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大悪将軍

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第二章

「ご自身が日野殿をお嫌いだからといって」
「あんまりではないか」
「しかも日野殿は何者かに切られたが」
「そして首を取られたが」
「それもな」 
 その黒幕はというのだ。
「公方様ではないか」
「そう思われるのも当然ではないか」
「公方様が日野殿をお嫌いだったのは事実」
「客人の方々まで罰せられたのだから」
「それを思うのは当然ではないか」
「しかもそれを話された参議の高倉殿は流罪だ」
「硫黄島の様なとんでもない場所にのう」
 このことも話すのだった。
「あまりと言えばあまり」
「苛烈というものではないぞ」
「これは無道ではないか」
「異朝の暴君もかくやだ」
「夏の傑王か殷の紂王か」
「そこまで至るのではないか」
 こうした話をするばかりだった、周りの目を憚りつつ。彼等も今の話が義教の耳に入ることを恐れているのだ。
 そしてその中で幕府の儀式の中で東坊城益長という幕臣がふと笑った、すると義教はここでも激怒して叫んだ。
「そなた笑ったか!」
「は、はい。儀式が上手に進んでいるので」
「嘘を言え、余を嗤ったな!」 
 顔を真っ赤にして叫ぶ。
「その罪重いぞ!」
「それがしはその様なことは」
「黙れ!」 
 儀式の最中でもだった、義教は。
 東坊城を足蹴にしその顔を拳で幾度も殴ってから言った。
「そなたの所領は没する、そして蟄居せよ!」
「な、何と」
「何と無道な」
 誰もがそれを見て唖然とした、しかし義教のあまりにも惨い仕打ちに対して誰も恐怖し何も言えなかった。 
 そして料理の味が悪い、献上された梅の枝が折れたと言ってだった。
 義教は常に周りの者を殴り罰した、刀を出すこともあり公卿も武士も民達も義教の勘気に触れて罰された。それを見て天下は恐れ慄くばかりだった。
 だがその中で日蓮宗の僧である日親という僧侶が周りに言った。
「このままではいかん」
「公方様のことですか」
「あの方の勘気を宥めねばなりませんか」
「そう言われますか」
「このままでは天下万民が苦しむばかり」
 日親は確かな声で述べた。
「帝のお母上や皇族、関白の方まで勘気を受けている」
「はい、罰されています」
「それも些細なことで」
「民も多く殺されています」
「とかく何かとです」
「殺生が多いです」
「その殺生を止めねば」
 日親はさらに言った。
「天下はより困ったことになる」
「ですがそれでもです」
「あの方に言われるなぞ」
「何をされるかわかりません」
「公方様は僧籍でも容赦されません」
「比叡山を見てもわかるかと」
「それでもじゃ、拙僧はお話しよう」
 こう言ってだった、日親は義教の前に参上してだった。
 行いをあらためる様に言おうとした、だが言う前にだった。
 義教は怒って周りに命じた。
「この坊主の頭に熱した鍋を被せよ!」
「な、鍋をですか」
「それをですか」
「そうじゃ、余に意見しようなぞとおこがましい」 
 やはり顔を真っ赤にして言う。
「その思い上がった頭に仕置きを与えてやる、舌も切れ」
「舌もですか」
「それもですか」
「そうじゃ、舌もじゃ」 
 これもというのだ。
「余に言おうとするふざけた舌もじゃ」
「切れと」
「そうせよと」
「そうじゃ、二度と喋られぬ様にせよ」
 こう命じ実際にそうさせた、このことを見て天下の者達は顔を顰めさせて言った。 
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