魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Saga17-A侵撃のT.C.~1st Wave~
†††Sideイリス†††
“T.C.”が姿を見せず、魔力保有物や動物に手を出さなくなって10ヵ月が過ぎようとしていた。ただ、最初期の頃にはやっていたけどいつからかやらなくなっていた犯罪者狩りを再開。魔導犯罪者ばかりを狙うから、かつての八神家パラディース・ヴェヒターや最後の大隊の再来だって言われて始めた。そんなわけでいつ以来かの魔導犯罪激減期間に突入中だ。
「みんな、おはよう。今日も1日よろしく」
いつもと変わらない挨拶や朝礼を開始して、「では副隊長。業務連絡を」ってルシルに仕事を任せる。これもいつも通りで、ルシルは「了解です」って椅子から立ち上がって、スタッフ全員を見回してから口を開く。
「我われ特務零課は、犯罪組織T.C.の逮捕を最優先として脅威対策室より命じられている。しかし、現在T.C.は魔導犯罪者を相手にリンカーコアの強奪という、こちらが後手に回ざるを得ない手段をとっている。そのことからデスクワークのみの仕事となり、それが少々上で問題になっているようでな。しばらくは以前と同じように暴動・戦争の鎮圧任務になる。魔導犯罪は鳴りを潜めているが、質量兵器問題は別だからな」
「お。やっと体を動かせる仕事が始まるんだね」
「助かる。毎日トレーニングや模擬戦だと飽きがくるし」
「だよね」
「先輩方、不謹慎ですよ」
「ミヤビ。本音を言えば?」
「・・・私も実はそう思っていました、すみません」
「素直でよろしい」
ルミナ達が戦闘任務の再開について喜び合った。うん、その気持ち解るよ。ホントずっとトレーニング場とオフィスと寮を往復する毎日だったからね。わたしとしてもガッツリ動ける任務は大歓迎なのだ。
「続けるぞ。第6管理世界ストラスブール地上本部より脅威対策室に救援要請があった。通常の魔導師では駆除できない生物が首都で発生しているそうだ」
「なにそれ。まるで魔術師みたいじゃない」
「まぁそんな感じだ。で、ストラスブール地上本部から送られてきたデータがこれだ」
ルシルが各デスクの上に展開させたモニターに表示されたものを見て「猫・・・?」ってみんなの口から洩れた。まさしく猫。大きさは普通の成猫サイズで、色は全身黒。ただ額と体の両側に目のような白い模様が5つ。あと目が金色の複眼。数は全部で6匹だね。
「次元世界動物百科事典にも載っていない生物で、人為的に遺伝子操作によって生み出されたものと推測されている」
「気を付けることは?」
「舌で舐められたら魔力を根こそぎ奪われるそうだ。しかも純粋魔力攻撃にも適応され、食われるらしい」
モニターの映像が切り替わってストラスブール首都防衛隊の戦闘が流れる。練度は悪くないけど、猫ちゃん達に面白いほど玩具にされちゃってる。小さいしすばしっこいし、魔法は食べるし舐められると魔力を全部持っていかれる。
「なら直接攻撃・・・が、ダメなのか」
「ああ。中遠距離でダメだから近接戦に移行した途端に群がれて、一瞬で魔力を奪われた。命までは奪われないようだが、数週間の間は魔力運用が出来なくなるという」
「ルシルから見てどう? 魔術師にも通用するようなやつ?」
「何とも言えないな。ただ、魔術師とはいえ魔力吸収系には弱い。この猫たちがどういう原理で魔力を吸収しているか判らないが・・・。うーん、どっかで見たような気がするんだよな」
ルシルが腕を組んでそう唸るものだから、「セインテストの記憶?」ってことになる。でもルシルは「いや~、思い出せん。気の所為かもしれないし、あまり重く考えないでくれていい」って苦笑い。ルシルの勘違いならいいんだけど、実際に歴代セインテストの記憶の中にあるのなら最大警戒だ。どの時代かによって危険性が跳ね上がる。もしオリジナルの時代、魔術の時代だったらとんでもないことになる。
「まぁとにかくだ。これより俺たち零課は、第6管理世界ストラスブールへと出撃する。任務内容、正体不明の猫6匹の捕獲」
