばれた改造人間であるにも関わらず反逆者に寝返るとは…」



裏切り者であるカラカリアンの爆死を確認すると狼の怪人は人間態の時の姿に戻る。
青年は焼け焦げたカラカリアンの死体を一瞥すると痰唾を吐き捨てた。



全く、裏切り者が……。無駄な抵抗をしやがって。この"どら猫"のせいで部下が数人程、死んでしまったではないか。許せん。
コイツら、不穏分子は昔からそうだ。ゴキブリみたいにいつの間にか現れては増えやがる。青臭い理想論ばかり語るだけ語ってはすぐに謀略に走りやがる。おまけにショッカーが統一前にテロを起こしていたなどと『陰謀論』を吹聴して回るのだ。こんなクズのように反乱を企てるような雑草は世界の為にもすぐに刈り取るべきなのだ。



すると後ろから誰かがこっちに向かって走ってくるのを感じた。
振り向くとこの部隊の副官である伍長がいた。



「流石は漆黒の狼男、ラディーレン様…いえ、小笠原隊長です!裏切り者を瞬殺するとはッ!」


伍長は商人のように揉み手をしながらすり寄る。

俺は上官に媚び諂い、すり寄ってくる奴が不穏分子の次に嫌いだ。
それだけじゃない、そもそも俺は他人を利用するような人間が嫌いだ。
そういう人間ほど『利用価値』が有ると判断した人間に対して心にもないお世辞を言うからだ。

例えば―


「伝説のショッカーライダー…№7の末裔の名に恥じない強力な猛攻でした!感動しました!」


伍長が気持ちの悪い笑みを浮かべながら言う。
またそれか……。小笠原は額に手を当てて溜息をつく。


そうとも、俺は本郷猛にトドメを刺したショッカーライダー…№7の曾孫だ。
だがそれがどうした?なぜ、会ったこともない先祖のことを俺が気にしなければならない?


皆が求める。
「お前は英雄の子孫なのだからそれに相応しい実績を残せ」……と。
幼い頃から周囲にそう言われ続けた。頭がおかしくなりそうになったこともあったがそれすら許されない……英雄の子孫もまた完璧な英雄でなければならないのだから。



「それと…隊長、逃げた不穏分子は皆、捕らえました。どうしますか?」 



全く……この指示待ち人間が。俺達が何しに来たかも分からないのか?
人のことをヨイショしてる暇があるなら少しは自分の頭で考えろ。


「どうするって……"いつも通り"にするに決まってるだろ?」


「了解!!」


そう言って持ち場に去っていく伍長の後ろ姿を見ながら小笠原はこの世界の将来を案じた。


(あんな太鼓持ちまでが『優秀』と認められるようになるとはな……)


そこまで考えて小笠原はいかんいかんと首を左右に振った。
あの男を『優秀』と定めたのは偉大なるショッカー、ひいては大首領様なのだ。大首領様の為さることに疑問を持つこと自体、無礼であり、罪だ。
故に常に信じ続けなければならない……どんな時も、ずっと。



至るところで悲鳴や銃声、絶叫、怒号が聞こえる。部下達はちゃんと仕事をしているようだ。
チラッと部下の兵士の仕事振りを見た。ある兵士は不穏分子の女の顔をブーツで踏みつけ、改造リボルバーで面白半分に頭を吹き飛ばしていた。
別の場所では最後まで抵抗した老人が「私は偉大なる大首領様に刃向かいました」と書かれたプラカードと共に木に首を吊るされている死体と化した。


ああ、やはりこの粛清任務はいい。余計なストレスを不穏分子にぶつけることができるし、何より殺せば殺すだけ周囲の人間も「流石、英雄の子孫だ」と勝手に満足する。正にWin-Winというやつだ。


「ぎゃああああ!!!」
「ギェッ!!」
「やめてぇぇぇぇ!!!」


不穏分子達の悲鳴が響く。悲鳴を聞く限りでは女性や子供も混じっているようだ。
部下達は捕虜をじっくり苦しめることで反乱を企てたことを、不穏分子の元に生を受けたことを後悔させていた。
だが虫ケラといえど遊び半分で殺すのはいただけない。そこは注意しなくては。
小笠原はゆっくりと先程、報告に来た伍長の方へ近づく。


