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最弱能力者の英雄譚 ~二丁拳銃使いのFランカー~

作者:土佐牛乳
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第十六話





 別世界に隔離されたような漆黒の空間で、六つの石像がお互いに向かい合いながら、円を描くように並んでいる。
 石板には、それぞれ固有のマークと数字が描かれていた。

「コードネーム:巳に課せられた、大蛇召喚儀式の準備が最終段階を迎えている」

 十字が描かれている、02の石像が発した。

「こちらは大蛇の試験場所を提示しよう。場所は、旧朝鮮半島、ソウル地区。トリックスターズがのろしを上げているとの情報が入った。その介入に合わせて、大蛇の力を見せてもらおう。両陣営開戦の調整は02に合わせる」

 二つの手が描かれた03はそう告げる。

「以上で――」




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 一夜で退院できた俺は、自分の住家であるコンテナハウスに帰っていた。

「ただいま~。俺退院したぞ~」

 と言いドッキリをしたいがために、勢いよくドアを開けた。
 部屋の中は、誰もいないのか静まり返っていた。

「なんだこれは!!」

 なんとお菓子の袋やら、ユウかマイの脱ぎ捨てた服などが散らばっていたのである。
 部屋の惨劇に、踏み場のない自室をつま先立ちで移動する。
 かすかではあるが、『タスク退院祝いでーす』っていうものを期待してもいた。
 一気に疲れが倍増してきた俺は、自身のベットへとダイブ。
 すると、目の前の枕にピンク色をしたパンツが、両端に履かれているのに気付いた。
 しょうがねえから、このパンツをオ〇ネタにしてやるわ。
 最近は抜いていなかったなと自己分析する。
 ランク祭の件で忙しかったのもあるからな。

 むっくりがむっくりしてきたところで、俺は竿を取り出した。
 最近使っていなかったからか、ピンク色の布に反応しているかわいい竿ちゃんだ。

 ポロンと顔を出させると「うっすアニキ!! わっちは待ちきれませんよ! 早くこの両方に付いた兄弟達を、空にさせてくだせえ!!」と言わんばかりに元気いっぱいであった。
 そう焦るでないと心の中で唱える。


 はあはあはあ…… あっ…… しゅごい……


 ドスゥウウウン!!
 突然軽い爆風が俺を襲った。
 爆風というよりも、ドアの強烈な開放により、金属と金属が擦りあった音だ。
 そう。ナニの最中にドアが開いたのである。

「さあタスクために何かを料理するよー!! えいえいおー!!」 

 マイが俺のものをがっちりと見ていた。

















「タスクそんなことがあったのね」

 マイと部屋を片付けながら、ランク祭後のこと、治った腕のことを話した。
 俺の能力である不死身のことは内緒にしていた。
 ついでに先ほどの下半身全裸のことも話した。
 『部屋に誰もいなかったから寝っ転がりながら、着替えをしていた』と言ったらわかってくれた。
 わかってくれた……

「そういえば冷蔵庫の前にある食材はどうしたんだ?」

 1メートルの大きさの冷蔵庫前には、たくさんの食材が入ったレジ袋があった。
 袋にあふれ出るようにして出ている不健康食品のカップラーメン、多種多様な菓子。
 下の方には大根やらニンジンやらとが、透明な袋の中から見える。

「わかってるって思ったんだけど、タスクの退院祝いに私が何かごちそうさせようと思って」

 にしてはお菓子が多いなと思ってしまった……
 その量のインパクトがとても大きいのだ。

「お菓子はユウちゃんがなの! せっかく私が作るのにね!」

 と言うとマイは口を縮め、ほっぺたを膨らました。
 この二人の何でもないような時間がとても幸せに感じる。
 それと同時に、彼女の前では等身大の俺でありたいと思った。




 しばらく二人でテレビを見ているとユウが帰ってきた。
 どうやら、何かしら言えない用があったらしく、何も言わずにテレビを見ている。
 俺に何か言うのではないのかと思ったが、そんなことはなかった。

 そのあと夏も終わりに近い気温なのに、3人で鍋をした。
 マイは水炊きを作ってくれた。
 ユウと具材の取り合い、その後に汗だくになりながらうどんを食べた。
 今までとは変わらない日常、それが楽しく感じられた。
 1日、2日で彼女らに合わなくなった俺は、あんなに寂しかった。
 今はこんなひと時に安堵している自分におかしくて笑ってしまいそうだ。




 そんな、なんでもないような日々が一週間ほど過ぎた。
 3人でファミコンマンをプレイしたり、時に罵り合い、パシリにされたりと。
 テレビドラマによくあるような、同性の友達が俺にはいない。
 だけど、彼女らに相手にされている俺は恵まれていると思う。
 そう思った。




