最弱能力者の英雄譚 ~二丁拳銃使いのFランカー~
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第二十四話
「貴様ごときに、この俺の本気を出さなければならないとはな!!」
うっすらと、霧の中から見えて声を大にして唱えるのは、学園最強の男、盾田剣士。
奴のまわりには、体を催してつくられたのだろう鎧が脱ぎ捨てられたように転がっている。
その姿は、従来の大きな鉄の壁、ではなく、一〇ある筋肉を、無理矢理に一へと凝縮させた肉体だ。
完璧な肉体、その研ぎ澄まされた筋肉の集合体は、右手にある武器をこちらに向ける。
「系⦅ケイ⦆:臨界突破装甲パージング・アーマード」
肉体にある全ての無駄を一身だけにそぎ落とされたボディで、握りしめている武器の重さは体格の四倍は優に超しているだろうと推測する。
てめえ…… なんて切り札を隠していたんだよ……
頭の中で、そんな感想を漏らしながら、とあるロボット物の機体を思い出していた。
体の装甲が自身の能力発動によって剝がされたとき、その動き、攻撃力は段違いなものになる。
しかし、特定射撃による大技の使用はできない。
「驚いたか…… ふんッ、ただ見た目が変わっただけではない!!」
すると奴は、大きな体験を軽々と刀身ギリギリに持つと、
「何年とこの鎧しがらみを、装着してきたか…… その開放感、鍛えられあげた筋肉、細胞、ストレス…… 今日⦅こんにち⦆全てを貴様に叩き込んでやろう」
そう言い放ち構えると、奴の体からオーラのようなものが錯覚ではないかと判断するくらいに漂わせていた。
瞬間、その完成された肉体は、俺の目の前へと、距離を詰めていた。
早いッ!! しかしあの畑井ゴウ戦よりは明らかに遅いため、目をつかって追いかけることができた。
そして一太刀、空中を切るようにして、その剣を正面から、右へと切る。
一振りには、物を”振った”という音ではなく、大きな信念で大きな悩みを切っているような音だ。
上体を切り捨てるような攻撃を、イナバウアーの要領で擦らした。胸ギリギリを凄まじい速さで通っていく。
奴から半周回った大剣は、斜め下の地面へと突き刺さり。
今度はその回転力を生かした、回し蹴りが斜めを切るように、素早く鋭い一撃を俺の腹へと叩き込まれる。
速く予想外の体の使い方に、反応はできたものの、避けることはできない。
その体は地面へとたたきつけられ、全身打撲ではすまないような、ダメ―ジを受けた。
地に転がった俺を踏みつける、奴の足、片足だけではあるが凄まじい体重に、どれほどの筋肉が凝縮されているのかわかる。
「神から世界を救う者として、その身を捧げなければならん。そして何よりも彼女…… 私はESP学園、主席のAランカーとして、圧倒的に勝たなければならないッ!!」
話し終えると、奴は彼女と言ったあたりで、足の下に胃があるだろう場所を、強く踏んだ。
「ガッハ!!」
その凄まじい重圧に、胃の液は、吐き出された息とともに、口から排出される。
胃酸と口の中にある血が交じり合い、苦くも鉄の味がする奇妙な味を味わいながら奴の姿を見る。
彼女……? 奴のその行動の裏に何があるのか。
「その責務、業、宿命、運命、力、罪、それがお前にはわかるかッ!!」
怒涛な言葉の数々は、自身がおかれている境地と受け取る。
わかんねえよ、俺にはわからねえ!!
奴の足底を持ち上げるように掴むと、これでもかと叫ぶ。
「んなもんわかるか! だけどな一つだけ言っといてやる。俺はあこがれているあの人のためにお前を越えなきゃいけないんだ!!」
奴がその大剣を構えているのを対抗して、俺は二丁の銃を構えた。
「貴様…… そんなもののために戦っていたのか」
頭を抱えるようにして手を額にかざし、その口を片方あげていた。
”そんなもの”か…… 確かにお前には道端に落ちている石のように”そんなもの”なのかもしれない。
だけど俺には…… 俺には…………
”大事なもの”だッ!!
バンッ!!!!
