「士郎、その、証言、とか色々、ありがとうございました!」
「私からもお礼を言わせてもらうわ。ありがとう」
「士郎、ありがとね」
最終公判も無事に終わり、フェイト、プレシア、アルフからお礼を言われるのだがこそばゆい。
裁判の結果はフェイトとアルフに関しては三年間の保護観察という事実上の無罪。
プレシアも大幅な魔力の封印と時空管理局の技術開発部門にて技術提供による減刑で、幽閉などされる事もなく自由な生活が保障される事になった。
またテスタロッサ家のフェイト、プレシア、アルフの住居については、俺の要望が受理され、海鳴で生活する事も決まった。
もっとも海鳴と本局では行き来に不便があるので転送用のポートを設置する等の話があるがそれは別途話しあう予定だ。
今は
「クロノ、お疲れ様」
「ああ、無事一年以内に片がついて士郎が殴りこみに来る心配がなくなって一安心だ」
クロノ達と軽口を叩き合い、無事に裁判を終え、理想的な形になった事をそれぞれが喜んでいた。
「それじゃあ、アースラに戻ってなのはさんにも報告しましょうか」
「はい」
リンディさんの言葉にフェイトもしっかりと頷き、転送ポートに向かう。
転送ポートといってもアースラに一瞬で行けるわけではなく、途中いくつかの転送ポートを中継する必要がある。
リンディさんが言うには
「第97管理外世界はミッドから離れ過ぎてるから」
とのこと。
転送ポートに向かう俺達の背後から早足でこちらに向かってくる男性。
廊下の窓を鏡替わりに使い、顔を見ればよく知る人物。
そしてある程度近づいた時
「衛宮士郎君。
ちょっといいかな?」
背後の男性、クラウン中将に呼び止められた。
裁判の直後というのもあって全く気が付いていなかった面々は驚きながら振り返り、リンディさんとクロノはクラウン中将だとわかると姿勢を正す。
俺はゆっくりと振り返りクラウン中将と向かい合う。
「なんでしょう?
裁判も片付きましたし、これから海鳴に戻るところなのですが」
「最後に二人だけで少し話したいのだが時間を貰えるかな?」
「ここでは?」
「君に関する事だがここでいいのかな?」
俺に関する事……か。
十中八九魔術に関する事だろうな。
恐らくは海鳴に戻る前に、最後にもう一度考えてくれないかとかいう依頼だろう。
無論、断ってもいいのだが、本局内で中将という立場でいながら護衛も付き人もいないこの状況。
俺と二人っきりで話したいというのは本当なのだろう。
ならば最後に
「ご招待をお受けいたします」
招待を受けるのも悪くはないか。
「心遣いに感謝します。
リンディ提督、クロノ執務官」
「「はっ!」」
「テスタロッサ家の皆さんを責任を持って海鳴までお送りしろ」
「はい」
「了解しました」
敬礼したリンディさんとクロノと共に転送ポートに再び向かうプレシアとアルフ。
フェイトは
「士郎」
「大丈夫だ。
話が終わればすぐに追いつく」
「うん」
どこか不安そうな表情を浮かべながらもフェイトもプレシア達の後を追う。
「リンディ提督。
フェイト達の海鳴転送ですが」
「はい。
前もって話していた通り、プレシア女史達の海鳴の転送と引き継ぎは士郎君の転送と共に行います。
それまでは第97管理外世界の宇宙空間にて待機中のアースラで過ごしていただきます」
「ええ、それでお願いします」
最後に念のための確認を行い。
「では行きましょうか」
「ええ」
クラウン中将について歩き始めた。
side ザフィーラ
ヴィータと共に海鳴の街を見下ろす。
事の始まりは一昨日、シャマルから蒐集に行く前に我らにある情報がもたらされた。
それは
「ここ海鳴に魔力を持つ者がいるだと?」
「ええ、士郎君が街に結界を張ってるし、その結界の基点か何かと思ったんだけど、魔力の感じがどうも魔術じゃなくて魔導師みたいなの」