[よう青年、自主練はさぼってはいないか? ランク祭敗者復活戦のトーナメントができた。明日に発表されるから楽しみにしておけよ]


 寝る前に剣先生からメールが入った。
 てきとうに剣先生に返信をした。
 敗者復活に選ばれるのは、審査員の独断と偏見によって選ばれると剣先生が言っていた。
 大体は、運悪く最強に近い者に負けてしまった、それなりに強い人物が出ることができるらしい。
 Aランクは問答無用でトーナメントに組まれることになっている。
 俺の場合は、盾田剣士が俺以外を快勝で勝ち上がっているため、出場可能とのことだった。
 そんなことはどうでもよかった。
 ただ、勝つだけだと自分に言い聞かせて目を瞑った。




 ランク祭敗者復活戦当日。
 早朝、5時半。窓から見る空は、淡い青色になっていてこれから朝を迎えようとしていた。
 いつもより目覚めが良いのか、起きたばかりだというのに視界が綺麗だ。
 ベットを椅子のようにして腰かけると、ベットに寝ているマイの寝顔を見る。
 マイを起こせまいと、ゆっくりとランニング用のトレーナーに着替えた。
 腕にデジタル時計をはめて、毎日のようにこなしている朝ランを始める。

 再生された肉体はどうなっているのか。
 それは、この14日間で完全ではないが把握することができた。
 腕が無くなる前と頃と比べて”骨の髄まで”変わらない。
 それは文字通りでもあり、意味通りでもある。
 無くなる前の肉体の状況なんてのは、詳しくなんて覚えてないけど、それでも以前とは変わらないと実感できる。
 俺が、実際に肉体を通して体験をしているからこんなことが言えるんだろう。
 本当に”能力”というものは、この世のものとは思えない力だと身を持って実感している。
 それと同時に俺の対価はなんだろうかと疑問が生まれた。
 そうこう考えながら走っていると、AM7時になっていた。

 家の前に付くと、何かの揚げている匂いが鼻についてくるのが分かった。
 ぎゅるると自身の腹の音を聞きながら、今日の朝食は何だろうかと考えてみた。
 そして、運動後の汗だくな額を首にかけてあったタオルで拭い、家のドアを開けた。

「タスク兄さん、おかえり!」

 玄関の近くの台所でユウが調理をしていた。
 ドアを開けて俺に気づいたのか、お玉で魔法をかけるように俺の方に向けて、あいさつをする。

「おお、またカツ丼作ってくれるのか? おいしそうないい匂いじゃん」

 彼女の手元にあるパン粉の焦げチリと、漂っている匂いでカツと分かった。
 左には、フライパンでカツとたまごを混ぜる過程に入っていた。

「あと少しでできますよ、んっ! 汗くさいので風呂に入ってきてください!!」

 ういういと、返事を返して上着を脱ぎながら風呂へと向かう。
 ガラガラガラと扉を開けた。

「ひゃっ!!」 

 マ、マイが着替えをしていた。
 新品のブラジャーは、ふちが赤色で覆ってあり、胸を包むんでいる部分は、マイの大きな胸を引き立てる清楚な白で、17歳という絶妙なあどけなさを演出させていた。
 花柄は、両方の中心から開花させたように、螺旋状にきれいに配列させていて、おういえあ、たまらねえぜ。
 朝からいいものを見せてもらったぞ。

「ご、ごめん。いると思ってなくて……」

 すぐさま脳裏にこの情景をインプットして、急いで風呂場のドアを閉める。
 鼻の下が伸びているんじゃないだろうかと自分を客観視しながら、ニヤついていた。
 だれか鏡をよこせ、この気持ち悪い顔を自分でも眺めてみたい。

「っもぉおー! 今度からはノックしてよね」

 ドアに寄りかかっていると、中から彼女の声と、布と布とがこすれる音が聞こえる。
 あまり時間はかからずに、風呂場のドアが開いた。

「悪い」

 と言って、彼女がドアを開けたタイミングと同時に、許しを請うために手を合わせた。

「この前はおっぱい触ってきたし…… うーん、タスクのエッチ!」

 腕を組み、口をふうせんのように大きくすると俺のあたまをやさしくチョップした。

「以後気を付けます……」

 トホホ…… と口から出そうになりながら、自身の頭を撫で彼女に言った。



 さっと体を流すと、ユウが作ったカツどんを食べた。
 この前、俺に作ったカツ丼よりも味付けがかなり美味しいものとなっていた。
 特に、調味料とカツの絶妙なバランスが、以前よりも上手くなっていた丼ぶりだ。

