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至誠一貫・閑話&番外編&キャラ紹介

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◇閑話・参◇ ~酒豪達の宴~

 主より、孫堅殿らを交えての酒宴を催すとの知らせを頂いた。
 勿論、参加しない手はない。
 と言うより、参加以外の選択肢など最初からありはしないが。
 手ぶらはどうかと思い、市場にてメンマを一甕購入しておいた。
 行きつけの店にて吟味した一品、酒宴の場には相応しかろう。
 酒にメンマ、この絶妙な組み合わせはまさに奇跡。
 ましてや、主考案の酒とあれば、まさに鬼に金棒。
 これを楽しみと言わずに、どうしようか。
 そんな事を思いながら、酒宴の会場である、大食堂に向かう。
「おお、趙雲。遅いじゃねぇか」
 既に、孫堅殿と黄蓋殿が座に就いていた。
「はっ。黄蓋殿も、お好きですな」
「当然じゃ。堅殿ばかりに美味い酒を独り占めさせる訳にはいかんからの」
「今日は新顔もいるぜ? ま、雪蓮は呼んであるがな」
「ほう。新顔でござるか?」
「ああ。黄忠という奴でな、かなりの遣い手だぜ?」
 はて、遣い手ならば名前ぐらいは聞いた事があると思うのだが。
 ……むう、やはりこの国は広いという訳か。
 だが、孫堅殿がそう仰せになる以上、尋常ならざる人物、と見て間違いなかろう。
「待たせたな。黄忠殿を連れて参った」
 程なく、主も参られた。
 隣に、色気抜群の女が一人。
 ……美人だが、何より……あの胸は反則ではないのか?
 私も豊かな方と自負しているが、黄蓋殿といい、孫堅殿といい、この場にいる女は皆、まさに爆乳揃い。
 主は胸の大小はあまり気にせぬお方だから良いが、大抵の男は悩殺ものではないか。
「あら、初めまして。私は黄忠、字を漢升と申しますわ」
「こちらこそ。私は趙雲、字を子龍にござる」
「まあ、あなたが。噂はかねがね」
 と、黄忠殿は微笑む。
 優しげと言うか、包み込むような笑顔。
 むう、腕も立つようだが……いろいろな意味で、敵に廻せば手強い相手のようだ。
「私をご存知にござるか?」
「ええ。土方様の許には知将勇将が揃っている、と。その中のお一人、戦場を駆け抜ける白銀の槍……それがあなたですわね?」
 白銀の槍、か。
 ……うむ、悪くない。
 世辞混じりとしても、そう言われて気分の悪い筈もない。

 そして、宴が始まり。
「さ、もう一献」
「ええ、いただきますわ。……ふう、確かに美味しいですわね」
 黄忠殿の飲みっぷりはかなりのものだ。
 それでいて、乱れた様子は一切なく、何処までも優雅ですらある。
「なかなかに強いな、黄忠も」
「儂も同感じゃ。しかし、堅殿や儂、それに趙雲殿と揃っている中で、平然としているとはの」
「うふふ。お酒は好きですから……あら、土方様は?」
 あまり進まぬ主に、黄忠殿は首を傾げる。
 その様ですら、どこか妖艶とは……うむむ。
「私なら気にせずとも良い。皆に合わせられる程は強くないのでな」
「あら。ですがこのお酒、土方様の発案とか?」
「確かに製法は私が伝えた。だが、製法を存じている者が、酒豪とは限らぬぞ」
 主は、そう仰せになると水を飲む。
 合いの水と呼ぶらしいが、試してみると納得がいく。
 酒を飲み続けると酔いも回りやすく、長い間楽しむのが難しいが、これならば適度に中和される。
 ……尤も一度、主が潰れるところを見てみたいものだが。
 引き際を心得ておられる御方、容易ではない。
「意外ですわね。もし宜しければ、どのようなお酒なのか教えていただけますか?」
「良かろう」
 主は拘りなく、原料や製法を口にする。
 黄忠殿のみならず、皆がそれに聞き入っている。
 ……無論、私もだが。
「随分と、贅沢なお酒ですのね」
「米が原料とは聞いていたが、まさか玄米ではなく、それを白米にするとはの」
「そりゃ、米の美味い部分だけを厳選してるんだ。不味い訳がねぇわな」
 手にした盃の中の、澄み切った液体。
 漂う上質な果実の如き香りと、舌で転がした時のすっきり感。
 喉越しも良く、後味も米独特の甘味がほのかに残る感じがする。
 ……とにかく、美味い。
「母様、歳三、お待たせ」
 孫策殿が、息を切らせながら到着した。
「やっと来たか、雪蓮。遅ぇぞ?」
「ゴメンゴメン。あら?」
 頭を下げる黄忠殿に気づかれたらしい。
「初めまして。荊州の住人、黄忠と申します」
「あ、えっと……」
 戸惑ったような孫策殿に、主が助け舟を出した。
「故あって、私と知己を得た御仁だ。心配要らぬ」
「そ。わたしは孫策、宜しくね」
「やはりそうでしたか。こちらにおわす孫堅様によく似ておいでですから」
「ま、話は後だ。さっさと座れ、雪蓮」
「はいはい」
 つくづく、仲の良い母娘だと思わされる。
 ……私も、いずれはあのように子を為す日が来るのであろうか?
 その相手?
 無論、主以外にはあり得ぬ。

