魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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最終章:無限の可能性
第264話「形勢逆転」
前書き
既に形勢逆転しているように見えますが、一応優輝達とか以外のモブ達の所は結構ギリギリ拮抗している感じです。
ただ、優輝達の牽制というなの“餌”に釣られた神を倒していっている事で、今回(と前回)でようやく形勢が変わっていく事になります。
「ッ、せぇいっ!!」
防御魔法が破られるのと引き換えに、その攻撃を何とか防ぎきる。
同時に、ユーノは魔力を纏った掌底を顎に当てる。
「よくやった!」
「僕を前衛に出すなんてどうかしてる、よっ!!」
すかさずクロノがデバイスを突き刺し、そのまま魔法を発動させる。
“ブレイクインパルス”を直撃させ、さらにダメージを与える。
それだけでなく、ユーノの二撃目が頬を殴りぬいた。
「仕方ないだろう。切り込める人員が足りてないんだ!」
「まぁ、仕方ないとは思っているけど……!」
本来、ユーノは前衛を務めるタイプではない。
結界やバインドなどによるサポートが主で、そもそも攻撃魔法に適性がない。
しかし、“意志”と魔力を応用することで、徒手で戦っていた。
「軽い!」
「ッ……!」
別の場所では、魔力弾と砲撃魔法を突破され、“天使”に肉薄されるリニスがいた。
だが、“天使”の突撃は途中で止まった。
「なっ……!?」
「当然ですよ。ただの、目晦ましですから」
先に放った魔法はただのフェイク。
本命は、突撃してきた所をバインドで拘束し、集中砲火する事だ。
「はぁぁあああああああっ!!」
さらに、アルフが頭上から拳を振りぬく。
魔力を込めた全力の一撃が“領域”を削る。
「狼を、舐めんじゃないよ!」
既にアルフは別の“天使”と戦っており、ボロボロだ。
だが、闘志は一切衰えておらず、別の“天使”に片腕を吹き飛ばされようと、リニスが拘束した“天使”の喉笛を食いちぎった。
「私達が倒れない限り、一人、また一人と数を減らせばいいだけです」
どれだけボロボロになろうと、戦う“意志”は負けない。
ましてや、今の状況ならば部位欠損も“意志”次第で治せる。
だからこそ、その“意志”を絶やさない。
そんな決意の下、彼ら彼女らは戦い続けた。
「……なるほど」
緋雪と帝が神二人に挑みかかった頃、優輝達も神二人の“天使”に囲まれていた。
未だに他世界に援護射撃を放ち続けるルビアとサフィアを守りつつ、優輝と優奈による創造魔法の武器群をぶつけるが、効果がなかった。
「なるほどなるほど……」
肉薄してきた“天使”に対し、カウンターを放つ。
それも受け止められ、無効化されてしまう。
しかし、当の優輝は納得するかのように呟くだけだ。
「ッ!?」
直後、先ほど攻撃を受け止めた“天使”を、あっさりと掌底で吹き飛ばした。
カウンターを無効化していたというのに、その掌底は普通に通じていた。
「どうした?“絶望”と“蹂躙”。その二つが合わさっても自身に攻撃が通じるのが、そんなに不思議か?」
「ぐっ……!」
図星を突かれながらも、“天使”達は囲んで理力の攻撃を降らせる。
包囲された状態でのその攻撃は、本来であれば避け場のない攻撃だろう。
だが、転移で全員が移動すれば、回避は容易だ。
「ふっ!」
「くっ……!」
回避直後を狙った攻撃が迫る。
それを、優輝が一息で創造した複数の剣で阻む。
「シッ!!」
―――“一心閃・薙”
間髪入れずに優奈による一閃が優輝達の周囲を薙ぐ。
