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亡者火

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第二章

 馴染みの友人故郷で暮らしている彼が来てこんなことを言ってきた。
「海の方に出るらしいぞ」
「出るっていうと何がだい?」
「あれがだよ」
 友人は太宰の自宅に来て彼に話した。
「子供の頃よく聞いたね」
「あれがかい」
「出るらしいんだよ」
「僕もその話はよく聞いたけれどね」
 それでもとだ、太宰は友人に返した。
「しかしだよ」
「本当に出るとはだね」
「思わなかったよ」
「僕もだよ、しかしね」
 友人はその太宰に話した。
「実際にだよ」
「出るというんだね」
「そうだよ」
「それで何時何処に出るんだい?」
 太宰は友人に問うた、着物の袖の中で腕を組みつつ。
「一体」
「真夜中にここからすぐ近くの海にね」
 そこにとだ、友人は太宰に答えた。
「出るらしいんだよ」
「真夜中にね」
「そうしたものが出る刻限だね」
「それはね、そしてだね」
 太宰は友人に腕を組んだ姿勢のまま言った。
「僕達もだね」
「それを見に行かないか」
「もの好きだね、しかし面白い」
 太宰は友人に返した。
「それならだよ」
「乗るかい?」
「そうさせてもらうよ」
 太宰は友人に答えた、聞けば標準語を使っていても言葉のニュアンスは津軽のそれが強い。友人もそれは同じだ。
「是非ね」
「そう言うと思ったよ」
 友人は太宰のその言葉を聞いて笑って応えた。
「君はね」
「僕ならかい」
「そう、君は好奇心旺盛なところがあるからね」
「さもないとだよ」 
 太宰は友人のその言葉に笑って返した。
「今の仕事は出来ないよ」
「作家はだね」
「僕にしても思うよ」
「君は妖怪の話は書かないがね」
「泉鏡花さんみたいにだね」
「あの人とは違うよ、ただね」
 太宰はここでこうも言った。
「この前書いた作品ではね」
「鬼を出していたね」
「童話を題材にして瘤取り爺さんを書いたけれど」
 この作品ではというのだ。
「あの作品は鬼が出るからね」
「だからだね」
「鬼を出しているよ」
「そうだよ」
 まさにというのだ。
「そうしているよ」
「そうだったね」
「だが妖怪自体はだよ」 
 太宰は友人にさらに話した。
「嫌いじゃない、聊斎志異にも興味がある」
「ああ、志那の妖怪の話を書いたものだね」
「短編集でね、これにも興味があるし」
 それでというのだ。
「妖怪や幽霊の類は決してだよ」
「嫌いでないね」
「そうだよ」
 友人に笑って話した、そしてだった。
 二人は連れ立って夜の海に出た、もう冬でかなりの寒さだがそれでもどてらを着込んでそちらに出た。すると。
 海の上に一つ赤い火が見えた、太宰はその火を見て言った。
「あれだな」
「ああ、間違いないな」
 友人もその日を見て答えた。 
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