「捕獲? 殺すんじゃないの?」
「やめてセレス。猫ちゃん殺さないで」
「セレス。そんなことしたら許さない」
「あくまで魔力を奪うだけで、危険性は低いという話だ。それに人為的に生み出された生命ではなかった場合は新種の発見ということで、いろいろと調べたいそうだ」
セラティナやクラリスの気持ちも解るな~。猫の見た目の動物は殺したくない。ルシルも以前言ってたけど、猫ってこの世界で至高の動物じゃない? 犬派か猫派で言えば、わたしは猫派だし。
「隊長」
「あ、うん、はい! では、特務零課、シャーリーンへ搭乗準備! 準備が完了次第、第6管理世界ストラスブールへ向けて出撃する!」
というわけで、本局からストラスブールは次元航行船で約2日間の旅。わたし達が到着するまでにストラスブールの首都防衛隊が仕留めればそれでよし。ま、ルミナ達から不満は出るだろうけど、デスクワークから解放されただけでも十分だよね。
「・・・2日間でも長かったな~・・・」
部隊長室の椅子に座りながらモニターに映るカレンダーを眺めながらボソッと呟いた。本局を発ってから2日が経過。本部からは何も言ってこないのを考えるに事態はどっちにも転んでいないみたいね。コーヒーを一口飲んで、「こういう時のデバイス部隊はどうしたんだろ?」って独り言つ。
すずかの第零技術部が開発した自立動物型戦闘デバイスは、家庭用の自立動物型と同じように量産に入っていて、少しずつだけで各地上本部にも配備され始めてる。ただ、一部からは人が機械に仕事を取られるって不満などが出てるみたい。万年人手不足なのに何を言ってるんだか。
「そっちの情報も寄こしてくれたらいいのに・・・っと、通信か」
室内に響きコール音。この回線は本局からのものを受信するためのものだから、「はい。シャーリーン艦長フライハイトです」と受けた。モニターに映ったのはヴェロッサ・アコース監察官。
『フライハイト零課長。突然で申し訳ないが、針路の変更を指示する』
まさかの指示にわたしは「針路変更・・・ですか?」って聞き返した。ロッサは1回頷いて、『ストラスブールから第5管理世界ファストラウムに移動しているのを確認した』って言ってきた。
「移動? ということはストラスブールの固有種の新種じゃなくて、やっぱり人為的な生物ということ?」
『それについては不明としか言いようがない。ストラスブールで猛威を振るっていた正体不明が突然パタリと姿を見せなくなった。それがストラスブール時間での深夜。で、ファストラウム時間での早朝、今より3時間前だ。ファストラウムはすぐに本局に連絡を入れてくれたよ。おかげで、こうしてすぐに零課に指示を出すことが出来た』
「ストラスブールとファストラウムの距離は近いので問題ありません。すぐに針路を変更します」
ブリッジに通信を入れようとしてると、『しかし嫌なタイミングだ』ってロッサが独り言ちる。わたしは「何がありました?」って聞きながら、ブリッジの操舵手に「針路変更。目標、第5管理世界ファストラウム」って指示を出す。
『りょ、了解です。艦内のアナウンスはどうしますか?』
「わたしがする」
『了解しました。針路、第5管理世界ファストラウムに変更します』
通信を切ったところで、ロッサが『高町教導官率いる5班がファストラウムを離れた途端にこれだったんだ』って頭を抱えながらも教えてくれた。なるほど、確かになのは達エース級の魔導師が居たなら、わたし達の出番もなかったかもしれない。その時はルミナ達が不貞腐れるかもだけどさ。わたしとしては本局の景色に飽き飽きしていたから、こうして離れることが出来ただけでも嬉しい。
「普通ならそれは偶然、嫌なタイミングでしたね、と考えるでしょうけど・・・」
『こうも考えられる』
「『猫は教導隊が離れるのを待っていた・・・?』」
