Fate/WizarDragonknight
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捕食する怪物
ようやく子供たちが満足してくれた。
ネタを絞りつくしたハルトは、疲れながらもようやく受付まで戻ってきた。
「はあ、はあ……」
小道具の多くを消費してしまい、からっきしになっていた。明日からの大道芸には、また新しいネタをしこまなければならないが、なけなしの給料では、次の大道芸を披露するのは少し先の話になりそうだ。
「あ、いたいた。可奈美ちゃん」
ハルトの声に、ベンチでずっとスマホと睨めっこしている可奈美に声をかけた。
「可奈美ちゃん? ……可奈美ちゃん!」
トントンと、その肩をたたく。びっくりした可奈美は、耳にあるイヤホンを外す。
「は、ハルトさん!」
「珍しいね。可奈美ちゃんがスマホをずっと見てるなんて。何見てたの?」
「剣術の動画だよ」
「えっと……」
ハルトは可奈美が見せる動画を凝視する。道場で二人の男が何やら竹刀を振りあっている。一つ一つの動作に色々な名前が表示されているが、まったく区別ができない。
「これ……何?」
「え? この流派知らないの?」
「うん……」
「うそでしょ⁉ これは……」
ナントカ流のナントカで……可奈美がそういう解説を始めたら時間がいくらあっても足りない。それを理解しているハルトは慌てて彼女の口をふさぐ。
「分かった! 分かったから! その辺の話は、ラビットハウスに帰ってからな?」
「でも、今話したい! 話したい!」
「わわわわ! 分かったから! 後で帰ったらたっぷり聞いてあげるから! だから帰るぞ!」
暴走する剣術知識機関車を引きずりながら、ハルトは病院から出ていく。可奈美はむすっとふくれっ面を浮かべながら付いてくる。
「そういえば、可奈美ちゃんは会いたい人と会えたの?」
「うん、会えたよ」
「そう。どんな人?」
「いや、それは内緒」
「内緒?」
病院の中庭に着いた。冬は日の入りが速く、まだ四時だというのに、夕暮れになっている。肌寒さを感じながら、ハルトは駐車場に入った。
出番を待ち侘びているマシンウィンガーのシートを開き、ヘルメットを取り出す。
「早く戻ろう。ココアちゃんやチノちゃん、きっと待ってるから」
可奈美へヘルメットを渡そうとした、
その時。
じゃらん。
金属が地面に落ちる音が響く。驚いて振り向くと、使い込まれた車椅子が地面に投げ出されていた。その近くで倒れている老人がその持ち主だろう。
助け起こそうと動く前に、看護婦が駆け寄る。大丈夫か、と安心したハルトは、続く現象に目を疑う。
老人の体から、蒸気が発せられている。
とても自然とは思えない現象。そのあまりの高熱に、看護婦もやけどをしながら後ずさりしている。
さらに、変化は続く。メキメキと人体から発生してはならない音が聞こえてくる。苦しそうな老人の声。それがやがて、人間の肉声から獣の唸り声に変わっていく。 熱い蒸気の中、老人のシルエットがどんどん人ならざる者へと変化していく。
やがて、蒸気が降り切れていく。
そこにいたのは、老人ではなかった。オニヤンマの体色を持った人型の怪物。それは看護婦に覆いかぶさる。
その動きに並々ならぬ危険を感じたハルトは、走り出す。覆いかぶさった怪物を蹴り飛ばし、看護婦を助け起こす。
「大丈夫です……か?」
ハルトは言葉を失う。
彼女の右肩。もう修復できるのかどうか疑いたくなるほど、食い散らかされていた。
ハルトは肩越しに、怪物の姿を改めて確認する。その口元を中心にした、赤い付着。間違いなく、
「人を……食おうとしてる……!」
再び怪物が動く。
「逃げて!」
ハルトが切羽詰まった声で叫ぶ。だが、看護婦は重傷により逃げられない。
「ハルトさん! 私が!」
そんな看護婦は、可奈美がその肩を貸して病院へ向かう。
彼女を見送ったのと同時に、ハルトに狙いを定めた怪物が、こちらに襲い来る。
ハルトはその攻撃を受け流しながら、指輪をかざす。
「何だ……? この怪物?」
『ドライバー オン』
指輪の魔力により、銀色のベルトが出現する。ハンドオーサーを操作して、ベルトを起動させると同時に、怪物の攻撃を平手で流す。
『シャバドゥビタッチ ヘンシーン シャバドゥビタッチ ヘンシーン』
