非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜
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第95話『予選①』
開会式を終え、ロビーに集まった【日城中魔術部】。彼らは今まさに、予選に選出するメンバーを決めるところだ。
「今年のダークマターは"迷宮"だけか。ならそれ以外はパッと決めるぞ。まず、"競走"は三浦で確定だな」
「「異論なし」」
「え、それでいいんですか?!」
あまりにあっさりとした決定に、晴登はたまらず抗議した。
レースというと、たぶんマラソンとかだろうか。かなりオーソドックスな競技だ。実力者が多数参加すると思われる。
予選に出場しなければならない身ではあるが、1年生なんだからもっと無難な競技に……
「これ以外、お前にうってつけの競技があるか?」
「はい、ありません……」
しかし、風を操る晴登がスピード勝負以外に何ができるというのか。むしろレースは適性と言える。ここは受け入れるしかなかった。
「んで次に、"組み手"は辻かな。どうだ?」
「任せなさい。何が出てくるかは知らないけど、全部斬っちゃえばいいんでしょ?」
「そういうことだ。頼んだぞ」
「う……あんたがそこまで言うなら、頑張ってあげるわよ」
終夜の頼みに、緋翼は頬を掻きながら答える。
"組み手"といえば、とにかく敵を倒していくイメージだ。人、動物、ロボット……どんな感じになるかはわからないが、何にせよ殺傷力の高い刀を扱う緋翼が適任なことに変わりはない。
「そして"射的"だが、これはまぁ俺が──」
「はい! ボクやります!」
終夜が言いかけたと同時に、結月が勢い良く手を挙げた。その行動は全員が予想外で、皆彼女の方を向く。
すると結月は目をキラキラと輝かせながら、
「"射的"って、この世界のお祭りの定番なんですよね?! ボクずっとやってみたかったんです!」
「えっと、さすがにお祭りのそれと競技のそれは違うと思うんだが……」
「いいじゃない黒木、やる気があるのは何よりよ」
「え〜、なら俺が迷宮かぁ……」
結月のやる気を止められず、終夜が渋々了解した。
彼の使う"冥雷砲"は射的にピッタリだとは思ったが……まぁ、結月の実力なら代わりにはなれるだろう。
その点、正体が掴めない"迷宮"こそ、魔術師としての経験が豊富な終夜が担当した方が心配はない、はずなのだが……
「迷宮って、つまるところ迷路みたいなもんか? 俺そういうの苦手なんだけど……」
当の終夜は不満顔。確かに彼の性格を考えると、迷路とか細かい作業は向いていない気がする。
しかし、そうなると迷宮の順位が危うくなるのだが……
「だったら、俺がやりましょうか?」
「暁が?」
「俺は迷路とか得意っすよ」
「な、なるほど……」
伸太郎の申し出を聞き、終夜が考え込む。
実際、この案はかなり良い。下手に順位を下げるより、得意な人を割り当てる方が無難というもの。
ただ、これを受け入れてしまうと……
「俺、控えなの……?」
「そういうことになっちゃうわね」
「部長なのに……?」
「部長なのに」
その事実を確認すると、終夜がガックリと肩を落とす。
3年生で最後の大会なのに、まさか予選に出られないなんて。もしこれで予選落ちしようものなら、彼の魔導祭は呆気なく終わってしまうことになる。そんなのあまりに可哀想だ。
それなのに、1年生に出番を譲って文句も言わないなんて、ちょっと甘すぎるのではなかろうか。
「部長……」
晴登は思わずそう洩らしてしまった。結月を責めるつもりはないが、彼女の一言が無ければ彼は出場できていた。
……やっぱり、3年生が予選に出れないなんてダメだ。ここは"競走"の枠を彼に──
「変なこと考えるなよ、三浦」
「えっ」
「お前今、俺に出場枠を譲ろうと考えただろ?」
「何でわかったんですか!?」
終夜の言葉に晴登は驚く。
というかなぜだろう、最近やけに考えが読まれてしまう。そんなに顔に出ているのだろうか。
「そんな情けはいらねぇ。悔しいが、俺がいない状態の方が完璧な布陣なんだからな」
「でも……」
「まだ言うか。……ならこれだけ言わせてくれ」
割り切った終夜に食い下がろうとすると、彼は少し考えた後に言った。
「部長命令だ。予選を突破しろ」
簡潔に一言。
しかし、その一言の持つ意味は絶大である。3年生である彼に、本戦出場という花を持たせてやることが、1年生である晴登たちが絶対に成し遂げなければならないことなのだから。