「ユウお前すげえ料理うまくなってんじゃん」

 ガッーと口にかき込みながら、彼女に言う。
 3人は丸いテーブルを囲むように座り、お互いにカツ丼を頬張っていた。

「確かに、お店に出せるくらい美味しいよ」

 同じく口に押し込んでいるマイも大絶賛のようだ。

「えへへ…… ありがとうです」

 笑顔になるとユウもまたかき込んだ。

「そういえばたすく兄さん、今日のランク祭敗者復活戦、頑張れます?」

 食べていた手を止めると、質問をしてきた。

「おう、美味しいカツ丼食べたし絶対にカツよ!」

 親指を立てて、右目でウインクをした。

「カツどん冷えちゃいますから、そんな寒いこと言わないでくださいよ」

ユウがそんなことを言い、3人は笑い合った。



 俺は、一人ランク祭が行われる会場に向かっていた。
 空は見渡す限りの快晴で、満天な青空が広がっている。
 どうしてもランク祭を勝ち上がらないといけない理由が俺にはある。
 それは、憧れのあの人に少しでも近づきたいからだ。
 あの人のことをできる限り思い返してみようと思う。

 俺は唯一のロストシティの生き残りである。
 生き残りというよりも、この不死身の能力のおかげで、あの”地獄”から生還できたのだと今になってわかった。
 俺は生きたままあの”地獄”を味わっていた。
 それを救ってくれたのがあの人だった。
 抱きかかえられた腕が、その背中が、僕の幼き頃のお父さんのように大きかった。
 俺はその人のように、誰かを助けるような人になりたいと思った。
 そのために誰よりも強くあるべきだとも知った。
 だから俺は、剣先生によって与えられたこのチャンスを無駄にすることはできない。
 自分にも周りにも、俺の強さを証明しなければならない。


 あこがれのあの人に近づくため――それが俺の出した答えだ。



 指定された時間よりも早くに、ランク祭の会場へとついた俺は、上にある観客席から会場の戦闘エリアを一望していた。
 早くに付いたからか、まだ人の気がない。
 ここから見る戦闘エリア。それは、無機質で何とも言えない悲壮感が湧き上がってくる。
 等しく配置されたコンクリート状の2×1サイズ遮蔽物。
 なぜ配置されているのかわからない水場。
 特に戦術が思い浮かべているというわけでもないが、眺める。

 すると突然、後ろのドアが、ガラガラと音を立てて開いた。
 後ろを覗き込むようにしてみると、剣先生がそこに立っていた。




「少年調子はどうだ?」

 となりに座っている剣先生が俺を見る。
 そして煙草をトントンと膝に当てて葉を詰めていた。

「それなりですよ。先生は?」

 そう言い先生を見ると、ジッポで先端に火をつけている。
 ジリジリと音を出しながら、一呼吸するとすぐに口の煙を出した。

「まあまあだな…… ランク祭となると私も忙しくてな、とてもじゃないが疲れる」

 と彼女は大きく背伸びをする。
 大きく富んだバストに目が行ってしまいそうになってしまったが、鋼の理性で乗り切った。

「どうだ? 勝ち上がれる見込みはあるか?」

 気だるそうにしながら、背もたれに腕を回しながら聞いてきた。
 強烈に大きい乳袋が強調され、年相応の俺には刺激が強い。
 すぐさま視界を目の前に広がっている戦闘エリアに変える。

「だ、大丈夫ですよ……」

 焦りを隠そうと思いながら、彼女に告げる。
 なんだろうか…… 今日はやけに色気がある場面が多いと思った。
 これから戦闘を始めるってのに…… 俺は大丈夫なのか?
 自分の生理現象に嫌気がさしながら、彼女を見る。

「フフッ、お前は成長したと思っていたら、まだガキンチョだな!!」

 鼻か口かで笑ったのだろう。
 いい終わると豪快に俺の首を腕で絞めて、頭をグリグリする。

「いたいたた、痛いですよ先生!」

 必死な抵抗を先生にする。
 頭のてっぺんの痛さに、右の顔に乳が何度も押し付けられてきた。
 突然、彼女はその手を止めると、体を突き放し、勢いよく背中を平手打ち。

「お前にならやれる。じゃあまた後でな」

 そう言って彼女は立ち上がって、帰ろうとした。
 そんな彼女を止めるわけでもなく。

「見ていてください。必ずやり遂げます」

 そんなことを言った俺を、彼女は澄み渡る笑顔で返した。





 
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