海鳴に魔導師がいるという可能性。
「魔導師ならば蒐集は出来るじゃねえか」
ヴィータの言葉に頷くシグナム。
「ヴィータの言うとおりだが、魔導師にしろ魔導師じゃないにしろ我らは衛宮には恩義がある。
それに前に海鳴に侵入していた者がいた件もある。
しばらくはヴィータとザフィーラは海鳴の捜索を。
別の次元世界は私とシャマルがやる」
「蒐集のペースが落ちるのは気に食わねえけどわかった」
「心得た」
そして今日で海鳴を捜索しはじめて二日。
「相変わらず位置がいまいちはっきりしないか。
今夜も別れて探そう。
闇の書は預ける」
「オーケー、ザフィーラ。
あんたもしっかり探してよ」
「心得ている」
ヴィータと別れ、捜索を開始した。
side なのは
夜、部屋で土日の宿題をやっている時
「Caution. Emergency.(警告 緊急事態です)」
「え?」
レイジングハートの異常を知らせる声を上げた。
いきなりの事に戸惑う。
だけど次の瞬間
「結界!?」
結界に取り込まれていた。
窓の外を見れば巨大な結界に取り込まれているのがよくわかった。
「It approaches at a high speed.(対象、高速で接近中)」
「近づいてきてる? こっちに?」
この結界が誰が張ったのかもわからない。
だけど士郎君がいない今戦えるのは私だけ。
それにこっちに向かってくるというなら私の事も気がついてるはず。
士郎君の訓練の時の言葉を思い出す。
「相手が向かってくるならこちらが迎撃しやすいところ、戦いやすいところを選べ」
「戦いやすいところ?
士郎君ならどこを選ぶの?」
「俺なら辺りを見渡せるビルの屋上。
ここなら弓を使って長距離から先手を取る事も出来る自信がある。
あとは俺の家だ」
「士郎君の家?」
「ああ、魔術師にとっては自身の研究を行うところ工房には、俺にとっては離れだが家の敷地全体に結界を張っている。
勿論家にも張っているけど」
「結界があると戦えるの?」
「魔術師にとっては工房を守る結界は防衛じゃなくて攻勢、外敵を排除するためのモノだからな」
私は魔導師だし、家に結界も張ってない。
なら家で迎え撃つ意味はない。
私のスタイルは砲撃と誘導弾の遠距離戦。
視界を阻む遮蔽物がなくて砲撃を撃ちやすいところ。
「行こう。レイジングハート」
「All right, my master」
私はバリアジャケットを纏い、空に上がる。
そして降り立ったのはビル街にある一際高いビル。
周囲に視線を向けながら、足を肩幅に開いてすぐに動けるようにレイジングハートを握り締める。
「It comes.(来ます)」
レイジングハートの言葉と共に正面から飛来する赤い閃光。
このまま突撃?
それなら近づいてきたところをかわしてから
頭の中で戦いの流れを組み立てていく。
だけどそれは
「え!?」
「Homing bullet.(誘導弾です)」
閃光の正体が結界を張った子じゃなくて、魔力弾という事に霧散する。
それもただの魔力弾じゃない。
誘導弾。
もしかわしても追尾されちゃう。
だから
「っ!! くうっ!」
誘導弾をシールドで受け止める。
重たい!
誘導弾はシールドにぶつかっても、シールドを突き破ろうとしてくる。
そして今の私は誘導弾の防御で動けない状態。
もし士郎君ならこんな隙を見逃すはずがない。
「で、ディバインシューター!」
シールドを維持しながら二個のディバインシューターを作り出す。
予想通り襲いかかってくる赤いバリアジャケット来た子がデバイス……だと思うハンマーを振り上げる。
「テートリヒ・シュラーク!!」
「シュート!」
赤い子に放たれるディバインシューター。
「ちっ! 邪魔だ!!」
一発目を打ち払って、二発目をさらに加速してかわす赤い子。
今!!