「今年の魔術部は強い。中学生とはいえ、俺たちみたいに実戦経験がある魔術師は、大人にもそうそういないからな。今回は予選落ちなんかで終わらせるつもりはないぞ。必ず、本戦に行くんだ」
終夜は強く、そう宣言した。
中学生である魔術部が予選を突破する可能性は、ほとんどゼロに近い。それでも、部長である終夜がやれと言ったのだ。それに応えるのが、部員の役目というもの。
「俺は、お前らを信じてるぞ」
終夜はそう言って、いつものように元気な笑みを浮かべた。
……相変わらず、言葉を選ぶのが上手いんだから。そう言われたら、やらない訳にはいかないではないか。
「それじゃ、【日城中魔術部】出陣だ!!」
「「おう!!」」
幼き少年少女の戦いが、今幕を開ける──。
*
「……着いた」
仲間の元を離れ、山の中を歩くこと約30分。ようやく晴登はレース会場へと辿り着く。
そこには、木々の合間を縫った道路3本分くらいの広い道があり、スタートを示す垂れ幕が堂々と架けられていた。
「えっと、とりあえず人が集まってる所に……」
会場には着いたものの、どこに集合すればいいかがわからなかったので、とにかく他のチームの人の近くに行く。
ひとまず、初めに目についた、あの黒いフードを羽織った人について行くことにしよう。
そう考えて、ついて行こうとした瞬間だった。
「──何か用か?」
まだ距離は離れていたはずなのに、突然向こうから声をかけられてしまう。しかも振り向くことなくだ。まるで、背中に目が付いているようである。
「え、あ、いえ! ただ、どこに集合するのかなって……」
話しかけられるとは思わず、しどろもどろになりながら晴登は言葉を返す。すると目の前の男は、ゆっくりと振り返った。
フードの下の正体は、ボサボサの黒髪を目にかかるくらいに伸ばし、その隙間から鋭い三白眼を覗かせる、猫背の青年だった。しかも黒いフードも相まって、とても暗い雰囲気を醸し出している。
そんな彼は、晴登の言葉に返答するよりも先に、驚いた表情をした。
「お前、【日城中魔術部】の……」
「え、どうしてそれを……?」
予想外の切り返しに、晴登は困惑する。
まだ名乗ってもいないのに、この人はどうして晴登が【日城中魔術部】だとわかったのだろうか。最年少で目立つとはいえ、去年は予選落ちするようなチームだ。わざわざチェックしていたとは思えない。
「いや何、単純に気になってな。銀髪の娘もそうだが、俺は特にお前に興味がある」
「興味、ですか……?」
会ったばかりだというのに、何にそこまでの興味を示すのだろうか。結月はともかく、晴登は平々凡々な実力だというのに。
「あぁ。平凡を装っちゃいるが、お前の瞳は死地を潜り抜けてきた猛者のそれだ。まだ子供のくせに、一体どんな地獄を見たのか興味がある」
男は晴登に顔を近づけ、不敵な笑みを浮かべて舐め回すように問う。
が、その際、開いた口元の牙のようなギザ歯を見て、晴登はビビって思わず後ずさってしまった。
「あ、そんなに怯えんなよ。別にお前に危害を加えようって訳じゃねぇんだから」
「……」
「……どうやら、今は話してくれなそうだな。まぁいいぜ。また後で声かけるわ」
意図が読めない男の行動に警戒する晴登を見て、彼はこの場での追及を諦めたようだった。手を振りながら、猫背の姿勢のまま立ち去っていく。
しかし、何かを思い出したのか、途中で足を止めて振り返った。
「そういや、お前の名前を聞いてなかったな」
「えっと……三浦 晴登です」
「三浦……へぇ、そうか。──俺は【覇軍】代表、"影丸"だ。そういやお前、集合場所探してるんだっけか? それならこっちだぜ」
影丸と名乗った青年は、こっちだと手招きをしてくれる。しかし、そんな親切よりも今は気になることがあった。
──この人は【覇軍】の人なんだ、と。
何という偶然だろうか。まさか、優勝候補のチームと知り合うことになるなんて。
全身が黒っぽい風体……もしや、この人が"黒龍"なのだろうか。確証はないが、彼のプレッシャーは本物だった。とにかく、相当な実力者には違いない。
「凄い人に目付けられちゃったな……」
晴登はボソリとそう呟いた。しかし、その理由が釈然としない。
何だ、「死地を潜り抜けてきた猛者の目」って。そんな大層な目はしてないと思うのだが。
……まぁ、心当たりがない訳ではないのだけども。2つの異世界での出来事が頭をよぎる。
