氷の龍は世界最強
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始まり
なにもない荒野。
だけど、そこは寒く冷気が漂う。
ここはなにもなく、寒い。
されど、落ち着ける場所だ。
俺は独り。
なにもないところが好きだ。
俺が求めているのが俺としての在処。俺の居場所かもしれない。
俺はいつも、同じ夢を見る。
しかも、声が聞こえる。
木霊をしている。
なにもかも押し潰すかのような、包み込むような声が木霊する。
この手に落ちる雷鳴のような・・・・・・。
そこで俺の夢が終わる。
今回はあの氷の龍は出ていなかった。
暖かい気候が眠気を誘う。
さらに昨日が日曜日というのもあるが、あの夢を見てから、ずっと、眠りにつこうにもつけられない日々を送っていた。
そして、この日は今までの疲れがきたのか知らず知らずのうちに眠りについていた。
すると、コツンと軽い衝撃が頭に走る。
「こーら、また寝ているの?」
「・・・・・・」
目の前にいたのは黒髪を後ろで括る、俗に言うポニーテールの髪をした少女。
名は八重樫雫。
八重樫剣術道場の娘で、一門下生として剣術を嗜んでいる。
俺も同じだが、俺は難なく剣術をマスターした。
おっと、話を戻そう。
彼女の特徴は切れ長の目は鋭いが、その目には優しさと柔らかさがある。可愛い少女ではなく、かっこいい少女という印象だ。
男女ともに受けがいい。
つまり、人気が高いのだ。
彼女は俺が通っている高校の二大女神と呼ばれている。もう1人の女神は白崎香織というのだが、彼女は天然で稀に鋭い、温厚で優しい娘だ。
「・・・・・・雫か」
「なにが雫か、よ。そんなに私じゃあダメなの・・・・・・?」
悲しげな表情を浮かべる彼女。
普通なら吹き出しそうになるが俺には効果がない。
俺はなんとなく無頓着だ。
俺と雫の関係は5歳の頃、母同士の関係から知り合った幼馴染みだ。
だが、俺と雫とでは天と地ほどの差があった。
それは才能の差だ。
雫は剣術において凄い才能を持っているのを雫のお祖父さんが見抜いた。
だけど、俺だけは違った。
簡単な素振りをしただけで俺が数百年いや数千年に一度の天童だと言われた。
木刀を振っただけで、それを見抜ける彼も凄いと思うがな。
話を戻そうか。
今も悲しげな表情を浮かべる雫に俺は
「いいや・・・全然・・・ただ・・・・・・」
「ただ?」
「俺なんかじゃなく周りに気を回すんだな」
「でも・・・・・・」
「まあ、雫のような女の子に起こされるなら毎日いいかもな」
「なぁ!?」
俺の言葉に赤面する彼女。
俺は鈍感ではない。
彼女が俺に好意を抱いているのは分かっている。
だけど、俺と一緒にいても辛い思いをするのは雫だ。
だから、俺は雫の好意を無碍にする。
それで悲しまれても俺の気持ちを・・・俺の心を・・・俺の本能を・・・理解できっこない・・・。
まあ、それで周りの男子共から少しの視線を集めるが気にしない。
俺と彼らとでは雲泥の差だ。
それは才能という意味でだ。
俺は周囲から天才と呼ばれている。
しかも、氷のように冷たさを見て、俺のことを『氷の天才』と呼んでいる。
別に誰にどう言われようと俺の知ったことではない。
だけど、俺と一緒にいることだけは避けてほしい。
俺は夢のせいで周りから煙たがれている。
天才が故に孤独とも取れる言葉。
それが俺という人間だった。
「よぉ、キモオタ! また、徹夜でゲームか? どうせエロゲでもしてたんだろ?」
「うわっ、キモ~。エロゲで徹夜とかマジキモイじゃん~」
一体何が面白いのかゲラゲラと笑い出す男子生徒共。
五月蠅い。
オチオチ眠れないじゃないか。
毎度のことで飽きないな。
まあ、その理由もアレだろうからしょうがないか。
「南雲くん、おはよう! 今日もギリギリだね。もっと早く来ようよ」