理力の守りにすら切れ込みを刻み、僅かながら“天使”達の“領域”を削ぐ。
「無駄だ!」
「はぁああああっ!!」
そんなダメージをものともしないように、“天使”は包囲攻撃を続ける。
こちら側の攻撃は効果が見られず、相手の攻撃は圧倒的。
そういった状況を“性質”によって作り出していく。
「シッ!!」
「ッ!?」
しかし、一筋の閃光が一人の“天使”を撃ち抜いた。
“天使”達の攻撃を防ぎながらも、一瞬の隙を突いて反撃を繰り出しているのだ。
「悪いけど、どれだけ“絶望”させようと、圧倒的力で“蹂躙”しようと、私達は決して諦めないわよ。たった一つの、可能性の彼方であろうと、勝利を掴むわ」
「な、にっ……!?」
さらに、転移で優奈に肉薄され、また一人の“天使”が斬り刻まれた。
「僕らの“性質”を、侮るなよ」
「イリスは、もっと用意周到だったわよ……!」
例え事象や状況に働く“性質”であろうと、“可能性”は残る。
どの“性質”にも有利という訳でもないが、一縷の希望はある。
それが“可能性の性質”たる所以だ。
「単に“性質”で追い詰めようと、“可能性”はあるのよ!」
攻撃の嵐を突き抜け、傷つきながらも優奈は突貫する。
渾身の反撃は理力の障壁を容易く突き破り、また別の“天使”の喉元を貫いた。
「だが、これだけの攻撃……!防ぎきれないはずだ!」
「どうかしら?」
現在、優奈が反撃のために攻撃の嵐を突っ切っているため、ルビアとサフィアを実際に守っているのは優輝一人だ。
理力や魔力などの障壁だけでは、到底防ぎきれない。
だが、優奈はそれに対し不敵な笑みを返す。
「なっ……!?」
各次元世界に向けられた理力の攻撃が、攻撃の嵐の中から飛んでいく。
それはつまり、ルビアとサフィアは未だに援護射撃をしているという事。
同時に、優輝一人で全ての攻撃を捌ききっている証明だ。
「本来ならば、牽制を止めるだけでも上出来だったのでしょうけど……残念だったわね。この程度、対した障害にもならないわ」
元々、護衛を止めれば負ける事はなかったのだ。
ならば、“護衛したまま勝ち切る”ぐらいの可能性は引き当てられる。
単なる障壁だけでは防ぎきれないのであれば、その方法を変えればいい。
「この程度の攻撃の嵐、導王流に捌けない道理はないわ!」
「実際に捌いているのは、僕なんだけどな……!」
そう。全体を守ろうとするから防御力が足りなくなる。
一点、それも拳だけならば全ての攻撃を防ぎきる事ができる。
であれば、後はその拳で全ての攻撃を捌けばいいだけだ。
つまり、優輝は障壁ではなく、導王流を用いて全ての攻撃を受け流していたのだ。
「そんな、馬鹿な……!?」
「動揺したわね?」
「しまっ……!?」
人の業に、“天使”達は少なからず動揺する。
動揺は“領域”の守りに揺らぎを生じさせる。
今回の場合、“性質”自体も動揺で弱まっていた。
その隙を優奈は一切見落とさなかった。
「いくわよ!」
「シッ!」
創造魔法による剣で、まず全員を串刺しにする。
直後、連続転移で回り込み、一人ずつ優輝の方へ吹き飛ばす。
そして、優輝がカウンターの要領でそれらの“天使”を再度吹き飛ばした。
「ッ……!」
だが、相手も弱くはない。
即座に体勢を立て直し、同時に転移で優輝達に仕掛ける。
複数人による同時攻撃で、カウンター直後を狙った。
「ふっ……!!」
尤も、それは導王流にとって格好の的だった。
繰り出される掌底を躱すと同時に受け流し、別の攻撃に当てる。
さらに別の“天使”を体ごと受け流し、盾にした。
後は、躱しつつカウンターをごく自然の流れかのように叩き込み、最後は真上に転移した巨大な理力の剣で串刺しにした。