耳に馴染む音声。ルビーの指輪を取り出したと同時に、また怪物の突進が来る。それは、ハルトの右手を弾き、ルビーの指輪を地面に落とす。
「しまっ……!」
拾い上げようとするが、また怪物が迫る。その暇はないと、ハルトは別の指輪を取り出した。
「変身!」
『ランド プリーズ』
黄色の魔法陣が、足元に出現する。
『ドッドッ ド ド ド ドンッドンッ ドッドッドン』
怪物と取っ組み合う、黄色のウィザード。力勝負には、土のウィザードに分があった。地面に叩きつける。
「________!」
怪物が起き上がる。ウィザードをじっと睨む怪物は、やがて翼を振動させながらこちらへ攻め入る。
『ディフェンド プリーズ』
出現した土壁が、怪物を塞ぐ。続けての回転蹴りで、怪物を地面に転がす。
「_________!」
怪物は、再び空へ飛びあがる。
逃がさないと、ウィザーソードガンで発砲する。しかし、素早いその動きにウィザードは命中できない。
「空中なら!」
『ハリケーン プリーズ』
頭上に出現した緑の魔法陣。それにより、ウィザードは土より風へ変わる。
『フー フー フ―フー フーフー』
緑の風を操り、高度を上昇していく。
「待て!」
ウィザードは怪物を追いかける。数回攻撃をよけた怪物は、また突撃によりウィザードにダメージを与えていく。
さらに、横一直線。そのダメージにより、少し高度を落とす。
「_______」
怪物はウィザードへ追撃を仕掛けてくる。全身に、怪物の刃物が入り、地面へ背中から落下する。
「がっ……!」
肺の空気をすべて吐き出し、体が動かなくなる。
さらに、怪物は低空飛行で迫る。
それに対し、ウィザードは痛むからだに鞭を打って起き上がり、怪物の四本の翅のうち一本を切り落とした。
「________!」
怪物は悲鳴を上げながら地面を転がる。
「よし……今のうちに……!」
ウィザードはウィザーソードガンでトドメを刺そうとする。
しかし、怪物はウィザードに勝てないと見るや否や、ウィザードに背を向けて逃げ出す。その目線の先は、一般人。
「いけない!」
しかし、ウィザードの発砲は遅かった。怪物の腕により、一般人の肩が引き裂かれ、鮮烈な血しぶきがあがる。
「クソッ!」
ケガを負った一般人を脇に、ウィザードは怪物を追いかける。怪物はその間にも、道行く人々から少しずつの血液を口にしていた。
「あれ……」
そしてウィザードは、怪物の変化に目を疑う。翅の切断痕。みるみるうちに再生していき、やがては元通りになったのだ。
「再生した……」
トンボと同じく、四枚に元通りになった翅を駆使し、再び怪物は、戦場を空に指定した。
再び空中で、ウィザードと怪物は何度も激突。
そして迫る怪物。しかしウィザードは、その動きに合わせて、ウィザーソードガンの刃先を突き立てる。
スピードを上げる怪物の体を引き裂き、後方の怪物はダメージにより落下していく。
「よし!」
ウィザードは怪物を追いかける。地上に降りたとき。
「ぐあああああああああああ!」
ウィザードの耳に、つんざく悲鳴が聞こえてきた。
落とした怪物が、落下地点近くの人を襲っていた。青年を捕らえ、今まさに捕食しようといていた。
「間に合わない!」
『コネクト プリーズ』
ウィザードは急いで、出現した魔法陣にウィザーソードガンを突っ込む。すると、怪物の脇に出現した魔法陣より、ウィザーソードガンの刃先が怪物を引き裂いた。
「大丈夫ですか? 速く逃げて!」
怯えた表情の青年を逃がし、ウィザードはトドメの指輪を使う。
『チョーイイネ キックストライク サイコー』
「はあああ……」
風が吹き荒れる。それを右足に集めながら、ウィザードはジャンプ。足元の風は竜巻となり、怪物への航路を示す。
「だああああああああああ!」
ウィザードの蹴りは緑の刃となり、怪物の体へ炸裂する。
「______________!」
トンボの怪物は、また唸り声を上げる。そして、爆発。
「……」
ウィザードは、爆心地の怪物の体を見下ろす。トンボの形が、徐々に黒いドロドロの液体へと変わっていった。
ハルトに戻って一言。こう呟いた。
「一体、何なんだ……?」
人喰いの怪物。それがいたという事実が、ハルトに大きな不安を抱かせた。
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