「レイジングハート!」
「Flash Move」
シールドを解除しながらの高速移動で、一気に離脱する。
それと同時に赤い子と誘導弾がぶつかったのか爆発が起きる。
「なんとかうまくいったね」
あえてシールドを解除して赤い子と誘導弾を衝突させる思いつきの作戦だったけどなんとか成功できた。
レイジングハートが高速移動とかタイミングを合わせてやってくれなかったら絶対無理だったけど。
煙が徐々にはれてくる。
「てめえ……」
その中から無傷の赤い子が出てくる。
「いきなり襲われる覚えはないんだけどどこの子?
一体なんでこんなことするの?」
だけど私の言葉に耳をかさず、赤い子の左手の指の間に銀色のボールのようなものが現れる。
「教えてくれなきゃ、わからないってば」
先ほどのかわされた一発のディバインシューターが赤い子の背後に迫る。
けど
「っ! くっ!」
だけど気がつかれて防がれる。
「このヤロウ!!」
一気に間合いを詰めて、ハンマーを振り下ろす赤い子。
でもそれは
「Flash Move」
バリアジャケットを少し掠めたけど、高速移動でかわしながら距離をとる。
再度間合いを詰めようとハンマーを振り上げるけど
させない。
私が得意なのは遠距離戦。
なら距離をとり続けないと
「Shooting Mode.」
距離を詰められるよりも速く。
「話を」
「Divine」
レイジングハートの先端に魔力を集束させて
「聞いてってば!」
「Buster」
訳もわからず襲われた苛立ちも若干詰め込んで撃ち放つ。
赤い子に当たるも威力よりも速度を重視したから、バランスを崩して少し高度を下げたけで、すぐに体勢を取り戻す。
でも赤い子は無事でも、赤い子が被っていた帽子は砲撃に撃たれて、壊れながら落ちていった。
その瞬間、赤い子の纏っていた雰囲気が一変した。
先ほどまでとは比べ物にならないぐらいの敵意。
いきなり襲われた私の方が被害者のはずなんだけど……こんな敵意の眼で見られて、たじろいでしまった。
「グラーフアイゼン、カートリッジロード!」
「Explosion.」
ハンマーの柄の部分が稼働して、蒸気が吐き出される。
「Raketenform.」
そして、変形するハンマー。
「え……!?」
レイジングハートやフェイトちゃんのバルディッシュやクロノ君のS2Uなんかとは明らかに違うモノに思考が固まってしまう。
ダメ。
思考を止めたらそれは致命的な隙になる。
「ラケーテン!」
変形してできた部分から噴き出てくる炎。
先ほどとは比べ物にならない位の速さ。
最初の一撃は辛うじてかわす。
「うおおおお!!!」
連続で放たれる二撃目。
かわせない。
レイジングハートをしっかりと握りしめてシールドを張る。
でも
「っ!!」
シールドが一瞬で砕かれて、レイジングハートに突き刺さる。
懸命に踏ん張るけど
「ハンマー!!!」
「きゃあああ!!」
ものすごい勢いで吹き飛ばされる。
吹き飛ばされる中で、必死に身体を丸めて受け身をとれるようにする。
「ケホッ!」
何とか受け身をとって止まった身体で自分の今の状態を把握する。
ここは……どこかのビル。
吹き飛ばされた勢いでビルの中に突入してしまったみたい。
「……早く出ないと」
あの赤い子は接近タイプで、フェイトちゃんのように速いのではなく、強力な一撃を放ってくるタイプ。
それにこんなビルの中のような狭いところじゃ、私の特技が活かせない。
でもそれは敵わなかった。
赤い子は窓からさらに襲いかかってくる。
「でええ!!」
「レイジングハート!!」
「Protection.」
こんな狭い場所じゃ逃げ場もない。
出来るのは渾身の魔力を込めてバリアを張って受け止めるだけ。
バリアを張りながらディバインシューターなどで距離をとろうにも、全力でバリアを張って受け止めるだけで精一杯。
その中で
「ぶち抜け!!」
「Jawohl.(了解)」
さらに膨れ上がる赤い子の魔力。
徐々にハンマーの先端はバリアに食い込んでいって、バリアを突き破った。
凄まじい衝撃と共に背中に奔る痛み。
「っ!」
叩きつけられて呼吸が乱れて声も出なくて
でも、そんな中でも赤い子がこちらに向かってくる足音だけはちゃんと聞こえていた。
思い通りに動かなくて、震える手でボロボロになったレイジングハートを赤い子に向ける。
「はぁ、はぁ」
痛みで荒くなる呼吸。
霞む目で赤い子を見つめる。
そんな中静かに振りあげられるハンマー。
―――こんなので終わり?