「……我ながら、極致に至った武術は凄まじいわね……」
一方で、優奈も直撃を食らわずに全て対処していた。
連続転移とカウンターを併用し、躱し切れない僅かなダメージだけで全ての攻撃を対処し、多数の武器を創造して後退させていた。
「くそ……!」
「あ、そうそう。そこ足元危険よ?」
「ッ!?くっ……!」
設置型バインドを仕掛けておいた事で、優奈を襲った“天使”は動きが止まる。
即座にバインドを破壊されるにしても、その一瞬は命取りだ。
「がっ!?」
刹那、頭に創造された槍が突き刺さる。
その勢いで“天使”達は仰け反り、さらに隙を晒す。
「ッッ……!?」
さらに、優輝に襲い掛かっていた方の“天使”も、優輝が間髪入れずに発動させた魔法陣からの魔力の奔流で上空に打ち上げられていた。
「そういえば、そこにも斬撃を置いてあったな」
理力を使えば、創造魔法の創造できるモノはさらに幅広くなる。
武器ではなく、斬撃そのものを創造する事で、動く事なく上空に飛ばした“天使”を斬り刻んだのだ。
優奈も同じで、衝撃そのものを創造し、優輝が吹き飛ばした“天使”の所へ一纏めになるように吹き飛ばしていた。
「ッの……!」
ここで、再び“天使”が反撃に出る。
圧倒的な理力による“壁”が、上から迫ってきた。
理力の物量で押しつぶしに来たのだ。
「(“性質”の影響で、これだけの事をやっても消耗はなしか。となると、躱すだけでは鼬ごっこになるな……)」
二度、三度とルビアとサフィアごと、優輝達は転移で躱す。
しかし、その度に同じ攻撃が放たれてくる。
「ならば……!」
回避するだけでは、状況は変わらない。
ルビアとサフィアを残していけば、転移と同時に反撃が可能だろう。
相手の狙い通りから外れるためにはその方法が取れないので、防ぐしかなかった。
「ッッ……!!」
全力の理力放出で、ギリギリ拮抗できる程だった。
優奈も支援しているのだが、焼け石に水だ。
腐っても神界の存在であり、同時に厄介な“性質”の持ち主だった。
物量だけであれば、今の優輝と優奈でさえ、対等になれない程なのだ。
「ぉおおおおおっ……!!」
ドーム状の障壁で、ルビア達ごと守る優輝。
だが、徐々にその拮抗は崩れていき、障壁にも罅が入っていく。
このままでは押し切られるのも時間の問題だろう。
「ッ!」
そこで、創造魔法による遠隔攻撃を繰り出す。
単に武器を射出するタイプと、斬撃や衝撃そのものを創造する二種類の方法で、障壁を維持しながらも攻撃する。
「ふん!」
しかし、それらの攻撃はたった一回の理力の放出で吹き飛ばされた。
ここに来て、正しく“絶望”と“蹂躙”の“性質”が働き始めていた。
「優奈!」
「わかってるわよ!!」
転移魔法を応用し、優奈が砲撃魔法を飛ばす。
砲撃が転移する事で、複数の角度から攻撃できるが……
「(これも、無効される……!)」
先ほどの創造魔法と同じく、あっさりと打ち消された。
間髪入れずに優奈が転移魔法で単身突撃する。
ただでさえギリギリだった障壁が、さらに押されてしまうが、このままでも押し切られるので、勝負に出たのだ。
「はぁっ!!」
転移と同時の攻撃。
それすら、自動防御の理力に阻まれる。
一対一であれば、まだそこから倒せたかもしれないが、相手は多数だ。
「かふっ!?」
理力の棘が放たれ、転移も間に合わずにいくつか被弾する。
串刺しにされながらも転移したが、その先に即座に追いつかれてしまった。
「ッ、はっ!!」
それでも、直接的な物理戦闘では遅れを取らない。
導王流と戦闘経験から、多数相手でも互角に戦えていた。
「ぐっ……!?」