俺は同時に銃弾を放った。
奴は銃声と同時に、俺の両腕を掴み、軌道をずらす。
扇の軸のように飛んでいった弾をよそに、俺はこう叫んだ。
「黙ってろ!! 俺は成し遂げるんだ。俺を支えてくれた者のために、俺を導いてくれた者のために、俺を見ている守るべき者のためにッ!!」
上手く奴の腕をほどき、体重の乗っていた足をほどき、素早く奴から距離をとった。
距離5メートルはあり、奴が攻撃を仕掛けてきてもある程度は対応できる距離だ。
その一連の行動、言葉を聞くと奴はこう叫んだ。
「ハハハッ!! 笑わせてくれる!!」
天高らかに、両手を広げると、まるでありもしないものを、あると豪語している人をみるようにして俺をあざ笑っていた。
決勝ここまできた俺には、そんな言い分さえも心には響かなかった。
それは、俺にはやれる自信があったからだ。
「その理想ごと、この俺が切り裂いてやる」
さきほどの痛快な笑顔とはまるで違う、いつものような厳格な顔へと変わっていた。
すぐ横に置いていた大剣を突き刺さっていたコンクリートから軽々と抜き取る。
「俺を切り刻んでみやがれ!! なんどでも俺は這いずり進むぜ!!」
もう一度奴めがけてその2丁の銃を構え、瞬きする間にナイフへと変える。
「はいずり進むか…… ならウジ虫のように腐った死体を食べていろッ!! そんなお前は腐った肉をたべているように、何をしてもその程度なのだ!! 無知なのだよお前はッ!!」
言い終わった瞬間、二人は動き出した。
二人は互いのミッドレンジへと入った。すぐさま奴は俺を切り落とすべく、両手で持った大剣を剣道の面打ちのように、上体を後ろへと目一杯そらした。
そのまま縦の攻撃から右へと回避行動をとりあがら、至近距離でナイフを奴の心臓めがけて、突き刺そうとその腕を伸ばす。
あと10センチと伸びていたあたり――――奴の攻撃は、俺の左腕、俺の足へと当たる。
日本刀で木材を、試し切りされたように、俺の腕と足は左へと転がっていく。
状態は、足のなくなった左へと倒れ、その倒れる間に、奴の右わき腹へ、ナイフを突き刺した。
体重の移動を生かしながら、右足を飛び上がるように左へとジャンプし、大車輪回転のように左へと1.5メートルほど移動。
そのまま体の治癒能力の時間稼ぎのために、体を前転をしながら撤退をする。
「グハッ!! 誰かを救った誰かになろうだと!? 自覚しろ!! そんなものは愚の骨頂だ!! 身の程をわきまえろ!!」
その地に転がった二秒の間に、つんざくような痺れとともに俺の腕と足は治っていた。
左手をグーパーと開いて、自身の治癒能力のすごさと、何もなかったように治った腕を味わっていた。
奴はわき腹に刺さったナイフを、引き抜き、痛みに慣れていないのか、溢れ出る血を右手で止めていた。
涙を流すように、手の間からは、血が出ている。
「……なろうじゃあなくてなあ!!!! なるんだよッ!!!!!!!」
さらに相手を追い込むために、今度はこちらから攻撃行動をする。
素早く、ホルスターから銃を取り出すと同時に奴へと放った。
「ッ!!」
心臓を狙って放った弾丸は、ど突かれたように左肩へと当たった。
クッ!! こんなときにこの腕が震えてやがる……
超回復で治りたてなのか、小刻みに揺れているその腕。
「ハァッハァッ…… グフッ!」
奴は近くにあった障害物へとその身を隠した。
痛みに悶えながらも、冷静な判断だと彼を見てそんな感想が出る。
それと同時に、彼がこんなにも撃たれ弱いとは思いもしなかった。
まあ無理もない、あの鈍器に使えそうな鎧を着て、いままで戦闘をしていたのだ。
銃の一発、ナイフの内臓を切った攻撃を食らったのだ。
どんな人間でも、初めて切られる痛みは、たまったものではないと思う。
しかし初めて見たときは、あの鎧はやつの体だと推測していた。
それは動きが遅くなるなとは思う。まあ義手のパンチを耐えた防御力があるけど。
五秒くらいして奴の隠れている障害物へと叫んだ。
「どうだよ!! まだやれるか!?」
ナイフは残り二本、銃弾はあまり使っていないので手に余るようにある。
「馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な、馬鹿なァ!!」
障害物の裏から、連呼する一つの声、そして最後には、コンクリートを砕くようなパンチ。
その長年鍛えられ凝縮された怪力に、コンクリートは木っ端みじんに爆散した。
そして俺を覆うように砂煙が舞う。
「このようなことはありえんっ!!」
砂煙が消えると、奴は爆発した空間の中央に立っていた。
目の前には、砕かれたコンクリートの残骸。