でも気になることがある。猫たちを操ってるだろう奴の狙いだ。この2日の間にロッサから貰い続けてた情報によると、猫たちは首都にだけ出現するようで、珍しい猫が居るっていう通報でまずは警邏隊が捕獲に乗り出し、それが無理だと判ると魔力保有局員が出張る。そこで魔力が吸収されると知り、陸士部隊や武装隊が出動。それでもダメだって判って初めてエマージェンシー。そこからは本局に応援要請するか、あちらで自分で解決できるように頑張るか、そのどちらか。
「猫を操っているのがT.C.と仮定して、猫を使って局員の魔力を奪っているとする。だったらどうして、なのはのような高魔力保有者が居なくなるのを待ってから世界移動をしたかなんだけど・・・」
『猫が捕まってしまうのを危惧したのだろう。いくら魔力を吸収できたとしても練度の高い魔導師を相手にすれば撃破ないし捕獲されると考えたのでは?』
「むぅ・・・」
『納得は出来ないだろうけど、今は猫の捕獲を最優先に考えてくれ。考えにくいけど魔力吸収や世界移動が猫の生態であろうとなかろうと、これ以上の局員の無力化は避けたいからね』
「了解です。ではこれより特務零課は、ファストラウムへ針路を変更し、入界次第ターゲットの・・・捕獲のままでいいんですね?」
『ああ。どちらにしろ生態を調査しないことには対策が立てられないからね』
行き先は変更になったけどやる事は変わらない。ロッサとの通信を切り、艦内アナウンスで行き先がファストラウムに変わったことを伝え、椅子の背もたれに体重を預けて「ふぅ」と一息ついた。このまま何事も起きなければ今日中にはファストラウムで猫ちゃん相手に奮闘しないといけない。到着までちょーっと休もう。
†††Sideイリス⇒ミヤビ†††
「そっちに行ったよ!」
「こんの・・・! にゃあ! 逃げられた!」
「うそでしょ!? 特騎隊総出で猫1匹捕まえられないなんて!」
ファストラウムに到着して3日目。私たち特務零課――特騎隊はファストラウムに訪れた理由である、魔力を吸収する謎の猫の捕獲の任務をようやく開始しました。
なぜ2日も待機していたのかというと、動物保護団体からの抗議が原因です。人為的に生み出されたかもしれず、魔力を吸収するような動物でも生命であることには変わらず、寄って集って武力で捕まえようなど認められません、とのことでした。局も説得を続け、3日目でようやく出撃許可が下りたのでした。ただ、攻撃はしないようにと言われました。手で捕まえるか、たも網や投げ網で捕まえるか、結界で捕まえるか、バインドで捕まえるか、この4つだけでないといけないそうです。
「ミヤビ!」
「はい!」
出撃したのは良いのですが、私たちは明らかに猫とは全く違うその機動力に翻弄されていました。ジグザグに駆けて来た猫の筋肉の動きを注視して、その動きの先を読む。ルミナ先輩ですら捕まえられないほどの速さだけど、だからと言って無理だなんて考えていられないです。
「今! ふぎゃ!?」
真正面から突っ込んできた猫を抱き止めようとしたら後頭部に衝撃が来て、前傾姿勢になったところで猫の体当たりを顔面に受けてしまいました。フカフカで気持ち良かったです。でも痛いことには変わらず、「いたた」と顔を摩ります。
「2匹目確認!」
「大丈夫かミヤビ?」
「は、はい。大丈夫ですルシル副隊長」
気遣ってくれたルシル副隊長にそう答え、私の後頭部を襲った2匹目の猫を視認します。2匹の猫は鼻を軽くくっ付けるという挨拶をしています。とても可愛らしい行動ですけどね。チラッと私たちを見と思えば「フッ」と鼻で笑ったように見えました。
「ねえ。今、あの猫たち笑わなかった?」
「私もそう思った」
「ものすごい馬鹿にされた気分。いや気の所為なんだろうけども」
ルミナ先輩、クラリス先輩、セレス先輩も同じように感じたみたいです。私たちの視線をいっぺんに受けても猫たちは動じることなく、それどころか立ち向かおうと体勢を低くしました。
「うぅ。まさか結界の魔力すらも吸収するなんて。今日の私、役立たず・・・」
「落ち込んでる暇はないよ、セラティナ! ほら来るよ!」
「もうー!!」