その上で、“蹂躙”と“絶望”を与えてくる。
導王流でも捌き切れないような因果で、理力の槍が優奈を串刺しにする。
そして、その間にも優輝は限界近くなっていた。
「こ、これ以上は……!」
それを見て、サフィアも牽制を止めてでも参戦するべきか逡巡する。
だが、優輝とルビアが視線で制した。
「“絶望”や“蹂躙”ってのは、一筋の希望で打ち破るモノでも、あるんだよ!!」
直後、優輝は障壁を片手で支えつつ、もう片方の手に理力を集束させる。
“性質”を込めて圧縮されたその理力が、一筋の光として放たれる。
―――“可能性の一筋”
「なっ……!?」
その光によって、優輝達を押し潰そうとしていた理力が破られる。
割れたガラスのように霧散する理力を見て、敵は驚愕していた。
「はぁっ!」
「しまっ……!?」
さらに、優輝の放った光はそのまま優奈の掌に収まる。
そして、その光が鞭のように周囲を薙ぎ払った。
「形勢逆転よ」
一転攻勢。優奈の姿が掻き消え、全ての“天使”が斬られる。
転移魔法と移動魔法の併用で、爆発的な速度を繰り出したのだ。
「行け」
「シッ!!」
そこへ、優輝からの理力の槍が“天使”に突き刺さる。
同時に優奈の斬撃が体を斬り刻み、一部の“天使”は四肢や首が飛んだ。
「これで詰みだ」
最後に、先ほど優輝達がやられたような上空からの理力の振り下ろしを、今度は優輝が“天使”に向けて放たれた。
「ぐ、がっ……!?」
地面に叩き落された“天使”達は、その場から抜け出そうとする。
だが、それよりも先に優輝と優奈による拘束に雁字搦めにされた。
丁寧に“性質”も込めて転移すら無効にしているため、抜け出す事は出来ない。
「がぁああああああっ!?」
さらに、理力の槍で剣山のように串刺しにされた。
世界の法則が違う今であれば、痛覚などは無視できるはずだ。
神界の者であるならば、それこそ四肢欠損程度なら微動だにしない程に。
だが、“領域”を削られ、自らの“性質”が原因で“天使”達は絶叫を上げた。
「結局、厄介な“性質”であればあるほど、反転した時に自滅する。そう考えれば、イリスはよく自分の“性質”を使いこなしている方だな」
「貴方がそれを言う?“可能性の性質”も同じようなモノじゃない」
“性質”は、一見その“性質”を司っているとうに思えるが、そうではない。
確かに対策や耐性は持っているが、どうあっても“性質”に関するモノが効かないという訳ではない。
むしろ、今回のような“絶望の性質”の場合、いざ自分に返ってきた場合、マイナスに“性質”が働き、自滅してしまう程だ。
だからこそ、優輝と優奈はそれを狙っていた。
「ぁ、ぁ………」
「自分達の“性質”で圧倒しておきながら、一瞬で形成が逆転し、今度は自分達がその“性質”に苛まれる。……本当、極端なものだ」
“絶望の性質”の“天使”達は、既に瀕死だ。
一時はあれほど圧倒したというのに、今はこうして地べたに這い蹲っている。
その事実がまさに“絶望”となり、自ら“領域”を削っていた。
「そっちは、これで終わりだな」
トドメに、優輝が理力の極光を放つ。
既に回避も防御も出来ない“天使”達はそれに呑まれ、“領域”が砕けた。
残ったのは、“蹂躙の性質”の“天使”達だけだ。
そちらも、今の攻撃で瀕死になっていた。
「た、例え我々が負けた所で、主さえいれば……!」
「神は“天使”より強い。……確かにそうだな。だけど、人間を嘗めるなよ?人は、お前たちが思っている程弱くはない」
“見ろ”と、優輝は緋雪と帝が戦闘している方へと視線を促す。
どちらも激しい戦闘を繰り広げているが、優勢なのは緋雪と帝だ。
「ば、馬鹿、な……!?」
