リュカ伝の外伝
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天使とラブソングを……?(第6幕)
前書き
レクルト君の格好いい所を見せたくて書きましたw
(グランバニア:マーレ・パラシオ)
レクルトSIDE
夜の帳もおりきった午後8時……
僕とピエちゃんは、普段では行く事の出来ない高級レストラン“マーレ・パラシオ”に居る。
かなり前から予約をしていたので、海が見える窓際の席に座る事が出来た。
このレストランは、グランバニア港などがある港地区のまさに港沿いにあり、地上10階建ての最上階をワンフロア全部店舗として構える高級店だ。
開店してから15年近く経過してるが、人気は衰え知らず。
ただ、開店当時は周囲に高い建物が無かった為、海側に限らず反対の町側もグランバニア城が見え夜景も綺麗で見応えはあったんだけど、昨今は10階建てなんて当たり前で、建築技術の発展で20階・30階はざらなのだ。
その為、建物が無い海側以外は見はらしが悪くなっており、本当に早いうちに予約をしておかないと、こんな良い席には座れない。
ピエちゃんに良いとこを見せたくて苦労したよ……
「月明かりが水面に反射して綺麗ね……」
「……本当だ、光がゆらゆらしてて綺麗だね」
この席に感動してくれたピエちゃんが、窓から見える景色に見とれている。
本当は『君の方が綺麗だよ』なんて台詞を言いたいのだけれども、僕の柄じゃ無いし何より恥ずかしくて言えない。
こういう台詞をサラッと言える人って居るんだよね……うらやましい。
そんな事を考えながらピエちゃんに見とれていると「へ、陛下!?」と、入り口付近から店のウェイトレスが大声で叫んだのが聞こえてきた。
え……陛下!?
この国で陛下と言われると2人しか該当する人物を知らない……
敬意は持ってるが、出来れば休日にお会いしたくは無い方々だ。
ピエちゃんも僕と同じ事を思ったのか、顔を顰めている。
僕等の聞き間違えか、ウェイトレスの言い間違えなのか、祈りを込めて入り口付近に視線を移す。
客席と入り口付近の会計所を分け隔てる為に衝立が設置してあり状況は見えないのだが……「あぁ僕は客じゃ無いよ。ちょっと探してる人物がいるんだ。お邪魔するよ」と聞き慣れた澄んだ声が耳に届いてきた。
そして衝立の向こうから現れた人物は王様!
見まごう事無く国王陛下!!
ウェイトレスの発言も僕等の耳も正常で、こちらに向かってくるのはリュケイロム国王陛下で在らせられる!
折角のデートが台無しになる……と、一瞬だけ頭によぎったが、わざわざ陛下が僕を探しに来ると言う事は国家の緊急事態か何かだ。
僕もピエちゃんも慌てて起立し、僕は敬礼を……彼女はお辞儀をして迎える。
すると陛下から、
「あぁそんなに畏まらないで。君たちが思っている要件と全然違うから、畏まれると話しにくくなる。座って……さぁ座ってくれよぅ」
と、敬礼・お辞儀を解かせ着席を切望する。
僕もピエちゃんも、陛下が畏まるなと言うのに畏まる事がこの方にとってより無礼に当たる事を知っているので、直ぐに着席をして陛下の反応を待った。
陛下は手近にあった誰も座ってない椅子(そこは4人掛けのテーブルで3人で来店してた)を引き寄せ、僕等の2人掛けのテーブルに着席する。
「お前、奮発したなぁ……港と海が一望できる席じゃないか! 良い彼氏をゲットしたねピエッサちゃん」
「は、はい。月明かりが綺麗でとても素敵な席です」
話を振られたピエちゃんは顔を赤らめて返答する。
「景色も綺麗だけど、今日のピエッサちゃんも綺麗で素敵だよ」
そんなピエちゃんに僕が言いたくても言えなかった台詞をサラリと言ってのける陛下……うらやましいし、ピエちゃんが奪われないか心配になってしまう。
「あぁ……口説いてないからね。コイツが言いたかったけど言えなかった台詞を代わりに言っただけ。だろレクルト」
「あ……はい。ヘタレなもんで」
僕もピエちゃんも恥ずかしくて俯いてしまった。
そんな僕等を見ておかしそうに笑う陛下……
そんなに悪い気はしないのは、陛下の為人だろうか?