 半刻程が過ぎたであろうか。
 いくら盃を重ねても、主の酒は本当に美味だ。
「ささ、孫策様。もう一献」
「ええ。にしても黄忠、あなた強いわね」
「堅殿や策殿と呑んで潰れぬとは、かなりのものじゃからの。儂も嬉しい限りじゃ」
「趙雲、メンマ貰うぜ?」
「はっ、ご随意に」
 皆は変わらぬ調子で杯を重ねていく。
「……皆。済まぬが私は中座するが、構わず続けてくれ」
 主が席を立つ。
「何だ歳三。相変わらず弱ぇな?」
「お前達と合わせられる方が、余程尋常ではないが? では、失礼する」
 ……やはり、主はどんな仕草も絵になる。
 立ち居振舞い全てが、誰にも真似出来ぬものがある。
「そうだ、趙雲。一度聞きたかったんだが」
 と、孫堅殿が杯を傾けながら話しかけてきた。
「何でござろう?」
「歳三って、何やらせても凄ぇみてぇだけどさ。夜はどうなんだ?」
「ブーッ! げほっ、げほっ!」
「あらあら、大丈夫ですか?」
 思わず酒を噴き出し、むせ返る私。
 黄忠殿が、そんな私の口許を拭う。
「か、忝い」
「なんだ、今さら処女(おとめ)って訳じゃあるまいし」
「け、堅殿。直裁過ぎるではないか」
「ま、いーじゃない。わたしも聞きたいわ、その話」
「そうですわね。私も是非」
 ……むう。
 子持ちはこの手の話題で恥じらう訳がないのはわかる。
 ……だが、未だ処女と見た孫策殿があけすけと言うのも。
「ど、どうあっても聞きたいと仰せにござるか?」
 黄蓋殿だけは頬を染めているが、他の方々は興味津々と言わんばかり。
 ……良かろう。
 ならば、主の魅力、とことん語ってみせようぞ。

「へぇ。張コウに張遼までもかよ。もてまくりだな、歳三は」
「そりゃ、強くて機転が利いて、度量もあってしかも美男子だもの。当然じゃない?」
 孫堅殿と孫策殿、主を褒めるのは良いのだが……。
「やはり雪蓮、何とか口説き落とせ。俺もあんな息子なら望むところだ」
「そうねぇ、優秀な男の血を孫家に入れるのは悪くないわね」
 ……あまり堂々と、主を誑かす算段をしないでいただきたいものだ。
 そうでなくとも、主に目をつけている者が少なくないのだから。
「そう言えば、黄忠殿。失礼じゃが、お主の亭主はどのような御仁なのじゃ?」
「……もう、他界しました」
 一瞬、寂しげな翳を見せる黄忠殿。
「これは済まぬ。儂とした事が」
「いいんですよ、もう昔の事ですし。……優しい人でしたわ、あの人は」
「優しい、でござるか。失礼ながら、些か意外ですな」
「あら、そうかしら?」
 黄忠殿は、小首を傾げた。
「黄忠殿の腕前、主や疾風から聞かされていますぞ。そのようなお方の伴侶、さぞや名のある猛者とばかり」
「うふふ、強いばかりが殿方の魅力ではありませんわよ?」
 ……妙に、説得力がある。
 主も、武では我らには勝てぬと常々仰せになる。
 もしや、黄忠殿のご亭主も、そのようなお方であったのかも知れんな。
「そうでなければ、璃々はこの世にいませんわ」
「まぁ、だよな。俺も好いたから結婚した訳だし、それを悔いちゃいねぇよ」
 ふむ……家庭、か。
 と、黄忠殿が私を見て、微笑んだ。
「ふふ、趙雲様。大丈夫ですよ」
「な、何がでござるか?」
「土方様と幸せな家庭を築けるか……それを心配しているのでしょう?」
「い、いや、それは……その……」
 と、孫堅殿が意味ありげに笑う。
「そうか。趙雲はそんな事を、な」
「……は?」
「ならば、俺自ら手ほどきしてやろうか? なぁ?」
 ガシ、と肩を掴まれた。
 酔っているとは思えぬ程、力強く……というか、痛いぐらいに。
「あらあら、楽しそうですわね。では、私も加勢致しますわ」
 反対の腕を、黄忠殿に掴まれる。
「な、何をなされる?」
「……趙雲。もう諦めた方がいいかもね」
「どういう事でござる、孫策殿?」
「いえね。母様、お酒飲んでその手の話になると、もう制止が効かないのよ」
「そうじゃな。堅殿は無論じゃが……その様子では、黄忠殿も同様じゃの」
 苦笑する孫策殿と黄蓋殿。
「さ、趙雲様の部屋に参りましょうか」
「おお、そうだな。どれ、酒も持っていくか」
「お、お二方? ま、待たれよ!」
 ……抵抗空しく、孫堅殿と黄忠殿に拉致されてしまった私であった。
 ……その後の事は、誰にも語るつもりはない。
 そう、例え主であっても。
 ……ただ一つ、生涯に誓う事は増えた。
 まかり間違っても、あのお二人を敵に回してはならぬ。
 断じて、だ。 
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