「伍長、貴様らはやりすぎるところがある……その癖、直したほうがいいぞ」


「!……しかし隊長、隊長は一般市民を虐殺するようなテロリストのことが憎くないのですか?テロリストに慈悲はいりませんよ。寧ろやり過ぎる位がちょうどいいのでは?」


「その通りだ……だがそれも時と場合による。今回のようにスピーディーな作業効率が求められる時は遊んでないでさっさと殺すべきだ」


「なるほど!勉強になります!!」






その時だった。
小笠原は後方に待機させてある軍用トラックの荷台の中から苦しそうな呻き声を聞いた。中には女性がおり、頭を押さえて苦悶の表情を浮かべていた。戦場に似つかわしくない若い女性だった。
その声を聞いた途端、彼は表情を変えた。


「また"発作"だ!あとはお前に任せるぞ」
 


そう言うと小笠原はさっさと軍用トラックの方へと戻っていった。
それを遠くから見た部下達は迫る死の恐怖に怯える生き残った村人を壁際に並べながら口々に話し始めた。



「なぁ、最近、隊長の側にいるあの女、何者だ?明らかに民間人だろ?」


「さあな、一時は愛人とか言われてたがどうも違うらしい」


「愛人にしても普通はこんなところに連れてこないだろ」


すると別の男が拳銃のマガジンに次弾を装填しながら話に割って入る。


「お前ら、知らないのか?あの女は隊長が銀座動乱の時に救出して連れてきたんだってことを」


「は?どういうことだ?詳しく教えろ」


「だから、あの女が帝国軍にとっ捕まってたところを隊長が見つけて助けたの!ショックからか記憶も無くしてるらしくてな。身内を探そうにも手立てがないから隊長が面倒見てるらしい」
 

処刑しなければならない捕虜を差し置いて話し込む彼らを見た伍長は厳しく注意する。


「おい、そこ!!駄弁ってないで仕事をしろ!!」


「「「すみません!!!」」」


連続した乾いた発砲音と悲鳴が辺りに響いた。




軍用トラックの荷台では小笠原が女性の介抱をしていた。なぜか分からないが女性は過呼吸に陥っていた。
小笠原はどこからか袋を取り出して女性の口元に当てると優しく女の背中を撫でる。そして先程、部下達に命じた時とは打って変わって柔らかい声で語りかける。


「落ち着いて……ゆっくり息を吐くんだ。そう、そのまま…」


すると女性の呼吸は次第にさっきまでの荒れたものから落ち着いたものに変わった。


「……ありがとうございます。少し、楽になりました…」



「君は何者なんだ……覚えている限りでいいから教えてくれ」


懇願するようにそう言うと女性は少し暗い顔をした。当然だろう。記憶がないから答えようがないのだ。
マズイことを言ってしまったな…。そう思い、小笠原が反省したところに部下の1人が息咳切った様子で駆け込んできた。


「隊長!機密文書とおぼしき書類が数十枚、見つかりました!これです!」


小笠原は女性の背中を擦りながらその書類に目を通す。
予想通りの文脈に小笠原はフッと笑った。声は元の厳しいものに戻っていた。


「やはり裏にいたのは強硬派の青年将校か…。これは大きく状況が変わることになるぞ」


粛清部隊の面々は内通者がいたことを示す証拠を押収し終えるとトラックに乗り直し、最寄りの基地へと帰投した。


村には血の川が流れ、無残な死体の山が築かれていた…。
 
 

 
後書き
千堂に続く2人目の狼男…ラディーレンが登場しました。
まだ謎の多い彼ですが、タイトルにもあるように彼は帝国戦・対日外交において『ゲームチェンジャー』になっていきます。

また、彼の曽祖父であるショッカーライダー№7は『SHOCKER 世界を征服したら』の第2話、『ショッカー、栄光の日 本郷猛、最後の日』に登場しています。よろしければそちらの方も読んでください。
しつこくてすみません。 
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