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最弱能力者の英雄譚 ~二丁拳銃使いのFランカー~

作者:土佐牛乳
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第八話



「そういうことだったんですね」

「ああ、そういうことだ」

 舞がどのような経緯でここに来たのか、そしてこれからここに住むということそれらを夕に伝えた。

「って!! 何言ってるんですか!! 普通はこのことを警備隊に言うか、教師に言うかでしょ!! んじゃなくて、なんで佑兄さんの部屋にこんなやつが住んじゃうのよ!!」

「なんか訂正箇所がおかしいよね! それとこんなやつとか言うな」

「こんな泥棒猫に佑兄さんを取られたくない!! 私もここに、一緒にいる」

 夕さん、夕さん。目が笑ってませんよ。物凄い怖いですよあなた。

「ふふっ……」

 舞が顔を両手で隠すように、身を震わせた。

「な、なに笑ってんのよ!」

「そ、その…… 何か漫才を見ているようで」

「お、お前~!! 煽っているのか、この私の怒りを!!」

 髪がスーパーサ○ヤ人のように天に突き刺すように天に上る。ま、まずい家が壊れちまう!!

「わかったからお前も住んでいいから、せめて家だけはッ!!」

 こいつがキレてしまったら、心身的にも、お値段的にも、タダではすまないのでお怒りを沈めるようにと、ひたすら土下座をする。
 静まりたまえ~ 静まりたまえ~

「ま、まあ佑兄さんがそこまでするなら…… お前! 私の許可なしに、佑兄さんとは変なことをしないこと! じゃない、佑兄さんと変なことをするとマジで許さないからね!!」

 腕を組み彼女は、舞を睨んだ。それを怖じけずに舞は答える。

「はいよろしくお願いします」

 ハッキリ言えるような性格なんだなと、舞の意外な一面を見た。
 言い終わると彼女らの目と目が睨み合う間にビリビリと凄まじい電流が流れているように見えた。

 ピロピロピロピロ。ピロピロピロピロ。

 どうやら俺の携帯端末に誰かから電話が来たようだ。すぐさま画面を確認する……

「レディをいつまで待たせる気だ。図に乗るなよ少年(血管が浮き出たマーク)」

 剣先生からのメールに、ブルッと身の毛がよだつ。
 あの放送は剣先生によるものだったのか…… やべえよこれ凄い怒られちゃう。

「舞、そろそろ剣先生のところへ行こうか」

 余談にも余談過ぎなため、そろそろ剣先生のところへ向かわなければならない。

「帰りには私の服と下着を買いたい」

「おk店の場所教えてあげる」

 てきとうに財布を取る。そして外に出るべくドアを開けようとした。

「ちょっと待って! 私も行きますぅ!!」

 夕が腰に抱きついてきた。こ、腰が砕けちまう!!


「(コンコン)失礼します」

 俺は職員室に着くと、扉の前で舞と夕をおいて一人職員室の中へと入った。
 念のためというか、喧嘩をしないようにと双方に言い、さらには5メートル以上は近づくなと釘を打った。
 扉を開けると、すぐ目の前に大きいおっぱい、いや剣先生が仁王立ちをして俺を待っていた。

「この監督様は遅れてきても謝罪は無いのか。これは余程有能な監督なんだろうな」

 そう言うと、剣先生は手をチョップするように構え、案の定、俺の頭目掛けて鋭い刃のごとく手刀が降りてきた。

「誠に申し訳ございませんでした。腹痛がひどくて」

 何気ないように真剣白刃取りをしながら、頭を下げる。
 傍から見ればプロポーズしているようにも見えなくもない。

「素直に当たっていろ、この野郎……」

 手を握りしめるように彼女の手刀を止めていたため、剣先生は俺の手ががっつり掴んでいることに気づいてしまったのか、すぐさま手を俺の両手から引き抜いた。
 そして後ろを向く、わずかに頬の色が淡い赤色に見えたが、多分気のせいだろう。

「そ、それで要件ってなんですか?」

 さすがに扉前で二人して話すのもアレなので、剣先生の机まで来て本題に入った。

「最近、ここの訓練生ではない者が誰かの寮に混じっていると、どこからか報告が入った」

 剣先生は腕を組みながら話をする。

「それは物騒なことで、警備隊は仕事してるんですかね」

 まるで他人事のように彼女に告げる。もともと嘘はうまい方なので切り抜けられるだろう。

「ふざけるのも大概にしろ。これは何だ?」

 そう言いながら彼女は一つの映像を俺に見せた。
 それは…… 俺が舞を左肩で背負い抱えて自分の家に入っている写真だった。
 完全に犯罪者のような目付き(その時はいろいろと疲れていた)に、後ろに回った手は完全にお尻をにぎるようにいや、揉んでいたのである。

「だ、誰だこいつ!! こんな変態が俺の部屋に!! こんな悪党、俺は許せねえ! 捕まえてきます」

 腕を捲りながら、この場から逃げるべく彼女を振り切ろうとした。その時、彼女の手が俺の後ろ襟橋を掴んだ。

「この大嘘つき監禁魔め!! お前がここに連れ去ったという証拠もしっかり突き止めてある!! それよりも!! やったのか、この小娘とやったのか!! このヘタレ野郎!!」

 彼女は俺の首を鷲掴み、前後へと揺らしに揺らす。頭がぐらんぐらんと動き、視界が大波に揺れている船のようになっている。

「してないでえす、してない。僕はあ、手を出してないですう」

 問題は監禁したということなのに、貞操の話は全くと違うと思うんですけど!!
 確かにお尻は触ってしまった。
 だがあのように担ぐと、どうしても触ってしまうものなんだよ。
 あー首がもげる。

