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戦国異伝供書

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第百八話 関東管領上杉家その十

「我等が関東を攻めておる間にな」
「桶狭間で戦が起こり」
「そして今川家が倒れ」
「まさに息つく間もなくです」
「そうなりましたな」
「何か動く前にな」
 北条家がそうするまでにというのだ。
「そうなったな」
「ですな、確かに」
「気付けばです」
「そうなりましたな」
「左様ですな」
「うむ、そしてな」
 氏康はさらに話した。
「今川家を降した織田家はのう」
「すぐに伊勢と志摩を領地にし」
「美濃も飛騨もとなり」
「そして今やです」
「二十以上の国を持つ大身」
「七百二十万石となっております」
「公方様まで擁してな、叔父上の見立て通りに」
 幻庵を見つつ話した。
「まさにな」
「一瞬で、ですな」
「そこまでになりましたな」
「数年のうちに」
「そうなりましたな」
「そして今は治めにかかっておる」
 手に入れた領地をというのだ。
「もう天下人と言ってよい」
「はい、確かにそれがしもそうなると見ましたが」 
 その幻庵も言ってきた。
「しかし」
「それでもですな」
「あそこまでとはです」
 到底というのだ。
「思いませんでした」
「左様でしたか」
「桶狭間から四年で、です」
「そこまでの家になった」
「恐ろしいことです、そして天下を見れば」
 幻庵はさらに話した。
「西国は山陽と山陰が毛利家が手中にし」
「北陸は上杉家ですな」
「そして九州も島津家が力を伸ばすかと」 
 この家がというのだ。
「これからは。そして我等と近い奥羽では」
「そちらでは伊達家ですか」
「どうやら」
 こう氏康に話した。
「あの家が大きく伸び」
「そしてですか」
「奥羽の覇者にもです」
「なりますか」
「そうかと」
「伊達家といいますと」
 綱成が言ってきた。
「あの家は新しい主殿が立ちましたな」
「何でも隻眼の」
「独眼竜とも言われていますな」
「随分暴れておるとか」
「しきりに鉄砲を集め」
「そうであるな、伊達家は最上家や芦名家と仲が悪いが」
 氏康も言ってきた。
「そうした家と争い佐竹家ともであるな」
「その様ですな」
「どうも天下を狙う野心をです」
 幻庵は氏康にこのことを言ってきた。
「感じます」
「そうでありますか」
「星を見たところ」
「では当家にも来ますか」
「そうやも知れませぬ、ですから」
 それでというのだ。
「佐竹家と衝突しておるのなら」
「佐竹家と争ってもらいますか」
「そうしてもらいましょうぞ」
 あの家にはというのだ。
「当家も佐竹家とは対立していますが」
「それでもですな」
「敵の敵は味方といいますが」
「我等にも向かって来るのなら」
「敵同士に争ってもらい」
 そうしてというのだ。 
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