ニコニコと微笑みながら南雲のもとに歩み寄ったのは、白崎。彼女が必要以上に構っている。
その理由に気づいているのは俺と雫くらいのものだ。
「あ、ああ、おはよう白崎さん」
彼女へ返事をした瞬間、クラス内が殺気立った。
殺気に思える眼光が南雲に降りかかった。
まあ、確かに美少女が人気のない男にメロメロだったら気に入らないよな。
「ごめん、ちょっと行ってくるわね」
「行ってこい・・・」
そこに雫が事態の収拾に向かう。
「南雲君。おはよう。毎日大変ね」
「香織、また彼の世話を焼いているのか? 全く、本当に香織は優しいな」
「全くだぜ、そんなやる気ないヤツにゃあ何を言っても無駄と思うけどなぁ」
雫と同時に南雲へ話しかけるのは、彼女の幼馴染みである天之河光輝と坂上龍太郎だ。
天之河は天才ではないバカだ。
よく言うだろう。天才とバカは紙一重だって・・・。
彼は自分の正義感だけを信ずる男だ。
俺から見れば、傍迷惑な男だ。
自分が正しいと思うことを疑わずに信条として生活している。
思い込みが激しいタイプの男だ。
俺が天才なのも彼からしたらカンニングしたんじゃないかと抗議する。
前に俺が全てのテストを満点で取ったことを学校側に抗議した。
学校側もカンニングしたのではないかと疑いもあったので再テストをした。
だが、再テストした点数も満点だったのでカンニングしていないことがはっきりした。
だけど、彼だけは俺が自分よりも天才なのが嫌らしい。
全く、自己中な奴だ。
次に坂上龍太郎。
此奴は俺の知ったところではない。
此奴も南雲のことを思っていないらしい。放置という意味で・・・。
まあ、脳味噌も筋肉でできているから。
さほど、どうでもいい。
「おはよう、八重樫さん、天之河くん、坂上くん。はは、まぁ、自業自得とも言えるから仕方ないよ」
「それが分かっているなら直すべきじゃないか? いつまでも香織の優しさに甘えるのはどうかと思うよ。香織だって君に構ってばかりはいられないんだから」
冷たい言葉を投げる。
白崎は別にそのつもりがないが、天之河の中では「仕方なく構っている」としか見えないようだ。
なので、彼女の恋心に気づいていない。
「いや~、あはは・・・・・・」
それを南雲は笑って見過ごそうとするも白崎が
「? 光輝くん、なに言ってるの? 私は、私が南雲くんと話したいから話してるだけだよ?」
「え? ・・・・・・ああ、ホント、香織は優しいよな」
さっきも言ったとおり、間違えた解釈する天之河にとって、白崎の言葉は南雲に対して、気を遣っているように聞こえるのだ。
こればっかりは此奴らがどうしようもない。
まあ、俺には関係ないことだ。
そこにチャイムが鳴って、各自解散となった。
「・・・・・・ごめんなさいね? 2人共悪気はないのだけど・・・・・・」
申し訳なさそうに謝る雫に、南雲も苦笑して答えた。
結局の所、収集するのは雫だ。
彼女もだいぶ、気苦労していることだ。
そうして、今日のスクールライフが始まる。
まあ、俺は授業を受けずに寝ているか読書するかの2択である。
昔、俺が読書しているのを天之河が注意したが、俺は無視した。
先生たちも注意したことがあるが、俺の両親が学校の先生に教えたのだ。
俺が中学時代の間を利用して米国のハーバード大学に入学し、2年で卒業したことに――。
なので、先生が天之河やクラスメイトに言ったことは
「文句を言いたいのはあるだろうが、彼よりも高い点数を取っていい成績を取れ。それしか言えない。お前たちと彼とでは格が違う。それだけは覚えておけ」
それだった。
実際、1年の頃。最初、先生に没収されそうになったけど、クラスメイトの前で俺に言いくるめられて諦めた。全国模試もトップクラスの成績だ。
なので、学校側からすれば、成績さえ落とさなければ、放置することになった。
俺からしたら、成績を取る方法なんて簡単なんだ。