「してない…… そうか」

 俺の首をおもちゃのように振っていた動作を突然にやめると、安心したかのようにその手を襟元から放した。

「とにかくだ。彼女は来望財閥のお嬢様なんだろう。拉致をされた件、さらに手を出したのかとなると大変なことになってしまう。それはわかってはいるな監禁魔」

 来望財閥…… それは日本の財団トップであり、日本の全ての権力に通じる力を持っているというグループだ。ここESP教育機関もその財閥の手が広がっている。
 まさに日本の裏支配者という言葉が一番似合っているグループである。
 そんな財団に歯向かった者たちは奇妙な最後を迎えているらしい。
 それよりも監禁魔という不名誉なあだ名を付けられたことに少しばかり腹が立った。

「来望舞さんは一緒に来ているな?」

「はい、どうして一緒に来ていると分かったんですか?」

 できるだけ注意を払いながら、彼女らと来たつもりだったんだが。

「馬鹿か今時は監視カメラで分かるだろう。私にも舞さんに合わせて欲しい」

「分かりました…… 呼んできます」


「え、えっと…… 私が来望舞です」

 そう彼女は警戒をしながらも剣先生に言うと、俺の後ろに隠れた。
 どうやらこの先生は苦手なんだと…… その気持ち、俺にもわかる。

「私の前でくっつくな、ベタベタするな」

 凄まじい光線のような眼光が俺を襲う。怖いよあなた怖い。
 ということで本題に入った。

「念のために聞いておきます。あなたが来望舞さんでよろしいですか?」

 剣先生は考えるように左手で支えながら、右手で顎を触ると、丁寧な口調で彼女の名前を聞いてきた。

「はいそうです」

「東京特区住みであるあなたが何故ここに?」

「え、えっと…… 一昨日、誰か素性のわからないものに、私の家から連れ去られ、気づけば飛行船で監禁されていました。そして、突然とその飛行船のハッチが開いたんでしょうか? よくわからないですけど、荷物と一緒にこの島付近まで落ちてきたんです。そして荷物をイカダにして上陸しようとしたんですけど、溺れてしまって。海で漂ってるところを、佑さんに助けられたということです」

 話すことに慣れたのか、話す言葉には上品さが垣間見え、彼女が本当にお嬢様だということに気付かされる。

「素性がわからないものですか…… 連れ去られた当時の状況を詳しく教えてくれませんか?」

「はい、ある日パソコンを見ていたんです。いつものように時間が過ぎ、何も変わらない一日だろうと思っていました。そんな日に、突然と物凄い爆発音とともに、私の目の前に一人の青年が立っていました。歳は20代前半でしょうか。顔はサングラスがかけられており、大まかな顔しか私にはわかりません。多分その男に連れ去られたんだと思います。それから、彼らの飛行船で起きた私は、こんな話を聞いてしまいました『お前の能力残時間はどのくらいだ?』と、能力者の噂はネットを通じて知っていまして、まさか本当に超能力者がいるなんて思いもしませんでした。私が思い出せるのはこのくらいです」

 反射的に『俺も能力者だよ』と言おうとしたが、喉に突っかかる寸前で飲み込んだ。それは俺には能力が使えないからだ。

「n’ESP――トリックスターズ…… 財閥令嬢を誘拐とは、近々また何かをしでかすということか」

 n’ESP、それは人工的に作られたESPのことをn’ESPと呼ばれている。
 十年前禁忌の研究により、何の能力も持たない通常の人でも擬似的に能力が発動できる発明が発見された。
 実際にそのn’ESPが作られる過程は非人道的だと大々的に発表され、今は作られてはいない。
 だが3年前にトリックスターズはn’ESP作成に手を出したのだった。
 トリックスターズとは、能力者で結成された反社会的勢力である。

「でも何故舞を誘拐したんでしょうか……? あえて舞さんをこの島に匿わせているという可能性も考えなくもないですよ先生」

 助言をするように剣先生に言う。一応この可能性も有り得なくはない。

「なるほどそれも考えなくもないな…… 今から財閥トップに電話をしようと思います。そして明日には舞さんの迎えが来るでしょう。あなたの身元引受は、私が責任を持って行いますので、今日は私の家に来てください」

 ぎこちない敬語を使う剣先生。

「せっかくのお気遣いご遠慮させていただきます。私は佑の豪邸に泊めさせて頂くという約束がありますので」

 そんな約束は無かったが、彼女が自分から家に泊まると言ってしまったことに少しばかり喜んだ。
 言い終わった彼女は、ちらっと俺の表情を確認しているようにも見えたが、どうやら話を合わせてほしいとのことらしい。

「剣先生、舞もそう言ってるんだしいいでしょ。ま、間違いなんて起きませんよ」

 うむ、人生一度も間違いなど起こしたことがない俺だ。
 絶対に間違いなんて起きない。
 何故かって? そりゃ俺様がヘタレだからさ! ははははhhhhhhh!!

「ぐぬぬ…… で、では電話をしましょう……」

「いえこちらでさせて頂きます」

 剣先生は荒っぽく学園の備品である電話を持つと、凄まじい速さで日本国番号を押す。
 そして打ち終わると舞に渡した。
 夕の時のように、目と目の間に物凄い電流が走ってるように見えた。
 この電流で焼鳥が焼けそうだ。舞ってこんなに気が強かったんだなあ……

「なんでいつも夕がいない時に、話が進んでるんですか!!」

 すごい勢いでドアが開いた。夕の髪が上へと逆立ていた。













 
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