セラティナ先輩の結界魔術ですらも猫たちは吸収し、先ほどまで私たちが使っていたたも網や投げ網は鋭い牙や爪でズタズタにされ、バインド魔法はその機動力に追いつけず、最終的に素手での捕獲という選択になっていました。
「分かれた!」
「逃げちゃうよ!」
2匹の猫は左右に分かれると、撤退するつもりなのか猛ダッシュで私たちから離れて行きます。シャル隊長が「二手に分かれて!」と指示を出しました。先輩たちは言葉を交わさずに目線だけでパパッとチームを分けました。シャル隊長とセレス先輩とセラティナ先輩、ルシル副隊長とアイリ先輩とクラリス先輩とルミナ先輩の2チームです。
「ミヤビはこっち!」
「了解です!」
私はシャル隊長のチームとなり、隊長たちと一緒に駆け出します。首都ということもあって喧噪なこの街で、猫1匹の捕獲は困難極まりない。時間からして人の出歩きが多くなる今、人込みの中に紛れ込まれるより早く捕まえないと。
――閃駆――
――神速獣歩――
――無常迅速――
――スピーディラン――
「セラティナ!」
「うんっ、付いて行ける!」
私、シャル隊長、セレス先輩と同じようにセラティナ先輩も、この数ヵ月で習得した高速移動魔法を使用しました。セラティナ先輩の弱点は以前から足の遅さと先輩方に言われていましたから、戦闘任務が落ち着いていた期間で習得したのです。
「よし! ファストラウム地上本部からは飛行許可が下りなかったから、このまま足で追い詰めるよ!」
飛行魔法は使用できないことでガードレールの上や建物の壁を走ったり、通行人の頭上をジャンプで飛び越えたりと、後でいろいろと怒られそうな手段で猫を追い駆け続けました。
「猫を捕まえるのがこんなに難しいなんて・・・」
「しかも人の出入りを制限した封鎖区画じゃなくて、ふっつうに人や車が行きかう街での捕り物だし!」
「こんな連続で高速移動魔法なんて使ったことないんだけど・・・!」
「あ、その時は私が背負いますので安心してください、セラティナ先輩!」
1歩で数mから十数mを移動する魔法の連続発動は慣れていないと辛いですし、セラティナ先輩にはちょっと早かったのかもしれませんね。それでもセラティナ先輩は「大丈夫!」と首を縦には降りませんでした。ここでさらに言っては失礼でしょうし、「判りました!」と引き下がる。それから追いかけっこが10分ほど続いたところで、『こちらルシリオン』と通信が入りました。
『そちらの状況はどうか?』
「心が折れそう」
ルシル副隊長からの通信にシャル隊長がそう答えました。追いかけっこの最中、民間人からサインを求められたり、写真を一緒に撮ってほしいと言われたり、商店街ではコロッケなどを差し出されたり、いろいろありましたもんね。クラリス先輩なら遠慮なくいただいたでしょうが、生憎と任務中でしたので私たちは丁重にお断りをしました。
「命の危険はないんだし、魔力くらい吸収されてもいいんじゃない?って思えてきた」
『冗談だろうが、セレス、それはダメだぞ?』
「判ってるって」
「そっちはどうなの?」
『あー、うん、まぁ、捕まえたぞ』
セラティナ先輩の問いにルシル副隊長がそう答えたので、私たちは「えええ!?」と驚きの声を上げました。
「どうやって!? ねえ、どうやって!? 教えてプリーズ! 至急ご教授を! もうやなの! 走って避けて探して逃げられて! こんなのがまだ4匹も居るなんて信じられない、信じたくない!」
シャル隊長は2回ほど猫タックルを顔面に受けて、1回は男性の胸に突っ込み、2回目は排水溝に落下未遂。次は車の前か女性のスカートの中かゴミ捨て場か、とシャル隊長は不安に駆られていました。そこにルシル副隊長からの朗報です。縋ってしまっても仕方ないかと。
『いや、その・・・野良の仔猫がカラスに襲われていてさ。猫がカラスを追い払った後、仔猫と鼻ちょん挨拶をしていたところで眠りの霧、ラフェルニオンで奇襲したらすんなり片が付いた』
「状態異常系か。でもラフェルニオンって魔力を含んだ霧でしょ?」
『さすがに霧の一部を舐めただけじゃすべての魔力を吸収できるわけじゃないようだ』