冷静な思考がもう終わりと、なのははここで終わってしまうのだと教えてくる。
―――いやだ。
―――お母さん、お父さん、お兄ちゃん、お姉ちゃん
―――アリサちゃん、すずかちゃん
―――ユーノ君、リンディさん、エイミィさん、クロノ君
―――アルフさん、プレシアさん
―――フェイトちゃん、また会いたかったのに
―――士郎君、このままお別れなんて嫌だよ
振り下ろされるハンマーの恐怖に目を閉じる。
だけど衝撃は来ることなく、鳴り響いたのは金属がぶつかり合うような音。
そして、目の前には見覚えのある黒いマントと金色の長い髪。
「ごめん、なのは。
遅くなった」
「ユーノ君?」
横にはよく知る男の子の顔があった。
「仲間か?」
一旦私たちから距離をとる赤い子が発した言葉に
「友達だ」
静かにでもしっかりと『友達』と答えてくれた。
「フェイトちゃん」
「大丈夫。なのはは私が守るから」
こんなボロボロで、全身が痛くてたまらないのにその言葉がとてもうれしかった。
side 士郎
クラウン中将に連れられて一室に入る。
「座ってくれ。
今お茶でも」
「私がしましょう。
慣れていますから」
「……そうだったね。
ならお願いするよ」
「コーヒーを? それとも紅茶を?」
「紅茶で」
クラウン中将と自分用に紅茶を用意して、ソファーに座る。
「で二人だけで話したい事とは?」
「予想がついているだろうが、魔術の技術提供についてだ」
予想通りか。
だがこの問いかけの答えは決まっている。
「前にも言ったはずです。
私が技術を教えるメリットがありませんと」
「だな。
まあ、この問いかけは議会で必要な形だけのモノでね。
これから士郎君が海鳴に帰って交渉すらままならなくなる状況で、何の交渉なく帰したら多少問題になるからね」
「なるほど。
では話はこれで終わりですか?」
これで話が終わりならいいのだが。
「いや、別件がある」
世の中そうもいかないのものだ。
「何でしょう?」
「これは魔術というよりも海鳴に関する事だ」
「海鳴に?」
海鳴に?
どういうことだ?
話が見えてこない。
「現状、海鳴に管理局の関係者が入る事すら士郎君の許可がいり、監視をしたい本局側ではそれを快く思っていない。
だが力づくになればこちらにも被害が出る上、前の会議の時に魔術に非殺傷設定がないとのことから戦えば少なからず死傷者がでる。
そこで別のアプローチから海鳴に局の人間がいなければならない状況を作ろうとしているらしい」
「別のアプローチですか……」
「そうだ。
もっとも本局の強硬派で私とは折り合いが悪くて詳しくは調査中だが」
どういうことだ?
海鳴は管理外世界だし、世界ごとならまだしも世界の特定地域のみという状況。
いや、この事は後だ。
「なんでこんな情報を?」
「管理局には強硬派もいるが、士郎君との関係をこのまま続けていきたいという穏健派の人間も少なからずいるという事を話しておきたかった」
「……クラウン中将の立場は?」
「穏健派の筆頭といったところかな」
リンディさんとは違う、別の情報ライン。
「私としても無駄に争う事もなく、このままの関係を続けては行きたいですが」
「それはなによりだ。
この件はまた情報が入り次第、リンディ提督やクロノ執務官を通すなりして伝えよう」
「感謝します」
そんな時
「失礼します!」
「何事だ?