「“絶望”や“蹂躙”の“性質”を持っているならば、確かに人の心の弱さはよく知っているだろう。でもな、そんな人の中にも、強靭な意志を持った存在がいる」
緋雪と帝は、その“意志”を以って相手の“性質”を跳ね除けていた。
だが、それは本来あり得ない事態なのだ。
故に、それを見た“天使”達は、自分達の主が押されている事よりも、“性質”を跳ね除けている事そのものに驚愕していた。
「如何なる才能を持っていたとしても、そんな事が……!!」
「“可能性”はある。……なら、僕らがそれを手繰り寄せればいい」
「ッ……!“可能性の性質”……!!」
いくら強い力を手に入れた緋雪と帝でも、負ける時は負ける。
“意志”で決まる現状であるならば、猶更だ。
しかし、その“意志”が折れる“可能性”を、優輝と優奈で排除していたのだ。
「まさか……!この世界の者が諦めないのは……!」
「人は可能性を秘めている。僕らはそれを後押ししただけだ」
そう、優輝と優奈は、事前に世界全体に“性質”を使っていた。
“可能性”を導く事によって、世界中の生命に強靭な“意志”を授けたのだ。
そのため、どこの世界でも戦う者達は決して諦めずに戦えていた。
「さて、一足先にこっちは終わらそうか………ッ!」
トドメを刺そうと、優輝は術式を展開する。
その直前、飛んできた極光を導王流で受け流した。
放ったのは、“絶望の性質”と“蹂躙の性質”の神と“天使”が現れる前まで戦っていた“天使”や神々だ。
二人の“性質”の邪魔をしないようにしていたが、その二人がやられている事で、今こうして介入してきたという訳だ。
「これ以上はさせんぞ!」
「変に“性質”に影響を与えないように傍観してたのは間違っていないが、まさか本当に見ているだけだったとはな」
「ええ。経験の浅さには、何度も助けられるわ」
包囲を再開する“天使”達。
だが、それを見ても優輝と優奈の余裕は崩れない。
「術式、展開!」
「全て、穿ちなさい!!」
なぜなら、既に仕込みは終わっていたからだ。
夥しい程の魔法陣が、地面や空中に展開される。
それらは全て、先ほどの戦いの最中用意していたモノだ。
「―――は?」
「高みの見物をしていたのは、失敗だったな!!」
本来であれば、この仕込みがなくとも護衛は可能だった。
故に、もしこの仕込みを妨害されても問題はなかったのだ。
だというのに、傍観していた敵はそれを見逃した。
“負ける事はないだろう”と、そんな勝手な思い込みから、警戒を怠ったのだ。
そのツケが、ここに回ってきた。
「一人残らず、殲滅だ!!」
魔法陣から、魔力、霊力、神力、そして理力による極光が放たれる。
空間を埋め尽くさんばかりの極光に、敵は一斉に防御態勢に入った。
「それこそ、愚策だ」
防御していれば、回避は出来ない。
それを見越して、一人ずつ優輝と優奈が理力の弓矢で仕留めていく。
“領域”を削り切れなくとも、これでかなりのダメージを蓄積させていた。
「悪いが、ここまで想定通りなんでな。援護射撃を止めるため、ここに敵が寄ってくるのは簡単に予測できた。元々、僕らはそれを止め、同時に襲ってきたお前たちを纏めて倒す算段だったんだ」
「な……!?」
掌の上で踊らされていたと知り、何人かの“天使”は“意志”が折れた。
他の“天使”も大体が瀕死になっており、完全に優輝達の勝利だった。
「本当の“神”なら、これぐらいは予期して当然だろう」
神の如き力を持っているだけで、“神”ではない。
それ故、普通の人間らしい所もある。
その人間らしさこそ、強さであり弱さでもあった。
優輝達は、その弱さを突いていただけに過ぎない。
