柿を食べながら

「夏までダントツだったのが」
「そこからだったな」
「もう巨人に負け続けて」
「普通に三連敗してたな」
「あれも国賊行為だったけれど」
「矢野監督はずっとだからな」
「本当に退任をね」
　このことをというのだ。
「かなり真剣に考えるべきよ」
「本当にそうだな」
　兄は柿を食べながら真剣な顔で頷いた。
「阪神の為にな」
「ひいては日本の野球の為でね」
「世界の為だな」
「巨人が負けるとね」
「それ自体がいいからな」
「そう、日本の多くの人が元気を出してね」　
　戦後日本最大最悪の癌細胞巨人が負けるのを見てだ、癌細胞でなければ超悪性病原体であろう。梅毒菌の様な。
「頑張るから」
「それで頑張って働いて勉強してな」
「日本全体が元気が出るから」
「いいな」
「そして日本が元気になればね」
「日本が世界に与える影響大きいぞ」
「だからね」
　まさに風が吹けば桶屋が儲かるの論理でだ。
「世界もよくなるから」
「弱い巨人、巨人が負けるとな」
「世界にとって素晴らしいことになるのよ」
「僕も同感だ」
「それも完全によね」
「お前の言う通りだよ」
　妹の言葉を褒め称えもした。
「本当にな」
「そうよね」
「だったらな」
「矢野監督はもう世界の敵だから」
　それ故にというのだ。
「監督退任もな」
「真剣に考えるべきよ」
「全くだな」
「巨人に勝てる監督でないとね」
　二人で真剣に話した、だが。
　兄は柿を食べ終えると妹に言った。
「じゃあ部屋に戻るな」
「お勉強？」
「ああ、それはちゃんとしないとな」
「最近また成績よくなったって聞いたけれど」
「何か勝っても負けてもな」
　阪神がというのだ。
「身体動かすからな、僕は」
「それですっきりしてよね」
「身体も心もな」
「それで勉強もはかどるのよね」
「勝った方がずっといいよ」　
　寿は千佳に偽らざる本音を述べた。
「やっぱりな、けれどな」
「勝っても負けてもよね」
「阪神がないと僕は駄目なんだな」
「私もよ、カープがないと」
　最早生活の一部になっているこのチームがというのだ。
「同じよ、じゃあ私もね」
「柿食べ終わったらか」
「もうそれでね」
　その柿を食べつつ答えた。
「自分の部屋に戻ってね」
「勉強だな」
「ちゃんとするわ」
「お前も頑張ってるな」
「カープも頑張ってるし」
　それでというのだ。
「私も頑張らないとね」
「そうだな、阪神も頑張って欲しいな」
「巨人戦にね」
「来年はもっとそうして欲しいな」
　出来れば監督も交代してとだ、寿はそう思いつつ千佳の言葉に応えた。そうして席を立って自分の部屋で勉強に励んだ。それ自体ははかどったが彼は寝る前に阪神のカレンダーを見て来年はもっと頑張れと思った。


柿を食べながら　　　完


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　２０２０・１０・３０