天狗火
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第四章
「これがわしの弟子達だ」
「烏天狗か」
「我等はこの山に住んでおってな」
天狗は言葉を続けた。
「日々ここで修行に励みつつな」
「寝食もか」
「ここでな」
天狗は今度は藤田に話した。
「行っておる」
「左様であったか」
「夜は灯りを灯してな」
「どうして灯しているか」
「こうしてだ」
天狗は藤田の問いに右手を掲げてだった、その開いた掌の上に。
火の玉を出して見せた、そうしてから彼に話した。
「出しておる」
「天狗の神通力でか」
「人なら松明を使うところであるが」
それがというのだ。
「我等はその必要はない」
「神通力で火を出してか」
「それを灯りにしておる、天狗なら誰でも出せる」
それこそというのだ。
「天狗火という」
「成程な」
「そしてこれがどうしたのだ」
「実はその火が何かと周りの村々を怯えさせている」
藤田は天狗にこのことを話した。
「それで我等もその火が何かを確かめる為にだ」
「ここにか」
「来たのだ」
「そうなのか、ではだ」
天狗は藤田の話を聞いて彼に問うた。
「我等をこれからどうする」
「どうするかとは」
「我等は天狗、人ではないな」
「それは確かにな」
藤田も否定せずに答えた。
「人でないことは間違いない」
「なら成敗するか」
藤田を見据えてこうも問うた。
「そうするか」
「何故そうする必要がある」
藤田は天狗の問いに落ち着いた声で返した。
「一体」
「それはどういうことだ」
「お主達は確かに人ではない」
このことは事実だとだ、藤田はまずこのことから言った。
「完全にな」
「天狗だからな」
「そうだ、しかしだ」
「しかしというと」
「人に害を為しているか」
「人が害を為そうとしているならその前に懲らしめて追い返すが」
天狗は藤田の問いに毅然として返した。
「しかしだ」
「それでもだな」
「左様、自分から進んで害を為すことはな」
「せぬな」
「天狗はそうしたことはせぬ」
一切という言葉だった。
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