「所詮は、他世界から見れば規格外の力を持つだけの、その世界の一生命に過ぎない。他世界でいう“神”とは、成り立ちそのものが違うからな」
「……!」
「“神の性質”とかであれば、確かに“神”になるだろうが……まぁ、今は関係ないな。とにかく、これで大局そのものの形勢が変わる」
巨大な魔法陣が展開され、発動直前に優輝は優奈達を連れて転移する。
そして、残された神達は魔法陣から放たれた極光に呑まれ、消えていった。
「終わったか。ちょうどいいタイミングだったな」
「お兄ちゃん!そっちも終わったの?」
「ああ。残っていた別の神々も倒しておいた」
転移先は、緋雪と帝がいる場所だった。
「それで、まだ続けるのか?」
未だに支援を続けるルビアとサフィアを見て、帝はそういう。
「いや、そろそろこっちも攻勢に移る。移動までは僕含めて支援を続けるが、その後は各自でその世界の神々を倒していく」
優輝も支援を再開しつつ、帝に答える。
既に大局の状況は変わりつつある。
押されている状況から、徐々に逆転している。
「そろそろ天廻様達も復帰するだろうからな」
「と言っても、どの世界から?」
「地球、ミッドチルダ、ベルカ辺りが優先だな。特に、地球では司達が突入前の最後の準備を進めている。その援護があった方がいい」
知っている世界且つ、住んでいる住人が多い世界を優先する。
襲ってきている神の数も多いため、妥当な判断だろう。
「なら、私が地球に行くわ」
「任せた」
作戦を大体把握している優奈が、一足先に地球へと向かうと宣言する。
「帝はミッドチルダに行ってくれ。なのは達と合流して、殲滅して回るだけでいい」
「ああ。わかった」
「送りは私達がしますね」
「頼んだ」
次に、帝はミッドチルダへと向かう事にする。
転移はルビアとサフィアが行うようだ。
「緋雪は僕と一緒にベルカだ」
「ベルカ……うん、わかったよ」
ベルカと言えば、緋雪にとって因縁のある世界だ。
優輝も敢えてここを選んでいた。
「今行けば、きっと面白い展開が待っているぞ」
「それってどういう……?」
「今、この世界には歴史に刻まれた英雄が蘇っている。……当然、ベルカ戦乱時代の英雄も含めて、な」
「もしかして……!」
そこまで言えば、緋雪にも思い当たる節があった。
「でも、お、お姉ちゃん……は?」
「まだ言い慣れないのね……。私はいいわ。確かに、導王時代のムートの記憶も持っているけど、やっぱり別存在だもの」
優奈は飽くまで優輝が“女性だった可能性”として生まれた存在だ。
記憶を持っていても、それに対する考えまで同じとは限らない。
だからこそ、ベルカで会えるだろう人物に、優奈は会おうとしなかった。
「というか、向こうも勘違いするわよ」
「そ、それもそうだね……」
「さて、そうと決まれば、行くぞ!」
最後の支援攻撃を放ち、優輝達は移動を開始する。
優奈は地球へ、帝とルビア、サフィアはミッドチルダへ。
そして、優輝と緋雪はベルカへと向かった。
……人類の反撃はここからだと、そんな決意を胸に抱いて。
後書き
一心閃・薙…203話に登場した一心閃を薙ぎ払うように放つ。他にもバリエーションはあるが、ここでは省く。
可能性の一筋…“逆転の可能性”。圧縮した“性質”と理力で敵の圧倒的優勢を打ち砕く。まさに逆転の一手となる一撃。
今まで一切描写していませんでしたが、緋雪は優奈の事を“お姉ちゃん”と呼ぶように決めました。まだ慣れていませんが、そのうち慣れるので大して重要な事ではないです()
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