会議中だぞ」
「申し訳ありません。
リンディ提督より衛宮士郎殿に緊急の連絡が入っておりますので」
緊急の連絡!?
「こちらで取る。
外で待機しろ」
「はっ!」
部下が下がると同時にパネルを開き操作するクラウン中将。
「士郎君!」
「リンディ提督。
どうしたんですか?
緊急の連絡と聞きましたが」
「ええ、その」
「私も下がろう」
「いえ、大丈夫です」
クラウン中将ならここにいてもらっても問題はないだろう。
「リンディさんも話してください」
リンディさんといつものように呼ぶと
「ええ、ランディから連絡があって海鳴に結界の反応があって、なのはさんかと思ったんだけどどうも街の真ん中で広域結界を張ってるみたいなの」
頷いて話し始めたが、街に結界だと?
今、俺がここにいる状況で結界を張ったとすればなのはの可能性が一番高いが、訓練なら海や山で小規模のモノだ。
そうなると俺の屋敷か、又は俺の関係者であるなのはが目的か。
「リンディさん達はもうアースラに?」
「いえ、まだ途中の転送ポートよ」
「ユーノ・スクライア、フェイト・テスタロッサ、その使い魔アルフ、以上三名の海鳴への進入を許可します。
アースラに到着次第、三名を転送させてください。
俺もすぐにそちらに向かいます」
「わかったわ」
リンディさんとの交信を終わる。
「クラウン中将、話はまた後日にでも」
クラウン中将が頷き
「入れ!」
扉に向かって声を発すると扉が開き、待機を命じられた局員が部屋に入ってくる。
「失礼します」
「緊急事態だ。
衛宮士郎殿を転送ポートにご案内し、最優先でアースラまでお送りしろ」
「了解しました」
「感謝します」
「いえ、また後日」
クラウン中将の言葉に頷き、部屋を後にする。
「衛宮士郎殿、転送ポートまで走ります」
「ええ、お願いします」
局員を追いかけ走る。
それにしても海鳴で結界か。
前の侵入者だとしてなのはになにもなければいいんだが
なのはの無事をただ願っていた。
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<没ネタ>
side ヴィータ
間合いを詰めてグラーフアイゼンを振るうがバリアジャケットを切り裂いたが高速移動でかわされ、また距離が空いた。
内心で舌打ちをしながらグラーフアイゼンを再び振りあげて間合いを詰めようとする中で、黒く輝くナニカが砕けて落ちていったが見えた。
(なんでこんなモノを気にしてんだ?)
普段なら気にも留めないモノが気になった自分に首を傾げながら、踏み込む。
あと一秒にも満たない時間であの白いのは私の間合いに入るはずだった。
「なんでこんなことするのかな?」
この言葉さえなければ。
白い奴の言葉に私は動きを止めていた。
いや、止められていた。
俯いて見えない表情。
この白い相手から逃げろと本能が叫んでいた。
「う……ぁ」
だがまるで全身を鎖で拘束されたみたいに動く事も出来ず、声をまとも発する事すら出来ない。
ゆっくりとこちらを向く白いの
その眼に光はなく、表情もない。
「なんでこんなことするのかな?」
繰り返される同じ問いかけ。
だがそれに応える事は出来ず、手が、全身が震え、背筋に嫌な汗がながれる。
「私の質問を全部無視して、大切な物を壊して」
戦ってはならない。
否!
コレに挑む事自体が無謀であり敗因となる!
コレに敵うはずがない。
騎士の誇りも何もかも捨て、恐怖で竦む体に鞭を打ち、逃げようとする。
だがそれは
「駄目だよ」
明確な宣言。
それと共に全身を拘束するリングに阻まれる
そして辺りを照らす桃色の光。
それは巨大な球体。
「あ……あ……」
「お仕置きだよ」
私は光に呑み込まれた。