「さて……気分を解す雑談もここまでにして、本題に入りますかね」
あ、そうだ。
わざわざ軍の高官の僕の下来たのだから、何かしらの軍事的緊急事態が発生したのかもしれない。
「緊張が戻ったところ申し訳ないが、レクルト総参謀長……君に用は無いんだよ」
「はぁ?」
僕を探しておいて、僕に用は無いって如何言う事?
「今回はね、ピエッサちゃんに用があったのだよ」
ピエちゃんに?
「わ、私にですか!? 私、マリーちゃんにご無礼な事を……」
ピエちゃんに限って、そんな事するとは思えないが……
「あぁ違う違う。アイツの事はぶん殴っても無礼には値しないから好きなだけ殴って良いよ。まぁ君の手の方が大切だから、ある程度限度はあるけどね(笑)」
まぁ半分以上は冗談だろうけど、ピエちゃんの手を大事に思ってくれるのは嬉しい。
「えっと要件ってのはね……アイリーン・アウラーの居場所を聞きたくてね」
「え……アイリーンですか?」
アイリーン・アウラーとは、以前にピエちゃんから盗作して問題になった女性だ。
「うん。例の事件以来、和解して仲良くなったって聞いたからさ、今日何所に行けば会えるとか分かるかなって」
「彼女また何かやらかしたんですか!?」
立ち上がりそうな勢いで友達の不祥事を疑うピエちゃん。
「いやいやそうじゃないんだよ。まぁ僕がわざわざ探してるのが疑う原因だね。今回はそういう事じゃ無くて、彼女に仕事を依頼したいんだよ、個人的にね。んで、こっちの都合で大変申し訳ないんだけど、出来る事なら今日中に話だけは通しておきたいんだ。明日以降即座に行動できる様にね」
「そ、そういう事でしたか……」
「そ。明日学校に会いに行くって事も出来るんだけど、僕の我が儘で出来れば今日中に会いたいだけ。君らには迷惑をかけて悪いけどね」
「い、いえ……迷惑だなんて微塵も! ね、レッ君」
「え、あ……うん」
本当は一瞬思った。
「あはははは、お前は本当に思ってる事を顔に出すな。ウルフが重宝してたぞお前の事(笑)」
「は、はぁ……き、気を付けます」
ウルフ君に良い様に扱われてるのは知ってたけど……
「で、アイリーンちゃんなんだけど、今日何所に行けば会える?」
「そうですね……中央西地区にあるナイトバー“ナハト・クナイペ”で働いてます。あの店で、ピアノの弾き語りをして稼いでますよ」
「ああ場所は知ってるぅ。結構高級店だよね。流石だな……」
「彼女、例の事件以降は心を入れ替えて、作詞作曲が出来ない事を受け入れたんです。なので彼女の作曲力を期待してパトロンになってくれた金持ちと別れて働く事にしたんですよ」
「どっかの小娘に爪の垢を煎じて飲ませたいほどの努力家だな(笑)」
「は、はぁ……ソ、ソウデスネ」
そのどっかの小娘は、目の前の人の娘だから、返す言葉にとても困る。
「きょ、今日もアイリーンは出勤してますよ。もう今頃は演奏してるんじゃないですかね!」
話を変えたいピエちゃんはアイリーンの話題に軌道修正を試みる。
陛下もそれが分かったのか、小さく肩を竦めて笑顔だった。
「じゃぁ行ってみるよ。悪かったねデートの邪魔をしちゃって」
「い、いえ……そんな事ございませんから!」
「そうですよ陛下。陛下の家臣である以上このくらいは慣れております」
「あはははは(爆笑) サラッと嫌味を言うその性格、良いね! だからウルフに気に入られたんだ」
「そ、そうか……この性格の所為で貧乏クジを引いてるんですね」
トホホな事実を今知った。
「ど、如何な用件でアイリーンを探してたんですか!?」
僕のナチュラルな嫌味の話を逸らす為か、ピエちゃんが話題を戻す努力に出た。
