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ダタッツ剣風 〜業火の勇者と羅刹の鎧〜

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第6話 ランペイザーの正体

 メテノールを筆頭とする冒険者達は、血と略奪に飢えた盗賊達を真っ向から迎え撃つ。数にモノを言わせて肉薄する悪漢に待ち受けていたのは、投槍(ジャベリン)の洗礼であった。

「ぐぎゃあぁああッ!?」
「さっさと死にたきゃあ、順番に真っ直ぐ並びな。……すぐ楽にしてやるよ」

 斂理(レンリ)と呼ばれるその槍は、鋭く研ぎ澄まされた眼で盗賊達を射抜く、メテノールの手により。矢にも勝る疾さで宙を駆け抜け、彼らを串刺しにしていく。
 たった一撃で何人もの盗賊を同時に貫いた、彼の槍投は――その威力を物語るように、建物の壁すらも突き破ってしまうのだった。

「野郎、味な真似しやがって!」
「槍を離せば奴は丸腰だぜ! たっぷり借りを返して――!?」

 だが、斂理を手放してしまった今のメテノールには武器がない。そこに勝機を見出した盗賊達は、彼を取り囲み袋叩きにしようとする。

「いけないなぁ、そういう物騒なモノ振り回しちゃあ!」
「なにィッ!? お、俺達の武器がぁッ!」

 だが、得物を振り翳しメテノールに襲い掛かろうとした瞬間。彼らの剣や斧は全て、家屋の屋上から飛んできたワイヤーアンカーに絡め取られ、取り上げられてしまうのだった。
 若手冒険者、リード。彼の仕業だったのである。

「あのガキかッ! 俺達をおちょくると痛い目に――ぐぎゃッ!?」
「死にたくなければ、大人しく倒れてなよ。……こっちも、本意じゃないんだから」

 彼を捕捉した盗賊の一人が、隠し持っていた弓矢で射抜こうとした瞬間。リードはそれよりも疾く屋上から飛び降りると、瞬く間に一振りの小太刀「狼牙(ロウガ)」で斬り伏せてしまうのだった。
 わざわざ有利な頭上から降りて来た彼に、盗賊達は狙いを集中させる。

「このガキッ、まずはてめぇか……らがッ!」
「ガキだからって舐めない方が良いよ。……私達、冒険者はねっ!」

 だが、それは陽動だったのだ。リード一人に盗賊達が襲い掛かろうとした瞬間、彼らの頭部に次々と小石が命中したのである。
 小石といっても、その威力と速さは尋常ではなく、盗賊達は瞬く間に意識を刈り取られてしまうのだった。

「全く……なっさけないなぁ。ただの小石だよ?」

 そんな彼らの醜態に、遠方からスリングショットを構えていた少女――ルナーニャは。今にもチューブトップから零れ落ちそうな巨乳を揺らして、ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべている。
 彼女を背後から組み伏せようと目論んでいた好色漢達は、その柔肌に触れる間もなく。待ち構えていた褐色肌の女剣士・ブレアの大剣に、一人残らず薙ぎ払われていた。

「フンッ!」
「ぐぉあぁああッ!」
「な、なんだよこの女ッ! に、逃げろおぉおッ!」

 圧倒的なボディラインを際立たせる露出度の高い軽鎧(ビキニアーマー)を纏い、白い長髪を靡かせる彼女自身も、周囲の盗賊達を惹きつけていたのだが。「クレイモア」と呼ばれる大剣を軽々と振り回すその膂力の前では、欲望だけの悪漢など為す術もない。
 2人の肢体を狙い、喉を鳴らしていた盗賊達の成れの果ては、彼女達の足元に累々と横たわっていた。

「背中の警戒が甘いぞ、ルナーニャ。ただでさえお前は何かと無防備なんだ、あまり世話を掛けさせるな」
「ブレアさんがいるからだよぉ。それに無防備って……そんなえっちなカッコしてる人にだけは言われたくないんですけどっ!」

 当人達にとっては、見慣れた光景なのだろう。彼女達は軽口を叩き合いながら、自分達の色香に釣られた次の愚者を迎え撃とうとしている。
 信頼に足る者同士として、お互いの背を預けながら――。

 ◇

 冒険者達と盗賊達。彼らの剣戟が生む衝撃音が絶えず響き渡る中、ダタッツとランペイザーも剣を交え続けていた。
 火に包まれる屋敷の前で、銅の剣と鉄の剣が交錯し、ぶつかり合う。そんな命のやり取りの中であっても、盗賊団の頭領は不敵な笑みを崩さずにいた。

 ――ランペイザー。それは数百年前に勇者が倒した魔王の名であり、世の悪党がその威光にあやかろうと騙ることも多いのだという。
 それ故に今となってはその名も、「偽名でしか己を誇示できない矮小な男」を指す蔑称としか見なされていないのだ。ランペイザーの名を聞いて恐れ慄く者など、この時代にはもういない。

 はず、だったのだ。ダタッツの眼前で狂気の笑みを浮かべ剣を振るう、この男が現れるまでは。
 なまじ「ランペイザー」の名が小者というニュアンスで浸透していたことが仇となり、自警団でも対処できると町の人々が油断したのが、悪手だったのだ。

 少なくともこの男は、紛れもなく本来の意味である「魔王」に近しい悪意と、力を秘めているのだから。

「いいねぇ、悪くねぇ太刀筋だ。このランペイザー様とここまで渡り合える奴なんて、初めてだぜ」
「……いい加減、つまらない芝居はやめたらどうだ。ここに来るずっと前から、あなたの邪気は感じていた。タネなら、とうに割れている」
「なんだ心外だな、俺が手を抜いてるって言いたいのかい?」
「その少年兵の顔で、悪事に走るのをやめろと言ったんだ!」

 一方、ダタッツの方は憤怒を露わにした形相で一際強く剣を振るい、ランペイザーを弾き飛ばしている。軽やかに着地したランペイザーは、彼の言葉に眼を細めた。

「……その少年兵の名はエクス。彼の兜に、そう彫られていたのを覚えている。彼は間違いなく三年前のあの日、自分がこの手で……殺したはずだ」
「ほぉ、こんな餓鬼の顔や名前まで律儀に覚えてたのかい。お優しいねぇ」
「かつてジブンが使っていた『勇者の剣』()、持ち主の殺意を煽る曰く付きの代物だった。……半信半疑だったが、こうしてあなたが現れた以上、もう目を背けることはできない」

 わなわなと肩を震わせ、怒りとも悲しみともつかない表情で切っ先を向けるダタッツ。そんな子孫(・・)の勇姿に、ランペイザーと名乗る男は歪に口元を吊り上げるのだった。

「その子の身体から、この世界から出て行け! ランペイザー……いや、先代勇者・伊達竜源(だてりゅうげん)ッ!」
 
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