「じゃあさ、こっちもお願い! これ以上はわたし、泣いちゃう!」
『すまん。3匹目を確認したから、今追っている最中だ。そうだな、そっちにはセレスが居るだろ。民間人や車などに迷惑を掛けないように地面を凍らせたらいいんじゃないか? っと、こちらもまぁまぁ苦戦している。互いに健闘を』
ルシル副隊長からの通信が切れたところでセレス先輩が「地面氷結は確かに攻撃じゃないから、団体にも訴えられないか」と何度も頷きました。シャル隊長も「それでいこう! そうしよう! 肯定、確定、大決定!」とさらに激しく何度も首を縦に振りました。
「では場所ですね。マップを思い出します」
任務前に頭に叩き込んだ首都のマップを脳内に思い浮かべる。今私たちが走っているのは9thアベニュー、方角は北。このアベニューには横道は無く、建物間に小さな小道はありますがどれも先は行き止まり。アベニューの最北は四つ又の交差点から伸びるストリートになっていて、左から2番目のストリートの先に公園があったはず。そのことを皆さんに伝えます。
「ナイス、ミヤビ! セレスは先行して待ち構えて! わたし達は猫を公園へ誘導に注力!」
「「「了解!」」」
セレス先輩がさらに速度を上げて猫を追い抜きました。猫は追い抜かれたことで動きに迷いが生じましたが、後ろから私たちが迫ってきていることで逃走を再開。そして四つ又の交差点に到着したところで「散開!」の指示の下、猫を目的のストリートに誘導するために包囲。猫はチラチラと逃げるための道を探し、私たちの狙い通りにストリートへと進みました。
『第1関門突破! セレス、そっちの状況は!?』
『準備万端だよ。こういう時は自分が有名人だったことに感謝するよ。公園で遊んでた人たちを楽に避難させることが出来た。ま、公園の外でギャラリーになっちゃってるけど、観られるぐらいならどうってことないでしょ』
「『了解。もう少しで着くからよろしく!』セラティナ、ミヤビ! 最後まで気を抜かずに!」
「「了解!」」
このストリートは横道がたくさんなので、ちょっと油断するとそちらに逃げ込まれる可能性がありますから。ですので緊張しっぱなしでしたが、猫をちゃんと公園まで誘導できました。
――愚かしき者に美しき粛清を――
猫をジャンプさせるように追い込んだ私たちの努力のおかげで、猫は凍り付いた地面に着地してツルッとスリップしました。シャル隊長も「獲ったりぃーー!」と氷の地面に足を踏み入れ、「ふんぎゃっ!?」と盛大に転んでしまいました。あれは痛そうですね・・・。
「馬鹿なのイリス!? 私に任せておいてってば!」
セレス先輩は滑ることなく氷の地面を駆け抜け、滑らないように踏ん張っている猫を抱き上げました。暴れる猫に「ごめんね」と一言謝ったセレス先輩は、猫をバインドで全身を拘束しました。ちゃんと首も固定して、首から下のバインドを舐められないようにしてあります。
「ちょっとシャル、大丈夫?」
「顔から行きましたからね。歯や鼻は問題ないですか?」
「だ、大丈夫。鼻血吹いてないし、歯も折れてないし。でも額が痛い」
私とセラティナ先輩が差し出した手を取り、立ち上がったシャル隊長が苦笑しました。確かに赤くなってますね。シャル隊長は額を摩りながら「セレス」と先輩に振り向き、セレス先輩は「ゲットだぜ!」と拘束されながらも暴れる猫の頭を撫でました。
「とりあえず2匹目確保。あと4匹、同じような手で捕まえよう」
そう言ったシャル隊長に、了解、と応じようとした時、猫が「みぃー、みぃー!」と大きな声で鳴き始めました。それはまるで助けを求めるかのような悲痛なもので、残りの猫を呼んでいるのかと思いましたが・・・。
「うっそ・・・」
「お、親猫・・・?」
「大きい・・・」
「でもフカフカそうですね~・・・」
鳴き声によって姿を現したとんでもなく大きな猫を、私たちはポカーンと見上げました。
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