そうか……一般人からすると、王族に嫌味を言う行為はドン引きなんだな。この王家に慣れすぎて忘れてたよ。
「うん。ちょっと個人的に仕事の依頼があってね。本当に個人的だから、王家……いや、国家は関係ないんだけどね」
「はぁ……陛下も色々とお忙しい様ですね」
「う~ん……まぁ色々ね」
何か複雑な表情をした後、苦笑いで返す陛下。
また面倒事なのだろうな。
「あ、そうだ。ピエッサちゃんにもう一個お願いがあってさ……」
「わ、私にですか!?」
間違いなく面倒事だろう。
「この後アイリーンちゃんに会うんだけど、詳しい仕事内容は話せないんだよね。だから明日城に来てもらおうと思うんだけど、いきなり城のプライベートエリアに来いと言っても、一人だと大変だと思うんだ。だから明日もマリピエの練習でピエッサちゃんも城に来るだろうから、その時一緒に来てくれるかな?」
「も、勿論私は問題ありません!」
「ありがとう。でも学校が終わってからで良いからね。無理して学校休んで午前中から来られても、僕も一応仕事してるからさ」
「りょ、了解致しました!」
ピエちゃんの焦りようからすると、午前中から来るつもりだったな。
思わず笑ってしまう……が、ちょっと彼女に睨まれた(笑)
「そうだレクルト……デートの邪魔をした詫びに、ここの食事代を経費で請求して良いよ。領収書は絶対に必要だけど」
ピエちゃんに睨まれた僕をフォローしてくれてなのか、とんでもない提案を陛下はしてきた。
「い、良いんですか……税金を個人のデート代に使ってしまっても!?」
「……………そうか、税金になるのか。それは~……拙いな」
あ……余計なこと言ったかな?
「今の取り消し! 忘れてくれレクルト大将」
「は、はい……」
失敗したぁ~……
「ピエッサちゃん」
「は、はい!?」
突然真面目な顔でピエちゃんの名を呼ぶ。
「領収書があるのなら、今日のデート代を全額経費として請求することを、王様として命令する!」
「はぁ!? い、良いんですか……今、税金で個人のデート代は賄えないと仰ったではありませんか!」
「ピエッサちゃん……君は何時から公務員になった?」
「え? わ、私は公務員では無いですけど……あ!」
そういう事か!
「ピエッサちゃんはウルフ・アレフガルドという人物に個人的に雇われてるだけで、グランバニア王家が雇ってる訳では無い。ウルフ宰相の給料は税金から捻出されてるけど、アイツが受け取った後は個人の資産だ。あのガキがポケットマネーで何しようが知ったことでは無い」
「でも良いんですかね?」
「おや……王様の命令に逆らうつもり?」
そりゃ逆らえないな(笑)
「もしこの命令に従わなかったら、罰として君らの夜の営みを赤裸々に発表してもらうからね……皆の前で(笑)」
「それは従わない訳にはまいりませんね!」
「そういう事」
陛下はニッコリと微笑み立ち上がる。
そして優雅な動作で店から出て行った。
「これは失敗したわね……お昼も領収書を発行して貰えば良かったわ」
「この店以降で挽回しようよ」
「テイクアウトは出来るのかしら?」
「取り敢えず食べるだけ食べてから聞いてみよう」
僕とピエちゃんは頷き合ってから慌ててメニューを開く。
これは忙しくなってきたぞ!
そうだ……ヴィンテージのワインもボトルで注文しよう!
『この店で一番高いワインを!』
なんてね。
格好良く言うぞ~!
レクルトSIDE END
後書き
デート代を経費で請求しろとの命令だが、
際限なく頼んで良いとは言ってない。
だが請求される人物以外は
誰も気にしないだろう。
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