公式、文法、年表、単語などを単にどれだけ覚えればいいかそれだけ。
受験戦争なんて所詮、戦争でも競争でもない。
あんなのじゃあ、俺は本気になれない。
様々なテーマを与えられ、それに従った効率的かつ理論的に構築すれば、敵だろうと障害だろうと攻略できる、生き残れるというものだ。
だから、俺を満足させられるものが出てきてほしい。
俺はそう願うしかない。
だって、普通の日常なんて俺にとってはとても退屈なものだ。
俺は天才かつ秀才だ。
あと、俺が寝るときは、いつも、あの夢を見る。
氷の龍が出る夢を――。
いつも、夢を見る度に龍は俺に語りかけてくる。
内容は分からない。
だけど、俺を主にしようとしている。
声が聞こえない。
それは俺が耳を傾けないようにしているからだと思う。
前に一度だけ、龍の声に耳を傾けた。
傾けた途端、龍の声が聞こえてきた。
聞こえた内容を覚えている。忘れられないからだ。
まるで、俺の心に、魂に語りかけてくるように――。
『小僧・・・貴様が・・・我を操るというのか・・・・・・我が名は・・・・・・』
今日も読書を終えた後は眠っている。
お昼休みの時間まで――。
4時限目の授業が終わり。
ようやく、昼休み。
俺は大きな欠伸を1つしてから背伸びをする。
さて、お昼を食べよう、と弁当箱を漁っていたら、あの声が聞こえた。
「南雲くん。珍しいね、教室にいるの。お弁当? よかったら一緒にどうかな?」
案の定、南雲と白崎だ。
クラスの雰囲気が悪くなった。
全く、お昼ぐらい雰囲気ぐらい落ち着かせろよ。
「あ~、誘ってくれてありがとう、白崎さん。でも、もう食べ終わったから天之河君たちと食べたらどうかな?」
そう言って、10秒飯を見せるけど、あんなので抵抗できるとは思えない。
「えっ! お昼それだけなの? ダメだよ、ちゃんと食べないと! 私のお弁当、分けてあげるね!」
そう言って椅子を寄せて、南雲の机で弁当を広げようとする白崎。
ますます、クラスの雰囲気が重くなる一方だ。
全く、此奴らはバカばっかなのか。
他人の恋路が分からないとは・・・。
「香織。こっちで一緒に食べよう。南雲はまだ寝足りないみたいだしさ。せっかくの香織の美味しい手料理を寝ぼけたまま食べるなんて俺が許さないよ?」
案の定、あのバカだ。本当にバカな男だよ。
そもそも、キザな台詞はイケメンだろうとブサイクだろうと変わらない。
俺からしたら、見苦しいの一言だ。
それに白崎には効力を発揮しない。
実際、彼女はバカに対して、キョトンとしている。
「え? なんで光輝くんの許しがいるの?」
素で聞き返す白崎に、これまた俺の隣に弁当を広げている雫が「ブフッ」と吹き出した。
全く、何奴も此奴もバカばっかりだな。
見ろよ、いたたまれなくなったのだろう、南雲が席を立とうとした。だが、その時――、
一瞬だが、クラスの空気が凍りついた。
バカの足元に純白に光り輝く円環と幾何学模様が現れたのだ。
その異常事態には直ぐに周りの生徒たちも気がついた。
全員が金縛りにでもあったかのように輝く紋様――俗に言う魔法陣らしきものを注視する。
その魔法陣は徐々に輝きを増していき、一気に教室全体を満たすほどの大きさに拡大した。
俺の足元まで異常が迫って来たことで、ようやく硬直が解け悲鳴を上げる生徒たち。
未だ教室にいた愛子先生が咄嗟に「皆! 教室から出て!」と叫んだのと、魔法陣の輝きが爆発したようにカッと光ったのは同時だった。
数秒か、数分か、光によって真っ白に塗りつぶされた教室が再び色を取り戻す頃、そこには既に誰もいなかった。
蹴倒された椅子に、食べかけのまま開かれた弁当、散乱する箸やペットボトル、教室の備品はそのままにそこにいた人間だけが姿を消していた。
後書き
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