とはいえ、そんな話に興味を持つなんて変な人だ。晴登だって、おいそれと人に話したい話題でもない。
……どうしたものか。
*
場所は変わって、森の中にポツンと存在する広場。ここは"組み手"の会場──いや、正確には集合場所と言うべきか。
「やっぱりゴツい人が多いわね……」
辺りを見回しながら、緋翼はため息をついた。
それもそのはず、"組み手"と言えば戦闘がメイン。屈強な魔術師が集って当たり前なのだ。緋翼のように小さくてか弱い乙女は、見る限りほとんどいない。
「ううん、ビビってちゃダメよ。上位を目指さなきゃいけないんだから」
そう、周りに怯んではいけない。緋翼だって、経験をそれなりに積んだ実力者の一端。並大抵の魔術師よりは強い自信がある。
そう思って、拳を握って意気込んでいると、
「──ねぇ君、少しいいかな?」
「え? はい、何ですか?」
突然、背後から声をかけられた。
振り向くと、そこには金髪の美青年がニコニコして立っている。……この顔、間違いない。
「えっと……アーサーさん、ですよね?」
「おや、知っていたのか。でも改めて名乗るとしよう。僕は"アーサー"、【覇軍】のリーダーを務めている」
アーサーは丁寧に自己紹介して、またニッコリと微笑んだ。
常人離れした顔立ちに、輝くような金髪。そして凛々しい立ち振る舞いの割に、物腰は柔らかく気さくな性格。相変わらず、非の打ち所がないイケメンだ。
あの爽やかな笑顔を向けられたら、大抵の女子はコロッと落ちるだろう。
それにしても、そんな【覇軍】のリーダーが一体何の用だろうか。正直、何を言われるのかとかなり緊張している。
「君は【日城中魔術部】のメンバーで間違いないね?」
「はい、そうですが……」
「良かった。僕の用件はね、君のチームメイトについてなんだ」
彼は笑顔のままそう言った。
つまるところ、これは偵察ということだろうか。もはや弱小チームである【日城中魔術部】の、気になるメンバーとは……?
「君のチームに、銀髪の女の子がいるだろう? 彼女について訊きたいんだが」
銀髪の女の子──結月か。
確かに彼女は、レベル5の能力"白鬼"を宿していて、この大会の数少ないレベル5の魔術師だ。
どうやってその情報を嗅ぎつけたのかは知らないが、要するにアーサーは自分と同じレベル5の魔術師を警戒しているということだろう。随分と用心深いことで。しかし、
「……易々と、仲間の情報は売れません」
それが緋翼の答えだった。
魔術師の勝負において、手の内を晒すことは1番の愚策である。まして自分ではなく、チームメイトの情報など言える訳がない。
だが、アーサーはその反応が予想通りだったらしく、笑顔のまま肩を竦めた。
「そうだよね、君の言う通りだ。小さい見た目に似合わず、君はとても強かな女の子なんだね」
「……」
「おっと、何か気に障ってしまったかな? それならすまない。僕は褒めたつもりだったんだが……」
「……いえ、こちらこそすみません」
「小さい」と言われてつい睨んでしまったが、アーサーが心底申し訳なさそうな表情をしたので、怒る気が削がれてしまった。
この仏の様な素直さと礼儀正しさを、誰かさんにも見習って欲しいものだ。
「邪魔してすまなかったね。……あ、でも名前くらいは訊いちゃダメかな?」
「それくらいなら……三浦 結月ちゃんです」
「……ふむふむ。ちなみに、君の名前は?」
「私ですか? 私は辻 緋翼です」
「そっか。うん、覚えた。ありがとね」
そうにこやかにお礼を言って、アーサーは去っていった。
年齢はあちらが上なのに、最後まで丁寧な態度だったな。イケメンは性格までイケメンということか。
「ま、私はちょっと苦手だけどね……」
そう呟いて、緋翼は予選に向けて準備運動を始めるのだった。
後書き
随分と無理やりな流れですが、予選のメンバーは今回の通りとなります。「部長が控え」っていうくだりをやりたかっただけなので、グダグダ感は多めに見てください。結月にアホになってもらうしかなかったの…!(悲痛な叫び)
それはそうと、その後のシナリオは大体出来上がりました。ノンストップで更新できたらいいのですが、残念なことにもうすぐ夏休みが終わってしまいます。更新は1週間くらいが目標ですかね〜。頑張っていきましょう。
今回も読んで頂き、ありがとうございました。次回をお楽しみに。では!
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