「よくも…… この俺の醜態をぉ…… 晒してくれたなあああああああああああああああああああ!!」
体格に似合ったプライドは、傷つけられた仕返しにと、凄まじい速さで俺の目の前に立っていた。
どれだけ彼のプライドが傷つけれたんたど、のんきなことを考えるくらいに俺は油断していた。
だから反応は、思考と目で追いつくことはできたが、体は、ついては来なかった。
「消えろ、消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ…… 消え失せろ!!」
慌てて回避行動をするが、奴の斬撃が、俺の体を切りはじめた。
そのいままでの盾田剣士の肉体的な速さとは明らかに違う、人間ではない別の何かのような速さに、奴の力ではなく、奴の持っている大剣の力であると空中に首だけにされたおれは考えた。
一〇、一〇〇、一〇〇〇と首から下は、まばたきの間に無数の肉塊の集合体へと変わっていた。
しかし、首から下を切られていたため、かろうじて、目の前の状況について考えることはできた。
「そのまま何も成し遂げられず地へと鎮め!!」
そのままボールを潰すように、奴は空中にいた俺の顔を、コンクリート地面へとたたきつける。
コンクリートをえぐった衝撃の直後に、頭の中で電流が走り、脳の修復、次に脊髄の回復が、1秒足らずで終わる。
そして首から下の修復が始まったと同時に、奴は俺の顔に、大剣を突き刺した。
「鎮め、鎮めえええええ!!」
ガリッガリッと、そんな感覚と、眉間の間を突き刺す血に染まった大剣が視界情報と、残った神経感覚で把握する。
――――――ドクッ、ドクッ、ドクッ。
三度ほど、頭に地価が回る感覚が、あの子の声が俺の精神回路のドアを叩く。
『タスクのこと…… 心配したんだよ』
ついこの間、大好きな人にそんなことを言われた。
その子の傍にいたいと、俺を助けたあの人のようになりたいと。
だから再生しろッ!! 奴を…… 奴を倒すんだあああああああああああああああ!!
「誰が沈むかあああああああああああああああああああああ!!!!!!」
転瞬、体は、光の速さ、いやもとからそこにあったかのようにすべてが再生した。
しかし、あたまを大剣に突き刺されたままの状態である。
そして、勢いよく頭に突き刺さった大剣を神経白羽どりの要領でがっちりと掴む。
「何!!」
奴は俺の、ゾンビのようなしぶとさに驚きの色を隠すことはなかった。
「俺はやらなければならんのだ!! さっさと死んでしまえええええええええええええええええ」
しかし奴の狂人のような力は、その抵抗を無へと返す。
俺も負けじと大声を出して、この剣を抜こうとあがいた。
と見せかけて。
「必殺!! 金的キックぅうううううううううううううううう!!」
俺は奴の股間へと足の甲で蹴り上げた。
初めに体格には似合わない、ちいさな金玉にあたり、固い感触である骨へとあたる。
奴は、最後辺りのジェンガ―のように崩れた、その動作によほど痛かったのか声はなかった。
すぐさま大剣を頭から、ウルトラマンセブンの頭にあるブーメランを抜くように素早く終わらせた。
「ひぃ卑怯なりぃいいいいいいいいいい!!」
遅れた絶叫が、彼の口から出る。
すばやく奴の攻撃で飛ばされたのだろう銃を拾い、奴の方へと振り向いた。
「貴様、貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様…… 貴様ァ!!!!」
奴は内またになりながら、ぶるぶると足は震え、大剣を杖代わりに立ち上がっていた。
やつの根性に、驚いた。そして容赦もなしに銃弾を放つ。
「系;絶対ッ 領域⦅ランセーネン・シールド⦆!!」
奴はそれでも能力を発動できる精神力を有していた。
しかし、その力は弱く弾をシールドで防いだものの、小石を投げたように奴の体へとあたった。
お互いに見合わせ、5秒。
息を切らしていたため、同じような動作で、二人は肺の空気を出していた。
「痛みというものは、これほどまでに…… 痛かったのだな」
奴は徐々に回復をしているのか、その声には先ほどのような痛みを感じさせることは少なかった。
そして頭に血が登っていたのが、覚めていたのか声はいつものように冷静である。
「そうだよ…… 長らく忘れていたんじゃないのか?」
「そうだな…… これが戦士、戦いというもの」
同じような返し、奴はこの状況を楽しんでいるかのように見えた。
決着はかなり長引きそうだ。
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